PC:アロエ オーシン
場所:イノス
NPC:うす汚れたローブの人
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
よく晴れていた。
空は青く澄み渡り、白い雲などどこにも見当たらない。
るり色の天井のようにさえ思える空の色。
しかし、その美しさの一方、じりじりと太陽が照り付け、朝と比べて気温もぐんと上
がっている。
海から吹いてくる潮風もどこか生ぬるく、涼むにはあまり適さない。
「あぢぃ……」
アロエは、やっとという感じで呟いた。
イノスにある広場。
中央には噴水があり、また片隅には芝生の敷かれた部分がある。
芝生の部分には何本かの木が植えられており、暑さから逃れて、木陰でくつろぐ者も
ちらほらと見うけられる。
そのうちの一本の木。
そこにできた木陰の中に、2人はいた。
オーシンは足を投げ出して座り、アロエはそのそばでぐったりと体を横たえている。
2人は、ギルドを目指していたはずである。
それがどうしてこんなところにいるのかというと、歩いていたアロエがいきなり倒れ
たからである。
はじめは具合が悪いのかと思ったオーシンだったが、実のところ、アロエが倒れたの
は暑さのためだった。
こんな状態ではギルドに行くこともできず、オーシンは比較的涼しそうな木陰までア
ロエをおんぶして運び……今にいたる。
「……アロエ、歩ける……?」
「悪い、まだちょっと無理」
そう答えるアロエのネコ耳としっぽは、だらりと力なく垂れ下がっている。
そうとう辛いようだ。
上から降ってきた一枚の葉っぱが、ぱさり、とアロエの頬に落ちる。
アロエはそれをはらう気力もないのか、動こうとしない。
はらってあげよう。
オーシンは、じっとアロエを見つめ……そのうち、そ~っとアロエに手を伸ばした。
まるで、幼い子供が未知のものに対してそうするように。
ぺそ。
葉っぱをはらい落とした際、オーシンの手が、アロエの頬に軽く触れた。
「いぃっ!?」
途端、アロエが奇声を発してがばっと起き上がった。
同時に、彼女のしっぽが、ぶわっと大きくふくらむ。
「オーシン、何すんだよっ」
「……え……?」
何すんだ、と言われてオーシンは戸惑った。
葉っぱをはらってあげようと思っただけなのである。
今の行動は、そんなに悪いことだったのだろうか。
「なんか、今、すっげえ手が冷たかったぞ! お前、冷え性なのかっ?」
……どうやら、アロエは触れたオーシンの手の冷たさに驚いたらしい。
「ひえしょう?」
きょとん、とした視線を返すオーシン。
アロエは、その反応にしばし沈黙し、
「……冷え性って言葉、知らないのか?」
こくん。
オーシンは一つ、うなずいた。
「あー……冷え性ってのはな、手足がいっつも冷たいことだよ」
アロエの説明に、オーシンはのったりした動きで首を傾げる。
「どうしていつも冷たいの……?」
「それはー……」
頭をガリガリとかいて、アロエはしばらく考え込み、
「オレもわかんねえ」
簡潔にそう述べた。
普通ならずっこけそうなところだが、相手はオーシンである。
ぼーっとした口調で「ふうん」と呟いただけで、特に大きな反応はない。
「オーシン、暑くねえのかよ」
アロエは、その場にあぐらをかいた。
その後ろで、ちろりっと動いたしっぽは、いつもの太さに戻っている。
「うん」
「暑くないほうがどうかしてるぜ。ほら、チビがいっぱい水遊びしてるし」
アロエが指差した方角では、子供達が噴水に入って水遊びに熱中していた。
靴は脱いでいるが、衣服は脱いでいない。
きっと、びしょびしょのままで家に帰って、母親にうんとしかられるのだろう。
オーシンは、視線を上に向けた。
木の葉や枝越しに見える光は、港で見たあの太陽とは違い、やわらかだ。
ざわざわと風に揺れると、さまざまな表情をみせる。
オーシンには、暑さも寒さもたいして影響しない。
人間のなりをしてはいるが、人間とは違うのである。
したがってどんなに暑くても汗ひとつかかないし、寒さに身震いしたりすることもな
い。
「アロエ、まだ、辛い……?」
「おう、快調快調。だいぶ気分も良くなったし、そろそろ行こうぜ」
すっくと立ち上がり、アロエはにかっと笑う。
うながされるようにして立ち上がり、ワンピースについた芝生を手ではらい――オー
シンの嗅覚が、何かの匂いを拾った。
不思議な匂いだ。
生き物の匂いのような、植物の匂いのような……でも、芝生の匂いとは違う匂い。
この匂いは、どこからただよってくるのだろう。
オーシンは、ぼんやりした視線を匂いのする方向に向けた。
その方角には、うす汚れたローブを着た人物の姿があった。
すっぽりとフードをかぶっているため、『老若男女』のうちのどれなのかも、この距
離ではうかがえない。
人ごみに紛れながら、その人物は通りの向こうへと消えていく。
「なっ、お、おいっ、オーシン!?」
