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2025/03/10 06:14 |
Get up! 11/コズン(ほうき拳)
場所 :資料室 / 演習場
PC :フェイ / コズン
NPC:レベッカ / -

 エドランスへ戻ってからというもの、フェイとコズンの接点は少なくなっていた。会って情報交換でもすればいいのに、わざわざレベッカを通してた。

「あんたら、ほんとめんどさいわぁ」

 いい加減砕けてきた様子でレベッカはフェイに愚痴った。机の上に立ちながら、頭を人差し指で支えるようなポーズで必死にアピールをしている。
 ここは学園の資料室。図書館で恒常的に使う資料でもなく、かといって保存目的で書庫にしまうにも微妙な資料を置く場所だ。フリーで入れるのは修士取得したものや教授陣、レベッカのような実績のあるゲストぐらいだろうか。まあ、コズンに手伝わせるのは確実に不可能だった。そもそも彼の生きていた文化圏では自分の名前さえ書ければ8割方支障がなかった。他方面で冒険するに当たって覚えた文字も日用的な言葉や罵り言葉が中心で、書物を読むには適していない。

 こちらに籠もっているとはいえ、接点を作ろうとしない。いや、レベッカ以外を接点にしていないと言うのが正確か。これはまずい状況だ。なにかあと一つ二つ潤滑油がないとこのパーティは回らない。レベッカ自身が引っ張っていくという手もあるのだが、羽妖精の脆い体ではいつ死ぬか分からない。なんといっても自分が指揮を取ったり、気を遣ったりだのは彼女には性格上向いてない。

「うーぐー、このギザギザハートどもめ」

 フェイはふざけた愚痴には答えずに、座ったまま黙々と事件の資料を見返していた。そのページは丁度、フェイ自身が襲われたあの事件だった。これを見ようとして居たわけではないが、最新の資料から順々に読んでいくうちに当たってしまったのだ。
 思わず資料を伏せた。そしてレベッカに向き直るとフェイは口を開いた。

「アニスとシャルナはどうなったんです」
「今、ディガー先生が知り合いに預けているってさ。あのほら、もふもふのウサギ」
「なるほど。彼女なら気が利くし、耳もいい」
「過剰な心配だと思うけどねー、冒険者の巣窟みたいな街で動く犯罪者はいないでしょ」

 エドランス付近の冒険者なら教育も基本的に行き届いている。クーロンのような地域の冒険者とは全く違う、自警団を発展させたようなイメージをレベッカは持っていた。都市全体で支えている辺り不思議な場所だ。もともと住んでいた奥地や他の地域では上等なごろつきや休業中の山賊といった所だったのに。随分変わるなぁ、とレベッカは天を仰いだ。
 そして思い出したようにフェイに視線を投げる。
 妙に寒気がする視線だった。いわゆる出歯亀ややり手婆などの持つ特有の瞳。ゴッシプ好きの目だ。

「そーいやあ、さあ。アニスちゃん会いたがってたわよー」
「情報でもあったんですか」

 こちらに着くまで終始、体調の悪かった彼女からは情報を聞き出せなかったのだ。
 追加情報があるとは思えないが、あるならありがたい。フェイはそう思って耳を傾ける。

「いや、そーじゃなくて。ごく個人的にね。
 アンタは一応、同族かそれ近いものなんだし、あと今回のヒーローだしね
 少なくとも彼女にとっては、さぁ」

 すごく楽しそうに、にやにやと視線を向ける。
 これを待っていたと言わんばかりの笑みだ。

「あ、ああ」

 そういうのはエルガーの役回りだった。自分に回ってくるとは。

「ふふふん。自分の役回りじゃないと思って、戸惑っておる戸惑っておる」

 フェイが困ったような顔をすると羽妖精は満足したように笑った。
 目標が果たせたとばかり、目の前でくるりと一回転する。
 すると、また表情が変わっている。真剣な、母親のような目だった。
 ころころ変わる態度は妖精族特有なんだろうか、フェイはそんな疑問を浮かべた。

