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2024/11/01 08:26 |
シベルファミト21/ベアトリーチェ(熊猫)
第二十一話 『うるさい潜入』

キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン屋敷の裏門
――――――――――――――――

ベアトリーチェは慌てて振り返ると、そちらに駆け寄り力任せに窓を開いた。
首だけ出して周囲をざっと見渡す。
そして、弧を描くように屋敷の庭を旋回している、見慣れた影を見つけて叫んだ。

「焼き鳥ーッ!!」

叫ぶが届くと同時に、ごす、と影が失速し墜落する。
無言で見ていると、それはしばらくじたばたしてからむっくり身を起こし、
来たときより力なくはばたいて真っすぐ向かってきた。

「助けに来た恩人に何言いやがる!」

来るなり鳥――ブルフは、窓の桟にとまってぎゃあぎゃあ喚きながら
両の翼をばたつかせた。

「恩人ていうかオンドリ?ニワトリ?」
「うるせー言葉のあやだ!それよか一体なんなんだ!
隣町くんだりまで出向いて帰ってきたらいきなり誘拐されやがってるし!
なんか地味にムカついたぞ!」
「しょーがないでしょ!ハプニングがあったのよ!」

さすがにむっとして、即座に言い返す。いくつか不毛な言い合いをしてから、
はたと気づいて声の調子を変える。

「ていうか、よくわかったわねここが」
「その隣町で、この屋敷の主人の噂を聞いたんだよ。そいで帰ってきてみたら
 お嬢様がたは馬車に乗ってお出かけになりました。だ。あとは道なりさ」

ウォーネル=スマンはよほど人徳のない男らしい。胸を張るブルフの仕草は
無視して、さらに問いかける。

「あいつは?犬」
「来てる。俺の報告を待ってそのへんにいるよ」
「オッケー。じゃあブルフ、なんかすごい説明しづらいからまとめるけど、
Bプランに変更よ」
「Bプラン?」

すっとんきょうな声で鳥がぐっと喉を伸ばす。ベアトリーチェはそれに
わざと重々しく頷いて見せてから、両の拳を握った。

「最初はこの屋敷をボゴって全財産を奪う感じだったんだけど、
殺し屋に協力すれば合法でお宝が手に入るみたいなのよ」

さっと、ブルフの顔色が――鳥のくせに感情表現だけは人間並みだと
内心感心したが――青ざめる。また器用に片羽をつきつけてくる。
人間でいえば、さしずめ、人差し指でさしてくるといったところか。

「殺し屋に協力する時点で違法たっぷりじゃねぇか」
「あんただって現在進行形で不法侵入じゃない。そんなことより、
とっとと皆と合流して作戦会議よ」

ベアトリーチェは一歩も譲らない。
そして一拍置いて返ってきた言葉には、八割ほどの諦めが含まれていた。

「いやー俺としては面倒なことは避けてとっととここをずらかったほうが
利口だと思うんだがなー」
「とりあえずあんたは犬を連れてこの部屋まで来て。あたしは
しふみを連れてくる」

真っ向からブルフのことばを無視して、寝転がって乱れた髪を正す。

「じゃあね!10分後よ!」

背中で聞いたため息には、十分な諦めの色が感じられた。

・・・★・・・

「まちがーいに気がついたわー♪あなたは私のー愛に気づいたー
 わけじゃなくてー♪あの人の愛にー出会ったのー♪」

最初は鼻歌だったのだが、ベアトリーチェはいつの間にか普通に歌いだしていた。
というのは、この屋敷内があまりにも静かだからだ。
昼休みという休息により違法に手を染める主人のわがままから解放されているのか、
これから起きるであろう騒動を無意識に感じ取っているのか。

「ペンギンなんてーいらないわー♪白熊のー毛はー意外に長いー♪」

行動を始めた頃は曲がり角のたびに折れた先を窺いつつ進んでいたのだが、
あまりにも使用人の姿が見えないので、いまや緊張感ゼロで散歩気分である。

「そこかーらの始まりにはァー♪あなたのことでもォーおもいだすからァー
 うそじゃなくてー♪ペンギ…」

物音に気がついて足と歌を止める。歌は一番の盛り上がり場所だっただけに
止めるのは惜しかったが。

耳をすませながら音の出所を探る。そうして、とある巨大なドアの前まで来た。
ひょいと頭上を見上げて確認すると、『厨房』と書かれている。
ドアが大きいのは、食事を載せたワゴンが通りやすいためにだろう。
さっと近づいて、扉に耳を押し当てる。確かに間違いはなさそうだ。が。

