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2024/11/16 08:26 |
18.アロエ&オーシン 「その目で見ろ」/オーシン(周防松)
PC:アロエ オーシン
場所:イノスのスラム街
NPC:薄汚れたローブを着た少年

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「僕は……お父様に、薬を渡されただけだ」

少年の言葉は、長い長い沈黙の果てに、ようやく紡がれた。
対するオーシンは、のったりした動きで首を傾げる。
「……薬……?」
おばば様は植物の種だと言っていたのに……と、そんなことを考えた。

「お父様は、皆に欲しいかどうか聞いてみて、もし『欲しい』という人がいたら渡し
て来なさい、って、そうおっしゃったんだ」
「……それで……カラに、渡した……ってこと……?」
「名前なんて知らない。だけど、欲しいって言ったからあげただけだ」
「……それじゃ、お父様、って人が……その……薬を、持ってるんだね……?」

オーシンは、ぼんやりと思い出した。
確か、サラは、『種を管理している奴なら、なんとかする手段を知ってるかもしれな
い』と言っていたはずである。
ならば、そのお父様とやらが、なんとかする方法を知っているのではなかろうか。
種ではなく薬と言っているようだが。

「……あの、ね……お父様、って、どこにいるんだい……?」
途端、少年の態度に変化が起きた。
「どうしてそんなことを聞くの?」
どこかおどおどしていた声が、冷たくて硬い声に変わったのである。
「……カラを助ける手段を、その人が……知ってる、と思うから……」
その言葉に、少年は頑なな表情を浮かべた。
「あの薬で誰かが苦しんでるなんて、そんなはずない……。お父様は、あの薬は人を
幸せにする薬だって、願いをかなえる薬だって言ってたんだから」
頑なな瞳が、オーシンを見据える。

「嘘つき」

嘘つき呼ばわりされ、オーシンは、ぼんやりした顔でまばたきを数回繰り返した。
嘘を言った覚えがなかったからである。

「嘘……じゃないよ……」
のったりした動きで首を横に振れば、
「お父様のおっしゃることに間違いなんかない! お父様は正しいんだ!」
頑なな表情から一転、少年は鋭くオーシンを睨む。
少年グループに取り囲まれていた時とは、まるで別人のようである。
弱々しかった青灰色の瞳が、今は強い意思のようなものを宿していた。

「……でも、カバは……苦しんでた……」
オーシンの発言に、少年が眉をひそめる。
「さっき、カラ、って言ってなかった?」
カバではないが、カラでもない。
正しくはカヤである。
オーシンは人の名前を覚えるのが非常に苦手なのである。

しかし、初対面の少年がそんなことを知るはずもない。

「やっぱり嘘つきじゃないか。そんなに嘘ばかりついて、恥ずかしくないの?」
「苦しんでるのは、本当、だよ……」
「嘘だ! それ以上お父様を悪者呼ばわりしたら、許さないっ」
……こちらの言葉を聞いてくれそうにはない。
それほど、彼にとって『お父様』とやらの言葉は絶対なのだろう。

オーシンは、ぼんやりと、困ったなあ、と思った。

カヤは今この瞬間も苦しんでいるのだ。
ここであまり時間をかけてもいられない。
早く、なんとかする手段を教えてもらわなくてはならない。

そのためには……。

オーシンは、決意した。

オーシンは、いきなり少年の腕を掴むと、引っ張って立たせた。
細い腕だった。
もしかしたら、ロクに食べていないのかもしれない。
「ちょ、ちょっと! 何するんだよ!」
少年はその腕を振り払い、抗議の声を上げる。
しかしオーシンは振り払われた腕を再度掴み、少年を引きずるようにして走り出し
た。
「離せったら、嘘つき!」
オーシンは、これまたいきなり足を止め、少年の方を振り向いた。
いきなりだったせいだろう。
少年は勢いあまってオーシンにぶつかり、振り向いたオーシンの顔を間近にすること
になった。
オーシンの顔を間近にした少年は、慌てて視線を逸らした。
その緑色の瞳に見つめられそうになり、本能的な恐怖を覚えたのである。

「カラが……苦しんでるのは、本当、だよ……その目で……見たらいい……」

カヤを助けるためには。
まず、この少年に、カヤが苦しんでいることを信じてもらう必要がある。
そうしなければ、お父様とやらの言葉を盲目的に信じているこの少年は、その居場所
を教えてはくれないだろう。
カヤを助ける手段を知っているであろう、人物の居場所を。

「……嘘に決まってる……お父様以外は、みんな嘘つきなんだ……」
少年はうなだれたまま、小さな小さな声で吐き捨てるように呟いた。
「行くよ……」
オーシンは、少年の腕を引いて再び走り出した。

シーカヤック号をめざして。

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2007/02/12 16:38 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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