忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/10/21 07:39 |
神々の墓標 ~カフール国奇譚~ 2/カイ(マリムラ)
件  名 :
差出人 : マリムラ
送信日時 : 2007/06/08 16:55


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PC:カイ ヘクセ
NPC:大僧正 アティア
場所:カフール国、スーリン僧院 反省房
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「久しぶりだな、息災か」
「はい、おそれいります」
 カイが深々と頭を垂れた相手は、かつての師の一人で現在はスーリン僧院の
大僧正を勤める男だった。カイがこの地で修行をしたのがもう7年ほど前、い
や、さらに遡って12年前には、まだ武術指南役の一人であった男である。
「はは、私にこのような姿は似合わんだろう」
「不思議と違和感はありませんよ」
「世辞も言えるようになったとは成長したな、カイ」
 嬉しそうに目尻の皺を深くする。その目はまだ幼かった頃のカイを見ている
ようだった。
「理由は聞くまい、ここでの滞在を許可しよう」
「おそれいります」
「どうせ聞いたところで答えられんのだ、聞くだけ無駄というものだ」

 そう、カイは祖国であるカフールに戻っていた。しかし主であったはずのセ
ラフィナには解雇通告をされ、もとの職場へ戻るわけにもいかず、また、誰に
も事情を説明しづらい状況であった為、幼い頃に世話になったスーリン僧院へ
と足を運んだのである。
 僧院の様子は昔とあまり変わっていない。クォンロン山の麓に位置するこの
僧院は、山頂に祭られた祖霊神の霊廟を守るだけでなく、カフールにおける武
道の総本山的役割も担っていた。この山を守る誓いを立てたものは特別な儀式
を行い山へ踏み入ることを許されるが、他の大勢の門徒は武術の基礎を学び、
各地へ散っていくのだ。そして、カイももちろん後者であった。

「そうだ、面白いものを見せてやろう。ついてこい」
「はっ」
 誓いを立て、特別な儀式を行った者は、基本的に山から離れることはない。
その為、外部からの来訪者は「面白いもの」であった。……つまりカイもそう
なのだが。
「他にも来訪者が?」
「いや、珍客だよ」
 大僧正は背中で返事をし、振り返ることなく歩く。カイもそれに無言で付き
従った。

 大僧正は、僧院の中でも特に奥まった一角へと進んでいく。カイの記憶が確
かならば、その先にあるのは反省房だ。カイは僅かに眉根を寄せた。
「他の者から遮断する必要があるほどの珍客のようですね」
「まあ、見れば意味は分かるだろうよ」
 大僧正が足を止め、カイが先に進むよう促す。角を曲がり、反省房の並ぶ廊
下へ出たカイは、振り返った少女と目が合い足を止めた。
「……なるほど、隔離の必要がありそうだ」
「アティア、奥の院から出ないようにと申し付けておいたろう!」
 大僧正が驚いたように飛び出し、少女をとがめた。
「だって、ヘクセとおともだちになったんだもん」
「だが、約束してあったはずだ」
「ちゃんとおべんきょ、終わらせたもーん」
 少女は何故怒られているのかわからないといった表情で大僧正を見上げてい
る。
「あー、彼女はアティアだ。理由あって奥の院で預かっている」
 頭を抱えながらカイにアティアを紹介する大僧正。その途中で横槍を入れた
のは独房の中の人物であった。
「私の紹介はないのか?」
「わたしが紹介する! ヘクセよ、わたしのおともだち!」
 声は少女。反省房の中を見ていないので外見は分からないが、アティアより
年上なのだろうと思われた。
 ……女人禁制のスーリン僧院に、何故二人も女性がいる?
「こちらが珍客だよ。何十年も破られていなかった結界の中に突然迷い込んだ
子だ」
「ヘクセは珍客じゃないもん。おともだちよ」
「混乱するからアティアは黙りなさい」
「それよりお兄さんはだーれ?」
 アティアという少女は好奇心が旺盛なようだ。カイは困っている大僧正への
苦笑を咳払いで押し隠し、アティアに向き直った。
「カイだ。しばらく僧院で世話になる」
「アティアよ。あなたもおともだちになる?」
 アティアに差し出された右手に戸惑いながらも、カイは右手を差し出した。
アティアは両手で包み込むように手を握るとぶんぶんと上下に振って笑った。
「はい、これでおともだち。カイも外のことをいろいろ知ってるんでしょ?」
「少しはな」
「ヘクセとどっちが物知りかなぁ。ヘクセの話って面白いんだよ!」
 カイが困って苦笑を返すと、大僧正がそっと耳打ちした。
「ヘクセと名乗る少女だが、霊廟で捕獲された不届き者だ。目的を探って欲し
い」
「……」
「幸か不幸か、アティアに気に入られたようだな。少女を表に出す代わりにお
前が監視を続けなさい」
 アティアが頬を膨らませて大僧正を睨んでいる。
「おじさん、へクセは悪い子じゃないよ。出してあげて!」
「しかし、お前も知っているように決まりというものがあるのだよ」
「修行でズルしたり、他の子いじめたわけじゃないもん。おともだちだもん」
 ねー?と反省房に向かって同意を求めるアティア。ヘクセは笑ってアティア
に答えた。
「大人の事情って便利なものがあるのだよ。子供に対しての言い訳はコレで大
抵片付けられる」
「そうなのー?大人ってずるいよ。子供の事情もあればいいのに」
 その返しに大僧正が噴き出した。
「まあいい、しばらく院内での滞在を許そう。ただし、カイの見える範囲で
だ」
「……大僧正、それは貧乏くじというやつでしょうか」
「びんぼうくじってなあにー?」
「それはだな、心の貧しいものだけが引けるおみくじのことだよ。当たりを引
けば心が豊かになって、友達が増えるんだ」
「ヘクセってかしこーい!カイは当たりを引いたからわたしたちのおともだち
になれたのね!!」
 カイが呆気にとられている中、大僧正は静かに反省房の鍵を開けた。
「カイ、任せたぞ」
「大僧正も、お人が悪い……」
 ゆっくりと扉を開け、中から出てきたのは、長い黒髪。顔を上げると黒い瞳
に……浅黒い肌。カフールの人間ではない。異国の少女だった。歳は13~1
5くらいだろうか。
「よろしくな、カイ」
「とりあえず嘘を教えるのは良くないな、へクセ」
 左手で交わした握手は、ほんの少しだけ、きつく握られた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PR

