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2024/11/01 07:53 |
シベルファミト 25/ルフト(みる)
第二十五話 『アゴラあらわる』

キャスト:しふみ、ベアトリーチェ、ルフト、(顎羅)
場所:ウォーネル=スマン邸
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「…あんなところに箱なんてあったっけ?」

 ふと気がつくと部屋の隅に転がっていたダンボール箱。正面から見ると、そこには黒々とした大きい穴が開いている。これではもはや箱としての役目は果たせないだろう。

 その場にいる全員の視線が集中してから一秒、二秒。いい加減痺れを切らしたベアトリーチェが正体を確認しようと近づいた時、箱の中からどこまでもか細く情けない、喩えるなら枝垂れ柳の下でしくしく泣いている女幽霊のような声が響いてきた。

「たぁ~すぅ~けぇ~てぇ~くぅ~だぁ~さぁ~いぃ~」

 本物の幽霊なら振り向いたら顔がスプラッタとかそういうオチがつくものだが、箱の中から聞こえてくる声はどう聞いてもここで待ち合わせをしている最後の1人、今まで行動を共にしてきた犬のものだ。

「……あんた何やってんの?」

 遅れてきた事に対する怒りとかそういう感情が、とりあえず?という一文字で埋まる。
しくしくしくというBGMが少し収まった気がする。まさか本当に泣いてるのだろうか?

「ダンボールに隠れたはよかったんですが、出られなくなったんですよ……」

 喋り終えるとまたしくしくしくという音が大きくなった気がした。端的に言ってしまえば、実にうっとおしい。

「ったく、しょーがねーなー。しっかりしてくれってんだったくよー」

 ブツブツ言いながらバッサバッサとブルフがダンボールへ飛んで行き、爪でたっぷり10秒くらいを掛けてダンボールをズタズタにしていく。ようやく脱出する事が出来たルフトは、やっと抜け出せた安堵やら無理な姿勢を続けてたことによる疲労やらでとりあえず床にぐったりと寝そべったのだった。

「それで、これからどうするのかのう?」

 いい加減この状況に退屈しきっていたのだろう、珍しくしふみが口火を切って話を進めようとする。けっきょくルフトに怒りをぶつけるタイミングを掴みそこなったベアは不満そうに溜息を1つ吐くと、作戦についての説明を始めた。

                ◆◇★☆†◇◆☆★

「……と、いうわけ。わかった?」

 説明そのものはたったの一言で終わった。曰く、「このリストに書いてあるお宝を見つければ残りが全部あたし達のものになるのよ」が、ぐぐぐっと無駄に力こぶしまで作って見せて言うベアに対し、十数分前のブルフのようにルフトがゴネるなどの一幕を経てようやく実際にどう動くかの相談へ。結局、話が纏まったのはルフトが合流してからさらに十数分が経った後の話だった。

「ちなみに、その暗殺者の名前は何というんですか?」

 何かを半ば諦めたような口調で喋るルフト。付き合いが長いだけに、もはやベアが何を言っても意志を変えるつもりがないのは分かっているのだ。いつも通りと言えばいつも通りの事だ。しかも、そろそろその状況に慣れて受け入れてしまっている自分がいるという事実が、もはや情けないという感情すら呼び起こさなくなってからいったいどれだけ経っただろう。

「んー、え~と、なんかロリコンっぽい名前」

「頼みますから交渉相手の名前くらい覚えておいてくださいよ……」

 ベアにとってはワリとどうでもいい事だったのか、すっぱり言いきられてパタリとルフトの尾が床を叩く。

「まぁまぁ、良いではないか。そう落ち込むでない」

 しふみに頭をぽんぽんと撫でられて、耳までペタンと垂れる。なんとか気分を変えようと、ブルフに運んでもらった棍を杖代わりにして立ち上がろうと試みるルフト。一方ベッドの上でソウルシューターの点検を終えたベアはよし、と1つ頷いて

「それじゃ、かいさ……ん?」

 号令を掛けようとした瞬間、部屋の扉がなんかものすごい音を蹴立ててふっとんだ。遮るものがなくなって丸見えになった廊下に、立つ人影。シルエットだけ見ればまだ人間といえなくもないそれは、巨大な口に顔の両脇についた白い目、そして白と黒の妙にくっきり色分けされた肌を持つ魚人だった。しかも何故かパンツを履いているだけで他に服らしいものを着ている様子は無く、手には扉を壊した凶器であろう巨大な銛が握られている。

