忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/11/04 19:01 |
立金花の咲く場所(トコロ) 54/アベル(ひろ)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?)
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 アベル達もこのパーティでの初めての戦いということで浮き足立っていた
のか、風向きを考えずに茂みから飛び出した。
 小柄な人方の体に犬のような頭を持つコボルトは見かけとは裏腹に、特に
嗅覚に優れているわけではなかったが、それでも人よりは鋭いはず。
 経験地がそれなりにあるリックはそのことに思い至り、しまったかと舌打
ちしそうになったが、相手の動きをみて眉をひそめる。

 最初に気がついたのは前にいるコボルドではなく、後ろにいる男だった。
 物音にびっくりしたようにあちらこちらに顔を向けたのち、走り来る三人
に気がついた男はヒステリックな声を上げた。
「な! なにをしてる! はやくかたずけろ!」
「……ギッ」
 いいながら腕を振るとそれを合図に、コボルトは武器を構えながら三人に
対峙するように展開しようとする。

(あのコボルト……)
 考えてみれば人間とコボルドが仲間ということはありえない。
 コボルトが異種族といる大概の場合は主従関係にあることがほとんどで、
もっというと僕として従わされているのだが、もともと知能よりも本能のほ
うが強いコボルトは闇雲に突っ込んでくるもので、指示通りに動くなんて芸
当はまずできない。
 男よりも反応が鈍いのも気になる。
「アベル、ラズロ、ことによると魔法を使うのかもしれないから気をつけろ
よ!」
 コボルトを押さえてる間にリーダーらしき男を抑える作戦のためには、ま
ず二人がコボルトの向こうに抜けねばならない。
 勢いを殺さず飛び出した三人が接敵するまでにリックがいえたのはその一
言だけだったが、二人にはちゃんと伝わったようで、気配だけだが頷いたの
がリックにもわかった。
 リックは冷静に自分の実力とコボルド三体をくらべてまともにやっては勝
てないことはわかっていたし、とにもかくにも先に二人を向こうの男の元へ
やらねばならなかった。
 
 リックは自分達に相対するように隊列を組みなおしつつあるコボルトの真
ん中にいる一体に向かって、転がるように身をかがめて突っ込んでいった。

「あ!」
 茂みから様子を見ていたヴァネッサにはリックが何かに躓いて転んだよう
に見えた。
 おもわず腰を浮かすヴァネッサの肩をつかんだままリリアは何かを投げる
ようにするどく手を振った。 

 アベルもラズロもリックと詳しい打ち合わせをしたわけではなかった。
 ただ、二人はリックが任せろといった以上、コボルトではなくその後ろの
男しか見ておらず、コボルドを弾き飛ばすつもりで突っ込んだ。
 当然ながら一歩前を行くリックがこけるように倒れるのは見えていたが、
そのために足を止めることはなかった。

 リックは前のめりに地面に右手をつくと、体をひねるように前転した。
 片手しかついてない上にひねったため、斜め上から横気味に回転しながら
足を振り下ろした。

 コボルトは命令に従い、急の来敵を迎え撃つため三人それぞれに対峙し、
男を守れるように壁に慣れる位置へと向き直ろうとしていた。
 当然眼前に迫る敵からは目を離さずにいたがその姿が突然消えた。
 かと思うと足を強烈な力でなぎ払われ、踏ん張ることもできずに転がり
そうになった。
「ギ!」
 反射的に手を伸ばして隣にいたコボルドをつかんだため一瞬持ちこたえ
たが、つかまれたコボルトが突然バランスを崩して一緒くたに転がり倒れ
る。

 リックが倒れるようにしてコボルドの一体の足を刈った。
 そのコボルドがつかまったもう一体が踏ん張ろうとした瞬間、突然額に
何かがぶつかり、痛みに木をとられたのか、声をあげるまもなく道ずれに
倒れる。
「まかせろ!」
 足元から聞こえる声に一瞬だけ目を向けた二人は、回転の勢いのままも
う立ち上がる体制にリックがいることを確認し、そのままこけた二体でで
きた穴からコボルトの壁を突っ切って走り抜ける。

 走り抜ける二人にあわてることもなく残った一体は目前のリックに攻撃
を仕掛けようと剣を振り上げたが、またしても飛来する何かに額を打たれ
てよろめく様一歩下がった。
 その隙を突いて立ち上がったリックは、自分も剣を構え、すかさずけん
制の攻撃を開始した。