「彼女にも支えが必要だと思うの、安全と安心は違うからね。
 シャルナさんだけじゃきっと安心させるのは無理。
 血の近いあなたしかできないことよ。
 まあ別に依頼ってわけでもないし、気が向いたらでいいけどねー」

 真剣な態度はなかなか持たないようで、後半は手をひらひらさせるレベッカ。
 やはり戸惑いながらフェイは頷くと、ふと湧いた疑問を口にした。

「そういえば、エルガー達は?」

 今回の件は難易度がこの急造チームでは難易度が高すぎる。クラッドもそう判断してエルガー達を呼び戻している所だった。ディガー教室で残っているのは魔法使いの少女フェルミとクラッド・ディガー本人ぐらいだ。

「微妙だって。場所が悪くてこっちに着くまでまだかかりそう。
 まあ代わりにスカウト達の情報網に掛け合ってみるってさ」

 情報収集は手詰まりだったのでそれはありがたかった。もし一貫性があればとうの昔にだれか気付いてただろう。フェイの父親が襲われた一見はかなりの事件のはずだし、一度は誰かがきちんと調べたはずだ。それでも情報が出てこないということは、巧妙に隠されて行われたか、内部に情報を隠蔽、操作するものがいるということになる。
 おそらく前者だろうと、フェイはアカデミーへの信頼から判断し、こうして資料を再び見返しているのである。

「さて、んじゃ、そろそろコズンのとこにいってくるわー。まあ、情報なんて集まってないでしょうけどねぇー」

 ホコリをを払うような動作の後、飛び上がるレベッカ。

「でしょうね」

 まったく期待はせずにフェイは答える。
 羽妖精はその様子に意味ありげに笑った。



▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 アカデミーの裏側、少し高く登坂などの訓練のため岩がごろごろと置いてある場所。
 彼はそこにいた。もっとも言われなければ中身のことなどわからないだろう。
 チェインメイルを鉄板で補強した鎧、バンディットメイルを纏っていた。頭部にはきっちりと兜をかぶり、フェイスガードも閉じている。手にあるのは長柄の大斧ですべて鉄で出来ていた。籠手や具足も厚い鉄板へと変えられている。
 斧をゆっくりと振る度に筋肉がきしむ。全身が重く息苦しい。
 そのくせ斧はぶれて、苦労に見合わない気がしてならない。

 それでもコズンは斧を振る。

 人間は急に強く離れない。心の問題や技術のコツなら、急に強くなったり、コツを掴んだりすることもたまにはあるだろう。だが、身体的な問題は積み重ねていくしかない。その両方を解決する手段として取ったのが、この方法だった。
 昼間はひたすら斧を振り、夜は酒場を回る。それを繰り返す、肉体にとことん負荷をかけていくトレーニング。
 
 この重装備はコズンの報酬とレベッカからの借金で無理矢理買ったものだ。焦燥感と借りを作ったという感覚が自分を押す。その確信があってしたことだった。
 これだけの金がが在ればクーロン式銃のデッドコピーでも買った方が戦力としては上がっただろう。だが、それをしなかったのには彼にとって重要な理由があった。

 それは自分は弱くなっているという確信。そのことから立ち直るためだった。

 もしあの時、気功使いに立ち向かっていたらどうだろう。昔なら、万の一つの可能性や奇策などを使ってなんとしてでも、勝ちに行っただろう。コズンにとっての強みはどうやっても勝とうとする、意地の張り合いでの強さだ。自分でも、他者の評価でもそうだったはず。勝ち汚い、卑怯だ。そう言われようともなんとしてでも勝つ。勝たなければ次はない。またも誰かが死ぬ。
 そう言った思想が頭の中に染みついていたはずなのに。
 実力差から、引いてしまい、フェイに任せた。冒険者としては正しい判断だ。だが、自分としては下の下の判断だ。それはコズンという男ではない。無謀と勇気は違うのは学習しているが、今、自分に必要なのは無謀さだ。

 フェイはまだ、その無謀さを持っていた。幼い頃からの状況や再生能力によってさらにそれを推し進めている。彼から見れば同じタイプの戦い方をしていながら、コズンを優に超していたのだ。