2007/06/09 13:05 | Comments(0) | TrackBack() | ●神々の墓標~カフール国奇譚~
神々の墓標 ~カフール国奇譚~ 3/ヘクセ(えんや)
PC:ヘクセ、カイ
NPC:アティア
場所:カフール国、スーリン僧院
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「発ッ!!」
「あきゃっ!!」
ヘクセのガードする腕に添えられるようにかざされた僧兵の掌が、
一気に吐き出された呼気と共にヘクセの腕に触れ、
次の瞬間、ヘクセは数mほど空を舞った。

「~~!!」
大地に叩きつけられたヘクセは呼吸すら思うままにできず、
鼻水やら涙やら胃液やらを垂れ流し
手足をあべこべのほうにばたつかせてのた打ち回った。

   *   *   *

「…うぅ、ぽんぽん痛ぁい」
しばらく後、縁側で横になりながら、ヘクセは呻いていた。
「あんな無茶するからだ。」
ヘクセの手当てをし、カイはあきれたように呟いた。
「でもねー。一度、発剄ってやつは受けてみたかったんだよね。
 まさかここまで効くとは。手加減してもらってもきっついねー。
 もうね、ガードなんか関係ないのね。
 衝撃が直接内臓に響くっていうの?
 …うぅっ、とーぶんご飯食べらんないかも。」
話してる途中で、つらさがぶり返したのか、青い顔で呻くヘクセ。
「ここの錬気術は特殊だからねぇ。
 どの地方の魔術とも戦闘術とも違う。
 人でありながら、人を超えようとする技術だ。
 正直、体験しても信じられないものがあるよ。」
目の前の庭では、十数人の僧兵が一斉に同じ型を繰り返している。
「しかしカフール武術というものは面白いね。
 普通なら筋肉を鍛え上げる、力を込める、速さを求める、
 それを追求したほうが強くなりそうなものなのに…。
 あの型を見てよ。大きく振りかぶりもしない。
 なのに、しっかり大地をふむ力から、呼吸から、余すとこなく力をくみ上げ
 拳に集約している。
 人体の構造を知り尽くした上での無駄のない動作。
 徹底して合理的なのに、哲学的ですらある。
 …面白いもんだ。」
ヘクセは興味津々といった様子だ。
「…問題は修得の難しさだよねー。
 目に見えにくい部分を鍛えるし、
 修得には理解が必要だけど、判り難いときている。
 他人に教えてもらえる類のもんでもないしねー。
 ある程度の水準までなら、
 単純に筋肉を鍛えたりする現代の戦い方のほうが分かりやすいし、
 目に見えて強さが実感できるだろうし。
 …はやんないわけだよねぇ。」
ヘクセは調子悪いくせに、一人で延々と喋り続ける。
「お前はカフール錬気術を学びに来たのか?」
カイは思わず尋ねた。
「微妙に惜しい。」
ヘクセは寝転がったまま横目でカイを見て微笑んだ。