「ば、化け物!?」

 自分の事は盛大に棚に上げてルフトが悲鳴のような声をあげる。ベアは見た目のインパクトにショックを受けたのか号令を掛けるときにビッっと伸ばした指をそのまま不思議な闖入者に向けて声にならない声を上げているし、しふみはしふみで「ほぅ」などと呟いて興味深そうにめったに見ない魚人間の様子を観察している。

「うっわ、敵か敵か敵なのか!?お前いったいなんなんだよ!」

 ゆっくりと部屋を見回す魚人、盛大にパニくる人間の少女と人狼、事態を面白そうに傍観する妖狐。結局、なんとなくリアクションを取り損ねた鷹型の魔法生物が羽根を突きつけながら尋問するという奇妙な状況が発生する。だが、その状況にツっこめるモノは不幸な事に誰もいなかった。

「犬肉……食いに来た」

「はァ?」

 最低限の――最低限過ぎる答えに硬直する一同を他所に、乱入者である魚男はルフトに向かってのしりのしりと近づいていく。

 ――このままだと、餌になってしまいますね。

「つまりあなたの狙いは私ですね、ならばついてきなさい!」

 身近に迫った危機のお陰かいち早く硬直を脱したルフトは、ちらりとベアに視線を送る。とりあえず自分がコイツを引き受けるので、2人は作戦通りに――視線に込めたそんな意思が通じたのか、ベアが小さく頷いたのを確認して、ルフトは窓から飛び出した。ここは一階ではないが、この程度の高さであれば着地にまったく問題はない。教科書どおりの綺麗な受身を取ってそのまま立ち上がり、すぐに棍を構える。
 対して、後を追う鮫男の方は実にシンプルだった。窓から飛び降りた姿勢のまま二本足でドスンと着地し、ニタリと笑ってみせる。手に持つ武器の重量もあわせてそれなりの衝撃があったハズだが、痛がる様子などはまったくない。

 ――硬さには自信アリって所ですか。

 半分くらい無駄だろうなと思いつつも、せっかくの機会なので着地直後の硬直を狙って棍を突き込んでみる。少しくらいよろめいた気もしたが、予想通り効果は今ひとつのようだ。

「……ッ!?」

 とりあえず距離をとるルフトの鼻面を振り下ろされた巨大な銛が掠めていく。ブン、ズガン。文字通り肌で感じる遠心力がフルに乗った超重武器の破壊力に思わず総毛立つ。恐らく一撃でも貰えば戦闘不能どころか本気で死にかねない威力を持ち、しかも攻撃がロクに通らない相手。――長期戦は、不利。

「ルフトーーーーーー!!」

 2人が飛び降りた窓から、後を追うように1羽の鷹が舞い降りる。振り上げられた銛を巧みに躱し、鋭く尖ったその爪や牙を以って鮫男に襲い掛かるが、魔導生物の鍛えられた爪牙をもってしても魚人の肌に傷1つつける事はできなかった。

「ブルフ、アレをやりますよ!」

 ルフトの声を聞いて攻撃を中止し、合流に向かうブルフ。即座に鮫男もドタドタと走ってくるが、本気を出した猛禽類とではそもそも勝負にすらならなかった。

「合点承知!いっくぜぇぇぇぇぇぇ!!」

 ばっさばっさと羽ばたいてきたブルフが、ルフトが持つ棍の先に留まる。そのまま大きく翼を広げ、さらにガキンとかいう生き物にあるまじき音を立てながら羽を背後に。最後に普段は柔らかく空気を包み込んでいる羽毛がジャキンというやたら金属っぽい音を立てて硬化すると、もはや棍は棍ではなく、死神が持つような大鎌へと姿を変えていた。

「我ジグラットに纏わる者。この双羽の鎌の力を以て大地と大気の精霊の御力を借りん」

 体の前でクルクルと鎌を回し、構える。もともと大鎌などという武器は戦闘に使い易いものではないが、ルフトが持つソレは二つある刃が御互いに内側に向いてついている為なおさら斬り難い構造になっている。そう、この鎌は直接攻撃する為の武器ではないのだ。