 それが悔しい。
 
 ドラゴンは元からドラゴンであり、人間を歯牙にかけない強さを持つ。それと同じようにそれぞれの異種族は人間が到達できないレベルのなにかをそれぞれ持っている。当たり前のことだが追い抜けない。オーガやトロルに力比べして勝てる人間がいるだろうか、空を飛ぶワイバーンと同じ速度で移動できる人間がいるだろうか。

 いない。

 けれど勝つことはできる。小細工を使えばオーガに腕相撲で勝つこともできる。ワイバーンに追いつけなければ、クロスボウで撃ち落としてしまえばいい。自分でもそういったものとは何度も戦い勝ってきた。逆にいえばフェイとていつか負けるかもしれない。
 その時、自分は奴になんと言われるだろうか。おそらく逃げろだとか、しょうもないことをいうだろう。
 それが許せない。逃げ出しそうな自分も、そういう態度を取るフェイ・ロウも。

 その内にそう言った思考が疲労のため飛んでいく。だんだんと斧のブレが収まり、一振り一振りが鋭くなっていく。
 コズンはそれを意識もせず、陽が落ちるまで鍛錬は止めなかった。


――――――――――――――――
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2010/01/30 00:29 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!
Get up! 12/フェイ(ひろ)
場所 :アニスの宿 / 演習場
PC :フェイ / コズン
NPC:レベッカ / アニス / シャルナ


「あの時感じたのは、『血をささげよ!』という強い意志でした」
「……血か」

 ふむ、とアニスの言葉にフェイはつぶやいた。
 町での暮らしにもだいぶ慣れたのか、しばらくぶりにあったアニスの表情はあ
の時よりも明るくなっていたが、さすがに連れ去られそうになったときのことを
思い出しているときはどことなく恐れるような表情を見せた。
 アカデミーで異形種族廃絶派、とくに父を失った事件のような過激派との関連
について資料を当たっていたものの、芳しい成果が出てこないため、あえて避け
ていたアニスに改めて詳しいことを聞きなおしていた。
 ほとんどは救出当時確認の取れていた情報の追確認にしかならなかったが、手
がかりが何かないかと真剣な様子のフェイに、「腹」の中で感じた強い意識のこ
とをアニスが言いにくそうにしながらも話し出したのだった。

「アニスは感応系の力や術は持ってないはずなので、勘違いかもしれないのです
けど」

 だからこの話はしなかった、とシャルナが申し訳なさそうに言う。

「血……オドだったかしら、魔力としてつかえる血の力をオドと呼びあらわす魔法
体系があったわ」

 フェイと一緒――というか、面白がってフェイをここに来るように仕向けたレ
ベッカが、記憶をたどるように注に視線を這わせる

「オド?」

 聞き覚えがないらしいアニスとシャルナはフェイのほうを問うように見る。
 
「血を使う? 儀式魔法とかでよくある『乙女の生き血を~』というやつですか?」

 アカデミーで修士まで取得し現在も教室所属で研鑽を積むフェイにしてもオド
なんて用語に聞き覚えがなかった。

「あ~違う違う。 どんなかって言うと、あなたたちみたいな力を魔法で後天的
にてにいれようってやつ」

 レベッカはその小さな指でフェイとアニスを示しながら言った。
 フェイやアニスのような「古の血脈」が、その血の濃さによって優れた身体能
力や超感覚をもっていたり、純血種であれば不死性すらもつというのは割と知ら
れている。

「そうね、例えば不死の王といわれる吸血鬼とそこらの吸血モンスターの違いっ
てわかる?」

 レベッカが得意げに三人を見回す。

「不死の王はね血を栄養にしてるんじゃなくて、その血に宿るオドを補給してる
の。 その名前すら失われた魔法はね、そのオドを蓄積することで、究極的には
人為的に不死の王に迫ろうとするものだったらしいわ」

 その過程において肉体的な優れた力を得たり、普通ではありえないほどの魔力
を得ることができたといわれてる、レベッカはそういうと、

「かつてのあなたや、お父さんみたいにね」

 そう付け足した。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


(今まで眷属の犠牲者が多かったことと、自分の追いかける過去の事件から安易
に考えすぎてなかったか?)

