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2024/05/03 16:27 |
2.肉野菜炒めのピラミッド/シズ(ミキ)
PC: スイ(PL:フンズワーラー)  シズ(PL:ミキ)
NPC: ミキ
場所: ハイゼン→グレインフィールド


「やべぇよ、オレみちまったんだけどさ、ソフィニアの奴ら、自分で船も漕げなくなりやがった!!」
「なんだよ、それ。頭ばっかりでかくなって腕が使えなくなったのか?」
「いやさ、朝オレらがいつもの場所に行ったら、あいつらがいやがってさ。」
「そんなわけないじゃん!ソフィニアの奴らが朝早くにそんな近くまでこれるはず無いだろ。」
「それが、ヤツら漁終えた後、帰っていったんだけど、その時船漕いでなかったんだよ。」
「あ、それオレも見た!こう、船がすすすぃーっと勝手に滑るように走ってくんだよ。」
「うっへ、また魔法とかなんとかってヤツですかい。」
「ヤツらがオレ達の方まで来れるようになるなんて漁の場所が減ってやっかいだな・・・・。」
「なぁに、いざとなったらヤツらの船に乗り込んでいって、一発この湖が誰のものだか教えてやらぁ!」

ガルドゼンド王国、その北に隣接する湖畔の縁に漁業を営むハイゼンという村があった。
王国には領海がないので魚などの幸は川か、或いはこのハイゼンから来る。
森は穏やかで、しかし逆に捕まえられる動物も少なく、王国全土に広まる、
ハイゼンの魚は国全体の大切な食料だ。
だから、ハイゼンの男達は、戦争のためにかり出されることがなかった。

『おいおい、争い事は勘弁だぜ。他国の人間を殴り飛ばすなんてことしたら、国王陛下にご迷惑がかかるじゃないか。』

村に一つだけある食堂には、遅い昼食をとる独身男性がたむろして、
世話話にむさい華を咲かせていた。

「はっ、ちげぇねぇ。だけど、ヤツらとうとうオレらの漁をする場所まで獲りやがったら、それこそ国王陛下に直訴してなんとかしてもらわにゃならんな。」
『そうだな。みんなの湖なんだし、仲良くしたいもんだ。』

話が穏便でなかったのでつい口を挟んだが、まだ食堂のなかには沢山の野郎が昼食を待っているので、
食堂の主は小さな厨房へと戻ろうとした。すると、その厨房からこの場に似合わない可愛らしい女性が半目涙で走ってきた。

「シズさぁぁぁん;;。手切っちゃいましたああぁぁ(T△T」

ぱっ、と男臭い食堂に花が咲いたような気がしたのは気のせいじゃないはずだ。
それは女性が花と言うよりも、色めき出す独身男性達がまるで水を与えられた花のように
生き生きとし始め、女性から発せられる暖かい太陽の光を一心に受けようと、
一斉に食堂の主、シズと、女性の方へ身体を向けたからであろう。

「うぅ、シズさん治して・・・・(;へ;」
『ミキ!お前、オレが治してくれると思ってすっかり油断してるだろう。
 もう少し自分の身体を大切にしてくれよ。オレでも治せないモノはあるんだから。』

そう迷惑そうに言いながら、シズは腰にかけてあった一枚の赤いスカーフを手に取った。
そして、そのスカーフを、シズに向けて立ててあるミキの指に優しくかけて、こう言った。

『妖精さん、妖精さん。どうか怪我を治してください。お願いします。』

本人曰く、可愛らしく言わなければならないというその呪文に、
回りの男性が吹き出しそうになる中、シズはすぐさまスカーフをとった。
すると、ミキの指から垂れていた血はなくなり、傷が消えていた。

「ありがとぉございますー(≧▽≦)」
『もうこんな事ないようにしてくれよ。』

不機嫌そうなことを口にしながらも、シズは思わず微笑んでしまった。
厨房に戻っていくミキ、さっさと自分の食事を平らげにかかる男達、
平和だった。こんな何処にでもあるような平和だけれども、
それが自分の目の前にもしっかりあることを感じると嬉しくなった。