「ウガァァァァァァァ」

 走りこんできた鮫男がそのまま高々と振り上げた巨大な銛を叩きつけるように振り下ろしてきたが、これもルフトは軽く躱してみせた。結局、極端に重い武器の攻撃方法は限られている。即ち、振り下ろすか、薙ぎ払うか、体ごと突撃するか。どれにしても振りが大きい為、回避する事に専念すれば簡単に避ける事ができるというわけだ。

「砂の刃よっ!」

 鎌の柄でトンと地面を叩く動作にあわせて、その周辺の土が細かい砂に変化する。変化した砂は一条の風に吹かれて舞い上がり、そのまま黒光りする鮫肌に叩きつけられる。
 砂刃の術は、細かく硬い砂粒を対象に高速でぶつける事で対象の表面を激しく削る術だ。喩えていうなら、砂一粒一粒がヤスリの引っかかりに相当するようなものだ。普通の人間ならば表皮がずたずたに傷ついてしまう凶悪な術だが、やはり砂の硬度が足りていないのかロクな効果を上げる事はできなかった。

「これは、作戦を変える必要がありますね」

 距離を取りつつ何度か違う術を試してみた結果、自分ひとりで倒そうとするとどうしても火力が足りないという結論に達せざるをえなかった。幸い敵の足は遅く、自分から攻撃を仕掛けずに回避に専念していればすぐにどうにかされるという事もなさそうだ。もっとも、いつ相手が終わらない鬼ごっこに飽きて他の仲間を襲うとも分からないので、適当に仕掛けて注意をひきつける必要はあるが、遠距離攻撃なら問題はない。

「さて、根競べの始まりですね。……もっとも、私の方が分は良さそうですが」

 こうして、状況が変わらない限りけして終わらない鬼ごっこは幕を上げたのだった。
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2007/08/24 01:57 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト
シベルファミト 26/しふみ(周防松)
第二十六話 『しふみ、離脱する』

PC:しふみ ベアトリーチェ ルフト (顎羅)
NPC:ウィンドブルフ 庭師
場所:ウォーネル=スマン邸

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「やれやれ、騒々しいことよ」

肩をこきこきと動かしつつ、しふみは魚人間とルフト、ついでにブルフが落ちていっ
た窓をちらりと見る。
窓の外からは時折、派手な音がする。
戦っているのだ、あの妙な魚人間とルフトが。
そのうち「なんだ」「どうした」と言い出す人間の声も混じりそうだ。
「加勢する?」
ソウルシューターを抱えたベアトリーチェが小首を傾げる。
抱えている物さえ無視すれば、年相応の、かわいらしい仕草だ。
「面倒くさい」
しふみは全くやる気のない声で答えた。
それを聞いたベアトリーチェは「んじゃ、まあいいや」などと言いつつソウルシュー
ターをベッドに置いた。
「あの魚、何なんだろ。魚が犬の肉を食べに来るなんて聞いた事ないわ」
「おそらくは肉食の魚なのであろう。どこぞには大量にいるというではないか」
「知ってるー、川に落ちた牛とか人間とかにいっぱいたかって、あっという間に骨に
しちゃうんでしょ」
「……さすがに、それは大げさな表現であろう」

不意に、ベアトリーチェが少しばかり考え込む。

「でもさあ、犬の肉って美味しいのかしら」
「美味と言う者もおるが……あれは、おそらく食べ慣れぬ者の口には合わぬであろう
な」
ぴくり、とベアトリーチェは方眉を動かす。
「……アンタ、もしかして食べたことあるの?」
「ほほ。どうであろうな」
しふみは着物の袖で口元を隠しつつ、意味ありげに笑う。
「質問に答えろー!」
「わしは鶏肉の方が好みじゃ」
「ちがーう!」

……ルフトが聞いたら泣きそうな会話である。



それにしても、だ。
しふみは思う。

そろそろ来るかもしれないと思っていたが、もしかしたら、あの魚人間、ソレかもし
れない。

……追っ手。
あるいは、追っ手側が差し向けた刺客。

過去に少しばかり因縁があって、しふみは追われる身の上になった。
具体的に何がどうして、というと、しふみにはわからない。
わからない、というよりは、思い出せない。
彼女にとっては非常にどうでもいい、もはや覚えてもいないような些細なことを、あ
ちらが勝手に因縁に仕立て上げ、挙句、追いまわしているのが実情である。
確実に言えるのは、追いつかれたら撃退するのが非常に大変だ、ということである。
追っ手の目的は、彼女を捕まえることではなく、確実に息の根を止めることにあるか
らだ。

これがただの取り越し苦労なら何の問題もない。
しかし、もし本物だったら?

