PC:アロエ オーシン
場所:イノス(シーカヤック号船内)
NPC:サラ 少年
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「つまり、アロエと離れたのは怪しいと思った奴を追っかけたからで、とっつかまえ
たこのガキが、種を管理してる奴の居所を知ってるだろうから、こっちの事情を信じ
てもらうために連れてきた、ってことなんだね?」
サラの言葉に、オーシンは、こくん、と頷いた。
サラは、くたびれたと言わんばかりに長いため息をついた。
帰ってきたオーシンが、どうして出歩いたのか、そしてその結果どういうことになっ
たかということを説明したのだが、いかんせん、その説明が、ただひたすらにわかり
づらかったのである。
無理もない。
何しろ、説明しているのはオーシンなのだ。
そのままではちっとも要領を得ず、ところどころにアロエやサラの質問が入らなけれ
ば、とても『説明』とは呼べないシロモノだった。
「本当は、絶対安静にしてなきゃいけないんだけどね……まあいいだろう。お前達、
部屋で騒ぐんじゃないよ」
サラはそう言うと、腰掛けていた椅子から立ちあがり、
「オーシン」
しわだらけの小さな手で、手招きをした。
「……何……?」
「こっちに来な」
一体なぜそんなことをするのか、さっぱりわからなかったが、オーシンは取りあえず
言う通りにすることにした。
ぼかっ!
サラの杖が、歩み寄ったオーシンの頭に強烈な一撃をお見舞いした。
結構派手な音がしたため、アロエと少年がギョッとした表情を浮かべる。
「……おばば様、痛い」
当の本人は、叩かれた部分を押さえ、ちっとも痛くなさそうな、ぼんやりした口調で
そういうだけだった。
サラはオーシンの顔をじろりと一瞥し、
「あたしに黙って勝手に出歩いた罰だ。2度とするんじゃないよ」
「……わかった……」
「まったく……」
サラは、一見怒っているようにしか見えないが、実はあることを恐れているのだ。
オーシンは、今の姿こそ若い娘のものだが、いつかどこかで、何かをきっかけにし
て、正体を見破られてしまうということもあり得るのだ。
生まれ持った本来の姿――醜悪なその姿を。
――そうなれば。
サラの胸中に、苦々しいものが広がる。
世の中の人間の大多数は、魔物を好いてはいない。
むしろ、排除せねばならぬと考える者の方が大半であろう。
そんな中で、正体がバレてしまったら。
(何事もなく終る、ってことはないだろうね……)
予想される事態が頭に浮かび、サラは眉をしかめた。
「ところで、このガキ、名前は何なんだい」
ふいに尋ねられ、そういえば、名前を聞いていなかったことをオーシンは思い出し
た。
「……聞いて、ない……」
いつものように、のったりした動きで首を横に振る。
「おおかた、そんなことだろうと思ってたよ。で? お前、名前は?」
「フンッ」
少年はむすっとした表情でそっぽを向く。
その態度に、サラのこめかみがぴくっと震えた。
「……お前は、自分の名前を言う口も持ってないのかい?」
サラの怒りが沸点に向かいかけたその時。
……ぽん、ぽん。
オーシンが、少年の肩を叩いた。
「何だよ」
いぶかしげに少年が見ると、オーシンはいつものぼーっとした口調で、
「フン、って名前……?」
などとのたまった。
「ンなわけねぇだろ!」
「違うっ!」
アロエと少年が、それに対してほぼ同時に突っ込む。
「あたしはフンだろうがクソだろうが、別にどうでもいいけどねぇ」
唯一、サラだけがにやりと笑った。
この台詞に黙っていられないのが少年本人である。
いくらなんでも、フンだのクソだのと呼ばれてはたまらない。
ぶすっとした表情で足元を睨みながら、
「……ない」
短く、そう呟いた。
「はあ?」
頭をかきつつアロエが尋ねると、少年はアロエを苛立たしげに睨んだ。
「だから……! 名前なんか、ないんだよっ」
「なんだよ、そりゃあ?」
「ずっと、お父様と2人きりだったから……そんなの、必要なかったんだ」
「ようするに、名無しのごんべえってことなんだね」
サラは、ほんの少しの間黙りこみ、何かを考え込む。
「よし。あたしが特別に名前をつけてやろう。呼び名がないと何かと不便だからね」
いらない、と言いたげな少年を完全に無視し、サラは続ける。
「ベルサリウスと名無しのごんべえ、どっちがいいか選びな」
一体何を基準にしてその二つを選び出したのかは不明だが、その二つには、物凄い差
があるのではないだろうか。
「ばーさん、名無しのごんべえってのはねぇだろ……?」
「お前は黙ってな、馬鹿天使」
思わず呟いたアロエを、サラは視線でねじ伏せる。
「……ベルサリウス、でいい……」
本音としては納得していないのだろうが、少年はぼそぼそと答えた。
「ふーん。ベルサリウス、ねえ……んじゃ、あだ名はベルだな」
提案したアロエを、少年が睨む。
「嫌だ! そんな女の子みたいなの!」
「いいじゃねぇか。短くて呼びやすいし」
なあ? と同意を求められ、オーシンはこっくりと頷いた。
「……うん、いいあだ名だと、思うよ……べム、って」
たった2文字であっても間違えるオーシンだった。
場所:イノス(シーカヤック号船内)
NPC:サラ 少年
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「つまり、アロエと離れたのは怪しいと思った奴を追っかけたからで、とっつかまえ
たこのガキが、種を管理してる奴の居所を知ってるだろうから、こっちの事情を信じ
てもらうために連れてきた、ってことなんだね?」
サラの言葉に、オーシンは、こくん、と頷いた。
サラは、くたびれたと言わんばかりに長いため息をついた。
帰ってきたオーシンが、どうして出歩いたのか、そしてその結果どういうことになっ
たかということを説明したのだが、いかんせん、その説明が、ただひたすらにわかり
づらかったのである。
無理もない。
何しろ、説明しているのはオーシンなのだ。
そのままではちっとも要領を得ず、ところどころにアロエやサラの質問が入らなけれ
ば、とても『説明』とは呼べないシロモノだった。
「本当は、絶対安静にしてなきゃいけないんだけどね……まあいいだろう。お前達、
部屋で騒ぐんじゃないよ」
サラはそう言うと、腰掛けていた椅子から立ちあがり、
「オーシン」
しわだらけの小さな手で、手招きをした。
「……何……?」
「こっちに来な」
一体なぜそんなことをするのか、さっぱりわからなかったが、オーシンは取りあえず
言う通りにすることにした。
ぼかっ!