「あ、ま、また?」
 リックの危機にまたしても焦ったヴァネッサだったが、その後の展開に
目を丸くする。
 一度目は良くわからなかったが、二度目はリリアが何かを投げつけてい
るのを目の当たりにした。
「へへへ、ただの石なんだけどね。」
 照れるように笑ったリリアは、手を開いて手のひらで握り隠せるほどの
小石を見せた。
「直接剣を持って戦わなくても、やれることはあるんだよ」
 ヴァネッサははじめてリリアを「冒険者の先輩」として実感した。

「あ、何をしている! 俺を守れ!」
 焦ったように叫ぶ男が手を振ったとき、左手にははめた指輪が淡く輝い
たのに二人は気がついた。
「ラズロ! 左手!」
 アベルは怒鳴りながら剣で切りかかった。
「わかってる!」
 リックは自身ありそうだったし、さっきも見事だったが、本職の戦士と
してはすぐにも援護に駆けつけてやりたい。
 二人は相手に何もさせる暇もなくかたをつけるつもりで連携してあたる
ことにしたのだった。


――――――――――――――――
PR

2008/02/22 23:46 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
Get up! 05/コズン(ほうき拳)
PC: フェイ コズン
NPC: レベッカ、飛び大口、少女
場所:道中宿兼酒場

――――――――――――――――

 夕暮れの酒場はざわざわと騒がしい。
 赤い夕日の輝きが小さく注ぎ込む中、小人の一団がひたすらテーブルの上ではしゃぎつづけていた。ハーフオーク達と山賊まがいの男どもがサイコロ賭博にいそしみ、ドワーフは自分より大きな樽を抱え込んでいる。奥の方では影でできた人間、シャドウジャックが蛮人とフェミニズムについて口論しているようだ。
 土と汗の臭いが揚げ物とシチューの香りとあわさり、生暖かく、もあもあとわだかまる。
 エドランスからはずいぶん離れた辺境の小さな町の酒場だった。教の言葉を借りるならば「異端の神々が支配する未開、野蛮の地」といったところだろうか。
 その中に違和感なく溶け込んでいるコズンがぼそぼそとつぶやく。
 
「なんでやつがリーダーなんだよ」

「えー、うん。あんたもあたしも、あの子よりランクは下だし、ね」

 場違いなフェアリーは目を反らしながら、答える。

 皿いっぱいの揚げジャガをかかえながら、レベッカを睨む。
 コズンは腐っていた。
 いつものことだとばかり、レベッカは肩をすくめる。
 さらにそれにむすっとする。悪循環の繰り返しは一週間前からずっとだ。

 フェイがリーダーとされた。
 クラッドとレベッカが話し合ったのか、それともどちらかの独断なのか、コズンは知らない。
 だが、奴にリーダーの力があるか。疑問だ。一匹狼めいたスタイルのように見えて、今だ学校に通っているのもよくわからない。力量があってもそいつに付いていくべきかどうか、それを考えるのも冒険者を長く続けるコツだと、以前のリーダーには教わった。少し前、リーダーが〝火炎球馬鹿〟というろくでなしで、火炎の球を洞窟内で放ち、ろくでもない目に会ったパーティもある。もちろん彼らは帰ってこなかった。そうはならないだろうか。
 コズンはすこし唸りながら、フェイの顔と声を思い出す。

「リーダー? レベッカさん、本当にこの人数でそんなものが必要ですか?」

 きょとんと戸惑った所在なさげなサマ。おそらく奴にも苦手があるのだ。それを思うとついコズンはにやついた。油で汚れるのも気にせずに、うれしそうに揚げジャガを頬張る。


「け、フェイのやろうなんざ……」
「俺がなんだ」

 不快そうに顔を歪めたフェイがいつの間にか横に座っていた。こういった宿のにおいに耐えられないのだろうか、顔は少し青い。
 レベッカがスッと間に入り、まあまあ、となだめる。

「安心しろ、簡単な怪物退治だ、おまえはみていればいい」
「ハッ、てめぇこそ、しっぽ巻いて帰るならいまのうちだぜ」

 二人に依頼されたものは辺境の村で起こった羊や人の連続失踪事件だった。犯人もおそらくながらわかっている。飛び大口という巨大コウモリの変種で、翼の生えた袋のような形をしている。オークでも丸呑みにしてしまう巨体をもつ化け物だ。しかし、単独で活動する生き物であるから、ある程度の腕が倒せない相手ではない。

「あんたらねぇ、いいかげんに……」

 腹を据えかねたレベッカが、顔を引きつらせながら二人に視線を向けたときだった。

 悲鳴が外から聞こえる。それは複数だ。老若男女、果ては鶏と豚も騒いでいるようだ。考えもなしに飛び出したのはコズンだった。止めようと裾をつかんだレベッカごと酒場の外へとかけだしていく。
 フェイだけは自身の耳だけに届いているその羽の音にゾッとした。大型の飛行生物が多数いるようだ。夜の帳が降りようとしているとき、現れる飛行生物といえば、飛び大口などに類する巨大コウモリのたぐいだろう。
 優れた聴力を先祖から受け継いだフェイの耳ならもっと遠くの物音まできくことができる。なのに突然、そいつらはどこか別のところから引き出されたように現れた。

(召還術か?)

