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2024/05/03 17:45 |
1.シチューの組体操/スイ(フンヅワーラー)
PC:スイ (シズ)

場所:アンダーソンズカーペット村?



 長い棒が歩いていた。先端には皮が巻きつけられている。
 それを肩にかけ、歩いている人間も、棒のように細かった。
 太陽をしっかりと浴びた藁のような色の髪はとてもじゃないが梳いているとは
言えない。身なりも、身体の大きさと服のサイズが明らかに合っておらず、生地
も擦れてくたくたになっているので、さらにみすぼらしい印象を受ける。
 しかし、その人物を真正面から見ると、人はその白目がちな目にぽつんとある
瞳に奇妙な印象を抱くことだろう。
 何も無い空中を見ているような、浮世離れした視線であるのに、どこか研ぎ澄
まされたような鋭い印象も抱かせる。
 中性的な印象を持たせる顔立ちであるが、その身なりと視線のせいか、ほとん
どの者は少年だと間違うだろう。……胸はどうみても平坦で、それは弁解などまっ
たくしていないような潔よさだ。
 その、歩く棒がぴたりと止まった。


 どこに来てしまったのだろうか。棒――スイは見回した。
 そこにあるのは、光を浴びた鮮やかな緑。澄み切った青い空と白い雲。黒々と
肥えたむき出しの土に、それを耕す人々。
 チチチチ、と小鳥のさえずりが青空に響いた。

「……おかしい」

 緊張に溢れ、恐怖に竦み上がり、爆発しそうな暴力が潜んだあの空気とはかけ
離れている。血や鉄の匂いとまではいかなくとも、せめて、漠然とした不安を抱
えた匂いは無いものか。まだ他人事のように思っていて、浮ついた空気が無いも
のか。
 そう思って鼻をくん、と鳴らす。
 水を含んだ木々や土、そして堆肥の匂いが鼻腔に入る。
 都会でうっすらと、この辺りで傭兵を集めているという噂を聞いたのだが。も
しかすると、ここら辺りで、領主が反旗を翻す準備をしていたり、農民が一斉蜂
起を計画していたり、異端勢力が潜んでいて対抗勢力を集めていたりしているの
だろうか。――そんなことは無いと分かっていた。が、心の中で愚痴るように、見
苦しく可能性を並べ立てずにはいられなかった。
 肌がピリピリする感覚が、まったく無い。少しでもそういう要素があれば、敏
感に感じ取れるはずだというのに。
 スイはようやく認めざるを得なかった。
 これは……やはり。

「……道を間違えたか」

 ……まぁ、うっすらと、そうじゃないかなー、と途中から思っていたのだが。
 金には困っていなかったから、無理をせず馬車を使うべきだったか。ダヴィー
ド家にいる間足腰が弱っていたので、歩きを選んだのだが。
 それにしてもどこで間違ったのか。街道でちゃんと人に聞いて、「まっすぐに
行って山を越えたら」と言った方向をひたすらまっすぐに――道から外れようが、
森を突き抜け、山の獣道を通り――ようやく山を抜けて人里を見つけたというのに……。

「途中、獣道を止む無く使って、方向感覚を失ったか……。まっすぐというのは難
しいものだな」

 とりあえず結論付けた。

 くぅぅぅぅぅ。

 腹が鳴った。
 気づけば、穏やかな風にのって、昼食の匂いが流れてきていた。……これは、シ
チューだろうか。色々な野菜を煮込んだ時の独特の甘い匂いが含まれている。
 そういえば、ここのところ、保存食と、山でとれた実や、臭い獣肉や、運がい
いときは芋なんかを食べていただけだ。暖かいシチューなんて久々だ。

「…とりあえず、食べるか……」

 スイは、そのシチューの匂いをたどって、歩き出した。
 遠くでモォーゥ、と牛が長く鳴いた。
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2007/02/12 21:08 | Comments(0) | TrackBack() | スイ&シズ

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