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2024/05/16 23:37 |
アクマの命題【4】 そう人は呼ぶ/メル(千鳥)
††††††††††††††††††††††††††††††††
PC:メル スレイヴ
NPC:スレイヴフレンズ(ミルエ アルフ オルド)
場所:ソフィニア魔術学院(図書館)
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 今回の調査対象の一人であるスレイヴ・レズィンスは、地上へ繋がる階段を落ち着いた足取りで降りてきた。歳は20代半ばだろうか、メルが想像したよりも、若い。
 視界の端で、オルドと呼ばれた柄の悪い青年が片手を上げて挨拶する姿が見えた。どうやらこの4人は親しい間柄のようだ。
 
「こんなところにシスターがいらっしゃるなんて珍しいですね。あぁ…」

 アルフの隣で立ち止まると、眼鏡の奥の目を細めてスレイヴは考え込む仕草をした。

「もしかして、先日の事件のことですか?」
「はい、わたくしはソールズベリー大聖堂から派遣されたシスターです」

 スレイヴは、彼の頭一つ小さいメルを一呼吸の間観察した。
“観察”という言葉は見られたメルが感じたもので、オルドの“値踏み”するような視線とは異なっていた。メルは上目遣いにならないように一歩下がると正面からスレイヴを見返した。

「調査員のアメリア・メル・ブロッサムと申します。こちらの学院で起きた悪魔召喚の事件について貴方にお聞きしたいことがあります。スレイヴさんですね…?」
「いかにも、私がスレイヴ・レズィンスです」
「腹の黒さにかけちゃ学院に並ぶ者が無いって呼ばれてる、あのスレイヴだな」

 楽しむような台詞に、横からオルドの茶々が入る。

「はらぐろ・・・?」

振り返ると、オルドは浅く腰掛けていたイスから盛大に床に転がっていた。アルフが冷ややかな瞳で彼を見下す。

「無駄口を叩くな、オルド。話がややこしくなる」
「大丈夫ですか…!?」

 慌てて駆け寄ろうとしたメルをミルエが優しく制する。

「気にすることはありませんわ。オルドはマゾなのでこうやってアルフに苛められるのを悦んで無駄口をたたいているのですから」
「ミルエ、てめぇッ誰が…マゾだ」

 よく見れば、椅子の一脚の足元が溶けて短くなっていた。それがアルフの行ったものだとメルは知る由も無い。そんなハプニングなどスレイヴは気にもせずメルを見つめていた。

「アメリア・メル・ブロッサム……もしかして、サイズマン研究室の助手のグレイス・ブロッサムとはご親戚ですか?」
「……グレイス兄さん。そうです、同じ孤児院で育って…よく面倒をみてもらいました」

 スレイヴの言葉にメルは忘れていた兄弟の名前を思い出す。そして孤児院出身である事を何のためらいも無く口にした。ブロッサム孤児院の子供たちにとって、あの家は誇りだったからだ。しかし、その家がなくなった今、

「ならば後で彼の所まで案内……」
「いいえ、結構です!それよりも貴方が悪魔と遭遇した場所に連れて行ってくださいませんか」

 彼らに会うわけにはいかなかった。
 スレイヴからの親切な提案を、メルの声が素早く打ち消した。4人の視線が集まり、メルは必死に取り繕う台詞を探す。しかし、他人に深く干渉することがない彼らはそれ以上追求しては来なかった。

「では、講堂の方に案内しましょう」
「あ、じゃあオレ様モ…」
「お前はいい」 

 身を翻したスレイヴに、ほっと肩を撫で下ろすとメルは彼の後ろをついていこうと体の向きを変えた。しかし、思い出したようにオルドの首根っこを掴むアルフの元に駆け寄る。

「アルフさん。親切にありがとうございました」
「たいした事はしていない」

 本心からそう思っているであろうポーカーフェイスのアルフにメルはくすりと笑う。その表情は見た目の幼さから見ると幾分か大人びていたかもしれない。

「いいえ、アルフさんはとても良い方ですわ。でも、せっかく素敵なのだからもっと笑った方が良いと思います」

 一瞬、アルフの周りが凍りついた。

「だぁーっ、ハハハハッ!!おぃ!聞いたかアルフ。ほら、もっと笑ってやr」

 腹を抱えて笑い出したオルドにアルフの天誅がくだる。ミルエは読んでいた書物で顔を隠していたが、肩が笑っている。言いたい事を言ってすっきりしたメルは自分の言った台詞が爆弾級の威力を持っていることなど全く自覚するはずもなく、

「もうよろしいですか?」
「はい!」

 スレイヴに元気よく返事をしていた。


  ―――その王子様的容姿に騙されて(?)アルフ・ラルファに恋する女性は少なく無い。しかし、彼の噂を聞くやいなや、たいていの場合は近寄る勇気すらもてず、夢の中で彼に微笑んでもらい満足するのである。その微笑(ほほえみ)を本人に求めるとは、メルはなんとも命知らずだった。