 アニスのところでレベッカの話を聞いてから、フェイはすっか考え今゛し舞、
何も言わず費目も区とアガミーへと帰ってきていた。
 レベッカはなんとなく肩に座り辛い雰囲気を感じ、少し後ろを同じぐらいの速
度で飛びながらついてきていた。

(ありゃりゃ、あの娘のことでからかってやろうと思ってたのに、なんだかそん
な雰囲気じゃなくなったわね)

 レベッカとしてはコズンとフェイの架け橋といえばきこえはいいものの、実質
緩衝材の役割を続けさせられてストレスもたまっていたため、少しぐらいは遊ば
せてもらってもいいじゃない、とそんな気分だったのだ。
 せめて任務に出ていればともかく、待機状態でイラ立ちを募らせるコズンと、
表面上冷静だが、持ったように情報をつかめずに不満を溜め込むフェイの間にい
るのは、レベッカでなくともつらいとこだろう。

(これじゃ、二人のじゃなくて私の試練じゃないの~)

 ちょっとくらい楽しみを~と心の中で叫びながらついてきたレベッカは、ふい
に立ち止まったフェイにぶつかりそうになり、あわてて頭を右にかわして肩の上
にてをついた。

「ちょっと!」

 文句を言おうとしたレベッカは、人の多いところを避けて歩いていたフェイが
いつのまにか裏側に来ていたことに気がついた。

「あれ? ここってたしか」

 フェイが足を止めてみている先ではコズンが、汗だくになりながら斧を振り続
けている姿があった。
 もちろんフェイはレベッカからこの事を聞いていたが、一度も実に来た子度な
く、すっかり失念していたのだった。

「……形にはなってきてるようですね」

「え? ええ!?」

 アカデミーには当然斧使いの熟練者もいるし、訓練や武術系の大会でェイを凌
駕する者と戦ったこともある。
 そんなフェイのことだからてっきりこき下ろされると思っていたレベッカは思
わず変な驚きの声を上げてしまった。
 それは静かに話していたフェイの声よりも遠くに届いたようで、コズンは斧を
ロスと少し周りを見渡し、すぐに気がついてこっちにやや速い歩き方で迫ってきた。

「おい!」

「……なんだ?」

 ここで修行の成果を見てくれとでもいえば、レベッカの心労も減るところだ
が、コズンのいまにも殴りかかりそうな目つきを見る限り、そんな期待は出来そ
うになかった。

「なんだじゃねえ! いつまで待ってりゃいいんだ!」

 さすがにつかみかかってくることはなかったが、その目は真直ぐにフェイを睨
みつけていた。

「何度も言っているだろう、まだかこの事件を洗って……」

「過激派とかそんなのはどうでもいいんだ。 俺はあのクソッタレな召喚術士を
ぶちのめさせろって言ってんだ!」

 ある程度事情を知るレベッカはフェイも相当じれてることを感じてたため、い
まにもフェイがキレだすのではと、止めたほうがいいかどうかハラハラしながら
見守っていた。
 しかしそんな不安とは裏腹に、フェイはコズンの視線を受け止め、気のせいか
少し笑ったようにすら感じた。

「……単細胞のほうがまよいがない、か」

「なんだと!」

「バカ、ほめてるんだ。 ……そうだな、レベッカ、資料を見直します」

 唐突にレベッカのほうに顔を向け、フェイは確信に満ちた表情で言い切る。

「え? へ?」

「帰って来ないエルガーを待つまでもありません」

「どういうこと?」

「事件の中から召喚がらみで、かつ誘拐があり、とくに私のようなライカンス
ロープなどを襲ったケースを調べなおします」

 自分やアニスをねらうことから、眷属襲撃の過去の事件と結び付けていたが、
たとえば過激派と別の目的を持つものが手を組んでいたということはないだろうか。
 今回はたまたま普通の村だったが、自分や父のように、よく似た獣性をもつ眷
属の村にライカンスロープが居つくことは珍しくない。
 そうおもえば、飛び大口はあの召喚士のスタイルとは違う気もする。
 雇われたようなことを言っていたのも、捕獲しようとしていたのは別の誰か
で、あの召喚士は飛び大口だけでは対処しきれないときのためのバックアップ要
員だったと考えれば納得もしやすい

