◆――――――――――――――――――――――――――――
キャラ:リング・オーシャン
◆――――――――――――――――――――――――――――
ここは小さな田舎町。この町にはこの世界ではめったに見られない和風な「茶店」なるものが存在した。
はぐはぐはぐはぐ・・・。
ごっくん。
「はぁー」
茶店の店先で、おいしそうに団子をほおばり、お茶を飲み干す一人の女性がいた。女性は、この上ない至福の表情を浮かべている。
女性は細いフレームの眼鏡が似合う知的美人で、黒髪の黒い瞳。さらりと肩にかかる髪がほのかにシトラスの香りを漂わせた。
「おばあさん、ここにお勘定置いておきますね」
「はい、まいどー」
店を去る際、見送ってくれるお婆さんに女性はにっこりと笑いかけた。
(やっぱり、地上の「クシダンゴ」は、美味しいですね)
女性は海底で何度も読んだ「地上文明全集5 地上の神秘」の一節を思い出していた。
ー地上にはたくさんの食べ物が存在し、そのなかでもクシダンゴは最高の美味しさを誇るー実はこの話、「地上文明」の作者の勝手な思い込みなのは言うまでもないが、(この作者、よほどクシダンゴに感動したらしい)彼女は本気でこの話を信じていた。-無理もないだろう、彼女、地上に出てきてまだ三日も立っていないのだから。
「さて、まずは私の「本」の秘密を探るために、お父様が本を買った街にでも行ってみたいですね」
そう思い、彼女がうーんとのびをしたその時、背後で女性の悲鳴が聞こえた。
キャラ:リング・オーシャン
◆――――――――――――――――――――――――――――
ここは小さな田舎町。この町にはこの世界ではめったに見られない和風な「茶店」なるものが存在した。
はぐはぐはぐはぐ・・・。
ごっくん。
「はぁー」
茶店の店先で、おいしそうに団子をほおばり、お茶を飲み干す一人の女性がいた。女性は、この上ない至福の表情を浮かべている。
女性は細いフレームの眼鏡が似合う知的美人で、黒髪の黒い瞳。さらりと肩にかかる髪がほのかにシトラスの香りを漂わせた。
「おばあさん、ここにお勘定置いておきますね」
「はい、まいどー」
店を去る際、見送ってくれるお婆さんに女性はにっこりと笑いかけた。
(やっぱり、地上の「クシダンゴ」は、美味しいですね)
女性は海底で何度も読んだ「地上文明全集5 地上の神秘」の一節を思い出していた。
ー地上にはたくさんの食べ物が存在し、そのなかでもクシダンゴは最高の美味しさを誇るー実はこの話、「地上文明」の作者の勝手な思い込みなのは言うまでもないが、(この作者、よほどクシダンゴに感動したらしい)彼女は本気でこの話を信じていた。-無理もないだろう、彼女、地上に出てきてまだ三日も立っていないのだから。
「さて、まずは私の「本」の秘密を探るために、お父様が本を買った街にでも行ってみたいですね」
そう思い、彼女がうーんとのびをしたその時、背後で女性の悲鳴が聞こえた。
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◆――――――――――――――――――――――――――――
場所 とある町 メンバー リング=オーシャン
◆――――――――――――――――――――――――――――
「何事でしょう!」
彼女があわてて、悲鳴の聞こえた場所に行くと、
「お助けください!」
いきなり、フリフリスカートの女性が彼女の後ろに隠れた。
「え・・・、あ・・・」
いまいち状況がつかめていない彼女の前に、ずんと、強面の男二人が現れた。この方たち、どことなく私を威嚇しているみたいですね・・・、と彼女が思っていた矢先、
「ちょっとネーチャン、後ろに隠れているそいつ、渡しやがれ」
「え・・・」
「その気色悪いスカートはいたソイツだよ」
その言葉に、彼女は背後の女性を見た。女性は彼女の背で震えている。
「あの、この方、何か悪いことを・・・」
「うるせー、俺はこーゆーやつが目障りでしょうがないんだよ!」
「お、オマエよく見りゃいい女じゃん。でも、その細い腕じゃーろくな抵抗できなさそうだなー」