 ミルエ曰く「冷徹漢のアルフに微笑まれたところで、寒気がするだけですわ」らしいが。

 † † † †

「貴女は随分と大胆な人ですね、シスター」
「どういうことでしょう?」

 講堂へ行く途中、上機嫌で言われたスレイヴの言葉に、メルは小首をかしげた。
 先ほどから、行き交う生徒が自分たちを見ると一斉に道を開けている。異常な反応だったが、きっと客人が来たら道をあけるように教え込まれた礼儀正しい人たちなのだとメルは思った。

「私たちは学生時代からの昔馴染みなのですが“絶対四重奏”なんて呼ばれてるんですよ」
「まぁ、素敵な呼び名ですわね」

 メルは、きっと彼らがそれぞれに秀才であるからつけられた名前なのだろうと考えた。それはある意味正しい。しかし、スレイヴはわざとらしくため息をついて続ける。

「それはどうでしょうね。世の人々が何を思いそう呼ぶのか、当事者には名に込められた真実の意味など知ることは出来ないのです」
「それならば、わたくしは教会内では“リトル・シスター”と呼ばれていますのよ」
「貴女が小さく可愛らしいからかな?」

 そのお世辞に、メルは首をふった。

「いつまでたっても、本物のシスターにはなれないからですわ」
「奥深いですね」

 スレイヴの眼鏡の奥が光ったような気がして、メルは喋りすぎた事を後悔した。事件の調査に来た自分がそのような事を言っては、まるで力不足のようではないか。
 メルは改めて気を引き締めると、スレイヴ・レズィンスを見た。アルフのように無表情ではないし、オルドのような乱暴さもない、常に口元に笑みを浮かべるどちらかといえば老成した若者だった。しかし、その笑みが問題だ。この男の笑みは人を不安にさせる。本来なら、笑みは人を安心させる作用があるはずなのだが、その笑顔
に騙されてうかうか気を許したら、底なし沼にはまるのではないかと、そう感じさせるのだ。

(悪い方ではないと思うのだけれど……)

 それがスレイヴの第一印象だった。

「ここが、私がその悪魔と遭遇した場所です。本来ならば魔法で修繕するところですが、貴女がたを呼ぶまで状態を保存していたようですね」

 立ち入り禁止のロープの張られた研究棟と議会場を結ぶ回廊には、未だ痛々しい傷跡が残っていた。大理石の床が獰猛な獣の爪にかかったかのように大きくえぐれている。その傷を目で追うと途中で鉄壁に突き当たったかのように途切れていた。

「この事件で出た死者は20数名。いずれも一定の戦闘力、魔力を持った衛兵や魔術士だとききます。彼らを一瞬で死に追いやった悪魔を貴方が一人で撃退したのですか?」
「私はあくまで、追い払っただけですよ。相手に傷一つつけていません。彼らとの違いは、悪魔という存在の扱い方を多少知っていたという事です」
「そうですか…」

 彼の言葉はメルにも十分頷けた。メルたちエクソシストも個々では悪魔を破滅させられるだけの力を持っていない。神のご加護の元、人々から悪魔を退かせるのがメルたちの仕事なのである。
 メルは懐に入っていたガラスの小瓶を取り出すと、その手を聖水で清め回廊の柱の一つに十字を刻んだ。単なる魔よけだが、悪い気が集まるのを防いでくれるだろう。「これでとりあえず大丈夫」そういいかけたメルの背後でピシリと何かが割れる音がした。

「動かないで」

 落ち着いたスレイヴの声と同時に、光がメルの足元を走った。彼を中心として巨大な光の円陣が広がっていた。その円陣は十分にメルの元まで届いている。悪魔の攻撃すら防いだ、あの防護の陣だ。

「どうやら、貴女への宣戦布告のようですよ?シスター」

 メルの頭上にあった屋根は今や粉々になっていた。スレイヴの張った結界が、メルの上に振ってくるはずだった瓦礫の雨を押しとどめている。そして、十字を切った円柱 ―――

「“愚かな子供よ 親(神)の後ろに隠れて泣き叫ぶなら今のうち”……上等ですわ」

 十字だけを残して崩れ落ちた柱はまさに墓標そのものだった。神を冒涜する悪魔のメッセージを前にメルは笑みすら浮かべていた。

「この悪魔を召喚した場所をご存知ですか」
「ええ、すぐ近くです。その日は研究生の論文の中間報告会がありましてね」

 スレイヴが指をさしたのは百人程度の人を収容が出来る中規模の講堂だった。

「その、隣です」

 † † † †

 そこは、今は使われなくなった小さな建物で、以前は衛兵の詰め所として使われていたらしい。窓が高く、誰にも邪魔されずに魔方陣を書くにはもってこいの場所と言えた。

「これは……ラクトルの魔方陣ですわね」
「ほぅ、知っているのですか?」
 
 黒い染料で描かれたそれを見たメルの第一声に、スレイヴは意外そうに尋ねた。

「敵を知らずに戦うことは出来ませんわ」

 ラクトルの魔方陣は、悪魔召喚に使われる魔方陣の一つである。何百年も昔に主流とされたもので、現在は使われていない。何故なら、この魔方陣に関する資料が完全な形で残ってはいないからだ。イムヌス教の追跡者(ポートカリス)によって歴史上から抹消されたとも言われている。
 生贄を必要とする現在主流の魔方陣とは異なり、名の鎖による契約で高度な交渉術を必要とする。今回の事件の契約者はおそらく悪魔との契約に失敗したのであろう。

