場所 :資料室 / 演習場
PC :フェイ / コズン
NPC:レベッカ / -
エドランスへ戻ってからというもの、フェイとコズンの接点は少なくなっていた。会って情報交換でもすればいいのに、わざわざレベッカを通してた。
「あんたら、ほんとめんどさいわぁ」
いい加減砕けてきた様子でレベッカはフェイに愚痴った。机の上に立ちながら、頭を人差し指で支えるようなポーズで必死にアピールをしている。
ここは学園の資料室。図書館で恒常的に使う資料でもなく、かといって保存目的で書庫にしまうにも微妙な資料を置く場所だ。フリーで入れるのは修士取得したものや教授陣、レベッカのような実績のあるゲストぐらいだろうか。まあ、コズンに手伝わせるのは確実に不可能だった。そもそも彼の生きていた文化圏では自分の名前さえ書ければ8割方支障がなかった。他方面で冒険するに当たって覚えた文字も日用的な言葉や罵り言葉が中心で、書物を読むには適していない。
こちらに籠もっているとはいえ、接点を作ろうとしない。いや、レベッカ以外を接点にしていないと言うのが正確か。これはまずい状況だ。なにかあと一つ二つ潤滑油がないとこのパーティは回らない。レベッカ自身が引っ張っていくという手もあるのだが、羽妖精の脆い体ではいつ死ぬか分からない。なんといっても自分が指揮を取ったり、気を遣ったりだのは彼女には性格上向いてない。
「うーぐー、このギザギザハートどもめ」
フェイはふざけた愚痴には答えずに、座ったまま黙々と事件の資料を見返していた。そのページは丁度、フェイ自身が襲われたあの事件だった。これを見ようとして居たわけではないが、最新の資料から順々に読んでいくうちに当たってしまったのだ。
思わず資料を伏せた。そしてレベッカに向き直るとフェイは口を開いた。
「アニスとシャルナはどうなったんです」
「今、ディガー先生が知り合いに預けているってさ。あのほら、もふもふのウサギ」
「なるほど。彼女なら気が利くし、耳もいい」
「過剰な心配だと思うけどねー、冒険者の巣窟みたいな街で動く犯罪者はいないでしょ」
エドランス付近の冒険者なら教育も基本的に行き届いている。クーロンのような地域の冒険者とは全く違う、自警団を発展させたようなイメージをレベッカは持っていた。都市全体で支えている辺り不思議な場所だ。もともと住んでいた奥地や他の地域では上等なごろつきや休業中の山賊といった所だったのに。随分変わるなぁ、とレベッカは天を仰いだ。
そして思い出したようにフェイに視線を投げる。
妙に寒気がする視線だった。いわゆる出歯亀ややり手婆などの持つ特有の瞳。ゴッシプ好きの目だ。
「そーいやあ、さあ。アニスちゃん会いたがってたわよー」
「情報でもあったんですか」
こちらに着くまで終始、体調の悪かった彼女からは情報を聞き出せなかったのだ。
追加情報があるとは思えないが、あるならありがたい。フェイはそう思って耳を傾ける。
「いや、そーじゃなくて。ごく個人的にね。
アンタは一応、同族かそれ近いものなんだし、あと今回のヒーローだしね
少なくとも彼女にとっては、さぁ」
すごく楽しそうに、にやにやと視線を向ける。
これを待っていたと言わんばかりの笑みだ。
「あ、ああ」
そういうのはエルガーの役回りだった。自分に回ってくるとは。
「ふふふん。自分の役回りじゃないと思って、戸惑っておる戸惑っておる」
フェイが困ったような顔をすると羽妖精は満足したように笑った。
目標が果たせたとばかり、目の前でくるりと一回転する。
すると、また表情が変わっている。真剣な、母親のような目だった。
ころころ変わる態度は妖精族特有なんだろうか、フェイはそんな疑問を浮かべた。
「彼女にも支えが必要だと思うの、安全と安心は違うからね。
シャルナさんだけじゃきっと安心させるのは無理。
血の近いあなたしかできないことよ。
まあ別に依頼ってわけでもないし、気が向いたらでいいけどねー」
真剣な態度はなかなか持たないようで、後半は手をひらひらさせるレベッカ。
やはり戸惑いながらフェイは頷くと、ふと湧いた疑問を口にした。
「そういえば、エルガー達は?」
今回の件は難易度がこの急造チームでは難易度が高すぎる。クラッドもそう判断してエルガー達を呼び戻している所だった。ディガー教室で残っているのは魔法使いの少女フェルミとクラッド・ディガー本人ぐらいだ。
「微妙だって。場所が悪くてこっちに着くまでまだかかりそう。
まあ代わりにスカウト達の情報網に掛け合ってみるってさ」