「シズさーん、お野菜切れましたよー。」
『ああ、ありがとう。じゃぁ作りますかね。』

シズは厨房に入り、フライパンを手にした。
竈に薪を足し、焚きつけた後、フライパンに油の塊を放り込む。
この春結婚した村の南の方に住む若い夫婦から今朝分けて貰った豚の肉と、
ミキの切った形のおかしい野菜を、じゅーじゅー焼いていく。
シズの右手は、火傷で真っ赤になっていた。
28という年齢に合わない白髪と老けた顔、地味な服に、エプロン。
炎を上げる竈、フライパンを軽々と持ち上げて具をかえすシズを一目見た者は、
時にシズをこう呼ぶ。「炎の料理人」と。
まるで自らが炎となって食材に魂を籠めるかのような力強い腕前は見た目倒しではなく、
料理を炒めたり、焼いたり、ゆでたりすることに関してシズは一流だった。
しかし、その香ばしい匂いが厨房を満たし、それが食堂の方にまで流れ込むと、
腹を空かせた若者達がまだかまだかと騒ぎ出すので、シズは急いだ。

『ミキ、頼む。』

言われて横で見ていたミキは、シズの変わりにフライパンの前に立ち、
調味料を振りながら色々と味付けを始めた。
シズは、活きの良い食材を選ぶのは好きだし、
食材の味を一番引き立てる焼き加減で食材を調理するのは得意だが、味音痴だった。
二年前にこの村に着て食堂を継いだが、精は付くのに味が悪いと言われていた。
そこで、元々村で料理を教えていたミキを雇ったのだ。
すると、味は良いし、可愛いから男性受けするしで、
親の飯など食いたくないという独身男性が良く通うようになった。
ミキはこの店に欠かせない、とても優秀な料理人だ。
だが、そんな優秀なミキが、何故独身のまま二年もこの店で働いているのか、
それはシズには一生分からないだろう。

「これはこれは、抜群の味になりましたよー。」
『どれどれ・・・・・・美味いな。よし出そう。』

シズには、味を褒められて喜んで頬を赤らめるミキや、
それを食堂からのぞき込みながら悔しそうに歯ぎしりをする男達など見えていないようだ。

「あ、シズさん。コークスの実がなくなっちゃった。」
『あー、とうとうなくなっちまったのか。無いとやっぱりまずいか?』
「当たり前です!これがなきゃ料理のおいしさも半減ですよ!」

調味料として磨り潰して使っていたコークスの実は、この村では手に入らない。
南に下ったところにある農業地帯グレインフィールドの一角で栽培されている。
麦によく似た形で、聞いた話だと元々珍しい植物らしいのだが、
苦労に苦労に苦労の苦労を重ね、栽培できるようにしたモノであるらしい。
人の手で育てるのが難しく、一年に採れる量も少ないのだが、
どうしても欲しいからと言って毎年少しずつ貰ってくるのだ。
シズとしては、前回の思い出もあって、この実を貰いに行くことを考えると憂鬱になるのだ。

「じゃぁ、明日はおやすみにしないとまずいですね。」
『そうだな・・・。』

皿に盛った料理を両手に抱えて、食堂に入って、飢えた男達に渡す。

『あー、みんな。明日はちょっと用があって店開けられないから。』
「えーー!!!!」

「みんな、ごめんなさいね・・・・でも、明日もちゃんと自分でご飯食べてくださいね?」
「はーい!!!!」



『なに、何で貰えないんだ。』
険悪なムードになるのは嫌だ。争いは好きじゃない。
でも、必要なモノは必要だし、経験上こうするのが一番得策だ、そうシズは思っている。
貰えるのが当たり前なのに、何故貰えない、そう言った態度をとるのが一番イイのだ。

店を休みにして、今日は日が昇ってから、青々と広がるハイゼンの畑の横を歩き、
小さな森を一つ越え、段々と熱くなっていく中グレインフィールドの壮大な麦畑の途中途中で、
道を尋ねながら歩き、早めの昼食の香りが腹の虫を刺激する頃にやっと、
コークスの実を育てている農家まで来たのだ。

