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2024/11/01 08:06 |
シベルファミト 20/しふみ(周防松)
第二十話 『「VIXEN(ビクセン)」は、「女ギツネ」転じて「性悪女」 』

キャスト:しふみ ベアトリーチェ (ルフト)
NPC:ウォーネル=スマン 従者(イン・ソムニア) 使用人いろいろ (ウィン
ドブルフ)
場所:ムーラン ウォーネル=スマンの屋敷

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

男は、いがらっぽい喉をなんとかしようと、歩きながら咳払いをしようとした。
彼は、この屋敷でウォーネル……というよりも、イン・ソムニアという男の手下とし
て働いている。
「あー……っ、くそっ」
喉の不快感の原因はわかっている。
昨夜、少しばかり飲みすぎたのだ。
屋敷の厨房に行って、水を飲もう。
顔なじみの料理人や手伝いの女のどちらかが必ずいるから、頼めば水を少ししばかり
飲ませてくれるはずである。
「飲みすぎは体によくない」だの「二日酔いするぐらいなら飲まなきゃいいのに」だ
のという小言とともに。

厨房に足を踏み入れると、何やら大きな寸胴ナベにたっぷりのお湯を沸かしている女
がいた。
着ているものは、この屋敷でもよく見かける使用人の女と同じ、ひらひらのついたエ
プロンに袖のふくらんだ紺色のワンピース。そして頭には、どうしてついているのか
いまだによくわからない、白いヘアバンドだか飾りだかわからないもの。
女は、赤い長髪をサラサラとなびかせながら、煮立った湯の中に野菜をドボドボと投
入した。
投入した野菜を見つめつつ、機嫌でも良いのか、よくわからない鼻歌を歌っている。
――最近雇われた女だろうか。
若い女のようだから、ちょっとからかってみようか、などと思いつつ、男は近寄っ
た。

(……ん?)

男は、ふと何か引っかかるものを覚えた。
赤い長髪の、女。

(ええと……)

二日酔いのせいか、普段のようにはっきりと働かない頭を、彼は無理矢理起動させ
る。
最近、赤い髪の女に関連した仕事に携わった気がする。
確か――そう……。
うだうだと考えていると、突然、頭の中が冴え渡った。

(こいつ、もしかして豚野郎が俺らにさらわせた女じゃねえのかっ!?)

本来の雇い主を「豚野郎」呼ばわりである。
ウォーネルという人物は、こんな下っ端にまでなめられているようだ。

しかし、そのさらわれてきた女が、どうして厨房で使用人の格好で働いているのだろ
うか。
男はじ…っと考えた。
答えは結局出なかったが。

「一体何してんですか、あんた」

敬語にすべきか普段の言葉でいいか迷いつつ呼びかけると、女は、くるりん、とこち
らを向いた。
スカートのすそが風をはらんでふわりとふくらみ、赤い長髪がサラリとなびく。
前髪が顔の右半分を覆い隠し、青い左目のみが見えている。
その女は、しふみ、であった。

「おかえりなさいませ、ご主人さまっ」

語尾にハートマークが3つはついていそうな声音でいうと、しふみは胸の前で軽くに
ぎった手をそろえ、ほんの少しかがみ――いわゆる「ぶりっ子」のポーズをとった。

「……………………」

男は、じと~っとした目でそれを見つめた。
長い、なが~い沈黙が生じる。
――やがて、沈黙を破ったのは、男のほうだった。

「気色わる……」

ぼそり、と本音を呟いてしまった。

途端のことである。

ぐもっ! と男のみぞおちにしふみの拳が突っ込まれた。
背中から衝撃が突き抜ける、きれいなストレートである。

「ぐぇ……っ」

男はたまらず、意識を手放した。

「……ふふ」

意識を手放した男の体を支え、しふみはにやりと笑う。

男の体から衣服を引っぺがして下着姿にすると、ロープでがんじがらめに縛り上げ、
しふみは近くの床板をはずし、男を中へと転がり落とした。
床下といっても、そこは地面ではない。
野菜などを保存しておくための、いわば床下の貯蔵庫である。
ここは金持ちの屋敷ということもあってか、人間がゆうに五・六人は入れるスペース
である。
ちなみに、そこには先客がいる。
料理長と、ここでの労働を主にしている使用人である。
彼らもすでにしふみによって気絶させられ、衣服を引っぺがされて下着姿で縛り上げ
られた挙句放りこまれていた。