「ヘクセー!
 持ってきたよー!」
とてとてと向こうからアティアが何冊もの本を抱えて走ってくる。
「アティアお帰り~」
ヘクセは起き上がると、アティアの頭をなで、本をぱらぱらと開いた。
「…これは違う。…これは知ってる。…これは…!ビンゴだ!
 すごいよ、アティア!えらいえらい♪」
ヘクセはお目当ての本を見つけて、嬉しさのあまりアティアの頭を撫でくりま
わす。
「…何を取ってこさせたんだ?」
「うん、カイ、私ね、気づいちゃったんだ。
 アティアなら、私の入れない場所でも入れちゃって、
 ノーチェックで何でも取ってこれちゃうんびぎゃっ!」
言い終える前に拳骨が降ってきた。
「こんな小さい子を、お前の犯罪行為に加担させるな。」
「犯罪じゃないよー。
 犯罪って言うのは、その国の法律で定められたルールを破ることだもん。
 アティアが本を持ってくることも、それを私に見せることも、
 法律は禁じてないんぎゃ!」
またも拳骨。
「カイー!ヘクセをいじめちゃダメー!」
「アティア~。お姉ちゃんを守って~。」
「誰がお姉ちゃんだ。」
カイはアティアに泣きつくヘクセを呆れた様子で見下ろすと、
いじらしくもヘクセを守ろうとするアティアの頭を撫でた。
「いじめてないよ。ちょっと叱っただけだ。」
安心させるようにカイは微笑んで見せた。
「へぇ。そんな顔も出来るんだ。
 …妹か妹分でもいた?」
カイはへクセには仏頂面に戻る。
「お前に話すようなことはない。」
「うーん、そこまで露骨に顔に出されちゃうと、
 傷ついちゃうな~。」
かけらも傷ついた様子もなく、ヘクセは軽口を叩くと、本をぱらぱらとめく
る。
「アティア、これ面白いよー。
 これは山神の巫女に関する文献だねぇ。
 ほら、これは歴代の巫女の名前だ。
 横に在位まで書いてある。
 ほら、ここを見てごらん。
 祖霊神の妻、つまり聖皇母の名前がある。
 伝承の巫女とはこの山の巫女だったわけだ。
 その次の代は聖皇母の妹だな。
 なるほど、聖皇母が祖霊神の奥さんになっちゃったから、
 役目を引き継いだわけか…。
 …ん?聖皇母以降も巫女が存在したってことか?
 …聖皇母以前の巫女は…これはこれで興味深いなぁ…」
「ヘクセ、どこが面白いかわかんないよー?」
しばらく一緒に覗いてたアティアが不満げにヘクセを見上げる。
「この面白さはアティアにはわかんないだろうなぁ。
 歴史の真実が少しずつ垣間見れる瞬間っていうのは、
 例えるなら、そう…長年惚れ抜いて口説き落とした女を
 ベッドに横たえ衣服を一枚ずつ剥ぐふぅっ!!」
カイの拳が容赦なくとんでくる。
「なんで、例えがおやじくさいんだ?」
ヘクセはしばらくその場でうずくまっていたが、脅威の回復力で立ち直った。
「じゃあ、アティアに面白い話をしてあげよう。
 アティアはラスカフュールのお話は知ってるかな?」
「んーとね、たしか祖霊神さまが山神さまに神の力を渡しちゃったんだよね?
 それで聖皇母さまと結婚して、いつまでも幸せに暮らしちゃって、
 はっぴーえんどなんでしょ?」
「そうそう、それ。
 ラスカフュールが巫女に恋をして、山神に3つの取引を持ちかけ、
 ラスカフュールの持つ神の力を山神に譲ることで、巫女を手に入れたという
 カフール皇家の出自の伝説だ。
 ところでこのお話に出てくる山神さまって、どんな姿をしてると思う?」
「ヘクセ、知らないのー?
 山神さまは『人の形をお持ちにならない』んだよー。」
アティアは『そんなことも知らないなんて、しょうがないなぁ、もぅ』
とでも言いたげな顔でヘクセを見た。
「そうそう。アティアは賢いねー。
 山神は人の形を持たない。
 これは神話や伝承でも明言されている。
 じゃぁ、どんな姿をしていたのか?
 この国の神話を体系化した『カフール書記』にはこう書いてある。
 『山神は姿は見えず、人の形を持たず…』。
 だけど一方で、同時期の『山陰記』ではこう書かれてる。
 『山神はその長い胴体で山を包むようにとぐろを巻いた』。
 では問題です。
 カフール皇国の紋様に描かれている動物はなんでしょう?」
「…龍か。」
カイは思わず口を挟んだ。
「はい、カイ君正解!どんどんぱふぱふ~♪
 実のところ、神話における山神は龍神なのだよ。
 姿を見ることも出来ない。もちろん人の形を持つ訳もない。
 だけど、昔の人たちは誰もが山神は龍だと信じていた。」
ヘクセはアティアの頭を撫でながら言った。
「じゃあ、祖霊神さまは龍神さまに人の形をあげようとしたの?」
「そうなるかな。」
「そんなのダメって言われるに決まってるじゃん!
 祖霊神さまって変なの。
 龍のほうがかっこいいのに。」
「あはははw
 アティアの言うとおりだ。
 ラスカフュールはおかしいね。
 どれほど憧れても龍は龍、人は人にしかなれないのにねー。」
ヘクセはアティアの頭を撫でながら言った。
「龍の伝承はいろいろあってね。
 龍退治の話とか、あるいは龍が地形を変えたとかいう話まであるんだよ。
 なんならいくつか聞かせようか?」
「聞きたい!」
「よし、それじゃぁヤマタノオロチの話は知ってる?…」