「でも、まさか完璧な形で残った資料があったなんて…。何処で手に入れたのかしら」
「ソフィニアには古来からの貴重な資料が数多く残っていますからね。その資料を頼りに不完全だった円陣を完成させることは不可能ではありません」
「そう、なのですか…」

 悪魔退治に来たはずが、とんだ問題が増えてしまった。メルは頭を悩ませる。報告書にはこの事件で起きた全てを書き記さなければならないのだが、メルにはスレイヴの言った説明さえ殆ど理解できなかったのだ。 
 口元に手を当て考え込むメルに、スレイヴが声を低くしてささやいた。

「実の話ですが…この魔方陣を考案したのは今回事件を起こした男と全く別の人間です。彼の専門はミルエと同じ自然魔法・精霊魔法専攻ですし、地位と金の替わりに才能に見捨てられた研究者には無理なことですからね。その男は研究の過程で偶然この魔方陣の復元に成功したのですが、運悪くその現場を別の人間に見られたために
学院を追われてしまったのです」
「今その方は何処に……?」
「その男を捜すのは時間の無駄ですよ。シスター」
「随分お詳しいのですね」
「私も陣式・印式を専攻していますから」
「では、スレイヴさんはその人の事をよくご存知だったのですね」

 スレイヴは殊更にっこりと笑みを浮かべた。あの人を不安にさせる笑みだった。

「えぇ、よく知ってます」

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2007/02/10 22:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●アクマの命題
アクマの命題【5】 撃退したモノは──/スレイヴ(匿名希望α)
「えぇ、よく知ってます」

 まるで友人の武勇伝を語るかのように。

「彼は魔術師とい道をただ進んでいただけだというのに、その道は厳しく険しい
もののようです。ただ不運なのか、それとも誰かの妨害を受けているのか…」

 しみじみと語るその顔は、端からみれば笑っているが、良く見てもわらっていた。
 もらした息にはどのような意が含まれているのか。”彼”とスレイヴを知らない
メルには検討もつかないだろう。
 それでもメルは彼に起ってきた妨害を一言で片付ける。

「それは、試練なのだと思います」
「ほう、試練ですか」

 スレイヴはメルの言葉に驚きと興味が混ざった表情をする。こういった考え方
もあるのかと言わんばかりの。その反応のためか、メルは更に言葉を続けた。

「行く道が、目指す所が高く遠い程、険しく、厳しくなっていきます。その道の
りを自らの足で歩き、幾多の害を乗り越えてこそ目標を達成したと言えるでしょう」

 スレイヴはいかにもな発言に改めて目の前の少女が聖職者という認識をした。

「そうですね。我々が進む道に近道などありません。シスターの言葉を伝えてお
きましょう」

 そしてふと、思い付く。言わなくてもいいのだが言わずにはいられないのがス
レイヴ。
 知り合いに声をかけるような軽い調子で発言する。

「貴女にとっては今回の事が試練なのですね」

 メルはうめくような声をもらした。自ら進んでこの一筋縄ではいかない調査を
思い出したためであろう。
 予想通りの反応だったが、気づいていないフリをして続けるスレイヴ。

「だからこそあなたもそれらを乗り越えていくべきだと思いますよ。影ながら応
援しましょう」

 なぜ影からなのか。メルに疑問に思わせる間もなく次の言葉が続く。

「そういえば、彼も昔から幾多の困難に見舞われていたようですが、それらをほ
とんど一人で消化してしまったようです。いやはや、彼の能力には呆れる程です
よ。彼が専攻する分野では右に並ぶものがいない、とそう聞いています。大陸全
土の名のある師がここに集うというのに……。あぁ、思い返すと一人ですべてを乗
り切ったからこそ今の彼があるのかもしれませんね」

 立てた板の上を水が流れるような滑らかさで”彼”と呼ばれた人物を装飾する。
 その表情はさきほどと変わらず”笑顔”
 しかし、その笑みからは何の感情も読み取れない。曖昧な表現だが”方向性が
見えない”のだ。

「一人で、ですか」

 納得できないといいたげな呟きだった。だが、その思考は中断されられた。

「この悪魔を召喚した魔法陣もですが、先程の瓦礫を防いだ防御陣。あれも彼の
考案なんですよ」

 スレイヴはラクトルの魔方陣を見なが思い立ったように言った。
 途絶えた円陣の復元、世にはあまり出回っていないひどく一般的ではない術
式。悪魔に襲われた時の──
 そこまで考えた所で、メルはハッとする。