情報収集は手詰まりだったのでそれはありがたかった。もし一貫性があればとうの昔にだれか気付いてただろう。フェイの父親が襲われた一見はかなりの事件のはずだし、一度は誰かがきちんと調べたはずだ。それでも情報が出てこないということは、巧妙に隠されて行われたか、内部に情報を隠蔽、操作するものがいるということになる。
おそらく前者だろうと、フェイはアカデミーへの信頼から判断し、こうして資料を再び見返しているのである。
「さて、んじゃ、そろそろコズンのとこにいってくるわー。まあ、情報なんて集まってないでしょうけどねぇー」
ホコリをを払うような動作の後、飛び上がるレベッカ。
「でしょうね」
まったく期待はせずにフェイは答える。
羽妖精はその様子に意味ありげに笑った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
アカデミーの裏側、少し高く登坂などの訓練のため岩がごろごろと置いてある場所。
彼はそこにいた。もっとも言われなければ中身のことなどわからないだろう。
チェインメイルを鉄板で補強した鎧、バンディットメイルを纏っていた。頭部にはきっちりと兜をかぶり、フェイスガードも閉じている。手にあるのは長柄の大斧ですべて鉄で出来ていた。籠手や具足も厚い鉄板へと変えられている。
斧をゆっくりと振る度に筋肉がきしむ。全身が重く息苦しい。
そのくせ斧はぶれて、苦労に見合わない気がしてならない。
それでもコズンは斧を振る。
人間は急に強く離れない。心の問題や技術のコツなら、急に強くなったり、コツを掴んだりすることもたまにはあるだろう。だが、身体的な問題は積み重ねていくしかない。その両方を解決する手段として取ったのが、この方法だった。
昼間はひたすら斧を振り、夜は酒場を回る。それを繰り返す、肉体にとことん負荷をかけていくトレーニング。
この重装備はコズンの報酬とレベッカからの借金で無理矢理買ったものだ。焦燥感と借りを作ったという感覚が自分を押す。その確信があってしたことだった。
これだけの金がが在ればクーロン式銃のデッドコピーでも買った方が戦力としては上がっただろう。だが、それをしなかったのには彼にとって重要な理由があった。
それは自分は弱くなっているという確信。そのことから立ち直るためだった。
もしあの時、気功使いに立ち向かっていたらどうだろう。昔なら、万の一つの可能性や奇策などを使ってなんとしてでも、勝ちに行っただろう。コズンにとっての強みはどうやっても勝とうとする、意地の張り合いでの強さだ。自分でも、他者の評価でもそうだったはず。勝ち汚い、卑怯だ。そう言われようともなんとしてでも勝つ。勝たなければ次はない。またも誰かが死ぬ。
そう言った思想が頭の中に染みついていたはずなのに。
実力差から、引いてしまい、フェイに任せた。冒険者としては正しい判断だ。だが、自分としては下の下の判断だ。それはコズンという男ではない。無謀と勇気は違うのは学習しているが、今、自分に必要なのは無謀さだ。
フェイはまだ、その無謀さを持っていた。幼い頃からの状況や再生能力によってさらにそれを推し進めている。彼から見れば同じタイプの戦い方をしていながら、コズンを優に超していたのだ。
それが悔しい。
ドラゴンは元からドラゴンであり、人間を歯牙にかけない強さを持つ。それと同じようにそれぞれの異種族は人間が到達できないレベルのなにかをそれぞれ持っている。当たり前のことだが追い抜けない。オーガやトロルに力比べして勝てる人間がいるだろうか、空を飛ぶワイバーンと同じ速度で移動できる人間がいるだろうか。
いない。
けれど勝つことはできる。小細工を使えばオーガに腕相撲で勝つこともできる。ワイバーンに追いつけなければ、クロスボウで撃ち落としてしまえばいい。自分でもそういったものとは何度も戦い勝ってきた。逆にいえばフェイとていつか負けるかもしれない。
その時、自分は奴になんと言われるだろうか。おそらく逃げろだとか、しょうもないことをいうだろう。
それが許せない。逃げ出しそうな自分も、そういう態度を取るフェイ・ロウも。
その内にそう言った思考が疲労のため飛んでいく。だんだんと斧のブレが収まり、一振り一振りが鋭くなっていく。
コズンはそれを意識もせず、陽が落ちるまで鍛錬は止めなかった。
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PC :フェイ / コズン
