PC:アロエ オーシン
場所:イノス(シーカヤック号船内)
NPC:おばば様(サラ) ベルサリウス
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
船内から甲板に出るドアを開けると、湿った空気が肌に触れた。
船内でのやり取りの間に、通り雨が降ったらしい。
その証拠に、甲板の床板が濡れていた。
ベルサリウスは、甲板の端に置かれた樽の陰に、隠れるようにして座っていた。
かぶったフードのすそを引っ張って、頭をすっぽり覆っている。
「ベル……」
アロエが歩み寄ると、ベルサリウスはびくっと怯えたように身をすくめた。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
頭をかばうように抱え込みながら、何度もごめんなさいを繰り返す。
「いや、別に何もしないって……」
「ぼ……僕……っ、何も知らなくて……っ……知らないで、あの子に渡して……!
僕のせいで、あの子、あんな…あんな……っ!」
かなり取り乱した様子で、滅茶苦茶なことを並べ立てる。
挙句、彼は声を漏らして泣き始める。
「だからな、ベル……」
アロエがなんとか声をかけようとするが、ベルサリウスはひたすら泣きじゃくってい
る。
罪悪感とショックとがごちゃ混ぜで、人の話を聞く余裕などないのだろう。
オーシンは、いっこうに進まないアロエとベルサリウスの会話を、傍らでぼーっと聞
いていた。
傍観するつもりなどない。
オーシンは、非常にわかりづらいが、戸惑いのようなものを感じているのだ。
人間が泣きわめく瞬間を見たのが、初めてだったのである。
何しろ、オーシンが今までに最も身近に接した人間は、あの『魔女』と呼ばれ畏怖さ
れるサラ一人だけ。
泣きわめく人間を見る機会など、あるはずもない。
人間が泣くのは、一体どういう時だろうか、とオーシンはぼんやり考えた。
だいたいは、悲しいと思った時に涙を流すらしい。
しかし、感激のあまり涙を流すこともあるらしい。
この場合は、感激のあまり泣いているわけではないだろう。
悲しいと思ったから、というのも何となく違うようである。
そこまで考えたオーシンは、ベルサリウスの横にちょこんとしゃがみ、
「……怖い……?」
一言、ぽつりと尋ねた。
「え……?」
ベルサリウスが戸惑い、しゃくり上げながら顔を上げると、
「……怖い……?」
オーシンはもう一度尋ねた。
この少年が泣くのは、おそらく何かを恐れているからだ、と推測したらしい。
その『何か』が何なのかまでは、オーシンはわからなかったが。
「怖いよ……だって……だって、とんでもないこと、しちゃったんだ……! どうし
たらいいか、わからないよ……!」
「……お父様の、場所」
再び泣きわめきかけたベルサリウスに、オーシンはさらに尋ねる。
「べム、お父様の場所を、教えて……?」
どうしてそんな言葉が返ってくるのか、ベルサリウスは理解できなかったのだろう。
彼は泣くことすら忘れて、固まった。
「あー……ええとな。お前の言ってる『お父様』が、カヤを助ける方法を知ってるは
ずなんだ。だから、会って聞きたいんだ」
アロエがすかさずフォローにまわる。
「…………」
ベルサリウスはうつむき、黙りこんだ。
迷っているのかもしれない。
今まで信じ続けてきた『お父様』の言葉と、今見た現実。
その二つはあまりにもかけ離れていた。
だが、ずっと信じてきたものは、根深い所で彼を拘束している。
そんなに簡単に捨てられるものではない。
……くい。
じーっとベルサリウスを見ていたオーシンが、不意にローブの袖を小さく引っ張っ
た。
まるで、幼児がやるような仕草で。
「……カラのこと、どうでもいい……?」
ベルサリウスが、息を飲む。
「そんなことない! 僕の……僕のせいで、あんなことになったんだ!」
しかし、そこまで言うと、彼は肩を落とし、うなだれた。
「でも……今更何したって、きっと、許してなんかもらえないよ……それくらい、ひ
どいことしちゃったんだから……」
後はぐずぐずと鼻をすするばかりである。
「あ……あのさ」
アロエが、おずおずと声を上げた。
「おれ、思うんだけどさ。このままカヤのことほっといて逃げたら、きっと駄目だ。
お前、一生後悔するぞ」
ベルサリウスが唇を噛む。
本人としても、そこは強く自覚しているのだろう。
「許してくれるかどうかは、正直言うとよくわかんねぇよ、おれも。だけど……何も
しないで後悔するよりは、ずっとマシじゃねぇのかな。やれるだけのこと、やった
分」
――沈黙が、しばらく続いた。
その間、オーシンはぼーっとベルサリウスを見つめ、アロエはかける言葉がうまく見
つからない様子で、何かを言いかけては口を閉ざすという行動を繰り返していた。
「……わかった……」
唐突に、ベルサリウスは重々しく口を開く。
「許してなんて、もらえないかもしれないけど……でも、やらなくちゃ……僕の、せ
いなんだから」
かすれた声で、自分に言い聞かせるように言いながら、立ち上がる。
「お父様の所に、案内するよ。だから、ついて来て」
場所:イノス(シーカヤック号船内)
NPC:おばば様(サラ) ベルサリウス
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船内から甲板に出るドアを開けると、湿った空気が肌に触れた。
船内でのやり取りの間に、通り雨が降ったらしい。
その証拠に、甲板の床板が濡れていた。
ベルサリウスは、甲板の端に置かれた樽の陰に、隠れるようにして座っていた。
かぶったフードのすそを引っ張って、頭をすっぽり覆っている。
「ベル……」
アロエが歩み寄ると、ベルサリウスはびくっと怯えたように身をすくめた。
「ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」
頭をかばうように抱え込みながら、何度もごめんなさいを繰り返す。
「いや、別に何もしないって……」
「ぼ……僕……っ、何も知らなくて……っ……知らないで、あの子に渡して……!