   *   *   *

いつしかアティアはヘクセの膝に頭を横たえて眠りについてしまった。
ヘクセはアティアの頭をそっと撫でる。
「…カフールの歴史を調べに来たのか?」
その様子を眺めながらカイは尋ねた。
「ふふふ。それも惜しい。」
そう言ってからヘクセはチェシャ猫のような笑みを浮かべてカイを見た。
「…大僧正に頼まれたのかい?
 私の目的を探れとでも?」
カイは思わず黙り込んだ。
「別に教えても構わないんだが、私だけというのはつまんないなぁ。
 カイがここにいる目的でも聞かせてくれたら、教えてあげてもいーけど?」
「………」
カイは黙り込む。
ヘクセはその様子を見て喉の奥で笑った。
 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/06/12 00:02 | Comments(0) | TrackBack() | ●神々の墓標~カフール国奇譚~
易 し い ギ ル ド 入 門 【27】/シエル(マリムラ)
****************************************************************

『 易 し い ギ ル ド 入 門 【27】』 
   
               ~ 銀色の恋人 ~



場所 :ソフィニア
PC :シエル エンジュ (ミルエ イェルヒ)
NPC:赤髪の男(アルフ) アンジェラ
****************************************************************

「っ」

 社交場のダンスのような体制で、シエルは一瞬固まった。
 正確にはアルフとシエルの二人が、なのだが、思考回路も一旦停止してしま
ったシエルにはそこまで考える余裕がない。
 一気に心拍数が上がる。
 顔が紅潮し、自分の不覚さとか恥ずかしさとかが入り混じった、変な緊張状
態に陥る。

「あ、ありがとう」

 かろうじて言葉を絞り出すと、アルフはたいしたことじゃなさそうに無言で
シエルの体勢を立て直した。背中に当たる手がやけに気になって、シエルは慌
てて離れる。

 彼は銀の髪の人じゃない。わかってる。
 でも、上がった心拍数は、なかなか下がらない。
 あれよ、危険なときのドキドキと恋のドキドキは勘違いしやすいのよ。
 そう考えて打ち消す。馬鹿みたい、恋だなんて。私には心に決めた人がいる
のに。
 でも、銀の髪の彼は顔も思い出せない。会えるという保障もない。
 数歩離れて待つアルフの、触れた背中がやけに熱い。