「安心いたせ。コトが済んだら無事解放してさしあげるでの」

言葉とは裏腹に、どこか邪悪っぽい微笑みを浮かべ、しふみははずした床板を元の位
置に戻した。
そして、引っぺがした衣服を、厨房奥の古い戸棚にしまいこむ。
戸棚の中には、すでに何着か、衣服がたたんで置いてあった。

「……ふふ」

しふみは、満足そうに微笑みを浮かべた。
やはり、人と金の集まる場所というのは『欲望』が発生しやすい。
人間の『欲望』を糧にして生きている狐には、もってこいの場所である。
もともとムーランに足を踏み入れた後から調子は良かったのだが……ウォーネルの屋
敷に着いてからはさらに好調である。

鼻歌を歌い、足取りはステップを踏むように軽やかだ。

ゆであがった野菜を皿に盛り、おそらく特製とおぼしきソースをかけ、フォークとナ
イフとともに銀のトレイに載せて厨房を後にする。

――その足は、ウォーネルがいるはずの寝室に向かっていた。

鼻血を出した彼が運ばれ、介抱を受けている場所である。
どうして場所を知っているのかというと、彼女は『匂い』をたどっているだけの話で
ある。
寝室のドアの前に立ち、ドアをコンコン、とノックすると、片手にトレイを持ちなお
し、さっさと中に押し入った。
すでに人払いされた後のようで、使用人は誰もおらず、ウォーネルが一人、だだっ広
い部屋の中で、天蓋つきのベッドに寝転がっていた。

「どうじゃ? 具合のほどは」

心にもないいたわりの言葉を吐く。
寝転がっていたウォーネルは、気遣われていると感じてがばっと身を起こした。

「おお、来てくれたのか!」

分厚い肉の中に埋もれた小さな目を、キラキラと輝かせている。

「ほほほ。これでも少しは責任というものも感じておるのじゃぞ」

嘘八百もいいところである。
本当は責任などというものは髪の毛一本ほどにも感じていないのだ。

「ところで……お主、少々野菜も取ったらどうじゃ? さきほどのような食事では、
体に毒じゃぞ」

さも気遣っているふりをしながら、しふみは銀のトレイを前に差し出す。
その、ゆでた野菜にソースのかかった皿の載ったトレイを。

「う……わ、ワシは野菜は食わんのだ」

ウォーネルは、嫌悪感を露わにして野菜の皿から顔をそむける。

「そう無下にすることもなかろう。案外食わず嫌いなのではないのかぇ?」

気にせずしふみは皿を近づける。

「く、食わん。食わんと言ったら食わんのだ。だいたい、美味いものでもないのに、
何故食わねばならんのだっ」

ウォーネルは断固として食わないつもりのようだ。
小さなおちょぼ口を、必死に閉じている。

「……そうかぇ……。せっかく持ってきたというのに、悲しいことじゃのぅ」

心なしか寂しげにうつむき、皿を下げてしふみは後ろを向く。
そして、ウォーネルに見られない位置でポケットから一つの小ビンを取り出し、ゆで
野菜の上にぱっぱっと振りかけた。

――と。
ウォーネルの顔つきが変わった。

「お、おおおっ。ちょっと待て! その野菜、何やら良い匂いがするっ!」
「おや……先ほどは嫌悪しておったのに、どうしたことじゃ?」

しふみは、首を傾げてみせる。

「いや、気が変わったぞ。その野菜は美味そうだ、食う!」
「ほほほ、ようやく体を気遣う気になったのじゃな」
「ああ、そんなことはどうでも良い。早く持って来てくれ」

大好物を待ちわびる子供のように、ウォーネルはしふみを急かす。

「野菜は体に良いのじゃ。たんと食すが良いぞ」

ガツガツと野菜を腹に収めるウォーネルに微笑みかけながら、しふみは、後ろ手にし
た手に持った小ビンを人差し指でついと撫でた。
その小ビンのラベルには、『好きなものと嫌いなものが逆転する薬』なる妙な文字が
書かれている。

――それは、ゾミンの、連行されていった後のボーガンの家で家捜しをして得た『戦
利品』の一部であった。

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2007/02/12 20:59 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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