「おそらく条件を絞れば地域も絞れると思います。 普通は人型の襲撃者が過激
派の構成員ですが、モンスターを引き連れたケースはそれほど広い範囲ではおき
てません」

 コズンの言うとおりだ。
 組織だ何だに目を奪われすぎていた。
 召喚士だけを追えば良い。
 もし組織に広がるのなら、それは後の話だ。
 フェイは考え込んでいたことがコズンの一言で確信に変わったのを感じていた。

「おい! どういうことだよ!」

 唐突なフェイの変化にコズンが気勢をそがれながらも怒鳴り声を上げる。
 それを無視して歩きだしたフェイを追うようにしながら振り返ったレベッカは、

「あんたのそいつを叩き込むチャンスが近そうってことよ!」

 そういうと、忍耐の日々がようやく終わりそうな期待感に身を震わせていた。




――――――――――――――――

2010/02/06 03:30 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!
Get up! 13/コズン(ほうき拳)
場所 :会議室
PC :フェイ コズン
NPC:レベッカ 人影 亜神?


 暗闇の中、彼は微睡みを終えた。失策もあった。部下も失ったがなんとでもなるだろう。どうせ雇ったものだ。彼の血を失ったわけではない。
 よろよろと立ちあがると旧い体は随分と衰えていた。亜神と呼ばれた者でも、もはや種族の延命の方法は新たに作り出すしかない。

「情けない、ものだ」

 神という言葉に浮かれていたつもりもない。衰退してしまったという事実も受け止め、どう対応するか考えていた。何年も何度も何回も。

 けれども彼は神にはなれない。種族の仲間達を再び世に戻すことはできなかったし、自身の命も付きかけている。あと時間は百年もないだろう。所詮亜神ということか、と自嘲する。

 だが、まだ希望がある。近い力をもう一度集めればいい。幸い今までいた場所などよりも亜人達が生き残っている地だ。神の血もまた残っている。混じりものでもこの才構わない。あの戦いで純血は消えていったのだから。

 それに崇めていたものの末ならば古の盟約に従い、血を捧げるべきなのだ。彼の親の代からそうなのだから。

「血を捧げよ……我が子らよ」

 彼は呟く。うぉーんあぉーんと暗い空間に言葉がうごめいた。

 すると呼応するような音があたりに立ち上がる。狼や犬たちが騒ぎ立て、巨大なコウモリ達が飛び回った。マンティコアが数匹、虚空から現れ闇の中へ降り立つ。その奥からは小柄なバジリスクがのろのろと姿を現した。

 動物、魔獣達はどんどんと集まり、うぉーぁおーんと声を反響させた。
 


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 モンスターを引き連れたケースの事件のデータとなると、件数が絞れて来る。
 事件の流れというのも自然と見えてくるものだった。

「この犯人、ポポルから流れてきたみたい」
「ですね。事件発生はイムヌス急進派による虐殺後ですが、それに紛れて犯行を行っていた可能性もあります。それを考慮すればあのガルガゼンドから流れて来た可能性もあります」
「愚王の国らしいわねー、ヤッバいとこから来たもんね」

 三人の検討会はいつになく順調だった。

 資料も今まで情報を洗い直し整理するだけで済む。全部が有機的に絡んでいるわけではないのだから。情報を切り捨てられるのは一気に調査を加速させてくれる。

 もっともコズンは相変わらず、むすっとしていた。けれど資料に目を通していた。専門用語や何種もの古代語の資料ならまいるが、平時に生徒にかかられた資料もすくなくない。
 また、帳簿上になっている統計ならなんとかなる。子豚の売り上げなどを几帳面な兄に習って付けた記憶を思い出す。あのころの子豚の値段は金貨5枚ぐらいだったろうか。懐かしさが、なんだか溢れてきてコズンは少し目を伏せた。大嫌いだった兄や帳簿でも、いいものだったんだな、と思い返す

