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2025/03/10 00:23 |
蒼の皇女に深緑の鵺 08 /ザンクード(根尾太)
PC:セラフィナ ザンクード
NPC:アラクネ
場所:カフール国境近辺
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
─その外骨格の骸は、大半がその四肢から胴と首まで刻まれてるが…
蟲族という異形の種だという事は明確だった。
血統各々が危険な能力を有し、
一説によれば中でも、人間やえる問わず他の種の居住地を食い荒らした後、その地の
種の内蔵を喰らって皮を被り、
その種の群として紛れまた他の村々を侵攻し殺戮を繰り返す危険な者達だとも、
男は話に聞いていた。

しかし…その蟲種共のこの様な惨殺の有様を見て
そんな知識よりも男は、
標的たる“神の子”に仕えているこの“魔物”の正体の方が気掛かりだった。

原型すら留めているかいないかの状態で、周囲に散らばった甲殻と内蔵。

ここまで惨殺し、ひょっとすれば自分達が追ってる姫君すらも殺害しているかもしれ
ないその脅威の存在が
祖国の近くをさまよい、何らかの目的で国境に入った際の危険性を最も恐れた。


…─…と…追尾の為に移動をする直前…
不意に目に付いたのは一枚の血塗られた布切れ…
刻まれた骨格が重なっていることから、恐らくはこの蟲どもの私物なのだろうと…
興味本意に拾い上げようと手を伸ばす。
乾燥しかかっている粘りが糸を引き
ただならぬ悪臭が吐き気を誘う…。

その赤い布の一片には、蟲種の血で大半が付いていたが…男は布に“紋章”らしき気
味の悪い絵柄を見つけた。


──「それに気がついたかィ?」─

瞬間…

男とその部下達はその不気味な枯れ声を耳にし、とっさに振り返った…
その時だった。

―轟く笑い声の直後…男の顔の側面に突如、

棺桶を背負った毛むくじゃらの大きな影が落下し宙で停まる。

「ハァ~…ロォ…~ウ」

男は反射的に振り返ると刀を抜き、同時に抜刀した部下達が斬りかかる。

だが…

その毛だらけの異形の影から片腕が現れ、瞬間的な速さで奇妙な指使いをしたその
時、
まるで一時停止のごとく男と部下達の動作が空中で停止する。

「さァっすが、カフールの隠密兵…。“エテ公”にしては良い動きだ…」

言うと同時に、もう一本の片腕から順に…異形の影から五本の腕が生えるように現
し、…複眼が六つある、気色の悪い毛玉の顔が出現すると、指が動いた瞬間に部下達
の首が締まり宙に高く浮かんでいく。

男は刀を振り上げるが、その寸前で腕が、何かに拘束されたように動かなくなる…。

「オイオイ…待ちなって
話がしたいってのがわからねぇか?座って頭でも冷やせよォ~」
男はもがくが、言葉が放たれて、
またその毛玉の異形が指を動かすと、今度は脚の関節が強靱な力で動かされ、言葉通
り…
あぐらの姿勢に“抑えつけ”られた…

