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2024/05/17 06:43 |
浅葱の杖――其の三/ファング(熊猫)
キャスト:ワッチ・月見・ファング
場所:ヴァルカン
―――――――――――――――

「手がかり?そっち系の?」
「最低30秒は黙らんと絞めるぞ」
「えーっとだな。今回、聞き込みからは何もヒントがなかったろ?――まぁ、
オヤジが勝手に『宝』って判断したんだから、街の人に聞いてもヒットする確率は
少ないよな」
「そ、そんな事してたとはぐげぇ」

地図を持ったまま、街に顔を向ける。耳の奥に響く鋭い音は、炭鉱を
掘り進んでいる音だ。この街ではどこにいてもそれが聞こえる。

「だから俺なりに調べてみたんだけど、このあたりの炭鉱はほとんど
稼働してるんだな。そうなるとそこはバツだ」
「どーして炭鉱なの?オヤぢ殿・・・ギブ・・・」

とりあえずまだ声は出るらしい月見。

「『月も太陽も星もいらぬ。欲望は闇に埋まる―――闇を食らう浅葱の杖』。
月も太陽も星もいらぬ・・・って事は、閉鎖されて光の届かないところって
いう事だろ?もしかしたら「光がいらないほど明るい」っていう意味かも
しんないけどさ、お宝ってやっぱ暗いところにあるもんじゃん」
「そーゆーもんか?」

月見の首を丸太のような腕でぎちぎち絞めながら――会話はあくまで
晴天の下でするそれと同じで、ワッチが口を挟んでくる。

ワッチは、それこそ月見くらいなら中に入れそうなほど巨大な
バックパックを背負っている。この際だからと、装備を完璧にしたのだ。
もっとも背負っている本人は、その重量ですら気に介していないようだが。

「そーゆーもん。だからこの街で暗いところっつったら炭鉱ぐらいしかないだろ。
街の中の屋敷のクローゼットの中とかだったら俺も困るけど」
「もしかして浅葱の杖ってしたぎぐぇ」

今開いているのはヴァルカンの地図である。既に書き込みでいっぱいのそれを、
ようやくワッチから抜け出した月見によく見えるようにしてやる。

「・・・んで、ここいらで閉鎖されている炭鉱はみっつ。今稼働している所はまず探せないから、
閉鎖されている所から先に探すってハナシ」

すっ、と地図の上で指を滑らせる。

「ひとつは土砂崩れで文字通り閉鎖。掘り出すとしても無理だな。許可とか取らなきゃいけないかもだし。
ひとつは普通に石炭があんまでないからってんで閉鎖だけど、作られたのは3年前だからな。これも違う。
んでもうひとつが――普通に閉鎖。100年前にね」

ワッチはやれやれと座り込んでいる。そちらにとりあえず足元の石を蹴ると、
「だって長話嫌いなんだよオイラ」――同感だったが、ファングはもうひとつ石を蹴った。

「なんでそこ――まぁ、ここなんだけど、が閉鎖されたのはわかんなかった。
もしかして浅葱の杖と関係してるかもしんないわけだ。
・・・ビンゴかもよ?」

みっつめの石で、ようやくワッチが立ち上がった。

「じゃ、行こうか」

三人は一列になって、岩盤がむきだしの森に入っていった。
風が吹き、砂を飛ばす。
横長の四角いシルエットの、錆びた看板が切れた鎖と共に落ちている。

【立入禁止】
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2007/03/09 00:53 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
By the way I love.../月見(スケミ)
◆――――――――――――――――――――――――――――
キャスト:ワッチ・月見・ファング
場所:立入禁止な炭鉱(ヴァルカン)
―――――――――――――――
当たり前と言っては当たり前。
そういってはお終いな気がいたしますが……

「おひょひょひょ!く、く、く、暗闇まっさかりですって!!」
「そりゃあ閉鎖されてからしばらくたってるからなー」


月見の二つ前を歩いているファングが答える。
三人は炭坑の中を一列になって歩いていた。
(ファング・ワッチ・月見という順番だ)