「先程は助けていただいたのにお礼も言わず……ありがとうございました」

 スレイヴの正面に向き直り深深と御辞儀をするメル。その動きは言葉だけの緩
慢だった雰囲気とはガラリと違う。
 細く笑むスレイヴは事もなしに

「そこまでの礼を言われる事はしていませんよシスター。防御陣を展開する範囲
に、たまたま貴女がいただけですから」

 と言ってのける。
 ただ聞けば味気なく非道にも聞こえるが、それをあえて口にすると謙遜にも聞
こえる。
 狙っているのか狙わずか──学内では言わずとも知れているが、メルには判断材
料がなかった。

「それでも結果的にわたくしも守られたのですわ。ですから貴方に感謝を」

 顔を上げたメルはスレイヴの目を正面から見つめると、軽い祈りの構えを取った。
 表面上は苦笑いのスレイヴ。裏面では口元が歪んでいる。そしてそれ以上の言
葉はあえて口にしなかった。
 ここまで深い礼をする彼女。感謝の意を表すことに何のためらいもない人物だ
というのに、礼を忘れていたということはどういうことか。礼をするということ
より重大かつ興味を引く事象が発生したためか。ならばその事象とは瓦礫が振っ
てきた事か。襲われた事か。悪魔の言葉か。

 メルに対する興味を、スレイヴ抱いた。


 ‡ ‡ ‡ ‡


 ラクトルの魔方陣。その事実がわかっただけでも収穫ではある。
 メルの頭の中では断片的ではあるが今回の事件に関して中間点の事実は固まっ
ただろう。
 始まりと終わりは曖昧ではあるが。
 あの後、現場検証を続けたがラクトルの魔方陣を除いては特定の痕跡・証拠品
は見つからなかった。わかったとこといえばラクトルの魔方陣は熱写で描かれて
いたことくらいだろうか。
 今は講堂の外、休憩できるよう設置されている簡素な長椅子に座っている。

「現在わかっていることは──」

 メルが現状の要点を整理する。
 一つ、学術発表会会場に悪魔が召喚された。
 一つ、その悪魔はスレイヴ・レズィンスによって撃退された。
 一つ、悪魔を召喚したのは魔法学園の生徒。
 一つ、魔法を召喚した陣は『ラクトルの魔方陣』
 一つ、『ラクトルの魔方陣』を復元した人物は召喚者とは別で、学園からは追
放されている。
 一つ、再び悪魔が出現する予兆がある。
 ソールズベリー大聖堂に届いた事実は調査できているが、調査した内容を更に
調べる必要があるだろう。
 その事実にメルは頭を悩ませている。『ラクトルの魔方陣』の復元者の調査。
 そして、悪魔出現の予兆である。

「悪魔を召喚した人物について、何かご存知でしょうか?」

 スレイヴに問うメル。だが、スレイヴは目を軽く伏せ首を横に振った。

「そうですか」
「”残念ですが”召喚した人物との接点はまったくありませんでした。それに私に
聞くのは間違いかと思いますよシスター」

 メルはその言葉に思い直す。スレイヴと接触したのは『悪魔を撃退した人物』
だから。
 情報を聞く対象としては一般人レベルとかわらないだろう。
 なぜそんな言い回しをするのか、疑問に思ったがそれは刹那に解決した。

「もっと詳しい人物……この事件を任されている人物がいるではないですか」
「……アルフさん、ですね」

 一間を置いてメルが回答を出す。スレイヴは眼鏡のズレを直しながら「えぇ」
と短く答える。
 その奥の眼光は光の反射により確認できなかった。

「彼は図書館かラボでしょう。まだ帰宅はしていないでしょう」

 ふとスレイヴが視線をずらした。少しだが眉間にシワが寄っている。
 メルはスレイヴの唐突な変化に思わず「何か……?」と声をかけた。

「すみません。所用を思い出してしまいました……シスター。図書館へは一人で……
向かってもらえますか?」
「わかりました。来た通路を戻るだけですので、大丈夫ですわ」

 安心させるためにか、笑みも浮かべるメル。それは年相応とはいえない落ち着
いたシロモノだった。
 スレイヴの違和感が増徴する。
 この少女に対しての疑問。年端15もいかないと思われる少女の単独調査。教
会から許可される背景。

「後で私も手伝いましょうか?」
「いえ。スレイヴさんもお忙しいようですので……それにこれは私の試練、なので
しょう。ご好意だけは受け取りますわ」

 スレイヴの言葉を借りて提案を断る。彼の所用の邪魔をしてはいけない、と。
 椅子から立ち上がったメル。衣服を軽く整えてスレイヴへ向き直る。

「わたくしは図書館へ向かいますね。スレイヴさん、調査のご協力ありがとうご
ざいました」

 ぺこり、と礼をするメル。それに合わせ、スレイヴも「えぇ」と相槌を打ち長
椅子から立ち上がった。

「それでは失礼します」

 メルは来た道へと踵を返す。本当に道順は大丈夫なようだ。
 もし大丈夫ではなくとも、スレイヴは手を貸さなかっただろう。何故なら迷っ
たら迷ったでそれも”面白い”から
 スレイヴは声も立てずに人の悪い笑みを浮かべていた。