 シエルは自分がどんどん混乱していくことに困惑していた。アルフは無言で
待っている。

 そういえば、さっきのは誰にも見られなかったかしら。
 慌てて辺りを見回すが、今いる細い路地にはアルフとシエルの影しかない。
 しかしかえって二人きりということを意識して戸惑う。だからなんだという
のだ。

「……いきましょう」

 顔を合わせるのが恥ずかしくて、シエルは片手で額を押さえるように視界の
半分を遮った。歩き出すと、それに合わせてアルフの影も動く。そのことに少
し安心しながらも、眠気を遮った軽いパニックはまだ続いていた。動悸が治ま
らない。
 しばらくしたら動悸も治まるだろう。もうしばらくの我慢だ。
 シエルは自分に言い聞かせるように念じ続ける。
 前を歩く影が急に止まった。なんだろうと不思議に思ったシエルがつい顔を
上げる。
 目の前に、顔があった。焦りと混乱で顔が朱に染まる。

「ちょ……」
「また倒れるのか」

 目の前で綺麗な顔が面倒臭そうに歪む。治まりかけていたパニックが瞬時に
再発する。
 頭の中も視界もぐるぐる回って立っていられない。ふらつくシエルの腕をア
ルフが掴む。
 腕がかぁっと熱くなった。そして顔からは一気に血の気が引く。視界の色が
なくなり、モノクロームの世界は次第に影を落とす。身体からぐにゃりと力が
抜ける。そのまま崩れ落ちさせてくれないのはアルフの腕が支えているから
だ。
 もうどうなっても知らない……。
 睡魔とは別の理由で意識を失ったのはこれが初めてだった。


  <] <] <] <] <]  [> [> [> [> [>


 宿屋・クラウンクロウまでもう少し。大通りを迂回して細い路地を数分歩
く。
 荷物は完全に脱力しているが、さほど重くもない。
 アルフは宿を目視確認し、宿の傍に立つ獣人と目が合った。その隣のエルフ
が血相を変えて近寄ってくる。

「ちょっと、誰よあんた!」

 エンジュが、凄い剣幕で細い路地に駆け込む。殴らんばかりの勢いだった
が、抱きかかえられたシエルを見て躊躇したのか、アルフに手は出していな
い。

「クラウンクロウまで送るように頼まれた」

 お姫様抱っこ状態のシエルを下ろそうともせずにアルフが答える。
 後ろから追ってきたアンジェラの存在に少し冷静さを取り戻しながら、エン
ジュが両手を差し出した。

「私の相棒よ。確かに受け取るわ」
「相棒という証明はあるか」
「私が相棒って言ったら相棒なのよ!それともギルドの証明でもいる!?」

 差し出す手に光る指輪。ちょっと事情を知るものならそれがBランク以上の証
明になることがわかるはずだ。

「そうか」
「知ってるだけ全部言いなさいよ!シエルがこんなになるまで何をしたの!」
「現在は過度の睡眠不足状態。彼女は何者かに追跡されている。詳細は知らな
い」

 まあ嘘ではない。詳細なんて聞いていないのだから。
 エンジュはアルフの腕からシエルを無理矢理取り上げた。


****************************************************************

2007/06/12 00:04 | Comments(0) | TrackBack() | ○易しいギルド入門
蒼の皇女に深緑の鵺 08 /ザンクード(根尾太)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:アラクネ
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
─その外骨格の骸は、大半がその四肢から胴と首まで刻まれてるが…
蟲族という異形の種だという事は明確だった。
血統各々が危険な能力を有し、
一説によれば中でも、人間やえる問わず他の種の居住地を食い荒らした後、その地の
種の内蔵を喰らって皮を被り、
その種の群として紛れまた他の村々を侵攻し殺戮を繰り返す危険な者達だとも、
男は話に聞いていた。

しかし…その蟲種共のこの様な惨殺の有様を見て
そんな知識よりも男は、
標的たる“神の子”に仕えているこの“魔物”の正体の方が気掛かりだった。

原型すら留めているかいないかの状態で、周囲に散らばった甲殻と内蔵。

ここまで惨殺し、ひょっとすれば自分達が追ってる姫君すらも殺害しているかもしれ
ないその脅威の存在が
祖国の近くをさまよい、何らかの目的で国境に入った際の危険性を最も恐れた。


…─…と…追尾の為に移動をする直前…
不意に目に付いたのは一枚の血塗られた布切れ…
刻まれた骨格が重なっていることから、恐らくはこの蟲どもの私物なのだろうと…
興味本意に拾い上げようと手を伸ばす。
乾燥しかかっている粘りが糸を引き
ただならぬ悪臭が吐き気を誘う…。