ファングの情報により浅葱の杖を入手するため炭坑を探索することになったファング・
ワッチ・月見の三人。
さすがは閉鎖された炭坑……灯りは何もなく、入り口から少し進んだだけですでに暗
闇が空間を支配している。それに少し湿気もあるようだ。
じめじめした空気が気持ち悪い。
あまりの暗さに三人は足下も確認できずじりじりと進んでいる。
暗闇のお陰で密着率も倍増。
このチャンスを逃すまいと思わず月見の手が踊り出す。
その度にワッチから素敵に華麗に力強く熱烈なカウンターがくる。
趣味が肉体鍛練なだけありハンパな力ではない。
めげずにまたダンシング。
そうこうしてる内にまたカウンターがきました。

「ファング、灯りつけねぇか?」

このまま進んでも様々な意味で身に危険が降り掛かるのは確実なので提案をする。
そうこうしてるうちにまたカウンターを飛ばす。

「うーん。ちょっと待ってくんないかな……暗くてどの辺にあるか……」

思いのほか早く暗闇になってしまったのでまだ準備ができてないらしい。
バッグをあさるようなゴソゴソという音が聞こえる。
ふと、月見が残念そうな声をあげた。
どうやら灯りをともすのに反対のようだ。

「暗いまんまでイイじゃないっすか~。もう少しこのお化け屋敷のような電車の痴漢
のとうなトキメ」

中途半端なところで声が途切れる。
どうせまた言い直すと思ってしばらく待つ。

「んー…コレかな……」

静かな空間にファングの声をバッグを漁る音だけが響く。
どうやら未だ灯りが見つからないようだ。
そして未だ月見は黙ったままだ。

「トキメ?トキメって何だオイ」

いつも五月蝿いくらいに喋ってくる奴が何も言わないのでどうしたかと思い、思わず
月見に語りかけるワッチ。
が。


「う……うひょおおおおおおおお!!」


何をトチ狂ったのか、いきなり月見はけたたましい奇声をあげた。
叫びは炭坑の岩壁に反射され非常にイイ感じの音響効果になっている。

「何か違った意味で怖いから早く灯りつけてくれよ」

そう訴えるがファングは「うーん」と唸ってゴソゴソと捜しつづけるだけだ。
いつもなら問答無用の実力行使で黙らせるが今はそうはいかない。
先程までは月見がワッチに接触してたので簡単にカウンターを返せたが月見はさっき
の奇声をあげた瞬間ワッチから離れてしまった。

「あー………めんど」

気配が測れない。
この炭坑のせいなのか、入ってから色々な気配が探れなくなっていた。
いつもはそんなこと、まったくと言ってない。
ソレが、この炭坑が閉鎖した原因の一つなのだろうか?

「お、親父殿ったら何て大胆な!いくら暗闇だからってそんなこんなあんな!ソフト
タッチ?!ソフトタッチ!!」
「何言ってんだ月見?オイラは何もしてないぞ?!」

そんなことを考えているうちに意味不明な言動はエスカレートしていく。
暗闇のせいだろうか、その意味不明さをさらに増大させている。

「これかな?あー……でもな~」

未だファングは灯りをみつけられないでいた。
炭坑に入るということで様々なアイテムを買ってきたが、バッグに適当につっこんだ
のがまずかったらしい。
しかも私的荷物も一緒に入っており更に難易度はUP。
そして意味不明の混乱っぷりもUP。

「うぉぉぉ!!何か突き刺すようなトキメキ?!ハードね?!ハードなのね?!」
(何をいいたいか理解不能)

「あー、二人とも、一旦外に出て灯り見つけよう。」
(一人、理性的)

「何?!何が起こってるんだよオイ!!何かやったのかオイラ!!」
(身に覚えのないことを言われ混乱してきた)

「何って親父殿のせいでこんな……ヒィィィィ!!ゴツイゴツイゴツイ!!!」
(どんなだ)

「ちょっとー……ワッチに月見、聞いてる?無視?いじめ??」
(寂しそう)

「落ち着けッてばよ!」
(自分も落ち着いてなかったりする)

「いや、あの、ちょっと、もしもーし?」
(かなり寂しそう)

「ぬぉ?!お前毛の処理してんのか?何かすっげぇモッサリしてるんだけど…」
(モッサリ!)