取り越し苦労ではなかった場合のことを考えると、やはり「そうである」と考えて行
動した方が安全には違いない。

……逃げるか。

しふみは、あっさりと決めた。

撃退する手間のこともあるが、誰かを巻き込むというのが非常に嫌なのだ。
もっとも、相手に迷惑をかけてしまうからというわけではなく、巻きこんだ相手から
恨みつらみを聞かされたり、「なんで追われてるんだ」と追及されるのが面倒で嫌な
だけなのだが。

「嬢や」

しふみは、ベアトリーチェに向き直った。

「何?」
「犬や鳥にも伝えておいてくれ。気が変わったから退散する、とな」
「は?」

言いつつ、しふみは着物の袖の下に手を入れ、小さな小さな丸い玉を取り出す。
いつぞや、ナイトストールの家を荒らして得た戦利品の一つ、煙玉である。

「ではさらば」

しふみは、それを無造作に床に投げつけた。
ぼがん、という音とともに、もくもくもくもくもくと濃い煙が立ち昇る。
ついでに、鼻にツンとくる嫌な臭いも漂う。

「ちょっ、アンタ、一体何すんのよ!」

不快感を露わにし、煙をぱたぱたと手で払いながら、ベアトリーチェは抗議の声を上
げる。
――その声が上がった時、しふみは既に、その場にいなかった。



ウォーネル=スマン邸に勤める庭師は、植えこみの剪定をする手を休め、額の汗を拭
くついで、ちらっと空を見上げた。
今日も今日とて、快晴である。
別に何かを見ようとして空を見たわけでもないので、彼はすぐに仕事へと意識を切り
替えた。

と、その時、視界を一匹の動物が駆け抜けて行った。

「おうわっ!」
動物の出現に驚いて、庭師はハサミを落としかけた。
動物はすばしこく、あっという間に庭を横切り、音もなく塀の上に飛びあがり、向こ
う――つまり外へと消えた。

「あれー……?」

ぼさっと見送っていた庭師は、間抜けな声を上げながら、ふと考えた。

きつね色、ってどんな色だっただろうか。

確か、揚げ物をカラッとおいしく揚げた時の色を「きつね色」と表現するはずだ。
緑色を指して「きつね色」と言ったりはしない。

じゃあ、今通っていったのは何だ?
きつね色じゃない狐?

庭師の視界を風のように通り抜けた狐は、確かに赤い色をしていた。
それだけならまだしも、その尻尾が七本、というのはどういうわけだろうか。
庭師は、そんな生き物を見たことがなかった。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/08/24 02:17 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト
シベルファミト 27/ベアトリーチェ(熊猫)
第二十七話 『涙のない別れ』

キャスト:ルフト・ベアトリーチェ
NPC:ウィンドブルフ・ウォーネル=スマン・イン
場所:ムーラン→ウォーネル=スマン邸
――――――――――――――――

視界を遮る煙幕に捲かれ、ベアトリーチェは盛大に
咳き込みながら転げるように部屋を出た。
もちろんベッドに置いた自分の武器は忘れない。

即座に扉を閉じ、廊下の窓を開けて首を出す。
砂が入るのを防ぐためだろう、窓は思ったほど広くは
開かなかったが、それでも風を感じることはできた。

新鮮な空気をたっぷり吸って一息ついてから、

「あの女…!今度会ったらブン殴ってやるっ」

と怨嗟の混じった声でうめく。
さらに文句を言い募ろうとしたとき、地鳴りと共に
屋敷全体が振動した。

思わず上を見上げる。下がっているシャンデリアが、振り子のように
軋みながらゆっくりと揺れていた。

(あーあ。ここぞとばかりに派手にやっちゃって…)

