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2024/05/17 01:38 |
2.アロエ&オーシン 「天使への怖れ」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノス
NPC:おばば様(サラ)

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

オーシンは、急いでいた。
傍目には、いつもとあんまり変わらない速度だろうが、それでも急ぎ足で歩いてい
た。
理由はただ一つ。
抱えて歩く紙袋の中身――魔術書をサラに渡して、それから居間の掃除をしなくては
ならないから。

居間の掃除に早く取りかからないと、後々の仕事に響いてくるのだ。

家に辿りつき、玄関のドアに手をかける。
そしてまさに、ただいま、と言おうとした、その瞬間だった。


「おおマジだよっ!!こんの大馬鹿者めがっっ!!」

ドカーン!

「うみゃぁぁっ!!」
 

家の中から発生した、サラの怒鳴り声と、知らない誰かの悲鳴らしきもの。

驚いて、オーシンは体をビクッと震わせる。
その弾みで、抱えていた紙袋が腕から滑り落ちた。

ぼちゃ。

本が落ちたにしては、少し妙な音である。

疑問に思って視線を下げたオーシンは、あ、とかすかに声を上げた。

そこには、運の悪いことに水たまりがあった。
その水たまりは、昨日、水汲みをしていて誤ってぶちまけてしまった時にできたもの
だ。
サラの家はあまり水はけがよくないらしく、一日経っても乾かなかったのである。
慌てて拾い上げたつもりだったが、泥水は紙袋を越えて中の魔術書にまで達してい
た。

この状態で、使い物になるのだろうか?

オーシンは、どろどろになった紙袋を見つめる。

しかし、いつまでも見つめていたところで、元通りになんてなるわけもない。
オーシンは気が進まないながらも、家に入ることにした。

「ただいま」

ドアを押し開けて中に入ると、サラが無愛想な顔でオーシンをじろりと見た。

「おや、やっと帰ってきたのかい。遅かったね」

つっけんどんな物言い。
どうやら、虫の居所が良くないらしい。

「で? あたしが言いつけた用事はちゃんとできてるんだろうね?」

言われて、オーシンは少し考え込んだ。
取りに行く、というところまでは、ちゃんとやったのだが……その後起きたハプニン
グのせいで、魔術書は悲惨な状態になってしまった。
結果としては、『ちゃんとできている』とは言えないのではないだろうか。

「できてるのかできてないのか、って聞いてるんだよ。返事しな」

サラの機嫌が、また一段と悪化する。
オーシンは、おずおずと魔術書の入った紙袋をサラの目の前に差し出した。
例の、水たまりに落ちてどろどろになったやつである。

それを見たサラの顔つきが、まともに引きつる。

「……さっき、おばば様が大きな声を出したから、びっくりして……」
「落としたってのかい?」
こくん、とうなづく。
サラは、盛大なため息をつくと、なかばひったくるようにして紙袋を受け取った。
「おばば様、ごめんよ」
普通なら、落ちこむべき場面である。
しかし、オーシンにはそういった細やかな情緒の変化というものが乏しい。
ぼーっとした顔つきで、ガリガリと頭をかいただけだった。
「……ハナっから期待なんてしちゃいないよ」
サラはそう言うと、顔をしかめてこめかみを押さえた。

「ばーさん、誰だよこいつ。あ、もしかして孫とか?」

先ほど、サラに怒鳴られて悲鳴を上げたのと同じ声が言う。
オーシンは、声の持ち主を探すべく、サラの前方へと視線を向けた。

「うるさいね。それにさっきから思ってたけど、『ばーさん』ってなんだい!
『おばば様』と呼びな!」
足元に向かってそう言うサラ。
そこにいるのは、背中に白い羽根を背負った、猫。
そう、少なくとも、人間にはそうとしか映らないだろう。

オーシンの視線は、白い羽根に集中していた。

――天使。

闇に巣くう魔物どもが恐れる、聖なる存在。
どうしてなのかはさっぱりわからないが、この猫から、それと良く似た空気が感じら
れるのだ。
姿を変えても、オーシンは結局魔物なのである。
本能的に恐怖を覚えるのは、当然のことかもしれない。

もっとも、この時オーシンはそいつが「天使と化け猫のハーフ」などとは気付いてい
なかったのだが。

「どうしたんだよ、おい。気分でも悪いのか?」
とことこと気さくに足元に近寄ってきて、そいつはオーシンを見上げる。

「……そういうわけじゃ……ないよ……」

どうしても、視線を合わせられない。
オーシンの視線は、自然と逸らされていた。

「あっ、猫がしゃべってるから変な感じするのか? ちょっと待ってろ」

言うなり、そいつは、くるん、と1回、宙返りをする。

すると、不思議なことに、先ほどまで猫そのものだった姿は、猫の耳と尻尾があるも
のの、人間に近い姿に変わっていた。
より天使に近付いた姿に、オーシンはさらに警戒心を強める。

「おれ、縞目野=アロエリーナ。アロエって呼んでくれよ。あんたは?」

実に気さくに声をかけられているというのに、オーシンは黙りこくって視線を逸らし
たままである。
どうしても、言葉が出てこないのだ。

「こいつの名前はオーシンっていうのさ。時々こうして人見知りするんだよ」
サラが、横からでたらめなことをでっちあげる。
知っているのだ。オーシンが視線を合わせられない理由を。
「……ふーん?」
そいつ――アロエが、サラの答えにポリポリと頭をかいた。

「さてと、アロエ」

サラの持っている杖が、天井の一点を指す。

「あんた、これをどうしてくれるつもりだい」

不機嫌そのものの声でアロエに詰め寄るサラ。
杖の先は、天井にぽっかりと開いた巨大な穴を指している。
その規模といったら、空の様子がばっちり観察できるほどである。
これで雨でも降ってきたら、家の中は悲惨な状態になること間違いなしだろう。

……いや、穴が開いた時に降り注いだと思われる木くずなどが床に散乱していて、す
でに家の中は悲惨なことになっていたのだが。

「いや、だからさ、ばーさん、悪気はなかったんだって」
両手を小さく上げながら、アロエが言い訳じみたことを口にする。
「ふん。聞く耳持たないね。まずはこれを塞いでもらうよ」
「え、ええっ!?」
「当然だろ? 人の家の屋根をぶち破って落ちてきて、挙句に飯までがつがつ食っ
て……これがどうしてタダになると思うんだいっ! 世の中ってのは、そんなに甘く
ないんだからね! しっかり働いて返しな!」

アロエが「う~……」とうなだれる。
そんなアロエを尻目に、サラは今度はオーシンの方を向いた。

「オーシン、後は頼んだよ。全部終わって、飯の支度ができたら呼びに来な」

サラの言葉に、オーシンはほんのわずかに顔を強張らせた。

「おばば様は?」

「あたしはこれからやることが山ほどあるんだ。何から何まで構ってられないね」

サラはすれ違いざま、ぽん、とオーシンの胸元を本で軽く叩く。

「別にとって食われやしないよ。無闇に警戒するんじゃないよ、まったく」

ぶつくさ言いながら、サラはさっさと自分の部屋に入ってしまった。
ぱたん、と閉じられたドアをしばらく見つめ、
無闇に警戒するんじゃない、と言われても、警戒心は簡単に解けるものではない。
一つ深呼吸すると、オーシンはアロエの方を向く。

「……それじゃ……最初に、屋根の穴、塞ごうか。大工道具持ってくるから、ちょっ
と待っててくれないかな……アルレ」

……オーシンは、名前を覚えるのが非常に苦手なのだった。


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2007/02/12 16:31 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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