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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【27】』
~ 銀色の恋人 ~
場所 :ソフィニア
PC :シエル エンジュ (ミルエ イェルヒ)
NPC:赤髪の男(アルフ) アンジェラ
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「っ」
社交場のダンスのような体制で、シエルは一瞬固まった。
正確にはアルフとシエルの二人が、なのだが、思考回路も一旦停止してしま
ったシエルにはそこまで考える余裕がない。
一気に心拍数が上がる。
顔が紅潮し、自分の不覚さとか恥ずかしさとかが入り混じった、変な緊張状
態に陥る。
「あ、ありがとう」
かろうじて言葉を絞り出すと、アルフはたいしたことじゃなさそうに無言で
シエルの体勢を立て直した。背中に当たる手がやけに気になって、シエルは慌
てて離れる。
彼は銀の髪の人じゃない。わかってる。
でも、上がった心拍数は、なかなか下がらない。
あれよ、危険なときのドキドキと恋のドキドキは勘違いしやすいのよ。
そう考えて打ち消す。馬鹿みたい、恋だなんて。私には心に決めた人がいる
のに。
でも、銀の髪の彼は顔も思い出せない。会えるという保障もない。
数歩離れて待つアルフの、触れた背中がやけに熱い。
シエルは自分がどんどん混乱していくことに困惑していた。アルフは無言で
待っている。
そういえば、さっきのは誰にも見られなかったかしら。
慌てて辺りを見回すが、今いる細い路地にはアルフとシエルの影しかない。
しかしかえって二人きりということを意識して戸惑う。だからなんだという
のだ。
「……いきましょう」
顔を合わせるのが恥ずかしくて、シエルは片手で額を押さえるように視界の
半分を遮った。歩き出すと、それに合わせてアルフの影も動く。そのことに少
し安心しながらも、眠気を遮った軽いパニックはまだ続いていた。動悸が治ま
らない。
しばらくしたら動悸も治まるだろう。もうしばらくの我慢だ。
シエルは自分に言い聞かせるように念じ続ける。
前を歩く影が急に止まった。なんだろうと不思議に思ったシエルがつい顔を
上げる。
目の前に、顔があった。焦りと混乱で顔が朱に染まる。
「ちょ……」
「また倒れるのか」
目の前で綺麗な顔が面倒臭そうに歪む。治まりかけていたパニックが瞬時に
再発する。
頭の中も視界もぐるぐる回って立っていられない。ふらつくシエルの腕をア
ルフが掴む。
腕がかぁっと熱くなった。そして顔からは一気に血の気が引く。視界の色が
なくなり、モノクロームの世界は次第に影を落とす。身体からぐにゃりと力が
抜ける。そのまま崩れ落ちさせてくれないのはアルフの腕が支えているから
だ。
もうどうなっても知らない……。
睡魔とは別の理由で意識を失ったのはこれが初めてだった。
<] <] <] <] <] [> [> [> [> [>
宿屋・クラウンクロウまでもう少し。大通りを迂回して細い路地を数分歩
く。
荷物は完全に脱力しているが、さほど重くもない。
アルフは宿を目視確認し、宿の傍に立つ獣人と目が合った。その隣のエルフ
が血相を変えて近寄ってくる。
「ちょっと、誰よあんた!」
エンジュが、凄い剣幕で細い路地に駆け込む。殴らんばかりの勢いだった
が、抱きかかえられたシエルを見て躊躇したのか、アルフに手は出していな
い。
「クラウンクロウまで送るように頼まれた」
お姫様抱っこ状態のシエルを下ろそうともせずにアルフが答える。
後ろから追ってきたアンジェラの存在に少し冷静さを取り戻しながら、エン
ジュが両手を差し出した。
「私の相棒よ。確かに受け取るわ」
「相棒という証明はあるか」
「私が相棒って言ったら相棒なのよ!それともギルドの証明でもいる!?」
差し出す手に光る指輪。ちょっと事情を知るものならそれがBランク以上の証
明になることがわかるはずだ。
「そうか」
「知ってるだけ全部言いなさいよ!シエルがこんなになるまで何をしたの!」
「現在は過度の睡眠不足状態。彼女は何者かに追跡されている。詳細は知らな
い」
まあ嘘ではない。詳細なんて聞いていないのだから。
エンジュはアルフの腕からシエルを無理矢理取り上げた。