サラの杖が、歩み寄ったオーシンの頭に強烈な一撃をお見舞いした。
結構派手な音がしたため、アロエと少年がギョッとした表情を浮かべる。
「……おばば様、痛い」
当の本人は、叩かれた部分を押さえ、ちっとも痛くなさそうな、ぼんやりした口調で
そういうだけだった。
サラはオーシンの顔をじろりと一瞥し、
「あたしに黙って勝手に出歩いた罰だ。2度とするんじゃないよ」
「……わかった……」
「まったく……」
サラは、一見怒っているようにしか見えないが、実はあることを恐れているのだ。
オーシンは、今の姿こそ若い娘のものだが、いつかどこかで、何かをきっかけにし
て、正体を見破られてしまうということもあり得るのだ。
生まれ持った本来の姿――醜悪なその姿を。
――そうなれば。
サラの胸中に、苦々しいものが広がる。
世の中の人間の大多数は、魔物を好いてはいない。
むしろ、排除せねばならぬと考える者の方が大半であろう。
そんな中で、正体がバレてしまったら。
(何事もなく終る、ってことはないだろうね……)
予想される事態が頭に浮かび、サラは眉をしかめた。
「ところで、このガキ、名前は何なんだい」
ふいに尋ねられ、そういえば、名前を聞いていなかったことをオーシンは思い出し
た。
「……聞いて、ない……」
いつものように、のったりした動きで首を横に振る。
「おおかた、そんなことだろうと思ってたよ。で? お前、名前は?」
「フンッ」
少年はむすっとした表情でそっぽを向く。
その態度に、サラのこめかみがぴくっと震えた。
「……お前は、自分の名前を言う口も持ってないのかい?」
サラの怒りが沸点に向かいかけたその時。
……ぽん、ぽん。
オーシンが、少年の肩を叩いた。
「何だよ」
いぶかしげに少年が見ると、オーシンはいつものぼーっとした口調で、
「フン、って名前……?」
などとのたまった。
「ンなわけねぇだろ!」
「違うっ!」
アロエと少年が、それに対してほぼ同時に突っ込む。
「あたしはフンだろうがクソだろうが、別にどうでもいいけどねぇ」
唯一、サラだけがにやりと笑った。
この台詞に黙っていられないのが少年本人である。
いくらなんでも、フンだのクソだのと呼ばれてはたまらない。
ぶすっとした表情で足元を睨みながら、
「……ない」
短く、そう呟いた。
「はあ?」
頭をかきつつアロエが尋ねると、少年はアロエを苛立たしげに睨んだ。
「だから……! 名前なんか、ないんだよっ」
「なんだよ、そりゃあ?」
「ずっと、お父様と2人きりだったから……そんなの、必要なかったんだ」
「ようするに、名無しのごんべえってことなんだね」
サラは、ほんの少しの間黙りこみ、何かを考え込む。
「よし。あたしが特別に名前をつけてやろう。呼び名がないと何かと不便だからね」
いらない、と言いたげな少年を完全に無視し、サラは続ける。
「ベルサリウスと名無しのごんべえ、どっちがいいか選びな」
一体何を基準にしてその二つを選び出したのかは不明だが、その二つには、物凄い差
があるのではないだろうか。
「ばーさん、名無しのごんべえってのはねぇだろ……?」
「お前は黙ってな、馬鹿天使」
思わず呟いたアロエを、サラは視線でねじ伏せる。
「……ベルサリウス、でいい……」
本音としては納得していないのだろうが、少年はぼそぼそと答えた。
「ふーん。ベルサリウス、ねえ……んじゃ、あだ名はベルだな」
提案したアロエを、少年が睨む。
「嫌だ! そんな女の子みたいなの!」
「いいじゃねぇか。短くて呼びやすいし」
なあ? と同意を求められ、オーシンはこっくりと頷いた。
「……うん、いいあだ名だと、思うよ……べム、って」
たった2文字であっても間違えるオーシンだった。
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