「コズン、データあってるー?」
「ああぁ? 合ってるよ、いちいち確認しなくても違ってたら、言うつーの」

 資料には年々、同じような事件が起こっては未解決に終わりをいくつか繰り返したものが多い。
 熟練の冒険者を送るまでもない小さな事件ばかりで、実際の事件が大きく冒険者ごと失ってしまう。あるいは力不足で真相までたどり着かない。
 そういった事件ばかりだった。

「年々、大胆になっているわね」
「か。この村一つを神隠し事件とかか?」
「それは、別の事件かもしれないがな」

 話し合いは進む。少し集中しすぎたためか、ドアの前に立った人のことは気がつかなかった。人影は彼らが気づかないまま、すっと消えていた。



▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽



「いいのかい、せっかく馬跳ばしたってのーに」

 スカウト風の男がエルガーに話しかけた。

「必要ありませんよ。もう彼らだけでやっていけます」

 エルガーはそうとだけ言うと、自分の担当する事件へと戻っていった。


――――――――――――――――

2010/02/06 03:33 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!
Get up! 14/フェイ(ひろ)
場所 :会議室 暗闇
PC :フェイ コズン
NPC:レベッカ クラッド 男 亜神




 翌日、昼になる前に呼び出された会議室。
 フェイの説明と、適時コズンとレベッカから示される資料、すべてを聞き終え
たクラッドは唸るように嘆息した。

 まず召喚術師に焦点を当てることにした三人はあらかじめ集めていた事件の資
料の中から、現地に生息していないモンスターがかかわった事

件や、フェイの過去のように眷属などが襲われた事件の中からも同様にモンス
ターを目印に選別した。

「なるほど、一見同じ多種族廃絶主義者の過激派の事件に巧くまぎれているが、
こうしてみると別の事件だな」

 前回のような拉致事件と例えば眷属の村襲撃事件などは一定の範囲内で重なる
地域に起きていた。
 今までは其の範囲がそれなりの広さにわたっていたため気に止められることは
なかったが、こうして一見別物の事件が巧く重なるところを見

ればいやおうなく目に付く要素だった。
 
「ふむ、で、これがその召喚術師絡みとして、どうする気だ?」

「エルガー達が出てるのは、またどこかが襲われるという情報が入ったからです
ね?」

 フェイは義父の質問に答得る前に、確認しておくことを聞いた。

「ん? ああ、今回は武器の密輸のほうを追っていた城のほうからの情報でな」

 城とはそのまま王城を指し、それはエドランスの行政機関をあらわしている。
 一度戻ったエルガーが、手助けの必要がないとわかるとすぐさま引き返したの
も、この襲撃の情報が国というかなり精度の高いところから得

られたものだったため、用がないのにゆっくりしていられる時間はないからだった。
 逆に言えば、フェイの手助けをすることは、エルガーをはじめ仲間たちにとっ
ては大事なことの一つだったのだが、クラッドは養い子に其の

説明をあえてせずに、聞かれたことに答えるにとどめた。

「だったら条件はそろってるんじゃない?」

 レベッカがコズンの肩の上からフェイを見上げる。

「なにかするつもりかね?」

「はい、この地図を見てください――」

 フェイは先の資料の中から地図を抜き出して広げると、三人で話し合ってまと
めた考えを説明した。
 抽出した事件が一定範囲でくくれるのは前述のとおりだが、この謎の召喚術師
の事件には細々とした拉致事件と過激派たちの事件にまぎれる

大規模な襲撃事件――いやひょっとすると過激派となんらかの協力関係にあるよう
で、たんなる偽装とは思えないほど同調して起きている。―

ーの特徴から考えると、エルガーたちの仕事が過激派がらみなら、宿場の拉致が
失敗してる分、ここで事を起こす可能性は高い。

「しかし過激派の事件と必ず同期してるわけではないし、大まかには絞れても襲
撃場所が特定できるわけでもない」

「はい、そこでエルガー達だけじゃなく、他のPTにも襲撃されそうなところを警
戒してもらいます」

 国のつかんだ過激派の情報はかなり精度が高いが、当然フェイ達の追う召喚術
師、またはその組織の情報ではない、あくまで過激派に同期す

るようにして事件を起こしている可能性が高い、というだけである。
 そこで三人はまず場所を限定するためにエルガー達の警戒している地区以外の
可能性のあるところをすべて抑え、一つ隙を作りそこにさそう