その赤い布の一片には、蟲種の血で大半が付いていたが…男は布に“紋章”らしき気
味の悪い絵柄を見つけた。


──「それに気がついたかィ?」─

瞬間…

男とその部下達はその不気味な枯れ声を耳にし、とっさに振り返った…
その時だった。

―轟く笑い声の直後…男の顔の側面に突如、

棺桶を背負った毛むくじゃらの大きな影が落下し宙で停まる。

「ハァ~…ロォ…~ウ」

男は反射的に振り返ると刀を抜き、同時に抜刀した部下達が斬りかかる。

だが…

その毛だらけの異形の影から片腕が現れ、瞬間的な速さで奇妙な指使いをしたその
時、
まるで一時停止のごとく男と部下達の動作が空中で停止する。

「さァっすが、カフールの隠密兵…。“エテ公”にしては良い動きだ…」

言うと同時に、もう一本の片腕から順に…異形の影から五本の腕が生えるように現
し、…複眼が六つある、気色の悪い毛玉の顔が出現すると、指が動いた瞬間に部下達
の首が締まり宙に高く浮かんでいく。

男は刀を振り上げるが、その寸前で腕が、何かに拘束されたように動かなくなる…。

「オイオイ…待ちなって
話がしたいってのがわからねぇか?座って頭でも冷やせよォ~」
男はもがくが、言葉が放たれて、
またその毛玉の異形が指を動かすと、今度は脚の関節が強靱な力で動かされ、言葉通
り…
あぐらの姿勢に“抑えつけ”られた…

「貴様…」

「ガタガタ言ってねーで刀を鞘に閉まいな、下っ端がタコになるぜ?」

向こう側では部下達の体は首だけでなく、
体中から僅かに骨が軋む音が鳴り始めるの聞き、男は刀を鞘に収めようと腕を動かそ
うとする…。

すると、先程まで腕を凄まじい力で締め付けていた痛みが消え、
部下達は宙から卸されるが、絞首と同時に受けた軽い骨折のショックで失神してい
た。

逆さまに浮く毛の異形…
光と視覚の効果で見えにくくなってるが、よく見ると二本脚から糸状の何かにぶら下
がっており、

それ切断すると反転して着地し、毛の異形はあぐらを掻いて話しかけてきた。

「茶菓子はいるかい?」

またもや宙からゆっくり降りてきたのは、急須とカフール産の宇治金時パフェ2つに
2つの湯呑み茶碗。

降りてくる物体を繋ぐ糸を二本の腕で操作し、宙から茶を注ぎ並べる等…四本の腕で
器用に支度が同時進行し、ちょっとした“茶会”が出来上がってしまう。

「いや…」

「毒なら無ぇんだから~遠慮すんなよォ?。
向こうじゃこーいう珍味食うんじゃねーのかァ?。茶だけでも飲んでけよォ」

“紳士的な”おもてなし打って変わって、パフェをガツガツと食いながら茶を啜るそ
の素振りはやはり野蛮に見える。

恐る恐る湯呑みに手を伸ばし、緑色の色と湯呑みを観察してから…
その端に口を付け、男は啜り飲んだが、
混じりけの無いカフールの緑茶であった。


「・…何故、お前がこんなものを?」

「…いーじゃねぇかァ…蟲族の俺がカフールのお偉方に交流あっちゃ悪ィかよォ
~……?」

盛られたパフェを音を立てて食いながら…答えに対して言葉が無くなる男に
更にこう語った。

「俺ァ…おつむがオメェら“エテ公”共より達者でなァ…。
その紋章の“連中”も…
オメェの追ってる娘の事と…
そいつの“付き人紛い”な事やってる“ボウズ”の居所も…
よォく知ってんのさァ…」

──────
…夜が深くなる頃

山の中腹地点で見つけた廃村で、ザンクードは岩に一人腰を落ち着かせ、スピリスト
マーダーの刃を石で研いでいた。
ボロ小屋の隙間から差し込む朧気な月光に照らされながら…
彼は一人思い詰め反射する刃を眺めていた。