僕のせいで、あの子、あんな…あんな……っ!」
かなり取り乱した様子で、滅茶苦茶なことを並べ立てる。
挙句、彼は声を漏らして泣き始める。
「だからな、ベル……」
アロエがなんとか声をかけようとするが、ベルサリウスはひたすら泣きじゃくってい
る。
罪悪感とショックとがごちゃ混ぜで、人の話を聞く余裕などないのだろう。
オーシンは、いっこうに進まないアロエとベルサリウスの会話を、傍らでぼーっと聞
いていた。
傍観するつもりなどない。
オーシンは、非常にわかりづらいが、戸惑いのようなものを感じているのだ。
人間が泣きわめく瞬間を見たのが、初めてだったのである。
何しろ、オーシンが今までに最も身近に接した人間は、あの『魔女』と呼ばれ畏怖さ
れるサラ一人だけ。
泣きわめく人間を見る機会など、あるはずもない。
人間が泣くのは、一体どういう時だろうか、とオーシンはぼんやり考えた。
だいたいは、悲しいと思った時に涙を流すらしい。
しかし、感激のあまり涙を流すこともあるらしい。
この場合は、感激のあまり泣いているわけではないだろう。
悲しいと思ったから、というのも何となく違うようである。
そこまで考えたオーシンは、ベルサリウスの横にちょこんとしゃがみ、
「……怖い……?」
一言、ぽつりと尋ねた。
「え……?」
ベルサリウスが戸惑い、しゃくり上げながら顔を上げると、
「……怖い……?」
オーシンはもう一度尋ねた。
この少年が泣くのは、おそらく何かを恐れているからだ、と推測したらしい。
その『何か』が何なのかまでは、オーシンはわからなかったが。
「怖いよ……だって……だって、とんでもないこと、しちゃったんだ……! どうし
たらいいか、わからないよ……!」
「……お父様の、場所」
再び泣きわめきかけたベルサリウスに、オーシンはさらに尋ねる。
「べム、お父様の場所を、教えて……?」
どうしてそんな言葉が返ってくるのか、ベルサリウスは理解できなかったのだろう。
彼は泣くことすら忘れて、固まった。
「あー……ええとな。お前の言ってる『お父様』が、カヤを助ける方法を知ってるは
ずなんだ。だから、会って聞きたいんだ」
アロエがすかさずフォローにまわる。
「…………」
ベルサリウスはうつむき、黙りこんだ。
迷っているのかもしれない。
今まで信じ続けてきた『お父様』の言葉と、今見た現実。
その二つはあまりにもかけ離れていた。
だが、ずっと信じてきたものは、根深い所で彼を拘束している。
そんなに簡単に捨てられるものではない。
……くい。
じーっとベルサリウスを見ていたオーシンが、不意にローブの袖を小さく引っ張っ
た。
まるで、幼児がやるような仕草で。
「……カラのこと、どうでもいい……?」
ベルサリウスが、息を飲む。
「そんなことない! 僕の……僕のせいで、あんなことになったんだ!」
しかし、そこまで言うと、彼は肩を落とし、うなだれた。
「でも……今更何したって、きっと、許してなんかもらえないよ……それくらい、ひ
どいことしちゃったんだから……」
後はぐずぐずと鼻をすするばかりである。
「あ……あのさ」
アロエが、おずおずと声を上げた。
「おれ、思うんだけどさ。このままカヤのことほっといて逃げたら、きっと駄目だ。
お前、一生後悔するぞ」
ベルサリウスが唇を噛む。
本人としても、そこは強く自覚しているのだろう。
「許してくれるかどうかは、正直言うとよくわかんねぇよ、おれも。だけど……何も
しないで後悔するよりは、ずっとマシじゃねぇのかな。やれるだけのこと、やった
分」
――沈黙が、しばらく続いた。
その間、オーシンはぼーっとベルサリウスを見つめ、アロエはかける言葉がうまく見
つからない様子で、何かを言いかけては口を閉ざすという行動を繰り返していた。
「……わかった……」
唐突に、ベルサリウスは重々しく口を開く。
「許してなんて、もらえないかもしれないけど……でも、やらなくちゃ……僕の、せ
いなんだから」
かすれた声で、自分に言い聞かせるように言いながら、立ち上がる。
「お父様の所に、案内するよ。だから、ついて来て」
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