そういって二人はニヤニヤと笑う。そんな態度に、彼女は少しむっとした。
「なんですか、貴方達は、こんな無抵抗な人に乱暴して。それに、私にはちゃんとした名があります。ネーチャンや、オマエなどと馴れ馴れしく呼ばないで下さい」
「ほー、どんな名だ?」
彼女は男たちをきっと見つめて言った。
「リング=オーシャンです!それに、私、見かけより弱くありませんよ。自分で言うのもなんですが、水があれば最強に近いですし」
場所 とある町 メンバー リング=オーシャン
◆――――――――――――――――――――――――――――
「何事でしょう!」
彼女があわてて、悲鳴の聞こえた場所に行くと、
「お助けください!」
いきなり、フリフリスカートの女性が彼女の後ろに隠れた。
「え・・・、あ・・・」
いまいち状況がつかめていない彼女の前に、ずんと、強面の男二人が現れた。この方たち、どことなく私を威嚇しているみたいですね・・・、と彼女が思っていた矢先、
「ちょっとネーチャン、後ろに隠れているそいつ、渡しやがれ」
「え・・・」
「その気色悪いスカートはいたソイツだよ」
その言葉に、彼女は背後の女性を見た。女性は彼女の背で震えている。
「あの、この方、何か悪いことを・・・」
「うるせー、俺はこーゆーやつが目障りでしょうがないんだよ!」
「お、オマエよく見りゃいい女じゃん。でも、その細い腕じゃーろくな抵抗できなさそうだなー」
そういって二人はニヤニヤと笑う。そんな態度に、彼女は少しむっとした。
「なんですか、貴方達は、こんな無抵抗な人に乱暴して。それに、私にはちゃんとした名があります。ネーチャンや、オマエなどと馴れ馴れしく呼ばないで下さい」
「ほー、どんな名だ?」
彼女は男たちをきっと見つめて言った。
「リング=オーシャンです!それに、私、見かけより弱くありませんよ。自分で言うのもなんですが、水があれば最強に近いですし」
◆――――――――――――――――――――――――――――
メンバー リング=オーシャン 場所 とある町
NPC フリフリのスカートの女性と悪そうな男二人
◆――――――――――――――――――――――――――――
そういってリングは辺りをきょろきょろと見回した。
(えっと、水、水)
見渡したリングの目の端に、初老の女性が、竹製のベンチに腰掛けて、湯飲みで飲んでいるお茶が目に入った。
「お婆さん!そのお茶を貸してください!」
「ほえ?」
「あの、よろしいですか?」
「まあ、ええがのー」
「有難うございます!」
リングがいうなり、湯飲みからお茶の液体のみ、が飛び出し、開いたリングの手のひらにすわっと緑色の槍となって片手に三本ずつ並んだ。
「水でできていて何の害もなさそうですが、刺さると、痛いですよ。血も出ますし。さあ、痛い目にあいたくなければこの女性のことは諦めてください」
リングはきっと男たちを見つめるが、男たちは余裕の態度を崩さない。
「おおっ、ねーちゃん、やるなぁ・・・」
「やっぱ、俺たちの邪魔をするんだったらこれくらいやらなくっちゃなぁ」
「なんたって俺たち、ここらでは名の知れた賞金稼ぎなんだぜ」
「おまえみたいなちょっと珍しい能力なんて、腐るほど見てきたんだぜ」
その言葉を聞いてリングは内心「くっ・・」と思った。リングは、この男たちと戦う気なんてさらさらなかったのだ。水を操って見せたのも、脅しのためで、実際、たいていの人間はこの力を見せられるとびびって逃げ帰る。しかし、それはリングが小心者なわけではなくて、リング自身が戦いを好まない性質だからだ。
(仕方がありません・・・、少しはこの方たちを傷つけなくてはならないでしょうね)
リングはくっと唇を噛むと言った。
「いうことを聞いてくれないのでしたら・・・、戦います」
「面白い、俺たちもちょうど腕がなまってたところだ、一戦交えようぜ!」
メンバー リング=オーシャン 場所 とある町
NPC フリフリのスカートの女性と悪そうな男二人