「モッサリって何処触ってるんスか親父殿!いや、てかマジ何処触ってらっしゃりま
すか?………ぬぉあッ……?!」
(?)

「あ、でも肌はすべすべしてんな……ていうかゴツゴツしてんな」
(何故か冷静)

「く、く、く、くるしひ…………」
(鼻息あらい)

「もももももーしーもーし?!もーしーもーしー?!」
(だいぶ寂しそう)

「………イ、イケメンに殺されるなら……ほ、本望………なりッ………ぐふっ★」
(いいのか?)


「~~~~~~ッ!!ンルディッ!」


いい加減何かがおかしいと思ったのか、ワッチは暗闇の中で剣を抜き叫んだ。
それと同時に剣が七色の光を放つ。
それにワッチは少し驚いた。

(勢いで言ってみたんだけど……光るんだ)

ワッチが知る限りのこの剣は七色に変化するだけだった。
しかし剣は七色に変化するだけではなく光も放つ機能を持ち合わせているらしい。
後先考えず剣を使ってはみたが良い方向へ進んだようである。
ワッチの剣から発する七色の光が暗かった炭坑を仄かにだか明るくする。
光に照らされた月見の腕をまじまじと見る。
ヤケに骨太で太い毛がモジャモジャしている。
明らかに女子高生の腕ではない。
顔をあげてみると見知らぬ悪人面と眼があった。

「えーと。その人はお友達?何時の間に友達増えたの?」

ファングが悪人面と見つめあったままのワッチを見ていう。
しかもがっちり腕を掴んでいるというちょっとイヤーンなオプション付。

「こんなムサイ友達、オイラいらない」

月見はどうしてるかというと……

「…………ああ………これ…も……愛………ッ★」

別の悪人面に首を絞められていた。

てっきりワッチに首を絞められていると思い込んでいる月見は悦び勇んで抵抗なしで
ある。


続く

2007/03/09 00:53 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の四/ファング(熊猫)
キャスト:ワッチ・月見・ファング
NPC:悪人面グループ
場所:ヴァルカン/炭鉱の中
―――――――――――――――

赤、橙、黄、緑、青…

七色に染め上げられてゆく炭鉱の中で、呆然と全員、立ち尽くす。

光を放つ剣を持って、所在無さげに視線をうろつかせているワッチ。
いつの間に現れたのか、やたら身体の大きい男に首を絞められている月見。
表情を見る限りそれほど切羽詰っていないようだが、顔色が酸欠で紫色になっている。
そして自分はと言うとだ。

「素晴しい天気ですな今日は」
「真っ暗だぞ」

腰の後ろで手なぞを組みながら言ってみたが、月見の首を絞めている男に
即答され。ことばを失う。
とりあえずすべきことを考えて、手を打つ。

「ワッチワッチ、こっち」
「え?あ、あぁ」

ワッチに手招きして、光を近づけさせる。
よっこいしょとか言いながらザックを漁り、ようやく手に確かな感触を得て
引っ張り上げる。

「あったあった!いやー俺のうっかりさんめっ☆」

「しまった」という風に拳でかるく自分の頭を叩いてからランタンを取り出し、
一緒に出した発火剤を着けた木片を、手ごろな岩に擦り付ける。
ぽぅ、という小さな音をたてて、柔らかな光が燈った。
それをランタンに移し――木片を振って消すと、ランタンを手に立ち上がる。