NPC:レベッカ / -
エドランスへ戻ってからというもの、フェイとコズンの接点は少なくなっていた。会って情報交換でもすればいいのに、わざわざレベッカを通してた。
「あんたら、ほんとめんどさいわぁ」
いい加減砕けてきた様子でレベッカはフェイに愚痴った。机の上に立ちながら、頭を人差し指で支えるようなポーズで必死にアピールをしている。
ここは学園の資料室。図書館で恒常的に使う資料でもなく、かといって保存目的で書庫にしまうにも微妙な資料を置く場所だ。フリーで入れるのは修士取得したものや教授陣、レベッカのような実績のあるゲストぐらいだろうか。まあ、コズンに手伝わせるのは確実に不可能だった。そもそも彼の生きていた文化圏では自分の名前さえ書ければ8割方支障がなかった。他方面で冒険するに当たって覚えた文字も日用的な言葉や罵り言葉が中心で、書物を読むには適していない。
こちらに籠もっているとはいえ、接点を作ろうとしない。いや、レベッカ以外を接点にしていないと言うのが正確か。これはまずい状況だ。なにかあと一つ二つ潤滑油がないとこのパーティは回らない。レベッカ自身が引っ張っていくという手もあるのだが、羽妖精の脆い体ではいつ死ぬか分からない。なんといっても自分が指揮を取ったり、気を遣ったりだのは彼女には性格上向いてない。
「うーぐー、このギザギザハートどもめ」
フェイはふざけた愚痴には答えずに、座ったまま黙々と事件の資料を見返していた。そのページは丁度、フェイ自身が襲われたあの事件だった。これを見ようとして居たわけではないが、最新の資料から順々に読んでいくうちに当たってしまったのだ。
思わず資料を伏せた。そしてレベッカに向き直るとフェイは口を開いた。
「アニスとシャルナはどうなったんです」
「今、ディガー先生が知り合いに預けているってさ。あのほら、もふもふのウサギ」
「なるほど。彼女なら気が利くし、耳もいい」
「過剰な心配だと思うけどねー、冒険者の巣窟みたいな街で動く犯罪者はいないでしょ」
エドランス付近の冒険者なら教育も基本的に行き届いている。クーロンのような地域の冒険者とは全く違う、自警団を発展させたようなイメージをレベッカは持っていた。都市全体で支えている辺り不思議な場所だ。もともと住んでいた奥地や他の地域では上等なごろつきや休業中の山賊といった所だったのに。随分変わるなぁ、とレベッカは天を仰いだ。
そして思い出したようにフェイに視線を投げる。
妙に寒気がする視線だった。いわゆる出歯亀ややり手婆などの持つ特有の瞳。ゴッシプ好きの目だ。
「そーいやあ、さあ。アニスちゃん会いたがってたわよー」
「情報でもあったんですか」
こちらに着くまで終始、体調の悪かった彼女からは情報を聞き出せなかったのだ。
追加情報があるとは思えないが、あるならありがたい。フェイはそう思って耳を傾ける。
「いや、そーじゃなくて。ごく個人的にね。
アンタは一応、同族かそれ近いものなんだし、あと今回のヒーローだしね
少なくとも彼女にとっては、さぁ」
すごく楽しそうに、にやにやと視線を向ける。
これを待っていたと言わんばかりの笑みだ。
「あ、ああ」
そういうのはエルガーの役回りだった。自分に回ってくるとは。
「ふふふん。自分の役回りじゃないと思って、戸惑っておる戸惑っておる」
フェイが困ったような顔をすると羽妖精は満足したように笑った。
目標が果たせたとばかり、目の前でくるりと一回転する。
すると、また表情が変わっている。真剣な、母親のような目だった。
ころころ変わる態度は妖精族特有なんだろうか、フェイはそんな疑問を浮かべた。
「彼女にも支えが必要だと思うの、安全と安心は違うからね。
シャルナさんだけじゃきっと安心させるのは無理。
血の近いあなたしかできないことよ。
まあ別に依頼ってわけでもないし、気が向いたらでいいけどねー」
真剣な態度はなかなか持たないようで、後半は手をひらひらさせるレベッカ。
やはり戸惑いながらフェイは頷くと、ふと湧いた疑問を口にした。
「そういえば、エルガー達は?」
今回の件は難易度がこの急造チームでは難易度が高すぎる。クラッドもそう判断してエルガー達を呼び戻している所だった。ディガー教室で残っているのは魔法使いの少女フェルミとクラッド・ディガー本人ぐらいだ。
「微妙だって。場所が悪くてこっちに着くまでまだかかりそう。
まあ代わりにスカウト達の情報網に掛け合ってみるってさ」