胸中で呟き、吐息を漏らす――
適当にあたりをつけて歩き出す。使用人の姿は見えないが、おそらくこの
騒ぎで借り出されているか、避難しているかのどちらかだろう。
もっともそのほうがこちらにとっては好都合だ。
まさか白昼堂々、泥棒じみた真似をすることになるとは思っていなかったが。

ベアトリーチェがいるのは屋敷の離れである。
連れてこられた時に見ていたのだが、どうやら屋敷とは一本の通路で
繋がっているらしい。
だとすれば、それを使えば少なくとも外の警邏には気付かれることなく
屋敷に向かえるわけだ。

分厚い絨毯の上では靴音は吸収される。もっとも、今着ているムーランの
民族衣装の装飾は隠密には向かないが。

手に持ったソウルシューターの後方に手を突っ込み、中の取っ手をひねる。
錠が外れるような音。そのまま取っ手を引っ張ると、内蔵されていた
鉄の鉤爪が姿を現した。
ベルトに通したソウルシューターはいったん背中に回し、鉤爪を右手に
装備したままで、ベアトリーチェは屋敷の中を駆け抜けた。

・・・★・・・

「あったりー♪こんなベタなのなんで見つけらんないのかしら」

絵画の裏から現れた格納庫から、壮麗な装飾が施された花器を取り出す。

「これは…たぶん『ファンデルファーレの涙壷』ってやつかしらね」

光の加減によって色を変える美しい工芸品を窓の光に透かしながら、
ひとり呟く。装備した鉄鉤で傷つけないように、頭に被っていた
薄絹のショールでくるんで腰にしっかり結びつけてから歩き出す。

(犬と魚の戦闘を陽動にして、頼まれた品を探す。それを全部あの
うさんくさい暗殺者とやらに渡して、おたから持って一人でとんずら。
あとに残るのは犬と魚と暗殺者だけ!)

「完璧なプランじゃない」

一人呟いて、笑みを浮かべる。と、曲がり角にさしかかった。一応
壁に張り付いて、誰もいない事を確かめてから進む。
前方に扉があった。横手の窓の景色から想像するに、どうやら
この先が屋敷へと繋がる通路らしい。

ぱっと扉にとびついて、耳を押し当てる。しかしいまだ勢いを
失わない戦闘によって生じる地鳴りや、破砕音が邪魔をして
よくわからない。結局、いちかばちかドアを開けることにした。

胸中でカウントして、勢い良く扉を開けて転がり込む。
その勢いで鉤爪を前方に突き出し――たものの、そこには広い
通路が広がっているだけで誰もいなかった。

が。

だだだだだ、と重い足音が響いてきたかと思うと、屋敷へと続く
扉がばん、と開いて一人の男が転がるように入ってきた。
男は豪奢な身なりをしていたものの、それに準ずる気品はなく、
ただ膨れ上がった巨体を汗で濡らしながらこちらに走ってくる。
どう考えても相手の視界のまん前に自分はいるのだが、それには
全くといっていいほど興味を示さず、ベアトリーチェの横を通り過ぎて
そのまま遠ざかっていった。

「…なんなの」
「あいつがウォーネルだよ」

突然の答えにびくりとして振り返ると、今しがた男が開け放った扉の
枠に寄りかかったインがいた。指には鍵の束をひっかけて、それを
くるくる回して音をたてている。

「びっ…くりするじゃない。なんなの?どうしたの?」
「俺にもわからん。とにかく野菜が食べたいらしい」
「は?」
「厨房の野菜全部食ったあげくまだ足りないとか言ってよ。
仕方ないんで外の"野菜"を食べに行ったってわけだ」

いぶかしげな顔でつかみどころのない話を聞く。インは退屈そうに
こちらに歩いてくると、ベアトリーチェの前で立ち止まった。

「…それよりどうだ?頼んだものは見つかりそうか」
「いくつか見つけたわ。どうしようもなく簡単な場所にあったわよ」
「隠す奴が馬鹿だからな。まぁその調子で頑張ってくれや」

じゃらじゃらと鍵が鳴る音が通路に響く。インはそのまま通り過ぎると、
男を追って歩いていった。

「…なんなのよ。どいつもこいつも!」

怒りに任せて手近な壁を蹴ってから、彼女は大股で歩き出した。

――――――――――――――――

2007/09/12 00:27 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト
シベルファミト 28/顎羅(根尾太)
第二十八話
『SEA BERSERKER』