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そういってリングは辺りをきょろきょろと見回した。
(えっと、水、水)
見渡したリングの目の端に、初老の女性が、竹製のベンチに腰掛けて、湯飲みで飲んでいるお茶が目に入った。
「お婆さん!そのお茶を貸してください!」
「ほえ?」
「あの、よろしいですか?」
「まあ、ええがのー」
「有難うございます!」
リングがいうなり、湯飲みからお茶の液体のみ、が飛び出し、開いたリングの手のひらにすわっと緑色の槍となって片手に三本ずつ並んだ。
「水でできていて何の害もなさそうですが、刺さると、痛いですよ。血も出ますし。さあ、痛い目にあいたくなければこの女性のことは諦めてください」
リングはきっと男たちを見つめるが、男たちは余裕の態度を崩さない。
「おおっ、ねーちゃん、やるなぁ・・・」
「やっぱ、俺たちの邪魔をするんだったらこれくらいやらなくっちゃなぁ」
「なんたって俺たち、ここらでは名の知れた賞金稼ぎなんだぜ」
「おまえみたいなちょっと珍しい能力なんて、腐るほど見てきたんだぜ」
その言葉を聞いてリングは内心「くっ・・」と思った。リングは、この男たちと戦う気なんてさらさらなかったのだ。水を操って見せたのも、脅しのためで、実際、たいていの人間はこの力を見せられるとびびって逃げ帰る。しかし、それはリングが小心者なわけではなくて、リング自身が戦いを好まない性質だからだ。
(仕方がありません・・・、少しはこの方たちを傷つけなくてはならないでしょうね)
リングはくっと唇を噛むと言った。
「いうことを聞いてくれないのでしたら・・・、戦います」
「面白い、俺たちもちょうど腕がなまってたところだ、一戦交えようぜ!」
◆――――――――――――――――――――――――――――
場所 とある街
メンバー リング
NPC フリフリスカートの女性と悪そうな男二人
◆――――――――――――――――――――――――――――
リングはきっと男たちを見つめた、戦闘体勢だ。男たちは腰から剣をすらっと抜き、リングにかかってくる。リングはそれをひらりひらりとかわし、手のひらの水の槍を男たちに打ち込んだ。
ザクッという音がして、槍が男たちのわき腹を掠めた。
「ぐっ・・」
男たちが痛そうにわき腹を押さえた。
「どうです、次は心臓を狙います。確か人間は、心臓が止まると動けないんでしたよね。命が惜しければこのまま立ち去ってください」
我ながら似合わないセリフだなぁ、と思いながらもリングは言った。戦うのが嫌いな自分に、脅しのセリフなんて、ハムスターがタラバガニを食べるのと同じぐらい似合わない。
「っ・・テメェっ・・」
しかし、相手の男たちは予想以上にしぶとかった。
「テメェ、よくもやってくれたな・・・、本気でつぶしてやる、覚悟しな!」
そう言って、二人は剣を構えリングに向かってきたのだ。
・・・さっきのお婆さんのお茶以外、戦いに使える水は、もうどこにもない。残る手段はただ一つ。リングは、ため息をついた。
(あれは、あまり使いたくなかったんですが・・・)
覚悟を決めて、リングは両手を前に突き出した。すると、リングの体から目がくらむほどの光が飛び出す。
「な、なんだ!!」
男たちが光の光線に目を抑え、驚いて見つめる中、
「本・・・!?」
リングのお腹がにゅーっと出っ張ったと思うと、体の中から、一冊の「本」が出てきたのだ。背表紙は赤い革表紙。表紙に書いてある文字は古代の文字らしく、読むことができない。
男たちが絶句して見つめる中、リングは本を自分の目の前に浮かべ、指ですわっとなぞった。リングが指で触れるだけで、本のページがパラパラっとめくれる。
「聖プロヴァンス伝、第七章ー主よ、汝の敵を見よー」
リングの瞳はうつろで、声も不思議に透き通っている。
「主は申された。-汝、我の行く手を阻むものの追随を許すまじ。そのものに、天の裁きを下せー、と。我、天に従わん」
リングの言葉が終わったと同時に、空が曇ったかと思うと、
ピシャーーーーン!!!