情報収集は手詰まりだったのでそれはありがたかった。もし一貫性があればとうの昔にだれか気付いてただろう。フェイの父親が襲われた一見はかなりの事件のはずだし、一度は誰かがきちんと調べたはずだ。それでも情報が出てこないということは、巧妙に隠されて行われたか、内部に情報を隠蔽、操作するものがいるということになる。
おそらく前者だろうと、フェイはアカデミーへの信頼から判断し、こうして資料を再び見返しているのである。
「さて、んじゃ、そろそろコズンのとこにいってくるわー。まあ、情報なんて集まってないでしょうけどねぇー」
ホコリをを払うような動作の後、飛び上がるレベッカ。
「でしょうね」
まったく期待はせずにフェイは答える。
羽妖精はその様子に意味ありげに笑った。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
アカデミーの裏側、少し高く登坂などの訓練のため岩がごろごろと置いてある場所。
彼はそこにいた。もっとも言われなければ中身のことなどわからないだろう。
チェインメイルを鉄板で補強した鎧、バンディットメイルを纏っていた。頭部にはきっちりと兜をかぶり、フェイスガードも閉じている。手にあるのは長柄の大斧ですべて鉄で出来ていた。籠手や具足も厚い鉄板へと変えられている。
斧をゆっくりと振る度に筋肉がきしむ。全身が重く息苦しい。
そのくせ斧はぶれて、苦労に見合わない気がしてならない。
それでもコズンは斧を振る。
人間は急に強く離れない。心の問題や技術のコツなら、急に強くなったり、コツを掴んだりすることもたまにはあるだろう。だが、身体的な問題は積み重ねていくしかない。その両方を解決する手段として取ったのが、この方法だった。
昼間はひたすら斧を振り、夜は酒場を回る。それを繰り返す、肉体にとことん負荷をかけていくトレーニング。
この重装備はコズンの報酬とレベッカからの借金で無理矢理買ったものだ。焦燥感と借りを作ったという感覚が自分を押す。その確信があってしたことだった。
これだけの金がが在ればクーロン式銃のデッドコピーでも買った方が戦力としては上がっただろう。だが、それをしなかったのには彼にとって重要な理由があった。
それは自分は弱くなっているという確信。そのことから立ち直るためだった。
もしあの時、気功使いに立ち向かっていたらどうだろう。昔なら、万の一つの可能性や奇策などを使ってなんとしてでも、勝ちに行っただろう。コズンにとっての強みはどうやっても勝とうとする、意地の張り合いでの強さだ。自分でも、他者の評価でもそうだったはず。勝ち汚い、卑怯だ。そう言われようともなんとしてでも勝つ。勝たなければ次はない。またも誰かが死ぬ。
そう言った思想が頭の中に染みついていたはずなのに。
実力差から、引いてしまい、フェイに任せた。冒険者としては正しい判断だ。だが、自分としては下の下の判断だ。それはコズンという男ではない。無謀と勇気は違うのは学習しているが、今、自分に必要なのは無謀さだ。
フェイはまだ、その無謀さを持っていた。幼い頃からの状況や再生能力によってさらにそれを推し進めている。彼から見れば同じタイプの戦い方をしていながら、コズンを優に超していたのだ。
それが悔しい。
ドラゴンは元からドラゴンであり、人間を歯牙にかけない強さを持つ。それと同じようにそれぞれの異種族は人間が到達できないレベルのなにかをそれぞれ持っている。当たり前のことだが追い抜けない。オーガやトロルに力比べして勝てる人間がいるだろうか、空を飛ぶワイバーンと同じ速度で移動できる人間がいるだろうか。
いない。
けれど勝つことはできる。小細工を使えばオーガに腕相撲で勝つこともできる。ワイバーンに追いつけなければ、クロスボウで撃ち落としてしまえばいい。自分でもそういったものとは何度も戦い勝ってきた。逆にいえばフェイとていつか負けるかもしれない。
その時、自分は奴になんと言われるだろうか。おそらく逃げろだとか、しょうもないことをいうだろう。
それが許せない。逃げ出しそうな自分も、そういう態度を取るフェイ・ロウも。
その内にそう言った思考が疲労のため飛んでいく。だんだんと斧のブレが収まり、一振り一振りが鋭くなっていく。
コズンはそれを意識もせず、陽が落ちるまで鍛錬は止めなかった。
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