──貴女は必ず、私の手を必要とするでしょう──

 その言葉は虚空に消えていった……


2007/02/10 22:00 | Comments(0) | TrackBack() | ●アクマの命題
アクマの命題【6】 リピート/メル(千鳥)
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PC:メル スレイヴ
NPC:スレイヴフレンズ(ミルエ アルフ オルド)
場所:ソフィニア魔術学院
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 講堂から図書館へ――。
 スレイヴと来た道を、今度は一人で歩きながらメルはスレイヴの言葉を思い起こしていた。

「この事件は神がわたくしに与えてくださった試練…」

 この言葉は最初、メル自身がスレイヴに向けた言葉であった。しかし、それがいつの間にか彼ではなく彼女を縛り付ける言葉に変わっていた。まるでスレイヴの魔法にかかったように――。
 事実、この事件を解決することが出来なければ教会はメルに“悪魔軍団長ベルスモンドの討伐”の任を下すことはないだろう。メルはこの悪魔を自分の命と引き替えにしてでも葬る覚悟があったが、教会の後ろ盾がなければ、一介のシスターが悪魔に太刀打ちなど出来るはずも無い事を身をもって知っていた。

「聖アグネスよ、イムヌスの母よ。どうかわたくしに悪魔に打ち勝つ力をお与えください」

 あの魔方陣を描いた男は、全ての試練を一人で乗り切ったという。しかし、メルには彼女の信ずる所における神と聖人たちの加護があった。白き教えのもとにあれば、神はメルを見捨てはしない。そしてこの試練を乗り越えてこそ、メルは己の信仰心を神によって認められる事を信じていた。
 この小さな身体に背負うには重過ぎる宿命を、メルはイムヌスの教えに寄りかかることでバランスをとっていた。

 †††

 図書館へは、難なくたどり着くことが出来た。
 最初は攻略不可能な迷宮に思えたこの学院も、至る所に案内板が設置されておりそれを理解すればたいていの場所に行くことが出来ることが分かった。
 しかし、肝心のアルフを見つけることが出来ない。下へ下へと捜索を広げて行くメルが見つけたのは、アルフではなく、別の人物であった。

「あぁん?さっきのシスターじゃねぇか。スレイヴと一緒に講堂に向かったんじゃねぇのか?」
「オルド・・・さん」
 
 確かそんな名前だったはずだ。
 スレイヴの話によれば、彼もまたこの学院の人間であるはずだが、オルドはメルの想像する魔法使いの姿とは何処にも通じるところがなかった。沢山の鋲が服に打ってあるのは、防御力を上げるためだろうか?しかし、ジャケットを軽く羽織っただけの露(あらわ)になった上半身がその効果を減退させているようにも思える。
 鍛えられた腹筋をジロジロと見ている自分に気がついてメルは慌てて視線を外した。

「は、はい。現場の調査は既に終えました。次はアルフさんからバルドクス・クノーヴィさんについてお話を聞きたいのですが」

 学院長の話では彼は悪魔を召喚したリバウンドで既に亡くなったという。本来ならば詳しく話しを聴き、神の名の下に更生なり矯正なり行いたい所だったのだが。

「それならアルフよりミルエに聞いたほうが早いぜ。アイツらは同じ専攻だったから棟も一緒だったし。そもそもミルエが…」
「ひとの居ないところで何の噂話ですかしら?オルド」

 オルドがぎょっとして振り返ると、そこには背筋をぴんと伸ばし美しい姿勢で立つミルエがいた。

「貴方がそんなに肝の小さい方だったなんて残念ですわ。人間どれだけ身体を鍛えても弱いところは弱いままなのですわね。どうせなら筋肉を強化なさる研究を行うより、脳にブーストをかける研究でもなさったらいかが?」
「オィ、ちょっと待てよ!なンか誤解してねぇか!?」

 ニコニコと口元に笑みを浮かべるミルエの口調はどこまでも上品だった。だと言うのに、どうしたらここまでひどい事を言えるのだろうという内容がその唇から流れてくる。

「あの!オルドさんは何も悪くはありませんわ。わたくしがお話を聞いたんです!」

 流石にオルドが不憫に思えてメルが間に入る。小さなシスターがオルドとミルエの“二重奏”を止めにはいる様子は、他の学生からみると何とも果敢な行為に映った。

「バルドクス・クノーヴィさんの事、ご存知ですか?」
「あのエピゴーネンの事ですかしら?」
「エ…エビ?」

 冷ややかにミルエが言い放った言葉が解らずメルは顔に「?」を浮かべる。既存する幾つかの理論を切り貼りし、模索するだけで一人前の研究者を気取るバルドクスを侮蔑を込めて評したのだが、彼女の意図が分かる人間は残念ながらこの場にはいなかった。
 