…と…背後に視線を感じ振り返ると、そこにはいつからか・…横になったセラフィナが
知らぬ間に目を覚まし、寝ぼけ眼でこっちをじっと見ていた。

「・…起こしたか?」

「いえ…。あなたは?」

「…暫くは起きている…、
仮にも護衛役だ。それなりの仕事はさせてもらう…」

確かに己の完璧主義による癖でもある…
だがそれとは別に…
こうして次の標的を狩る“爪”や“牙”を整えながら
虎視眈々と“その時”を待つのが…もうある意味“眠るよりも落ち着く”時間の一部
になってしまっていた…。

だから敢えて、心配をかけぬ様に「…当然の“職業病”でお前には関係無い。体なら
心配いらない…・。さっさと寝ておけ」
とだけ後から言葉をかけた…。


・…一匹の異形と一人の少女

蟲族と人間

相反する存在にしてこうして共存するのが、彼にとっては何年ぶりかの“因果”にし
か思えなかった。
そしてそれ故に・…この“爪”と“牙”が研ぎ澄まされている理由がそこにあり、それ
を忘れる事だけは絶対許してはならなかった。

…やがてその安らかな寝息を聞くさなか、彼は全ての暗器の調整を終えると横にはな
らず、
岩盤にもたれ掛けて地に座り…己の“因果”を呪いながら眠りについた…・。



──────

同刻…案内する六本腕の異形に連れられ、男ら小隊が山へ向かうなか異形は語る。

「お宅らの姫様はピンピンしてるぜ。“護衛”役の蟲種一匹のおかげでなァ…。問題
はそいつだ…」

「今はどこに?」

男は尋ねると異形は木の頂点に停まり小隊を見下ろして、
「この先を北に移動しやがった。奴らは首都に向かってるぜぇ…。俺が案内してやん
のはここまでだ…あとはオメェら自分達で好きにしなァ。」

と答え、
直後に何か小さく光る球体のようなものを取り出し空中から男へ投げ渡した。

「コレは?」
掌で握れるサイズの球体は金に光り、一部に輪が付いてるそれを異形は説明する。

「・…護衛の奴を確実に潰すための“催涙弾”だ。ピンチの時はそのわっかのピンを抜
いて投げるこったな。
殺しなら止めとけよォ。“侵略種”は血の臭いが一番そそるんだからな…。」

ある程度蟲種に関して入れ知恵を仕込まれ…男は思わぬ協力者の、その思惑に恐れ尋
ねた。

「何故お前はそこまでの施しを我々に…。」

「名前なら“怪術師”…アラクネと言っておこうか…。
なァに、“今の所は相棒”なんだから安心しなァ~♪仲良くしようぜェ~…“エテ
公”どもよォ…
あぁそれともう一つ…あの野郎に会ったら…
“ショータイムだ、ボウズ”
とだけ伝えてくれや。健闘祈るぜェカフールの諸君♪」

やがて手を振りながら異形は、六本の腕と二本脚で山岳の森を跳びまわって、
その姿をフェードアウトする品の無い笑い声と共に闇に消した…。


─かくて歯車は動き出す
全てを擦り潰す為のみに─
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

2007/06/12 00:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺
神々の墓標 ~カフール国奇譚~ 4/カイ(マリムラ)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
PC:カイ ヘクセ
NPC:アティア
場所:カフール国、スーリン僧院
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 眠ってしまったアティアを起こさないようにそっと抱え上げると、カイはヘ
クセに顎で先に歩くよう指示した。
「そういう態度はどうかと思うなぁ」
「アティアを部屋に寝かせた方がいいだろう。ほら、立て」
 ブツブツ言いながらも楽しそうに元気に立ち上がったヘクセは、軽やかに歩
き出す。
「お前、さっきまでの辛そうな態度も嘘か」
「え、アレは本当に痛かったんだよ。そう嘘ばかり言っているわけではないも
の」
 そう言いながらも見違えるように元気そうなヘクセにカイはげんなりする。
 女の子はもっとしとやかなものだと思っていた。一番身近にいたセラフィナ
は、もっと優しくてしとやかだったはずだ。あれは幼い頃からの躾ももちろん
あるが、出自や境遇とは別の根本的な何かが違っていたように思う。
「あ、今誰かを思い出したね?教えて」
 くるりとヘクセが振り返った。大僧正も自分が子守り向きではないと知って
任せるのだから酷い話だ。眉根に僅かに力がこもる。
「幼馴染だ。お前の年の頃にはもっとしっかりしていたと思ってな」
「へぇ、今はその人どこにいるの」
「さあな、遠くへ旅立ってしまった」
 ふむ、とヘクセはなにやら考え込んでいる。コレでしばらくおとなしくなれ
ばいいのだが。奥の院は通常大僧正しか出入りしないのだが、許可を取ってい
る上主は不在なので一礼して静かに入る。大僧正はこの二人をカイに任せた
後、皇家と元老院の呼び出しを受けて首都に向かっていった。何事もなければ
4~5日で帰るといっていたが、子守りが今日で終わらないことを考えると頭
が痛かった。

