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2024/11/16 06:29 |
16.アロエ&オーシン「彼の者への接触」/オーシン(周防松)
PC:アロエ・オーシン
場所:イノスのスラム街
NPC:薄汚れたローブを着た人・少年グループ

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

――どこからか吹いてくる生ぬるい風が、頬をくすぐる。

スラム街。
元々は倉庫街か何かだったものが、長年放置された挙句できあがったのだろう。
古いレンガ造りの巨大な倉庫がいくつも並び、地面に影を落としている。
普段、日の当たりにくいとおぼしき部分は大きな水たまりを作り、ひどいところは、
緑色のコケだかカビだかわからないものに覆われている。
道の片隅には、ガラクタが雑然と積み重ねられていたり、張られたロープに
洗濯物がぶら下げられていたりする。

薄汚れたローブを着た人物は、そんな中を歩いていく。どこかへ向かって。
その後をオーシンが追う。
飾り気こそないものの、清潔な白いワンピースを着たオーシンは、この街の
雰囲気になじんでいない。
街のあちこちに、数名で固まっている少年少女達がいるが、彼らは薄汚れた
暗い色の服ばかり着ているのである。
こんなところで生活していたら、明るい色の服を着ようなどという気分には
ならないのかもしれない。
彼らの中には、通り過ぎるオーシンを値踏みするような目で見る者もいた。

……どうして、こんなにゴミが散らかってるんだろ……。

ローブを着た人物を追いながら、オーシンはそんなことを思った。
実際、散らかり放題なのである。
生ぬるい風に吹かれた紙くずが道を転がり、何度か空き瓶を踏みそうにもなった。

……おばば様、ゴミはちゃんと、くず入れに捨てるもんだって、言ってたのに……。

こんなところをサラが見たら、怒り心頭ではないだろうか、とやはりどこかずれたこ
とを思うオーシンだった。
ちなみにサラは、街の美観云々で怒りはしない。
家の中がこのような有り様ならば、別だろうが。

薄汚れたローブを着た人物は、後を追うオーシンに気づいていないのか、最初に見か
けた時と全く変わらない速度で、スラム街を奥へと奥へと進んでいく。

――その歩みが、突然止まった。
オーシンも、つられたように足を止める。

その前方に、あまりガラの良くない少年達が、道を塞ぐような形で立っていたのであ
る。
ローブを着た人物は、そこから逃げるかのように方向を変えて歩き出す。
通してくれ、と言わない辺り、どうもこの少年達に対して怯えているらしい。

「待てよ。どこ行こうってんだ?」
しかし、少年達にたちまち取り囲まれ、身動きが取れなくなる。

「なーんで逃げるのかねえ? やましいことでもあるのかなあ?」
「聞いたって無駄だろ。こいつ、誰とも口きかないんだぜ」
「なんとか言えよ、ああ!?」

一人が、ローブを着た人物を乱暴に突き飛ばす。
人物は尻餅をついたが、運の悪いことにそこには水たまりがあった。
跳ねあがった水が、ローブを濡らす。尻の部分も水浸しになっていることだろう。
途端に沸き上がる、侮蔑しきった笑い声。
ローブを着た人物はうなだれ、その笑い声に耐えていた。

その時、グループのリーダーとおぼしき少年が、少し距離を置いたところでじっと
見ているオーシンに気付いた。

「何見てんだよ」
その声で、いっせいに少年達の興味はオーシンの方に向けられた。
「お前、ここの奴じゃねえな……? 何の間違いでここに来たかは知らねえが、
ここのルールってものを教えてやる」
微動だにせず、いまだじっと見ているままのオーシンを、怯えて動けないのだと
判断したらしい。
嫌な笑みを浮かべて、リーダー格の少年が近寄ってくる。
もしオーシンの見た目が、屈強そうな男なら。
少なくとも、今のような若い娘の姿でなければ。
そんな真似などしなかっただろうが。

オーシンは、近寄ってきたリーダー格の少年を、ぼーっとした目で見つめた。
そして、思ったままを、これまた、ぼーっとした口調で告げた。

「……大勢で、よってたかって一人をいじめるのって……いけないんだよ……」

まるで、友達のケンカを止めようとする幼児のような言い様である。
しかも、口調がぼーっとしているせいか、迫力も説得力も全くない。
これで態度を改める者がいたら、そいつの方がどうかしている。
聞いていた他の少年達が、げらげらと笑い声を上げた。
あいつはとんだ大馬鹿だ。
内心、誰もがそう思っていることだろう。

しかし、ただ一人、リーダー格の少年に、明らかな変化が起きた。

「……わかっ、た……もう、やら、ない……」

少年は、どこかうつろにそう答える。
いつもとは違う態度に、他の少年達はざわつき出した。

オーシンに、いまだ自覚はないが。
その緑色の瞳には、何かの力があるらしい。
ハーフとはいえ、天使であるアロエを、一時は圧倒しかけたほどの力が。

「……あとね……家に帰って、手伝いとか、した方がいいと思う……」

その言葉に無言でうなづくと、リーダー格の少年は、オーシンから離れ、
ふらふらと歩き去っていく。

あっけに取られてその後ろ姿を凝視していた連中は、「覚えてやがれ!」などと
言葉を吐いて、その後を追いかけていった。

……後には、オーシンと、薄汚れたローブを来た人物だけが残された。

オーシンは、いまだ尻餅をついたままの、ローブを着た人物に歩み寄る。
そして、その前にぺたんと座り、無言でじーっと見つめた。

「……何か、用なの?」

近寄ってきて何も言わず何もせず、ただじーっと見つめているだけのオーシンを
さすがに不審がったのだろう、人物はぼそぼそと尋ねた。
その声は、年の頃なら14・5歳ほどの少年のものだった。
オーシンは、こくん、とうなづく。

「船長さんの娘の……カラが……人間の血を吸って成長して、花を咲かせるっていう
植物の種を飲みこんで……それが発芽して、苦しんでるんだ……」

正しくはカラではなくカヤである。
アロエの時同様、名前を間違えているオーシンだった。

「そ、そんなこと、僕うわああっ!?」
何か言いかけた人物は、途中で悲鳴を上げる。
オーシンが、いきなり両肩を掴んでぐいっと引き寄せ、挙句くんくんと匂いを
かぎ始めたからである。
「な、な、何するんだよ、一体っ!?」
わたわたとお尻で後ずさり、人物はなおも叫ぶ。
かぶっていたフードが、ばさりとずり落ちた。

「……それで、ね……」
人物とは対照的に、いつものぼーっとした態度のまま、オーシンは続ける。

「カラの体からしてたのと、似た匂いだから……何か知ってると思ったんだ……」

その言葉に。
フードがずり落ち、顔が露わになった人物は、青灰色の瞳を丸くしていた。

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2007/02/12 16:37 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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