「そろそろアフタヌーンティーの時間ですわね。宜しかったらご一緒にいかが?シスターさん」

 唐突に話題を変えたミルエは「いいお菓子が届きましたのよ」と、メルをお茶に誘った。

「思い出したくもない相手について語るのでしたら、せめて雰囲気だけでも楽しくいたしましょう?」
「あの、気分を悪くさせてしまったのなら申し訳ありません。ミルエさん」
「ミルエが本気で不機嫌になったらこんなもんじゃねぇよ……で、さっきからアンタを見てるヤツがいるが、知り合いか?」
 
 頭を下げていたメルは顔を上げて、オルドが顎で示した先を目で追う。しかし、本棚の並ぶ図書館は視界が悪く人の姿を捉えることは出来なかった。

「え……?」
「うちの学生みたいだったが。ストーカーってヤツかぁ?」
「お茶は…わたくしの部屋ですることに致しましょうか」
「そんな大袈裟ですわ」

 急に顔つきの変わった彼らに、驚く。
 孤児院で育ち、教会で清貧な生活を送るメルにとって、きれいな服を着て、勉学に励む同じ年頃の生徒たちはやはり裕福で育ちの良い人々に思えた。そんな彼らが犯罪まがいの事を行うなど到底思いもよらなかった。
 そんなメルに、温室のバラよりも大事に育てられたであろう上品なミルエが心配そうに、しかしハッキリと言い切った。

「可愛いシスターさん、お気をつけあそばして。世界がそうであるように、この学院に起こるはずのない危険なんてありませんのよ」

 そんな彼女を見てメルはふと思い出した。
 そうだ、バラには棘があったのだ。 

2007/02/10 22:01 | Comments(0) | TrackBack() | ●アクマの命題
アクマの命題【7】 噂の真偽/スレイヴ(匿名希望α)
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PC:スレイヴ
場所:ソフィニア魔術学院
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──アメリア・メル・ブロッサム──

 少女はそう名乗っていた。

 『ブロッサム』

 これは孤児院の名前のようだ。メルの台詞と今までの情報が合致する。
 以前、耳にした研究生の名前『グレイス・ブロッサム』。
 ブロッサム姓を名乗るものは優秀な者が多い。そういう噂を聞いた。
 彼との関係を問うた所、肯定はした。だが、

「何か、あるようですね」

 何もないと言えるほうがおかしい。
 興味あるが相手が言いたくないなら聞かない。スレイヴはそんな殊勲な人間で
はない。
 幾通りの調査ルートを思いつくが、あまり面倒なのは好ましくない。
 メルに直接聞くのが一番早いのは必至。しかし、相手が知らない情報を得てこ
そ、価値があるというものだ。

「やはり、彼に聞くのが妥当…ですか」

 彼も噂になっている。すなわち学内では名が通っていることになる。
 『ブロッサム』という姓を持つ人物。この噂は入学からしばらくたって表には
出なくなった。
 元々、大陸全土から優秀な人材が集まってくるのだ。この類の話は後を絶たない。
 しかし、彼にはもう一つの噂が立っていた。その性格だ。
 自らの能力を惜しむことなく人助けに使う。彼のとってその行為は至極当然で
あり見返りを求めない。
 近年の魔術師によくある傾向を特化させた人物といえよう。
 魔術師とは『己の為にあるべきであり、その施行は代価を伴う』という本来の
理念は過去の遺物になりかけている。
 ソフィニア魔術学園がそのあり方を変化させたと言ってもいいだろう。過去の
恩恵を皆で学び、繁栄させていこうという方針だ。魔術師や人間ではないモノが
恐れられていた大昔に比べると、格段に文化レベルは上がっている。
 その中、忌む意味でスレイヴらは「古い思考の持ち主」とされていた。あくま
で噂であって、彼らの本質ではないが。

──彼が噂どおりの人物なら、少々面倒──

 噂なら彼にも伝わっているだろう。いくら彼がどんなに「いい人」であろう
と、何年も学び舎を同じくしてこの噂を耳にしているのだ。それでもスレイヴに
対していい人を貫けるなら、それは相当アレな人物だろう。

──が、見合う価値はある

 スレイヴは”所用”を消化するために歩き始めた。

 ‡ ‡ ‡ ‡

 サイズマン研究室。
 自然魔法を基とした機材の研究を主としており、分野としては地味な位置にいる。
 だがその分、一般人への貢献度は大きい。
 学院から分配される研究費は多いほうではないが、自前で稼ぐ能力を持った研
究室だ。
 それらのラボは十分に立派であった。