「これでオッケー!」

同時に、火を点けるのを見届けたかのようなタイミングで七色の光も失われてゆく。
どうやらこの剣の光は、時間が経つと消えるらしい。

「…って待たんかコラ――ッ!」

突如響いた声にランタンを向けると、火の色よりもっと顔を紅潮させた男が
怒鳴っている。その太い指でこちらを指差し、唾を飛ばす。

「てめぇさっきから無視したりシカトしたり!」
「どっちも同じじゃん」
「うるせぇ!いいか、この嬢ちゃん…?を死なせたくなかったら――」
「ゴツイおじ様、なんで今『嬢ちゃん』に疑問符つけたんデスか…★」

男と月見のやりとりを聞き流しながら、ランタンを左手に、空いた右手の小指で
退屈そうに耳の穴をいじる。
それが癪(しゃく)に障ったらしく、男がさらに声を張り上げる。

「なかったら、アレを渡せ!もう手に入れたんだろ!?」
「アレって何よ。――ちょっとワッチ持っててコレ」

ランタンを隣のワッチに渡そうとするが、剣を持っているので無理と感じ、
ワッチが腕を掴んでいる男に渡してから、ポケットから使い捨てのハンカチを出して
手を拭きながら顔も上げずに聞く。

「この炭鉱にヤツが隠した財宝があるはずだ!まさか無ぇとは言わせねえぞ」
「うんうん。あ、サンキュ」

ランタンを毛深い男から受け取って――

「うわあああああああああぁあああ!?なんだお前!?」
「どんだけ無視だ。オイ」
「ファング君…ナイスシカト…」

数歩ほど後退って派手に驚くファングに、思わず突っ込む毛深の男。
月見も呼吸すら満足にできないくせに、親指を立ててくる。

「毛ぇ濃いくせに存在感薄いんだもん。勘弁してくれよまったく」

くっ――と、ワッチが巨体を屈めて笑いをこらえていた。
ファングはランタンを持ったまま少し考えて、頭の後ろを掻きながら手を縦にして見せる。

「ごめん最初っからやりなおしてくんない?聞いてなかったわ俺」
「てめぇ…おちょくってんじゃねぇ!」

そのあたりが限界だったらしく――

一斉に男達が、ずらりと剣を抜き放った。

2007/03/09 00:54 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
山菜/トノヤ(ヒサ)
キャスト:ワッチ・月見・ファング・トノヤ
NPC:悪人面グループ
場所:ヴァルカン/炭鉱の中
―――――――――――――――

不揃いの剣が一斉にランタンの光を乱反射させた。
流石にワッチとファングにも緊張の色が走る。
剣を抜いて力が入ったらしく、握られている月見が「ぐひょぅ☆」と変な音をたてて
静かになった。

ワッチがンルディを握り直し、ファングがバッグに手を突っ込む。
その時だった。

「あ?山菜あったんか?」

……山菜?

痛いくらいの緊張した空気に痛いくらい呑気なセリフが間抜けに響いた。
声は悪人面グループの最後尾かららしい。
後ろの方で「いや、そうじゃなくて……」などと説明する声が聞こえる。
これだから頭の悪いゴロツキ共は困る。何がしたいのかさっぱりだ。

「プッ。財宝って山菜のことッスか」

ファングのセリフにワッチがこらえ切れず爆笑する。

「はっ!また素敵にトリップしてたですかッ!?ここは何処ですかい!?はっ、こい
つぁ禁断プレイ☆ぐえぇ」

緊張が解け、蘇生した月見も騒ぎ出す。しかし月見もタフだ。

「まぁ、なんだ。つまりはだな。おとなしく財宝を渡さねェってんなら力ずくだって
ハナシだ」
「渡せって言われてもねぇ。まだ……」
「ごちゃごちゃうるせぇ!!おとなしく財宝を渡さねェってんなら力ずくだってハナ
シだ!!死ね!!」
「2回も同じこと言うなよ…ってアブねッ」

戦闘の一番頭の悪そうな大男が、刃こぼれの酷いスライムも切れそうに無い大剣を、
剣技とは言いたくも無いめちゃくちゃな動きで振り回し始めた。
ソレを合図に残りのゴロツキも一斉に襲い掛かッてきた。