 戸惑いとツバを飲み込んでから、フェイは得物を握った。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ 


 外に出ると見事に夕日が地平へと沈んでいくのが見える。風は冷たくコズンは肌を震わせた。暖かな酒場から飛び出したことを少しだけ公開しながらもあたりを見渡した。
 夕方の赤い空に、黒い汚点がいくつも飛び交っているようだ。
 汚点は翼を持つ巨大なコウモリだ。目は退化して皮膚の中に埋もれて、その代わり肥大化した口が体の大きな切れ目を入れている。喉か胃に当たる部分がたるんでいて、だらしなく風に揺られていた。明らかに飛び大口だった。
 コズンが珍しく疑問という思考を抱こうとした時、一体が群れから飛び出し、近くにいた少女に襲い掛かる。魔法使いによくある旅装束をしていた。スタッフを構えて心得のある呪文を放とうと必死だったが、次の瞬間には黒に覆われて消えた。黒い翼を持つ真っ赤な口が彼女を丸呑みにして、空へと去っていったのだ。コズンは舌打ちしながら、槍と盾を構え、そちらに近寄ろうと駆ける。肩に乗りレベッカはあたりを見渡し、叫ぶ。

「左!」

 コズンはレベッカの一言で左へと跳ぶ。さっきまでいた場所に黒い影がぐぉんとうなりをあげ通り過ぎていった。舌打ちしながらも、槍を構えあたりを牽制する。いつの間にか汚点はコズンの周りに集まりつつあった。

「上から!」

 風の鳴る音が近寄る。目の前が急に夜の帳が落ちたかのように黒くなり、そしてパカリと肉の赤に染まる。急降下してきたその口に槍を突き立てる。肉を貫く感触と獣の口臭に顔をしかめながらも、とっさに槍を離し、飛び退く。
 イノシシ狩りと同じで掴んだままでは引きずられて怪我を負う。一度引きずられたことのあるコズンは既視感を持つもの特有の焦燥、いや、ビビリを胸に残しながら、後ろを振り向いた。
 槍が邪魔で飛べなくなった飛び大口は砂埃を散らしながら転がっていた。そのうち絶命するだろう。これで一匹。

「よし!」
「バカ! 武器離してどうすんのよ!」
「あ゛」

 思わず、太ももを叩いて安堵していたコズンは、自分の失敗にもう一度太ももを叩くことになった。ベターな選択ではあったがベストの選択ではなかった。牽制用の槍を無くした二人に、黒い影がまた一匹また一匹と彼らは襲いかかる。獣臭い風が羽音ともにびゅうびゅう吹き荒れる中、レベッカの指示が響く。

「右! 次は下がってから前進! 止まって受け流し!」

 指示に疑問一つ挟まず、コズンは動き続ける。
 黒い影は戦士をとらえることはできない。寸でのところでかわされてしまう。風に敏感なフェアリーであるレベッカだけでも、反射に優れるコズンだけでもできない回避運動。特性を補い合い、お互いを知り尽くしてこそできるコンビネーション、いやパーティプレイと表記した方がただしいだろうか。

(今!)

 生暖かい風を避けきったときだった。レベッカは雲間から光を見いだすように攻撃のタイミングを見つけ出す。

「ダガー」

 コズンはレベッカに言われるまま腰からスローイングダガーを引き抜き、そのままレベッカにひょいと渡す。ダガーを肩に当て、剣でも振りかぶるように全身を使い投げつける。ひゅんと軽い音の後、鉄の刃が一匹の飛び大口の翼の薄い皮膜を突き破り、それを地面へと突き落とした。

「はい! もう一本!」
「ほいさ、あと4本」

 レベッカは相方の顔を見ながらダガーを受け取る。追いつめられた時特有の笑いをしている。状況を楽しむことでコズンは張りつめた精神をうまく維持してはいるが、それも持つだろうか。本人は持たせる気ではいる。だが無理だろう。この均衡は持たない。数が違いすぎる。おそらく何かに遊ばれているのだろう、とレベッカは結論づけた。
 だが、それもフェイがくれば逆転する。レベッカはそう考えながら、生暖かい黒い風をしのぐことにした。


▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

(今、羽音が現れたところへ向かえば、犯人を捕らえられる)

 酒場から出て、夜の冷涼な空気を思い切り吸い込み、フェイは思考した。
 コズンと羽音達が暴れる音は聞こえる、そちらに向かって助太刀したならおそらく犯人には逃げられてしまう。
 見つめた夕日が目にいやに痛かった。

(どうする? どうするフェイ・ローよ?)