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『 易 し い ギ ル ド 入 門 【27】』
~ 銀色の恋人 ~
場所 :ソフィニア
PC :シエル エンジュ (ミルエ イェルヒ)
NPC:赤髪の男(アルフ) アンジェラ
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「っ」
社交場のダンスのような体制で、シエルは一瞬固まった。
正確にはアルフとシエルの二人が、なのだが、思考回路も一旦停止してしま
ったシエルにはそこまで考える余裕がない。
一気に心拍数が上がる。
顔が紅潮し、自分の不覚さとか恥ずかしさとかが入り混じった、変な緊張状
態に陥る。
「あ、ありがとう」
かろうじて言葉を絞り出すと、アルフはたいしたことじゃなさそうに無言で
シエルの体勢を立て直した。背中に当たる手がやけに気になって、シエルは慌
てて離れる。
彼は銀の髪の人じゃない。わかってる。
でも、上がった心拍数は、なかなか下がらない。
あれよ、危険なときのドキドキと恋のドキドキは勘違いしやすいのよ。
そう考えて打ち消す。馬鹿みたい、恋だなんて。私には心に決めた人がいる
のに。
でも、銀の髪の彼は顔も思い出せない。会えるという保障もない。
数歩離れて待つアルフの、触れた背中がやけに熱い。
シエルは自分がどんどん混乱していくことに困惑していた。アルフは無言で
待っている。
そういえば、さっきのは誰にも見られなかったかしら。
慌てて辺りを見回すが、今いる細い路地にはアルフとシエルの影しかない。
しかしかえって二人きりということを意識して戸惑う。だからなんだという
のだ。
「……いきましょう」
顔を合わせるのが恥ずかしくて、シエルは片手で額を押さえるように視界の
半分を遮った。歩き出すと、それに合わせてアルフの影も動く。そのことに少
し安心しながらも、眠気を遮った軽いパニックはまだ続いていた。動悸が治ま
らない。
しばらくしたら動悸も治まるだろう。もうしばらくの我慢だ。
シエルは自分に言い聞かせるように念じ続ける。
前を歩く影が急に止まった。なんだろうと不思議に思ったシエルがつい顔を
上げる。
目の前に、顔があった。焦りと混乱で顔が朱に染まる。
「ちょ……」
「また倒れるのか」
目の前で綺麗な顔が面倒臭そうに歪む。治まりかけていたパニックが瞬時に
再発する。
頭の中も視界もぐるぐる回って立っていられない。ふらつくシエルの腕をア
ルフが掴む。
腕がかぁっと熱くなった。そして顔からは一気に血の気が引く。視界の色が
なくなり、モノクロームの世界は次第に影を落とす。身体からぐにゃりと力が
抜ける。そのまま崩れ落ちさせてくれないのはアルフの腕が支えているから
だ。
もうどうなっても知らない……。
睡魔とは別の理由で意識を失ったのはこれが初めてだった。
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宿屋・クラウンクロウまでもう少し。大通りを迂回して細い路地を数分歩
く。
荷物は完全に脱力しているが、さほど重くもない。
アルフは宿を目視確認し、宿の傍に立つ獣人と目が合った。その隣のエルフ
が血相を変えて近寄ってくる。
「ちょっと、誰よあんた!」
エンジュが、凄い剣幕で細い路地に駆け込む。殴らんばかりの勢いだった
が、抱きかかえられたシエルを見て躊躇したのか、アルフに手は出していな
い。
「クラウンクロウまで送るように頼まれた」
お姫様抱っこ状態のシエルを下ろそうともせずにアルフが答える。
後ろから追ってきたアンジェラの存在に少し冷静さを取り戻しながら、エン
ジュが両手を差し出した。
「私の相棒よ。確かに受け取るわ」
「相棒という証明はあるか」
「私が相棒って言ったら相棒なのよ!それともギルドの証明でもいる!?」
差し出す手に光る指輪。ちょっと事情を知るものならそれがBランク以上の証
明になることがわかるはずだ。
「そうか」
「知ってるだけ全部言いなさいよ!シエルがこんなになるまで何をしたの!」
「現在は過度の睡眠不足状態。彼女は何者かに追跡されている。詳細は知らな
い」
まあ嘘ではない。詳細なんて聞いていないのだから。
エンジュはアルフの腕からシエルを無理矢理取り上げた。
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