しかし所詮は群れて喜んでいる程度の頭の悪いカスばっかりで、ファングがサポート
するまでもなくあっという間にワッチに一掃されてしまう。
刀の弾く音さえも聞こえない。
響くのは月見の悲鳴らしいわめき声と鈍い打撃音。
ワッチは息も切らさずに、残りは、月見を盾に逃げ回ッていた何処までがデコなのか
わからない男とゴロツキ共の中で1人だけやけに若い銀髪の少年2人になっていた。

「さ~て、もうオイラにはかなわないのはわかっただろ?さっさと月見を放してどっ
かに尻尾巻いて逃げちゃいなよ?」
「ぐっ………」
「ぎゃーー!!オヤジ殿カッコエエす~~☆」
「そっちの兄ちゃんも……」
「まるで囚われのお姫さまキ・ブ・ン(はぁと)」
「あきらめ……」
「早く来てくだせーマイダーリンッ」
「……」

パスンッ

乾いた軽い銃声音が洞窟内に響いた。
その音と同時に月見の首はガクンと倒れる。
月見を掴んでいた男も予想外の出来事だったらしく、ウオッ、と呻くと手を放した。
そして暗い坑道を走り去ってしまった。

「月見ッ!!」

ファングが急いで駆け寄り首にてを当てる。
死んではいない。気を失ッているだけのようだ。

「安心しな死んでないぜ。ちょっとうるせーから黙らせただけだ」

それまで黙って傍観していた銀髪の少年がしゃべった。
声から察するに"山菜"発言をしたのはこの少年のようだ。
コケだかカビだかがこびり着いた岩肌に寄り掛かり、だるそうにおもちゃのような外
見の銃をクルクル回している。

「そこのでっかい"オヤジ殿"。俺とタイマンしよーぜ。タイマン」
「はぁ!?タイマン!?」

"オヤジ殿"、と、月見の口調を真似てワッチを指さす少年。

「ワッチんに勝負を挑むなんてなんて無謀な……」

後ろで月見を介抱しながらファングが呟いた。
月見も取り返せたことだし、なんのメリットもないタイマン勝負など受ける必要がな
いと、先へ行く為、ファングがワッチに月見を担いでもらおうと顔を見ると

「タ、タイマン……」

ウズウズしていた。すごく。

「マジッスか」

思わず月見の頭を放してしまい、ゴッ、と鈍い音を立てて落ちた。

ンルディを握り直し構えるワッチ。
持っていた銃をしまい、ボキボキと指をならす銀髪の少年。
しょうがないので安全な観戦場所を確保するファング。
ファングにずるずるとひきずられる月見。

「んじゃ、おっぱじめるか少年」
「いつでも良いゼ、オヤジ殿」

一時の静寂の中をファングの長い溜息がこだまする。

「あ、言い忘れてたけど俺はトノヤってーの。ヨロシク、オヤジ殿」
「おっと失礼。オイラはワッチだ、少年」

先に動いたのは……月見だった。

2007/03/09 00:56 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖
浅葱の杖――其の五/ファング(熊猫)
キャスト:ワッチ・月見・トノヤ・ファング
NPC:悪人面グループ
場所:ヴァルカン/炭鉱の中
―――――――――――――――

(銃…だよなさっきの)

鉄でできた弾を高速で撃ち出す武器――
その程度の知識が、さっと頭を駆け巡る。
見たのは初めてだが、これほどまでに小さいものだとは思わなかった。

銃、という響きから鈍重なフォルムだとばかり思っていたが、
彼の持っているそれは派手な彩色が目を引く。しかも素材は鉄などではなく、
いやに薄っぺらい、つるりとしたものだ。到底、鉄の弾を撃ち出せるとは思えない。

少年の腰に装備されているそれを暗がりの中でじっと
観察しながら、ファングはひたすら胸中で警鐘を聞いていた。

(撃たれたら、死ぬにきまってんじゃん!)