――――――――――――――――

2008/02/22 23:49 | Comments(0) | TrackBack() | ○Get up!!
立金花の咲く場所(トコロ) 55 /ヴァネッサ(周防松)
PC:アベル ヴァネッサ 
NPC:ラズロ リリア リック 畑の妖精(?) コボルド三体 主犯格の男
場所:エドランス国 香草の畑

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


右目のまぶたの辺りが、時折ビクビクと震える。
ヴァネッサは、指先でまぶたを押さえた。
しばらく経ったところで、指を離してみる。
……治らない。

「どうしたの、ヴァネッサ」
リックとの絶妙なコンビネーションを見せるリリアが、コボルドへの攻撃の手をゆる
めないまま話しかけてくる。
「なんだか……ちょっと、まぶたが……」
「切れたの?」
「ううん。なんだか、震えるの。それが気になって……」
「うーん。魔法の使い過ぎ、とか?」
「わからないけど……」

ヴァネッサは、考え込む。
ギサガ村を出て、だいぶ経つ。
村にいた頃は頻発していた発作も、今ではほとんど起こらなくなっていた。
村の環境が悪いということではなく、アカデミーでの学習成果によって体質が改善さ
れてきているということである。
独学で使っていた魔法も、より効率的な使い方がわかってきて、体への負担が軽く
なっているのだ。
あとは、訓練。
魔法を重視した授業の取り方をしているヴァネッサだが、必須単位として最低限、護
身術程度の訓練を学んでいるのだ。
もっとも教官には「あなたは、武術にはあまり適正がないようですねぇ」と言われる
ような成績だが。

とにかく、以前のように魔法を使っただけで発作に苦しむこともなくなった。
だから、このまぶたの震えが「魔法を使ったため」とは断定できない。

(一体何なんだろう……?)


それが、男の指輪が淡い光を放った後から起きているのだということを、ヴァネッサ
は知らない。


リックはけん制のための攻撃をしながら、残りの体力を計算していた。
リリアとのコンビネーションがあるとはいえ、コボルドニ体を一気に相手にするのは
つらい。
持久戦に持ちこめない以上、そろそろ片をつけないと、危ない。
(あいつら、うまくやれるかな)
ちらり、とアベルとラズロのことが頭をよぎる。
援護に来て欲しいのはやまやまだが、二人は主犯格である男の相手をしているのだ。
アテにしないほうが、賢明だろうか。

ぐぎゃおっ、と威嚇のようなこえをあげて、コボルドニ体が襲いかかってくる。
その方向に向き直った瞬間――視界の片隅に、もう一体を捕らえた。

(同時に来たっ!?)

先に倒れていた一体が、起き上がってきたようだ。
彼らの間に作戦なんて高度なものはないだろう。
たまたま、襲いかかるタイミングが同時になってしまっただけだろう。

――不幸なことに。

「くっ!」

多少のダメージを覚悟して、目の前の一体を仕留めることに専念する。
渾身の力で突き出した剣はコボルドの足を貫き、動きを封じることに成功した。
――あとは……。

「リック!」

リリアが茂みから駆け出しかけた時。

「はいはーいっ」

突然、真っ白い布がコボルドに覆い被さる。
残ったコボルドニ体の体を縄のごとくぐるぐる巻き上げていくそれは……畑の妖精
だった。

「これぐらいしかできることないけど、まあ許してね」
「これぐらいって……充分だよ。助かった」

リックは荒い息をしつつ、額の汗を乱暴にぬぐった。
妖精は足に負傷したもう一体も、まとめて締め上げていく。
コボルド達はぐうむうとうなり声を上げ続けているが、妖精の締め上げる力は案外強
いらしく、どうにもならないようだ。

「大丈夫?」
「ちょっと……頑張りすぎたかな。くたびれた」
「やだなあ。まだまだ若いじゃないか」

まったくもって緊張感のない妖精の軽口に、リックは苦笑した。

「リック!」
「ケガはしてない?」

辺りへの警戒を怠らないリリアと、それに伴ってやってくるヴァネッサの姿があっ
た。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2008/03/05 19:03 | Comments(0) | TrackBack() | ▲立金花の咲く場所
ナユタその1/ナユタ(周防松)
PC:ナユタ
NPC:料理人
場所:どっかの町