紫色の閃光が男たちを直撃した。
場所 とある街
メンバー リング
NPC フリフリスカートの女性と悪そうな男二人
◆――――――――――――――――――――――――――――
リングはきっと男たちを見つめた、戦闘体勢だ。男たちは腰から剣をすらっと抜き、リングにかかってくる。リングはそれをひらりひらりとかわし、手のひらの水の槍を男たちに打ち込んだ。
ザクッという音がして、槍が男たちのわき腹を掠めた。
「ぐっ・・」
男たちが痛そうにわき腹を押さえた。
「どうです、次は心臓を狙います。確か人間は、心臓が止まると動けないんでしたよね。命が惜しければこのまま立ち去ってください」
我ながら似合わないセリフだなぁ、と思いながらもリングは言った。戦うのが嫌いな自分に、脅しのセリフなんて、ハムスターがタラバガニを食べるのと同じぐらい似合わない。
「っ・・テメェっ・・」
しかし、相手の男たちは予想以上にしぶとかった。
「テメェ、よくもやってくれたな・・・、本気でつぶしてやる、覚悟しな!」
そう言って、二人は剣を構えリングに向かってきたのだ。
・・・さっきのお婆さんのお茶以外、戦いに使える水は、もうどこにもない。残る手段はただ一つ。リングは、ため息をついた。
(あれは、あまり使いたくなかったんですが・・・)
覚悟を決めて、リングは両手を前に突き出した。すると、リングの体から目がくらむほどの光が飛び出す。
「な、なんだ!!」
男たちが光の光線に目を抑え、驚いて見つめる中、
「本・・・!?」
リングのお腹がにゅーっと出っ張ったと思うと、体の中から、一冊の「本」が出てきたのだ。背表紙は赤い革表紙。表紙に書いてある文字は古代の文字らしく、読むことができない。
男たちが絶句して見つめる中、リングは本を自分の目の前に浮かべ、指ですわっとなぞった。リングが指で触れるだけで、本のページがパラパラっとめくれる。
「聖プロヴァンス伝、第七章ー主よ、汝の敵を見よー」
リングの瞳はうつろで、声も不思議に透き通っている。
「主は申された。-汝、我の行く手を阻むものの追随を許すまじ。そのものに、天の裁きを下せー、と。我、天に従わん」
リングの言葉が終わったと同時に、空が曇ったかと思うと、
ピシャーーーーン!!!
紫色の閃光が男たちを直撃した。
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人物 ジュヴィア
場所 ソフィニア近くの街道外れ→ソフィニア"消えゆく灯火"亭
NPC 追い剥ぎのようなちんぴら3名・"消えゆく灯火"亭の主人
◆――――――――――――――――――――――――――――
死の直前に人は何を思うのだろうか?
