第十九話 『傲慢な被害者』
キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン屋敷の裏門
――――――――――――――――
「じゃーとっととオモテナシしてもらおうじゃないの」
「誘拐されたくせに態度でけぇな、お前…」
数分で執事服に着替えたその自称暗殺者は、イン・ソムニアと名乗った。
ベアトリーチェが彼に案内された部屋は、外観から想像したとおりの
こぢんまりした部屋だった。
だがそれでも調度の質を見れば、かなりのものが揃っていることが
素人目にも明らかだ。それだけでひとまず腹の虫はおさまる。
「誘拐したからにはそれなりの待遇ってものがあるでしょ?飛行船ツアーとか、
プライベートビーチとかさぁ」
「ブッ飛ばすぞこの野郎」
台詞の内容とは裏腹に、インの表情は呆れ、疲れている。
ベアトリーチェはふかふかしすぎて体が沈むほど柔らかいベッドに腹ばいになり、
ぱたぱたと足を動かしながらさらに続けた。
「夕ごはんなにがいいかな~。このあたりの料理って、おいしいけど
バリエーションあんまりないのよねー」
「さっきも言ったが、お前は用済みなんだからな。かわゆーい15歳以上とかなら
俺も考えたんだけどなぁ」
インが半眼で頭の後ろを掻こうとして――いくらなんでも執事服では
気がひけたのか、 やおら手を下ろして腕を組む。
どうやらそういうところは地らしい。
ベアトリーチェも半眼になり、悪態をついた。
「ローリコーン」
「冗談だ馬鹿」
「にしては妙に生々しかったけど」
「リアリティ溢れる嘘のひとつでもつけねーと、暗殺者なんか勤まんねーからな」
「暴れていい?」
「やめれ」
何にしろ、この部屋まで案内してきたというからには何か彼にも
考えがあるのだろう。
危害を加えるような様子はないが、自ら暗殺者と名乗るような人間の底意など
知れたものでははない。と、インが急ににやりとした。
「まぁ、せっかくだからちょっくら商談しながら茶でも飲めよ」
「商談?」
ベアトリーチェが身を起こすと、そら来たとばかりにインが笑みを浮かべて
さっとベッドに近づいてくる。こちらの目の高さまでしゃがんで、
「乗るなら話す。ちなみに報酬はこの屋敷の備品だ。どうだ?」
「ん~、乗った!」
「よし」
ぱし、と小気味良く片手でハイタッチを交わす。
さっそく、暗殺者が用意していたかのような口調で喋りだした。
「まず言っておくが、俺の目的はウォーネルの暗殺だ」
「あ、やっぱそうなんだ。なんで?不細工だから?」
さらりと言った軽口に、インの肩がコケる。
「なんでだ。――まぁ、怨恨てやつだ。女は狩る、骨董品は奪うでいろんなとこから
恨みを買ってる。もちろん何回か逮捕されてるが、その度に莫大な保釈金を払って
お咎めなしってもんだ。それで俺に依頼が来たわけさ」
「お宝はともかく、あんただって誘拐の片棒担いでたくせに」
「言うな、それは」
うめいてから、しゃがんだまま備え付けのドレッサー用の椅子を
片手で引き寄せて座る。で?と、いくぶん視線を高めにして
ベアトリーチェが促した。
「あたしは何をすればいいわけ?」
彼はひとつうなずいて、懐から四つに折られた一枚の紙を取り出した。
自分でざっとそれを確認するように目を走らせてから、手渡してくる。
「ここに書いてある物品を探しといてくれ。この屋敷の中に必ずあるはずだ」
「螺鈿の時計、琥珀の杖、紫檀のマンドリン…なにこれ」
折り目を伸ばして見れば、ずらずらと物品の――字面を見る限りでは
どれも高価そうな――名前が書かれている。数えてはいないが、
少なくとも10は超えている。
それぞれには細かく特徴が書き込まれており、銘があるものも少なくない。
「さっき言った、ウォーネルが奪った骨董品さ。ほとんどの依頼人は諦めたが、
何人かは諦めが悪い奴もいるようだな」
インが肩をすくめる。ベアトリーチェは彼に顔を向けたまま、ごろりと
仰向けになった。景色が完全に逆さまになる。
「なに、暗殺だけじゃないの?あんたの仕事」
「ま、そういうこった」
「ふーん…ていうか、そんな執事になるくらいだったらあんたなんで
今までやらなかったのよ?」
「膨大なんだよ、数が。3年かけてやっとそれだけになったのさ」
ため息と共に吐かれたそのセリフを聞いて、思わず顔をしかめる。
再度紙に目をやり、一言。
「めんどくさーい」
「やれよちゃんと」
しっかり釘を刺してくる。答える代わりにまたうつぶせになり、今度は
身を起こして乱れた髪を直して、背に跳ね上げた。
「はぁーい」
「じゃ、俺はいったんあの服を着たブタに報告してくる。ところであの
『姉さま』とやらは…?」
「あぁ、あれ違うから。仲間仲間」
ベアトリーチェが言うと、インは特に驚くそぶりも見せなかった。
おそらく予想はしていたのだろう。
「てことは、あの女もハンターか?」
「知らなーい」
「なんだそりゃ…まぁ、適当に伝えとくわ」
気のないインの言葉を最後にばたん、とドアが閉じて。
数秒だけ沈黙が落ちる。
「…さーて、と」
去ってゆく足音を聞いてから、ぴょんとベッドから飛び降りる。
大きく伸びをして、ドレッサーに映った自分に向けてにやりと笑って
みせる。
「お仕事、開始!」
刹那――
鏡に映った窓の外を、黒い大きな鳥影が横切った。
キャスト:ルフト・しふみ・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン屋敷の裏門
