第二十ニ話 『すにーきんぐみっしょん』
PC:ルフト(ベアトリーチェ、しふみ)
場所:ウォーネル=スマン屋敷の裏門→屋敷内部
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『ルフト、お前の任務は潜入だ。ふざけた真似とかすんなよ?』
空で舞いながら声を送ってくるブルフを適度に無視しながら、ルフト・ファングは裏口
を警備しているウォーネルの私兵の様子を観察していた。警備をしていると言ってもこの
町で表立って逆らう人間が少ない所為か、一人しかいないしやる気もない。
だから、少し他所を見ている隙に背後に忍び寄り、一撃て昏倒させるのはそれほど難し
い事でもなかった。――だがしかし、五秒と経たないうちにルフトは自分の迂闊さを後悔
する事になる。
「誰だ!」
思ったより近くで上がる誰何の声。振り返れば、ちょうど交代の警備員が中からやって
きた所だったらしい。高い塀の所為で中が見えなかったのだ。
「くっ!」
ここで引いては10分以内に目的地に付く事はできない。少し逡巡するもルフトは強引に
塀の中へ入り、駆け抜ける事を決意した。ピリリリリという呼子の鋭い音が辺りに木霊す
る。――果たして、めったに吹かれない呼子にちゃんと反応できる警備兵がどれほど居る
事か。ルフトがそれが一人でも少ない事を祈るしかなかった。
◆◇★☆†◇◆☆★
『警備員達が騒ぎだしたぞ。何やってるルフト。おい応答しろルフト!ルフト!』
――こんな状況で応答できるわけがないでしょうに……!!
とにかく警備兵達が集まってくる前に全速力で振り切り、そのまま物陰に潜んでいるの
だ。物音でも立てれば見つかってしまうかもしれない。ブルフからの声は魔術を介してい
るのでルフトにしか聞こえないが、逆はそうもいかないのだ。
今隠れているのは庭の植え込みを少し奥に入ったところ。そのままの格好ではいくらな
んでも目だってしまうので、道具を入れてあったダンボール箱をひっくり返して被ってい
る。
「こっちにはいないぞー」
「まだ敷地内にはいるはずだ、探せー」
「くそっ、図体に似合わずすばしっこい奴だ」
「ち、こうしていても埒があかん。増援はどうした!」
しばらく時間が経ってようやく諦めたのか人の気配が散り散りになっていく。ダンボー
ル箱の中でルフトは安堵の溜息をつき――次の瞬間、全身に毛が逆立ったような錯覚に襲
われた。
自分の配置に戻る途中なのだろう、近づいてくる足跡がする。そしてあろう事か、ルフ
トが隠れているダンボールの近くで足を止めてしまう。
「ったく、誰だよ道具箱ひっくり返して……ん?」
一秒がまるで一時間のようにも感じられた。恐らくは片付けようとしたのだろう、こち
らに一歩近づいた警備員であろう男がそのまま動きを止める。「なんだこれは?」と不思
議そうに呟くのが聞こえて、ルフトはなんとなく絶望した気持ちに浸った。
「犬の尻尾……?」
彼がもぐりこんでいるダンボールはけして小さくはなかったが、だからと言って大きい
ものでもなかった。どうにか体を折り曲げて入り込んだまではよかったのだが、不幸な事
に彼は気づかなかったのだ。――潜り込んだ時に尻尾がダンボールの取っ手に当たる穴を
突き抜けて外に出ていた事に。
この警備員が少しでも犬が嫌いだったらこのまま素通りしていただろう。あるいはダン
ボールの上から蹴るくらいはしていたかもしれないが、少なくとも見つかりはしなかった
はずだ。
だが不幸にもこの男は犬好きで、うっかりじゃれ付いて出られなくなった哀れな犬を助
けようとダンボールに手を掛けてしまう。
――もう駄目だ。
バリッという重ねた硬い紙が破れる破壊的な音が耳元で鳴り響く。思わず頭を抱えたく
なるのを我慢してルフトはダンボールから頭を突き出した。ついで両手両足を箱の下部か
ら出し、そのままチョコチョコと走り去る。
「……俺、夢でもみてんのかな」
取り残された警備員は唖然としてその様子を見守り――我に返って試しに抓ってみた頬
はとても痛かったようだ。
◆◇★☆†◇◆☆★
屋敷の中に入ってからは人に追われるコトは少なくなった。流石に家の中にまであちこ
ち警備兵を配置しておく趣味はなかったらしい。とりあえずいい加減邪魔なダンボールの
殻を外そうとして四肢に力を込める。――が、いくら踏ん張ってもそんなに強度がないハ
ズのダンボール箱を打ち破る事ができなかった。
――参りましたね、これは。
どうやら妙な具合に体が箱にフィットしてしまい、力を周りに掛ける事ができなくなっ
てしまっているようだった。次いで首を一度箱の中に戻して再度前を打ち破ろうと考える
が、そちらも体勢的に出来そうにない。
溜息を1つついて諦めると、ルフトは目的の部屋目掛けてまたチョコチョコと走り始め
るのだった。
PC:ルフト(ベアトリーチェ、しふみ)