 アティアを部屋に寝かせ、奥の院を出たところでヘクセが言った。
「幼馴染を遠くへ旅立たせたくなかったなら、押し倒して既成事じぐはっ」
 もちろんカイの拳骨が頭上から降ってきたのだが。
「何か考え事をしていると思ったら、そんなことか」
「だってそうだろう?」
「兄弟のように育った相手をそんな目で見れるか!」
 ヘクセは大いに不満だというように口をへの字に曲げる。
「傍にいたいなら一番手っ取り早いじゃないか~」
「そういう問題じゃない」
「ね、その人って美人?可愛い系?それとも……」
「お前なんかに話すんじゃなかった」
 カイは天井を仰ぎ見た。途端にヘクセが走り出す。
「止まれ、へクセ!」
「あはは、追いかけっこだよーん」
 言いながら通路の角を曲がる。カイはヘクセの態度に呆れながらも、許可の
下りていない場所へ入り込まないよう、追うしかなかった。

   *   *   *

「はぁ、はぁ、足、速いねー」
「黙れヘクセ。お前には二時間の正座の刑だ」
「えぇー、いたいけな子供に酷いよ、カイ」
「誰がいたいけだ、誰が」
 猫のように首の後ろを掴まれたヘクセは、息も乱れていないカイにぶら下げ
られてばたばたと暴れていた。
「ちょっと運動しようと思ったんだよー」
「嘘つけ」
 ヘクセは気にした様子もなくしばらくばたばたを続け、ふと、手を叩いて言
った。
「手篭めにするより拉致監禁の方が良かったかな」
 返事もなくカイの鉄拳が飛ぶ。ヘクセは頭を抱えて座り込みながらカイを見
上げた。
「い、たたたた。結局カイがここにいる理由、聞いてないんだからねー」
「だからどうした」
「手の内を明かさずに自分だけ知ろうとしちゃダメだよ」
「こっちのセリフだ」
「おお、それもそっか♪」
 ヘクセは頭をさすりながら笑う。カイの冷たい目線も気にしない。
「そうだ、コレを機に言っておく。僧院の者たちとの接近は控えてもらいた
い」
「何故?」
「もともと女人禁制の地だ。色欲に目が眩む者もいる」
「わーい、へクセ魅力的?」
「子供だから平気かと思っていたが、嗜好が偏った者が若干名いるようなので
な」
「おお、目端が利くねぇ♪」
 気付いていてわざと言わせるように仕向けるところがタチが悪い。
 カイは深く深ーく溜息を吐いた。

   *   *   *

 ヘクセは見た目の年齢よりも本当に手のかかる子だった。隙あらばアティア
に嘘の情報を教えようとするし、カイがうたた寝でもしようものなら大脱走劇
を繰り広げてくれるしで、落ち着いている暇がない。知識量は相当のものだと
思われたが、時折織り交ぜる嘘がどの程度の嘘なのか、もしくは本当のことな
のか、判断に困ることすらあった。
「ヘクセは楽しそうだねー」
 ヘクセと一緒にごろごろ転がりながらアティアが笑う。アティアは幼い頃の
セラフィナに少しだけ容姿が似ていた。あの頃のセラフィナにも友達がいたら
こうだったのだろうか。
「私はいつだって楽しいことを追いかけているのだよ」
 ごろごろごろーっと床の上で勢いを増すヘクセ。ぶつかって噴出すアティ
ア。
「ねえアティア、君はここから出たいと思ったことはないの?」
「え?うーん、よくわかんなぁい」
「そっか」
 ヘクセはどんな楽しいことを追い求めてここへ流れ着いたのだろう?
 わからないまま、カイの試練の日々は続く。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

2007/06/12 00:08 | Comments(0) | TrackBack() | ●神々の墓標~カフール国奇譚~

<<前のページ | HOME | 次のページ>>
忍者ブログ[PR]