シズがハイゼンの来る前、皆に料理を教えていたミキは、普通にコークスの実を手に入れられていた。
優しいおじさんが農家の主だったらしく、笑顔で頼めばコロッと貰えたらしい。
しかし、数年前に主が変わり・・・・・

「ダメだっ。去年は仕方なく渡したが、今年はダメだ!帰ってくれよ!」

目の前の男は、男と呼ぶにはまだ相応しくない少年だった。
15か、そこらだろう。まだ判断力に欠け、主としての責任に押しつぶされそうに見える。
コークスの実を渡して良いものか迷い、とりあえずダメだと言っているではないか。
シズはそう判断した。だから、こちらの方が世の理に沿っていて正しいという態度をとっているのだ。
それでも、少年はこちらの頼みを飲まなかった。
こちらがどれだけ頼んでも少年は、ダメだの一点張りだ。
農家にある客間で、シズの持ってきた風呂敷の中身がテーブルの上に開けられている。
魚の干物、昨日の残りの豚を薫製にしたモノ、村で貰った米、新鮮な野菜などをお礼に渡すので、
コークスの実をホンの少し、両手で器を作ってそれに山になるくらい欲しいと半時ほど頼んでいる。
それでもダメだという。徐々に少年の顔つきから見えてきたのは、
どうやら去年のように量が少なく手渡せないと言うよりも、
渡すこと自体出来ない、全く考えられないという感じだ。
そう言えば家の中もなにか緊張の漂ったような雰囲気が流れている。
それは決してシズ達が来たからではなさそうであった。
この村でもコークスを栽培しているのはこの農家だけだった。
どれだけ育てるのに苦労するのかは分からないが、どうやら10人程度の男達が、
コークスを育てるために土に混ぜる肥料を作ったり、まるで女性の肌を触るかのように、
優しくコークスの穂を触り、観察して、世話をしていたりした。
その男達が、どこか元気のない顔をしながらシズ達を迎えたのだ。

シズ達、そう、ミキもこの場にいた。
昔から貰っていたミキが来れば貰える道理にはなるだろうし、
この歳の少年なら、女性に頼まれた方が弱いのではないかと踏んだからだ。
さっきから、ミキが無いと困るのだ、是非必要なのだと再三頼むたびに、
少年は苦しそうな顔でうめきながらも、それでもダメなのだと言い続けている。

押しても引いてもウンとも言わない少年に負け、とうとうシズ達は農家を出た。
お礼として持ってきた荷物は、気持ちだと言っておいていった。
いや悪いからと言われたが、正直重くて持ち帰りたくないと言ってやった。
外まで送りに来たのは男達だけで、主の少年はシズ達が部屋を出るときもずっと、
机の上のものをじっと見つめながら何かと戦っているかのように黙っていた。

「どうしましょぉ・・・・・(ー。ー」
『そうだな・・・・・どうしようか。』

日が丁度空のてっぺんで輝く時間に、ハイゼンへの帰路につくのも辛いものがある。

「お腹減りましたね・・・・。」
『そうだな、うちみたいな食堂があれば食べていきたいな。』

-----そう言えば昼食すら出してくれなかったな、あの農家は。
 コークスばかり作っていて、実は食べる食料がないとか。
 村八分にあって麦を分けて貰えないのかも知れないな。
 いや、男達は元気がなかったが、やせ細ってるようにも見えなかったし、
 人の昼食にまで気を使う余地がないほど、あの農家はいま大変なのだろうか。
 まてよ、あの農家はコークスをどうしてるんだ。
 あんな香ばしくて食欲をそそる香料なんだし、どこかで使ってるはずだ。
 食堂なんてのがあったらそこには間違いなく使っているだろう。
 そこで分けて貰うことは出来ないだろうか-----

『ミキ、食堂を探そう。』
「そうですね・・・・あ、シズさん。良い匂いしません?」

シズは味音痴だが、鼻は良い。食材を選ぶのに鼻が良くなければ困る。
確かに、ミキの言ったとおり、風に乗って良い香りがシズの鼻腔をくすぐった。

『これは・・・・・・・』 「『シチュー?』」


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2007/02/12 21:10 | Comments(0) | TrackBack() | スイ&シズ

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