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「じゃーとっととオモテナシしてもらおうじゃないの」
「誘拐されたくせに態度でけぇな、お前…」
数分で執事服に着替えたその自称暗殺者は、イン・ソムニアと名乗った。
ベアトリーチェが彼に案内された部屋は、外観から想像したとおりの
こぢんまりした部屋だった。
だがそれでも調度の質を見れば、かなりのものが揃っていることが
素人目にも明らかだ。それだけでひとまず腹の虫はおさまる。
「誘拐したからにはそれなりの待遇ってものがあるでしょ?飛行船ツアーとか、
プライベートビーチとかさぁ」
「ブッ飛ばすぞこの野郎」
台詞の内容とは裏腹に、インの表情は呆れ、疲れている。
ベアトリーチェはふかふかしすぎて体が沈むほど柔らかいベッドに腹ばいになり、
ぱたぱたと足を動かしながらさらに続けた。
「夕ごはんなにがいいかな~。このあたりの料理って、おいしいけど
バリエーションあんまりないのよねー」
「さっきも言ったが、お前は用済みなんだからな。かわゆーい15歳以上とかなら
俺も考えたんだけどなぁ」
インが半眼で頭の後ろを掻こうとして――いくらなんでも執事服では
気がひけたのか、 やおら手を下ろして腕を組む。
どうやらそういうところは地らしい。
ベアトリーチェも半眼になり、悪態をついた。
「ローリコーン」
「冗談だ馬鹿」
「にしては妙に生々しかったけど」
「リアリティ溢れる嘘のひとつでもつけねーと、暗殺者なんか勤まんねーからな」
「暴れていい?」
「やめれ」
何にしろ、この部屋まで案内してきたというからには何か彼にも
考えがあるのだろう。
危害を加えるような様子はないが、自ら暗殺者と名乗るような人間の底意など
知れたものでははない。と、インが急ににやりとした。
「まぁ、せっかくだからちょっくら商談しながら茶でも飲めよ」
「商談?」
ベアトリーチェが身を起こすと、そら来たとばかりにインが笑みを浮かべて
さっとベッドに近づいてくる。こちらの目の高さまでしゃがんで、
「乗るなら話す。ちなみに報酬はこの屋敷の備品だ。どうだ?」
「ん~、乗った!」
「よし」
ぱし、と小気味良く片手でハイタッチを交わす。
さっそく、暗殺者が用意していたかのような口調で喋りだした。
「まず言っておくが、俺の目的はウォーネルの暗殺だ」
「あ、やっぱそうなんだ。なんで?不細工だから?」
さらりと言った軽口に、インの肩がコケる。
「なんでだ。――まぁ、怨恨てやつだ。女は狩る、骨董品は奪うでいろんなとこから
恨みを買ってる。もちろん何回か逮捕されてるが、その度に莫大な保釈金を払って
お咎めなしってもんだ。それで俺に依頼が来たわけさ」
「お宝はともかく、あんただって誘拐の片棒担いでたくせに」
「言うな、それは」
うめいてから、しゃがんだまま備え付けのドレッサー用の椅子を
片手で引き寄せて座る。で?と、いくぶん視線を高めにして
ベアトリーチェが促した。
「あたしは何をすればいいわけ?」
彼はひとつうなずいて、懐から四つに折られた一枚の紙を取り出した。
自分でざっとそれを確認するように目を走らせてから、手渡してくる。
「ここに書いてある物品を探しといてくれ。この屋敷の中に必ずあるはずだ」
「螺鈿の時計、琥珀の杖、紫檀のマンドリン…なにこれ」
折り目を伸ばして見れば、ずらずらと物品の――字面を見る限りでは
どれも高価そうな――名前が書かれている。数えてはいないが、
少なくとも10は超えている。
それぞれには細かく特徴が書き込まれており、銘があるものも少なくない。
「さっき言った、ウォーネルが奪った骨董品さ。ほとんどの依頼人は諦めたが、
何人かは諦めが悪い奴もいるようだな」
インが肩をすくめる。ベアトリーチェは彼に顔を向けたまま、ごろりと
仰向けになった。景色が完全に逆さまになる。
「なに、暗殺だけじゃないの?あんたの仕事」
「ま、そういうこった」
「ふーん…ていうか、そんな執事になるくらいだったらあんたなんで
今までやらなかったのよ?」
「膨大なんだよ、数が。3年かけてやっとそれだけになったのさ」
ため息と共に吐かれたそのセリフを聞いて、思わず顔をしかめる。
再度紙に目をやり、一言。
「めんどくさーい」
「やれよちゃんと」
しっかり釘を刺してくる。答える代わりにまたうつぶせになり、今度は
身を起こして乱れた髪を直して、背に跳ね上げた。
「はぁーい」
「じゃ、俺はいったんあの服を着たブタに報告してくる。ところであの
『姉さま』とやらは…?」
「あぁ、あれ違うから。仲間仲間」
ベアトリーチェが言うと、インは特に驚くそぶりも見せなかった。
おそらく予想はしていたのだろう。
「てことは、あの女もハンターか?」
「知らなーい」
「なんだそりゃ…まぁ、適当に伝えとくわ」
気のないインの言葉を最後にばたん、とドアが閉じて。
数秒だけ沈黙が落ちる。
「…さーて、と」
去ってゆく足音を聞いてから、ぴょんとベッドから飛び降りる。
大きく伸びをして、ドレッサーに映った自分に向けてにやりと笑って
みせる。
「お仕事、開始!」
刹那――
鏡に映った窓の外を、黒い大きな鳥影が横切った。
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