 コツコツと靴の音を立てながら廊下を進むスレイヴ。歩調は街の流れに比べる
とやや早い。
 数階にわかれている研究棟。彼らが使用している部屋は特別で、二層にわかれ
ていた。
 上層・二階が執務室、下層・一階が実験室だ。
 廊下からの階段でも移動できるが、彼らのラボには直通の階段がある。ただ、
上下をぶち抜いただけなのではしご階段となっているが。
 外観からは勘違いされやすいらしいが正規の入り口は二階である。スレイヴは
無論、上層の入り口へと向かった。
 スレイヴが二階へのい階段を上り終えると、廊下に出ていた研究生達とはち会う。
 彼らの表情は度合いはそれぞれだが一様に「驚き」を見せている。それもその
はず、スレイヴの研究室はすでに学院内にはない。
 追放される前はその性質上、サイズマン研究室とはそう遠くない位置にあった。
 だが、近くもないので訪れることはなかった。それが突然の訪問である。

「スレイヴ・レズィンス……?」

 呟いたような声が上がる。スレイヴはさして気にもせず表情はそのままだ。
 彼らの位置関係を見てサイズマン研究所の人間ではないと予測する。しかし、
声をかけられたということにして、スレイヴは視線を向け──

「何です?あぁ、私も有名になってしまいましたから思わず声をかけてしまいた
くなるのもわかります。……と、少し違いましたね。貴方は私がここにいること事
体疑問に思い、今は理解できないでいる。それは当たり前ですよ。私は私の目的
でここにいるのですから。理解する必要などありません」

──るだけでは収まらなかった。

 スレイヴはあながちはずれていなそうな勝手なことを並べている。それが当
たっていようが外れていようがスレイヴには関係なかった。ただ言いたかっただ
けなのだ。

「しかしせっかくですから、一つよろしいかな?貴方方はグレイス・ブロッサム
を見かけませんでしたか?」

 この研究棟で彼を知らない人はいないだろう。一人、声を出す。

「研究室に、いる」

 簡潔に一言。スレイヴはその答えに口をわざとゆがませ「ありがとう」と言う。
 罵りに近い台詞を吐いた後の礼の言葉はなんとも気味が悪いものか。
 そのまま彼らの脇を歩き進むスレイヴ。サイズマン研究室は廊下の奥の角部屋
である。
 後ろでは先程の研究生達が呆然とスレイヴの背中を眺めていた。

 ‡ ‡ ‡ ‡

 廊下の角で開き放たれたドア。その脇の表札をみてスレイヴはここがサイズマ
ン研究室であることを確認する。
 構内図では知っていたが、実際に来るのは始めてである。そんなこともお構い
なしにスレイヴはノックの音を響かせ部屋の中を覗く。
 窓際、椅子に座り本を読んでいた女性がふと顔を上げ……あからさまに嫌そうな
顔をした。
──素直な方は嫌いではないですよ──そんなことを心のなかで呟くスレイヴ。特に
意味はない。
 その不機嫌そうな女性はそのままの表情で対応するようだ。席をはずしこちら
へと向かってくる。

「で?彼(か)の悪名高い『スレイヴ・レズィンス』が何の用?」
「おやおや、嫌われたものですねぇ」

 猛者も多く集まる魔術学院だ。こういう人材も少なくない。スレイヴも気にし
た風もなく首をすくめる。
 さっと部屋の中を眺めると、他にも何人かいるようだ。スレイヴの姿をちらっ
と確認したが気にする風でもなく自分の作業へと没頭している。
 スレイヴはグレイス・ブロッサムとは面識がない。だから目の前の女性に聞く。

「グレイス・ブロッサムはどの方ですか?」
「はぁ?アンタがグレイスに用?」

 この女性はとことんハッキリしているようだ。と、一人の青年が立ち上がる。
どうやら彼が……
 短く切りそろえられた髪と、着崩されてはいるが無駄のない法衣。
 ハッキリとした目元とあまり鋭角ではない輪郭は優しそうな印象を受ける。
 スレイヴは噂を思い出す。

──容姿は噂そのままですね──

 客人の姿を見据えた彼は、やはり本人だった。女性が彼へ声をかける。

「グレイスー。この小悪党がアンタに用だってさ」
「……いくら噂の人でも本人を前にしてそう言うのはどうかと思いますよ」
「じゃぁ、本人の前じゃなければいいのかー」

 目の前で漫才でも始めそうな勢いの彼ら。ふむ、ここは一つ。

「まったくですよ。私は小悪党ではなく大悪党ですから」
「……」

 彼らの動きが止まる。その中、スレイヴはくつくつと小さな笑いをもらしている。
 女性がジト目になったのを感じる。グレイスの方はというと、難しい顔をして
いる。

「今日は貴方の出身地について聞きたいことがありまして」

 切り出したスレイヴの議題に、グレイスはあまりついてこなかった。
 ただ、小さな驚きのあと、また難しい顔になった。あまり触れたくないのだろう。
 スレイヴの言葉を待っているグレイスに軽く「先日あんなこともありましたか
らねぇ」と補足情報を加えた。
 連想されるは悪魔。