魔術国家ソフィニア。
そこへ向けて街道を歩いていく人影が一つ。
どこからどう見ても子供としか言えない、整った顔立ちの銀髪の少女。ただ、異様なのは背中に背負った巨大な斧である。明らかに少女の背丈よりも大きくひょっとすれば少女の体重と同じくらいの重さがあるのかもしれなかった。
一陣の風が、少女の真っ黒なスカートを翻して逃げていく。
「おい、あの子供…何だ?」
少し離れた木陰で、男は仲間たちにささやいた。全員が、小汚い服を着て顔や腕に傷跡のある、どう贔屓目に見ても育ちが良くて善人そうには見えない所謂ごろつきの類だ。彼らはやはりというべきか、追い剥ぎを生業としていた。獲物を待っていたところに、謎の子供が現れたのである。
「そんなのオレに解るかよ。いいじゃねえか、ほっとけば。どうせ子供だ、大した稼ぎにはならねえよ」
「いや、それは解らねえ。子供だが一人で旅をしている以上は路銀を持ってるだろ」
そう、確かに少女は一人で旅をしているようだった。まったくの無一文という筈はないだろう。仮にそうであったとしても、あれ位の美少女であれば女郎部屋に売り飛ばせば結構な金になる。ここ何日かろくなものを供給されていない彼らの腹に、少しでも利益をもたらすであろう可能性は十分にあった。だが、背中の巨大な斧がやはり襲撃をためらわせる。
「それはそうだが、あんな物を背負って普通に歩ける子供だぞ?」
「ヘッ!」
ばかばかしい、といった風に一人の男が笑った。
「どうせあんなもの、こけおどしに決まってるぜ。もし本当に武器として使っててもオレらは3人、向こうは子供一人じゃねえか。あんなでかいもんでこっちの動きについてこれるわけがねえよ」
「…そんならやっちまうか。早くしねえと、ソフィニアの入り口まで行かれたら面倒だ」
男たちは腰に提げた鞘から短剣を抜き出して、一斉に少女めがけて詰め寄った。騒々しい足音に、もくもくと砂煙が上がる。たちまち少女は行く手を阻まれた。
「身ぐるみ置いてきな、嬢ちゃん」
追い剥ぎの定番せりふである。普通の少女であれば、真っ青になってすぐさま持ち物を差し出す筈だった。
だが、少女は黙ったまま佇んでいる。
「耳でも悪いのか?嬢ちゃん。身ぐるみ全部置いてきな」
やはり動かない。
「こりゃ頭が足りねえんじゃねえのか?出さなきゃどんな目にあうか解らねえんだろ」
「それじゃしょうがねえな。オレらが剥いでやるしかねえ。安心しな、あんたみてえな別嬪の嬢ちゃんは殺しゃしねえよ」
その言葉を合図としたかのように、男たちは少女の真っ黒な服に手をかけた。否、かけようとした。
少女の姿は既に手を伸ばした先にはなかった。代わりに、少し離れた場所に斧を持った彼女が佇んでいる。彼女ははじめて口を開いた。
「…殺してしまいます。逃げてください」
見た目どおりの幼い声に、そぐわぬ不穏な内容。だが、男たちは彼女の言葉には従わなかった。
「なぁにが逃げてくださいだッ!殺せるもんなら殺してみやがれ!このガキが!」
一人の男が少女めがけて飛びかかる。と同時に彼女の持った斧が真一文字を描いた。
血しぶきをあげてごとり、と男の首が落ちる。
残りの二人の追い剥ぎは、みるみるうちに色を失った。がくがくと震えながら落ちた首を見つめている。怒りに任せ彼女に飛びかかったときのままの形相で、首は地面に転がっていた。
「ば…バケモノ…」
こんな小さな少女に、あの斧をまるで羽などの重さしかないかのように軽々と扱う力などない。
ならば考えられることは一つ、この少女が化け物であるという結論。
「そう…わたしは化け物です」
銀色の髪と真っ黒なワンピースが風に広がる。紫色の瞳が静かに閉じた。
「…あなた方には、わたしを殺せないのですね…」
少女は、名をジュヴィア・ニグデクトと言った。
ジュヴィアは一軒の宿の前に立っていた。安そうなその宿は、酒場も兼ねている様だった。扉を開けずとも、中から喧騒が聞こえてくる。
―路銀に余裕がないわけではなかったが、出来る事なら無駄な金は使いたくはない。ここソフィニアなら、きっと母の施した「呪い」を解く方法が見つかる。その調査をスムーズにする為にも、所持金は残しておくに越したことはない。それに、彼女自身も安宿でも全く構いはしないのだ。
ジュヴィアは"消えゆく灯火"亭のドアを押し開けた。同時にがやがやと話し声の洪水に包まれた。入り口の近くに座っていた客の中には、この場に相応しいとは思えない少女の出現に驚いているものもいるようだが、彼女は気にも留めずカウンターへ向かった。酒場の主人が知り合いらしい吟遊詩人と親しげな会話をしている。吟遊詩人が立ち去るのを待って、彼女は主人に言った。
「…部屋を取りたいのですが」
彼女の申し出は酒場の主人を少なからず驚かせたようだった。
「何だい、嬢ちゃん。家出でもしたのかい?ここはあんたのような嬢ちゃんが来る所じゃあないよ」
「お金ならあります…それに、わたしは家出でもなんでもありません…冒険者です」
彼女はこれまでにも何度かこういう扱いをされたことがあった。どこから見てもただの少女にしか見えないジュヴィアを、普通の冒険者として扱ってくれる者は今迄に一人としていなかったのだ。
「お嬢ちゃん、冒険者ってのはね…」
酒場の主人がやれやれといった口調で話し始めた。世間知らずの女の子に説教を始めるという風に、カウンターからやっと出ているジュヴィアの顔に自分の視線を合わせた。
―どうやらジュヴィアに部屋を貸すつもりはないようだ。
彼女は話しつづける主人を遮って言ってみた。
「お願いします、泊めてください」
だが、主人は首を横に振った。
「あんたみたいな小さなお嬢ちゃんが、一人でこんなとこに泊まるなんて良くないよ」
「でも」
―――ガタン!