「貴様…」

「ガタガタ言ってねーで刀を鞘に閉まいな、下っ端がタコになるぜ?」

向こう側では部下達の体は首だけでなく、
体中から僅かに骨が軋む音が鳴り始めるの聞き、男は刀を鞘に収めようと腕を動かそ
うとする…。

すると、先程まで腕を凄まじい力で締め付けていた痛みが消え、
部下達は宙から卸されるが、絞首と同時に受けた軽い骨折のショックで失神してい
た。

逆さまに浮く毛の異形…
光と視覚の効果で見えにくくなってるが、よく見ると二本脚から糸状の何かにぶら下
がっており、

それ切断すると反転して着地し、毛の異形はあぐらを掻いて話しかけてきた。

「茶菓子はいるかい?」

またもや宙からゆっくり降りてきたのは、急須とカフール産の宇治金時パフェ2つに
2つの湯呑み茶碗。

降りてくる物体を繋ぐ糸を二本の腕で操作し、宙から茶を注ぎ並べる等…四本の腕で
器用に支度が同時進行し、ちょっとした“茶会”が出来上がってしまう。

「いや…」

「毒なら無ぇんだから~遠慮すんなよォ?。
向こうじゃこーいう珍味食うんじゃねーのかァ?。茶だけでも飲んでけよォ」

“紳士的な”おもてなし打って変わって、パフェをガツガツと食いながら茶を啜るそ
の素振りはやはり野蛮に見える。

恐る恐る湯呑みに手を伸ばし、緑色の色と湯呑みを観察してから…
その端に口を付け、男は啜り飲んだが、
混じりけの無いカフールの緑茶であった。


「・…何故、お前がこんなものを?」

「…いーじゃねぇかァ…蟲族の俺がカフールのお偉方に交流あっちゃ悪ィかよォ
~……?」

盛られたパフェを音を立てて食いながら…答えに対して言葉が無くなる男に
更にこう語った。

「俺ァ…おつむがオメェら“エテ公”共より達者でなァ…。
その紋章の“連中”も…
オメェの追ってる娘の事と…
そいつの“付き人紛い”な事やってる“ボウズ”の居所も…
よォく知ってんのさァ…」

──────
…夜が深くなる頃

山の中腹地点で見つけた廃村で、ザンクードは岩に一人腰を落ち着かせ、スピリスト
マーダーの刃を石で研いでいた。
ボロ小屋の隙間から差し込む朧気な月光に照らされながら…
彼は一人思い詰め反射する刃を眺めていた。

…と…背後に視線を感じ振り返ると、そこにはいつからか・…横になったセラフィナが
知らぬ間に目を覚まし、寝ぼけ眼でこっちをじっと見ていた。

「・…起こしたか?」

「いえ…。あなたは?」

「…暫くは起きている…、
仮にも護衛役だ。それなりの仕事はさせてもらう…」

確かに己の完璧主義による癖でもある…
だがそれとは別に…
こうして次の標的を狩る“爪”や“牙”を整えながら
虎視眈々と“その時”を待つのが…もうある意味“眠るよりも落ち着く”時間の一部
になってしまっていた…。

だから敢えて、心配をかけぬ様に「…当然の“職業病”でお前には関係無い。体なら
心配いらない…・。さっさと寝ておけ」
とだけ後から言葉をかけた…。


・…一匹の異形と一人の少女

蟲族と人間

相反する存在にしてこうして共存するのが、彼にとっては何年ぶりかの“因果”にし
か思えなかった。
そしてそれ故に・…この“爪”と“牙”が研ぎ澄まされている理由がそこにあり、それ
を忘れる事だけは絶対許してはならなかった。

…やがてその安らかな寝息を聞くさなか、彼は全ての暗器の調整を終えると横にはな
らず、
岩盤にもたれ掛けて地に座り…己の“因果”を呪いながら眠りについた…・。



──────

同刻…案内する六本腕の異形に連れられ、男ら小隊が山へ向かうなか異形は語る。

「お宅らの姫様はピンピンしてるぜ。“護衛”役の蟲種一匹のおかげでなァ…。問題
はそいつだ…」

「今はどこに?」

男は尋ねると異形は木の頂点に停まり小隊を見下ろして、
「この先を北に移動しやがった。奴らは首都に向かってるぜぇ…。俺が案内してやん
のはここまでだ…あとはオメェら自分達で好きにしなァ。」

と答え、
直後に何か小さく光る球体のようなものを取り出し空中から男へ投げ渡した。

「コレは?」
掌で握れるサイズの球体は金に光り、一部に輪が付いてるそれを異形は説明する。

「・…護衛の奴を確実に潰すための“催涙弾”だ。ピンチの時はそのわっかのピンを抜
いて投げるこったな。
殺しなら止めとけよォ。“侵略種”は血の臭いが一番そそるんだからな…。」

ある程度蟲種に関して入れ知恵を仕込まれ…男は思わぬ協力者の、その思惑に恐れ尋
ねた。

「何故お前はそこまでの施しを我々に…。」

「名前なら“怪術師”…アラクネと言っておこうか…。
なァに、“今の所は相棒”なんだから安心しなァ~♪仲良くしようぜェ~…“エテ
公”どもよォ…
あぁそれともう一つ…あの野郎に会ったら…
“ショータイムだ、ボウズ”
とだけ伝えてくれや。健闘祈るぜェカフールの諸君♪」

やがて手を振りながら異形は、六本の腕と二本脚で山岳の森を跳びまわって、
その姿をフェードアウトする品の無い笑い声と共に闇に消した…。


─かくて歯車は動き出す
全てを擦り潰す為のみに─
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
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2007/06/12 00:07 | Comments(0) | TrackBack() | ○蒼の皇女に深緑の鵺

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