「わかりました。場所を変えましょう」

 深い息をつき、側の女性に「少し出てきます」と伝えた。第一印象としてうけ
た優しげな表情が一変、曇り続けている。
 スレイヴの背景に何か別なものを見ているのだろうか。
 これはこれで興味深い。スレイヴは思った。

「ウチの大事な助手なんだ。傷付けずに返せよ大悪党ー」

 腕組みしながら子供のお使いに出すような軽い口調で声を上げる女性。スレイ
ヴはいつもの笑顔で「善処しますよ」と手をひらひらと振った。


 廊下で一つの情報が復元される。

 ……あぁ、思い出しました。

 あの女性が「サイズマン教授」でした。

2007/02/10 22:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●アクマの命題
アクマの命題【8】 優雅なお茶会を/メル(千鳥)
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PC:メル (スレイヴ)
NPC:ミルエ
場所:ソフィニア魔術学院
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「確か用件は……バルドクス・クノーヴィという人物についででしたわよね?」
「は、はい!」

 ミルエが突如そう切り出すと、メルはクッキーに伸ばしていた手を慌て引っ込める。ミルエは優雅に微笑み「どうぞ召し上がって」と言った。メルは手近にあったクッキーを口に入れると、ハンカチで手を拭いて手帳を開いた。

「この方とミルエさんは同じ分野を専攻していらっしゃるのですわよね?知る限りでよいので、この方の性格などを教えていただきたいのですが…」

 三日月型のクッキーは生地がしっとりと軟らかく、まぶしたシュガーパウダーと一緒にあっというまに口の中で溶けた。お菓子と一緒にとろけそうになる表情を必死に引き締めながら、メルは尋ねた。

「そうですね。確かにわたくしとバルドクス・クノーヴィは学生時代から同じ分野を専攻していましたわ。彼の所属する研究室はちょうどこの部屋の斜め左でした」

 長年同じ畑で学ぶ学友について話すにしては、ミルエの口調は親しげな様子ではなかった。ちなみに、ここはミルエの研究室である。図書館でミルエと共に居たオルドはお茶会という響きが性に合わないのか、メルの誘いをあっさりと断り去っていった。
 それでも、ミルエはバルドクスの性格と当日の様子を詳しく語ってくれた。

「クノーヴィ家はソフィニア周辺に荘園を持つ一族ですの。学院への寄付金も多く、それなりの影響力はありますわね。バルドクスはその一族の直系ということもあって、随分自信家な方でしたわ。あの日は、研究生の中間報告会があったのですが、そこで厳しい反論を浴びたようです。自分のプライドを傷つけられた彼が逆上して悪
魔召喚を行ったという可能性は大いにありますわ。愚かなことですわ」

 そういって、ミルエはティーポットを持ち上げる。

「お茶のお替りはいかがかしら?」

 まるで午後のお茶の時間に談笑を行うかのような気安さだったが、言い放った言葉は辛辣でしかなかった。メルはこの美しい貴婦人のような女性の裏側の部分を垣間見た気がしてくらくらしながらお替りをもらう。

「では、彼が悪魔召喚の魔法陣を入手したのがいつごろなのか、見当がつきますか?または、それ以前から悪魔について彼が興味をもっていたということは…」
「さぁ・・・わたくしには見当もつきませんわ。でも、そうですわね…きっと当日偶然発見したのでしょう。バルドクスがそれ以前に見つけていれば絶対に学院側に報告したでしょうね。そういう人間なのですわ。もちろん使用した人間を弾劾するためにですけれど…」

 何となくだが、バルドクス・クノーヴィの性格が見えてくる。

「悪魔召喚については…?」
「魔方陣については、学生の誰もが必須科目として基本は存じてますわ。でも、悪魔については、学院では扱ってませんし、彼がそれに興味を持っていたとも思えませんわ。わたくしたちの専攻は精霊・自然魔法についてなんですもの」
「そうですか…」

 "事件以前に召喚者と悪魔との関連性は見られない。今回の悪魔召喚は魔方陣入手という偶然的な条件の下、召喚者の衝動的な行動であると思われる"

「ありがとうございました、ミルエさん。参考になりました」
「それは良かったですわ。当分こちらで調査をするのでしょう?何処にお泊りになってるの?」
「学院長が女子寮の空いたお部屋を使えるように用意して下さいました」
「そう……なら、安心ね。最近この町も物騒ですのよ」

 先日騒動をおこしたばかりの学院にある学生寮の何処が安心なものか。
 余ったお菓子を分けてもらったメルは、そんな考えなど微塵も浮かぶ事無く笑顔でミルエの研究室を後にした。
 外はいつのかにか夕日が落ち、校舎の窓ガラス一面がオレンジ色に染まっていた。

 こうして長いソフィニア魔術学院の一日が終わろうとしていた。
 しかし、怒涛の翌日が刻々と近づいていることにメルはその時まだ気がついていなかった。


2007/02/10 22:03 | Comments(0) | TrackBack() | ●アクマの命題

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