二人の会話は何かが倒れる音で遮られた。見ると、栗色の髪をした冒険家風の青年が椅子を蹴倒したようだった。ひどく驚いたような顔をしている。
―何があったのか。
思わず、ジュヴィアは口に出していた。普段なら決して関わらないのだが―
「…どうか…なさいましたか?」
人物 ジュヴィア
場所 ソフィニア近くの街道外れ→ソフィニア"消えゆく灯火"亭
NPC 追い剥ぎのようなちんぴら3名・"消えゆく灯火"亭の主人
◆――――――――――――――――――――――――――――
死の直前に人は何を思うのだろうか?
魔術国家ソフィニア。
そこへ向けて街道を歩いていく人影が一つ。
どこからどう見ても子供としか言えない、整った顔立ちの銀髪の少女。ただ、異様なのは背中に背負った巨大な斧である。明らかに少女の背丈よりも大きくひょっとすれば少女の体重と同じくらいの重さがあるのかもしれなかった。
一陣の風が、少女の真っ黒なスカートを翻して逃げていく。
「おい、あの子供…何だ?」
少し離れた木陰で、男は仲間たちにささやいた。全員が、小汚い服を着て顔や腕に傷跡のある、どう贔屓目に見ても育ちが良くて善人そうには見えない所謂ごろつきの類だ。彼らはやはりというべきか、追い剥ぎを生業としていた。獲物を待っていたところに、謎の子供が現れたのである。
「そんなのオレに解るかよ。いいじゃねえか、ほっとけば。どうせ子供だ、大した稼ぎにはならねえよ」
「いや、それは解らねえ。子供だが一人で旅をしている以上は路銀を持ってるだろ」
そう、確かに少女は一人で旅をしているようだった。まったくの無一文という筈はないだろう。仮にそうであったとしても、あれ位の美少女であれば女郎部屋に売り飛ばせば結構な金になる。ここ何日かろくなものを供給されていない彼らの腹に、少しでも利益をもたらすであろう可能性は十分にあった。だが、背中の巨大な斧がやはり襲撃をためらわせる。
「それはそうだが、あんな物を背負って普通に歩ける子供だぞ?」
「ヘッ!」
ばかばかしい、といった風に一人の男が笑った。
「どうせあんなもの、こけおどしに決まってるぜ。もし本当に武器として使っててもオレらは3人、向こうは子供一人じゃねえか。あんなでかいもんでこっちの動きについてこれるわけがねえよ」
「…そんならやっちまうか。早くしねえと、ソフィニアの入り口まで行かれたら面倒だ」
男たちは腰に提げた鞘から短剣を抜き出して、一斉に少女めがけて詰め寄った。騒々しい足音に、もくもくと砂煙が上がる。たちまち少女は行く手を阻まれた。
「身ぐるみ置いてきな、嬢ちゃん」
追い剥ぎの定番せりふである。普通の少女であれば、真っ青になってすぐさま持ち物を差し出す筈だった。
だが、少女は黙ったまま佇んでいる。
「耳でも悪いのか?嬢ちゃん。身ぐるみ全部置いてきな」
やはり動かない。
「こりゃ頭が足りねえんじゃねえのか?出さなきゃどんな目にあうか解らねえんだろ」
「それじゃしょうがねえな。オレらが剥いでやるしかねえ。安心しな、あんたみてえな別嬪の嬢ちゃんは殺しゃしねえよ」
その言葉を合図としたかのように、男たちは少女の真っ黒な服に手をかけた。否、かけようとした。
少女の姿は既に手を伸ばした先にはなかった。代わりに、少し離れた場所に斧を持った彼女が佇んでいる。彼女ははじめて口を開いた。