「?」

皿が触れ合う音、材料を焼く音、コックの怒鳴り声――といった音を
想像したのだが、 どうも違う。低く、鈍い音しかしない。
しかも気配は複数あるというのに人の話し声なぞ一言も聞こえない。
しいて言えば、うめくような――

即座にドアを開く。重々しいドアは意外にあっさり動き、彼女を室内へ迎えた。

中には、誰もいなかった。

放置された使用済みの皿、壁から下がったフライパン、調理器具。
今まさに料理を作っていた人間がいたような、そんな感じである。
竈に乗っている鍋からは湯気さえ立ち上っている。中を覗き込んでみると、
濁った湯しか入っていなかった。

(なんで?)

ただ音は聞こえている。うっかり声に出しそうになった言葉を飲み込んで、
無言で周囲を探る。もしや接近に気づいて隠れたか。
だがそれだけの技量を持つ者が厨房で何をしているというのか。

突如、足元から音が聞こえた。今までにないほど大きい音である。
地を震わすような――

「きゃん!」

地は確かに震えていたが、それは音の振動によるものではなく、もっと
物理的なものだった。すなわち、地下から何者かが床を叩いているのだ。
そのせいでひっくりかえったベアトリーチェはいくつか毒づいて、身を起こす。

目の前をよく見れば、立っていた場所には四角い切れ目、さらには
手をかける部分までご丁寧に作られていた。
もっとも、ただの貯蔵庫なのだから隠す必要などないのだろうが。

数秒ほど黙考して、貯蔵庫を見る。その間も必死に地下の主は扉を叩いているが、
扉は数センチ浮いては閉じるを繰り返すだけだ。

「よっ」

とうとう、彼女は扉を開けることにした。だが敵だった場合、丸腰の彼女には
なす術がない。周囲を見渡し、あの湯が入った鍋を竈から下ろした。
ずりずりとそれを引きずって穴のふちまで移動させ、片手で傾けながら
もう片方の手で扉をゆっくり開ける。

ぎ、と金属が軋む音。一呼吸おいてから、一気に扉を跳ね上げる!

『!!!!!!!』
「キャーーーーーーーーーーー!!!!!!」

中に入っていたのは縛られた男達だった。ただし、下着姿の。
いきなり視界が開けて驚く彼らより、その事実に気づいたベアトリーチェのほうが
驚いた。結果。

ざばああああああ。

「あ」
『ん"ーーーーーーーーーーー!!!!!!!』

傾いた鍋から一気に湯が穴の中へと流れ込む。彼女はなぜかあわてて扉を閉め、
扉の上に座り込んで自らを重しにする。
さきほどとは比べ物にならないほど激しい振動が内側から襲ってきたが、
だんだん勢いは失われ、数十秒後には物音がいっさいなくなった。

・・・★・・・


「ご、ごめん」


家族以外の誰かに本気で謝るという事をするのは、久しぶりだった。
とはいえ体中を真っ赤に染めて下着姿のくせに顔だけは真面目な使用人達を前に、
彼女としては謝るほかなかった。

「今度から武器はフライパンにするから」

ねっ、と媚びてみても、仏頂面を崩さない。いっそこのまま暴れて記憶がなくなるまで
殴ってやろうかと思い始めたとき、暢気な声が背後から聞こえた。

「おや、嬢ではないかえ」
「しふみ!」


入り口に立っていたのはしふみと、インだった。しふみはなぜかエプロンなぞつけて
いるが、どうあったところでこの女の思惑を理解することなどできはしない。
それには触れず、なにか軽口の一言でも言ってやろうかと口を開くと同時、
インが裸で座っている使用人達をひと目見て、つぶやいた。

「…なんだ、こりゃあ」
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2007/02/12 21:00 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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