月見の両足を引きずりながら、傷を探す。だが、擦り傷ひとつ見つからない。
そしてワッチと少年が動こうとした時、


先に動いたのは……月見だった。


「ぐふぅ。なんかゴツゴツしてるんですが…ッ☆まるで岩の上で
 寝ているみたいじゃないのさ!」

がばと跳ね起きた月見のせりふが、皆を止める。
足を掴んだままのファングが言葉を捜していると、彼女は嬉々としてさらに
叫んできた。

「あぁ!もしかしてファング君!?いつの間にこんなにゴツく!?」
「なってねーよ!起きろ!いいから!」

わけがわからず、足を離してとにかく叫び返す。と、視線を感じてそちらを見れば
ワッチとトノヤが構えを崩さないままこちらを何か言いたげに見ていた――
特にトノヤと名乗った少年――ファングとさほど年は離れていないように見えるが、
目つきの悪さが何かを隔てているようにも思える。

「なんだよ月見。死んでないじゃん」
「だから言ったろ」
「なんかその言い回し…死んでたほうがよかったみたいな感じなんですケド!」

月見の返事のかわりに、トノヤが割り込んでくる。その顔は、高まった士気に
水を刺されたことで、不服そうだった。
月見が立ち上がりながらこっそり反論するが、いつもの事であまり重視されていない。

「仕切りなおしだな」
「そだな。じゃあ――」
「おぉっ!?なんか頭が5鼻毛くらい痛いですぞ☆てゆかこのステッキーな銀髪様はどちら様?」
「…えぇと」

再度足を開いて構えるトノヤとワッチに、がっくりと肩を落としつつ声をかける。

「タイマンはちょっと置いておいてさ、なんか…いろいろわかんないんトコあるんだけど」
「わからない?そうだなぁ、タイマンは男のロマンだぞ」
「そこじゃねーよ!」

真面目な顔をして答えてくるワッチにきっぱりと言い放って、とりなおすように
トノヤに向き直る。彼は、この数秒の空白でさえ退屈そうだった。

「だからさ、えーっとトノヤ?おたく、何しに来たんだ?」
「ん?俺か?」

ようやくまともに話ができると踏んでか――トノヤがこちらに向き直る。
双方、互いの顔を確認するように見てから、

「いや、なんかこいつらがよ、洞窟に生える山菜を採るから手伝ってくれっていうから」

『こいつら』のところでトノヤはぞんざいに腕を振って、まだ倒れている男達を指した。

「…は?」
「俺もくだらねぇとは思ったんだけどよ。まぁヒマだったから来たけど。
 でもどーやら、違うみてぇだな。――宝って、何だ?」
「…」

一瞬ファングは言葉に詰まった――相手が敵でなさそうという事ヘわかるが、
貴重な宝の情報をすぐに言える仲でもない。

(今は…だけどな。もしかしたら手伝ってもらえるかも?)

淡い期待を込めて、口を開きかけた時、

「く…うっ!?」

うめき声と共に、次々とさきほどの男達が立ち上がる。
にわかに騒がしくなった炭鉱内で、警戒したファング達が身構えると同時、
ワッチがふと、つぶやいた。

「…なぁ、なんか聞こえねぇか?」
「え?」

ワッチの声に、男達でさえ黙る。月見はなにやらわめいていたが、
ファングがすかさず口をふさいだ。

しん…とした炭鉱内で、がしゃがしゃと、金属がこすれ合うような音が響く。
音はなにやら早いリズムで、しかも確実に近づいてきている。
月見の口をふさがなくてもその音が聞こえるまでに近づいてきたその時、

「なんっ…だ!?ありゃあ……」

誰ともなしに、今まで進んできた方向を指差す。
最初に見えたのは、遠くでランプの明かりを反射する一本の柱だった。

しゅぎん!

柱が突如壁から現れて、すぐに沈む。また現れて、消える。
それをすさまじいスピードで繰り返しながら、進んできているのである。
そして柱の正体は――巨大な剣の刃だった。

「トラップだ――ッ!!!!」

一行は、口々に叫びながら全速力で炭鉱の奥へと駆けていった。

2007/03/09 00:57 | Comments(0) | TrackBack() | ●浅葱の杖

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