PC:顎羅 ルフト
NPC:ドルーガ

「犬カルビィイイイイイイイイイイ!!!」

ルフトの眼前から突撃するそいつはそう叫び、まるでイカれた様に巨大な銛を軽々と振り回し、たたきつけてくる。
既にもう戦い始めてから数十分が経過していたが、相手のスタミナは少しも怯む気配も見せず、闇雲な攻撃の連続とその攻防戦が続いていた。


「ロース!!!カルビ!!!!ロース!!!カルビ!!!ロォオオオオオオオオオオス!!!!!!!!」
この鮫魚人は先ほどからそれだけをずっと叫び続け、その攻撃の嵐は止まなかった。
だがそれらは攻撃は、
一撃一撃が“巧妙”な攻撃でないことが幸いだった。そのシンプルすぎる攻撃は実に単純であり、その軌道から攻撃パターンまでも読みやすかった。

ルフトは攻撃を受け流している間際小さく“詠唱”を唱え始め…

「これで…」

その数秒後、間一髪死角から旋回する銛の一撃が襲う間際だった…

突如相手の鮫魚人の足場が流砂の如く崩れ、片脚が地面に飲み込まれ体勢を崩す。

「?!!!!!」


―――瞬間にルフトは距離をとると…
「・…終わりです」

ルフトは大鎌を構えたと同時に空中に一つの…半月を描いたような巨大な砂のギロチンが現れ、大鎌を振り下ろした瞬時に、半月型の砂ギロチンは鮫魚人めがけて降下する。


ところが…

「ギュゥウウウウウタァアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!」

その刃が相手へと降りてくる直前、鮫魚人はその怪力で地殻ごと脚を引き抜くと、体勢を取り戻し同時に砂ギロチンを銛で叩き割った。



―「バケモンかよ……!!!」

ブルフがそう言葉を漏らす。
シンプルすぎる攻撃と力。しかし、確かにその潜在する力の大きさは、あまりにも想定から歴然として巨大すぎていた。

「アリ?…牛タン…ウシ…あいつイヌ…」

そんなことを余裕でつぶやく相手は、頭をポリポリと掻きながら、白い眼光はギョロギョロとうごめく。

“一瞬も気を許してはならない”
緊迫した空気をルフトは感じていたが、相手の鮫魚人はそんな空気を気遣う気などさらさらなかった。

―――ふとどこからか腹の虫が鳴る音が聞こえ…

「…メシ」と一言鮫魚人が言うと、
海パンらしき短パンに腕を突っ込み、

その瞬時にルフトは新手の武器だと察知し身構える。

が・…、相手は何を取り出したかと思えば、小さな巾着袋であり、そこから取り出したのは爆薬でっも刃物等でもなく、数枚の干し肉だった。

「…肉…?」

鮫魚人は相手がどんなに警戒しているかも知らずバリバリと干し肉を食べ始める。

「ルフト・…こいつ…」

ブルフも唖然とし、戦意を喪失させるようなのほほんとした光景が余裕で流れ始める。


―と、そんなときだった

「やはり貴様では無駄か…」

物陰からもう一人の用心棒が現れた。


その相手は鮫魚人と同等の巨漢の牛系獣人であり、巨大な斧を肩に抱えており、いかつい鎧を着込み、他の獣人の用心棒の兵隊を少数の数名連れていた


ルフトは警戒した。

――――「いつまで食ってる気だ?顎羅。まったく、よくそんな腕で雇われたもんだな」

「何しに来た」
先ほどまでののほほんとした空気を打ち消し、顎羅と呼ばれた鮫魚人はもう一人の用心棒と対峙する。

「コイツ…俺の獲物。俺一人で狩る」

「貴様一人の手柄にする気か?のぼせあがるのも大概にしろよ」


すると…顎羅は突然干し肉を食べるのをやめルフトに背を向け、その巨大な銛の矛先をドルーガに向けた。

「何のつもりだ・…顎羅」

ルフトはこの時、顎羅からさっきとまた別モノの殺気を感じ取っていた

「横取り…嫌い。オマエ俺が狩る」

2008/12/02 03:35 | Comments(0) | TrackBack() | ○シベルファミト

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