「…殺してしまいます。逃げてください」
見た目どおりの幼い声に、そぐわぬ不穏な内容。だが、男たちは彼女の言葉には従わなかった。
「なぁにが逃げてくださいだッ!殺せるもんなら殺してみやがれ!このガキが!」
一人の男が少女めがけて飛びかかる。と同時に彼女の持った斧が真一文字を描いた。
血しぶきをあげてごとり、と男の首が落ちる。
残りの二人の追い剥ぎは、みるみるうちに色を失った。がくがくと震えながら落ちた首を見つめている。怒りに任せ彼女に飛びかかったときのままの形相で、首は地面に転がっていた。
「ば…バケモノ…」
こんな小さな少女に、あの斧をまるで羽などの重さしかないかのように軽々と扱う力などない。
ならば考えられることは一つ、この少女が化け物であるという結論。
「そう…わたしは化け物です」
銀色の髪と真っ黒なワンピースが風に広がる。紫色の瞳が静かに閉じた。
「…あなた方には、わたしを殺せないのですね…」
少女は、名をジュヴィア・ニグデクトと言った。
ジュヴィアは一軒の宿の前に立っていた。安そうなその宿は、酒場も兼ねている様だった。扉を開けずとも、中から喧騒が聞こえてくる。
―路銀に余裕がないわけではなかったが、出来る事なら無駄な金は使いたくはない。ここソフィニアなら、きっと母の施した「呪い」を解く方法が見つかる。その調査をスムーズにする為にも、所持金は残しておくに越したことはない。それに、彼女自身も安宿でも全く構いはしないのだ。
ジュヴィアは"消えゆく灯火"亭のドアを押し開けた。同時にがやがやと話し声の洪水に包まれた。入り口の近くに座っていた客の中には、この場に相応しいとは思えない少女の出現に驚いているものもいるようだが、彼女は気にも留めずカウンターへ向かった。酒場の主人が知り合いらしい吟遊詩人と親しげな会話をしている。吟遊詩人が立ち去るのを待って、彼女は主人に言った。
「…部屋を取りたいのですが」
彼女の申し出は酒場の主人を少なからず驚かせたようだった。
「何だい、嬢ちゃん。家出でもしたのかい?ここはあんたのような嬢ちゃんが来る所じゃあないよ」
「お金ならあります…それに、わたしは家出でもなんでもありません…冒険者です」
彼女はこれまでにも何度かこういう扱いをされたことがあった。どこから見てもただの少女にしか見えないジュヴィアを、普通の冒険者として扱ってくれる者は今迄に一人としていなかったのだ。
「お嬢ちゃん、冒険者ってのはね…」
酒場の主人がやれやれといった口調で話し始めた。世間知らずの女の子に説教を始めるという風に、カウンターからやっと出ているジュヴィアの顔に自分の視線を合わせた。
―どうやらジュヴィアに部屋を貸すつもりはないようだ。
彼女は話しつづける主人を遮って言ってみた。
「お願いします、泊めてください」
だが、主人は首を横に振った。
「あんたみたいな小さなお嬢ちゃんが、一人でこんなとこに泊まるなんて良くないよ」
「でも」
―――ガタン!
二人の会話は何かが倒れる音で遮られた。見ると、栗色の髪をした冒険家風の青年が椅子を蹴倒したようだった。ひどく驚いたような顔をしている。
―何があったのか。
思わず、ジュヴィアは口に出していた。普段なら決して関わらないのだが―
「…どうか…なさいましたか?」