場所:ウォーネル=スマン屋敷の裏門→屋敷内部
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『ルフト、お前の任務は潜入だ。ふざけた真似とかすんなよ?』
空で舞いながら声を送ってくるブルフを適度に無視しながら、ルフト・ファングは裏口
を警備しているウォーネルの私兵の様子を観察していた。警備をしていると言ってもこの
町で表立って逆らう人間が少ない所為か、一人しかいないしやる気もない。
だから、少し他所を見ている隙に背後に忍び寄り、一撃て昏倒させるのはそれほど難し
い事でもなかった。――だがしかし、五秒と経たないうちにルフトは自分の迂闊さを後悔
する事になる。
「誰だ!」
思ったより近くで上がる誰何の声。振り返れば、ちょうど交代の警備員が中からやって
きた所だったらしい。高い塀の所為で中が見えなかったのだ。
「くっ!」
ここで引いては10分以内に目的地に付く事はできない。少し逡巡するもルフトは強引に
塀の中へ入り、駆け抜ける事を決意した。ピリリリリという呼子の鋭い音が辺りに木霊す
る。――果たして、めったに吹かれない呼子にちゃんと反応できる警備兵がどれほど居る
事か。ルフトがそれが一人でも少ない事を祈るしかなかった。
◆◇★☆†◇◆☆★
『警備員達が騒ぎだしたぞ。何やってるルフト。おい応答しろルフト!ルフト!』
――こんな状況で応答できるわけがないでしょうに……!!
とにかく警備兵達が集まってくる前に全速力で振り切り、そのまま物陰に潜んでいるの
だ。物音でも立てれば見つかってしまうかもしれない。ブルフからの声は魔術を介してい
るのでルフトにしか聞こえないが、逆はそうもいかないのだ。
今隠れているのは庭の植え込みを少し奥に入ったところ。そのままの格好ではいくらな
んでも目だってしまうので、道具を入れてあったダンボール箱をひっくり返して被ってい
る。
「こっちにはいないぞー」
「まだ敷地内にはいるはずだ、探せー」
「くそっ、図体に似合わずすばしっこい奴だ」
「ち、こうしていても埒があかん。増援はどうした!」
しばらく時間が経ってようやく諦めたのか人の気配が散り散りになっていく。ダンボー
ル箱の中でルフトは安堵の溜息をつき――次の瞬間、全身に毛が逆立ったような錯覚に襲
われた。
自分の配置に戻る途中なのだろう、近づいてくる足跡がする。そしてあろう事か、ルフ
トが隠れているダンボールの近くで足を止めてしまう。
「ったく、誰だよ道具箱ひっくり返して……ん?」
一秒がまるで一時間のようにも感じられた。恐らくは片付けようとしたのだろう、こち
らに一歩近づいた警備員であろう男がそのまま動きを止める。「なんだこれは?」と不思
議そうに呟くのが聞こえて、ルフトはなんとなく絶望した気持ちに浸った。
「犬の尻尾……?」
彼がもぐりこんでいるダンボールはけして小さくはなかったが、だからと言って大きい
ものでもなかった。どうにか体を折り曲げて入り込んだまではよかったのだが、不幸な事
に彼は気づかなかったのだ。――潜り込んだ時に尻尾がダンボールの取っ手に当たる穴を
突き抜けて外に出ていた事に。
この警備員が少しでも犬が嫌いだったらこのまま素通りしていただろう。あるいはダン
ボールの上から蹴るくらいはしていたかもしれないが、少なくとも見つかりはしなかった
はずだ。
だが不幸にもこの男は犬好きで、うっかりじゃれ付いて出られなくなった哀れな犬を助
けようとダンボールに手を掛けてしまう。
――もう駄目だ。
バリッという重ねた硬い紙が破れる破壊的な音が耳元で鳴り響く。思わず頭を抱えたく
なるのを我慢してルフトはダンボールから頭を突き出した。ついで両手両足を箱の下部か
ら出し、そのままチョコチョコと走り去る。
「……俺、夢でもみてんのかな」
取り残された警備員は唖然としてその様子を見守り――我に返って試しに抓ってみた頬
はとても痛かったようだ。
◆◇★☆†◇◆☆★
屋敷の中に入ってからは人に追われるコトは少なくなった。流石に家の中にまであちこ
ち警備兵を配置しておく趣味はなかったらしい。とりあえずいい加減邪魔なダンボールの
殻を外そうとして四肢に力を込める。――が、いくら踏ん張ってもそんなに強度がないハ
ズのダンボール箱を打ち破る事ができなかった。
――参りましたね、これは。
どうやら妙な具合に体が箱にフィットしてしまい、力を周りに掛ける事ができなくなっ
てしまっているようだった。次いで首を一度箱の中に戻して再度前を打ち破ろうと考える
が、そちらも体勢的に出来そうにない。
溜息を1つついて諦めると、ルフトは目的の部屋目掛けてまたチョコチョコと走り始め
るのだった。
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