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

野イチゴがほしいのだ、と彼はいう。
野イチゴというのは、地面に生えている草みたいなやつに実る、小さくて赤い果実で
ある。
……という認識を、彼女はしている。


「野イチゴを求めています。
ただしクロテの森で採れたものに限ります。
傷みのないものだけ、カゴ1つ分お願いします。
カゴはこちらで用意していますので、私の元へカゴを受け取りに来てください」


依頼をしたのは、町で喫茶店を営む男だった。
野イチゴで新しいスイーツを作りたいのだが、あいにく店を空けて出かけている時間
がなく、ギルドに依頼を持っていったらしい。


産地によって、野イチゴの味は変わるのだろうか?
どこで育とうが、甘ずっぱい、おいしい野イチゴであれば良いのではないのだろうか

それを何故、わざわざ産地限定で?
クロテの森の野イチゴに、一体どれだけの価値があるというのか。

「わっかんないわー」

少女というにはちょっとばかり年上で、女というにはちょっとばかり年が足りない感
じの娘は、前髪をいじくった。

ぶちぶち言いながらも彼女がこの依頼を受けたのは、ひとえに危険度が低いからであ
る。
クロテの森にいるのはおとなしい小動物ばかりで、奥に行かない限りはそうそうおっ
かない生き物に出くわす心配がない。
野イチゴの採れる場所は入り口からそう離れていないというから、心配いらないだろ
う。
……まあ、そのぶん、報酬の方ははっきり言って安い。
しかし、その点にさえ目をつぶれば、そこそこ良い仕事ではある。

「贅沢言わないっ。今日の飯代稼げりゃそれで充分!」

娘は片手に持ったカゴを空高く上げた。


ナユタ、19歳。女。
取りあえず今日も生きている。

2008/03/05 19:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○ナユタ
へザーその1/ヘザー(周防松)
PC:へザー
NPC:子供とその母親
場所:どっかの街

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とある街の川にかけられた橋。
その欄干に寄りかかり、すぼめた両手をぴたりとくっつけ、それを長いことじっと見
ている、フードをかぶった少女がいたら。

あるものは気付きもせず通り過ぎ、またある者は怪しいと思って近寄らず、またある
者は何かとても辛いことがあったのだろうなと同情を寄せ、またある者は。

「ねーねー、何してるの?」

――真相を確かめようとするだろう。

声をかけたのは、古ぼけたぬいぐるみを片手に持った子供である。
少女は、ゆっくりとした動きで顔を動かし、子供を見た。

「こんにちは、ですの」

そして、にこり、と笑う。

「こんちは! ねーねー、何してるの?」

子供は同じ質問を繰り返す。
少女は微笑みの表情を変えぬまま、そっと己の両手を子供の前に差し出した。

子供がのぞきこむと、両手の中にできた空間に小さな小さな赤い蝶がいて、羽根を閉
じたり開いたりしていた。
子供は、今までそんな色の蝶を見たことがなかった。
――捕まえて、もっと近くで見たい。
子供は少女の了解を得ようともせず、指を差し入れた。
「あっ」
子供の口から、かすかな声がもれる。
指が触れた途端、蝶はかき消えてしまったのだ。

「消えちゃいましたわ……」

がっかりした顔つきで、少女はうなだれる。

「ご、ごめんなさい!」
「いいんですの。まだまだへザーさんは“みじゅくもの”だから仕方ないですわ」

へザーさん、と言ったかこいつ。

子供はきょとんとエルフ族の少女を見上げる。

自分は、名前で自分のことを呼ぶのは、とっくに卒業した。
それなのに、自分より年上にしか見えないこいつは、今確かに「へザーさん」と言っ
た。
へザーというのはおそらくこいつの名前だろう。
名前で自分のことを呼ぶうえに、「さん」までつけるとは。

……変なやつだ。

子供はぽかーんと見つめるより他になかった。

少女の方もニコニコ笑ったまま、子供を見る。

……悪意も敵意もないが、意味もない見つめ合いがしばらく続く。

「何やってるの、早く来なさーい!」

そのうち、母親らしい女性に呼ばれ、子供は走り去っていった。

へザーというらしい少女は、子供の後ろ姿をしばらくぼんやり見ていたが、そのう
ち、再び両手をすぼめてくっつけると、視線を落とした。
その手の中に、ゆっくりと形を現してきたのは……小さな青い魚。
魚は、手の中を泳ぐがごとく、ちろちろと動き始めた。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2008/03/05 19:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○ヘザー

<<前のページ | HOME | 次のページ>>
忍者ブログ[PR]