という、ある意味常道中の常道でいくことにした。

「過去の案件から考えるに過激派と同じどころを襲撃はしないが、必ず同一事件
とおもえる程度の範囲内に限定できる、が――」

 アカデミーには情報分析の研究をする教室もあり、範囲を限定し効率的な配置
をするのは可能だが、相手が行動を起こすかどうかまでは断定

しようもない。
 そもそも、なんらかの手段で向こうも情報を足つめてから行動を起こしてるの
は当たり前で、そうなれば配置関係から、自分たちへの罠の気

配を察知して、予定を変えることもありうるのだ。
 私的の養い親は公的の教師として問題点を指摘した。

「はい、ですから私がえさになります」

 先の宿場でのモンスターによる事件に偽装していた拉致事件、アニスの証言
と、無目的だったりはした金欲しさの誘拐に手を出すとは思えない熟練の術師の
存在、層考えると、普通の人間は偽装か数を稼いでるだけなのか、とにかく本当
の目的は「力を持つ血」であろうと思われることから、それの確保に一度失敗し
てる今、この謎の敵はそれほど待てないのではないかと推測できた。
 もしそこに、完全体ではないとはいえ、あのアニスより強い血をもつ獲物がい
たら……。

「さらに、それが前回邪魔をしたやつなら食いつく可能性は高いと思われます」

「……その召喚師がまたあらわれると?」

「いえ、あの者は雇われの様なことを言っていたので、別のものが来るかもしれ
ませんしそもそも人とも限りませんが、同じ一味のものが来ると思われます」

 クラッドはまたフェイの割る癖が出たのかと注意しかけたが、其の気配を察し
たのかどうか、それまで珍しくおとなしかったコズンが、両手のこぶしを打ち合
わせながら、独り言のように言った。

「今度は足手まといにはならねぇ!」

 言いかけた言葉を呑みこみ、クラッドはコズンの肩の辺りに目を見やる。
 そこでは妖精が、その普段の様子を知るものには意外な大人びた笑顔でこちら
を見返して頷いた。

「餌は、私たち三人です」


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


「日にちが決まったようだ」

 獣の気配が充満する暗闇の中に、落ち着いた男の声がする。

「――そうか」
 
 人語では在るが、まるで獣の唸り声を無理やり人語にしたような声が答える。
 その声は闇の中の獣の気配に囲まれた皿に向こうからだったが、不思議とよく
届いた。

「自らを至上と信ずる狂信者度もが、愚かにも神々に連なるモノたちをまた襲うか」

「……あんたの仲間じゃないのか?」

 男はここ最近の付き合いで、そもそもこの国の生まれでもないため、この地に
住まう異形とのモノ達については良くわかってはいなかった。

「同位の神格を持つものならともかく、導き手を失った眷族どもが仲間なものかよ」

 独特の唸り声が感情の読めないまま男の耳に届く。

「導き手……あんたはその導くべき眷族を失ってるわけか」

「それでもあがく我を愚かと思うか?」

「いや……ここにいる俺に嗤う資格はないだろう」

「そうだ、我らは同じ定めを越えんと抗うものだ」

 声の主が始めて勘定をにじませる。
 刺激されたように闇の中の獣たちがざわめくように唸り始める。

「……俺が行くか?」

「いや、愚か者との約定でな、わが子らが行く」

 神聖なる地の盟約に導くものたちではなく、その力によって従える獣のわが子
たち。
 むしろ血を求める今の自分は失った民よりも、この魔獣どものほうが近しいか
もしれない。
 神ごとき力を持ちながら神ならざるもの――亜神とエドランスに伝えられるその
存在は命令を待つ獣たちを見ながら層思った。

「お前は獲物を選んで先導してくれれば良い、情報は愚かもたちがくれるだろう」

「承知した」

 男は再び闇に溶け込み姿をした。

 後は、闇の中に獣の咆哮だけが残されていた



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2010/06/13 02:11 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!

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