声を上げるアロエにかまわず、オーシンは走り出した。
走り出したオーシンに驚いてか、広場にたむろしていた鳩がいっせいに飛び立つ。
はばたく音が間近に聞こえたが、それでも速度は緩めない。
嗅覚が決断を下したのだ。
あの人物を追え、と。
場所:イノス
NPC:うす汚れたローブの人
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よく晴れていた。
空は青く澄み渡り、白い雲などどこにも見当たらない。
るり色の天井のようにさえ思える空の色。
しかし、その美しさの一方、じりじりと太陽が照り付け、朝と比べて気温もぐんと上
がっている。
海から吹いてくる潮風もどこか生ぬるく、涼むにはあまり適さない。
「あぢぃ……」
アロエは、やっとという感じで呟いた。
イノスにある広場。
中央には噴水があり、また片隅には芝生の敷かれた部分がある。
芝生の部分には何本かの木が植えられており、暑さから逃れて、木陰でくつろぐ者も
ちらほらと見うけられる。
そのうちの一本の木。
そこにできた木陰の中に、2人はいた。
オーシンは足を投げ出して座り、アロエはそのそばでぐったりと体を横たえている。
2人は、ギルドを目指していたはずである。
それがどうしてこんなところにいるのかというと、歩いていたアロエがいきなり倒れ
たからである。
はじめは具合が悪いのかと思ったオーシンだったが、実のところ、アロエが倒れたの
は暑さのためだった。
こんな状態ではギルドに行くこともできず、オーシンは比較的涼しそうな木陰までア
ロエをおんぶして運び……今にいたる。
「……アロエ、歩ける……?」
「悪い、まだちょっと無理」
そう答えるアロエのネコ耳としっぽは、だらりと力なく垂れ下がっている。
そうとう辛いようだ。
上から降ってきた一枚の葉っぱが、ぱさり、とアロエの頬に落ちる。
アロエはそれをはらう気力もないのか、動こうとしない。
はらってあげよう。
オーシンは、じっとアロエを見つめ……そのうち、そ~っとアロエに手を伸ばした。
まるで、幼い子供が未知のものに対してそうするように。
ぺそ。
葉っぱをはらい落とした際、オーシンの手が、アロエの頬に軽く触れた。
「いぃっ!?」
途端、アロエが奇声を発してがばっと起き上がった。
同時に、彼女のしっぽが、ぶわっと大きくふくらむ。
「オーシン、何すんだよっ」
「……え……?」
何すんだ、と言われてオーシンは戸惑った。
葉っぱをはらってあげようと思っただけなのである。
今の行動は、そんなに悪いことだったのだろうか。
「なんか、今、すっげえ手が冷たかったぞ! お前、冷え性なのかっ?」
……どうやら、アロエは触れたオーシンの手の冷たさに驚いたらしい。
「ひえしょう?」
きょとん、とした視線を返すオーシン。
アロエは、その反応にしばし沈黙し、
「……冷え性って言葉、知らないのか?」
こくん。
オーシンは一つ、うなずいた。
「あー……冷え性ってのはな、手足がいっつも冷たいことだよ」
アロエの説明に、オーシンはのったりした動きで首を傾げる。
「どうしていつも冷たいの……?」
「それはー……」
頭をガリガリとかいて、アロエはしばらく考え込み、
「オレもわかんねえ」
簡潔にそう述べた。
普通ならずっこけそうなところだが、相手はオーシンである。
ぼーっとした口調で「ふうん」と呟いただけで、特に大きな反応はない。
「オーシン、暑くねえのかよ」
アロエは、その場にあぐらをかいた。
その後ろで、ちろりっと動いたしっぽは、いつもの太さに戻っている。
「うん」
「暑くないほうがどうかしてるぜ。ほら、チビがいっぱい水遊びしてるし」
アロエが指差した方角では、子供達が噴水に入って水遊びに熱中していた。
靴は脱いでいるが、衣服は脱いでいない。
きっと、びしょびしょのままで家に帰って、母親にうんとしかられるのだろう。
オーシンは、視線を上に向けた。
木の葉や枝越しに見える光は、港で見たあの太陽とは違い、やわらかだ。
ざわざわと風に揺れると、さまざまな表情をみせる。
オーシンには、暑さも寒さもたいして影響しない。
人間のなりをしてはいるが、人間とは違うのである。
したがってどんなに暑くても汗ひとつかかないし、寒さに身震いしたりすることもな
い。
「アロエ、まだ、辛い……?」
「おう、快調快調。だいぶ気分も良くなったし、そろそろ行こうぜ」
すっくと立ち上がり、アロエはにかっと笑う。
うながされるようにして立ち上がり、ワンピースについた芝生を手ではらい――オー
シンの嗅覚が、何かの匂いを拾った。
不思議な匂いだ。
生き物の匂いのような、植物の匂いのような……でも、芝生の匂いとは違う匂い。
この匂いは、どこからただよってくるのだろう。
オーシンは、ぼんやりした視線を匂いのする方向に向けた。
その方角には、うす汚れたローブを着た人物の姿があった。
すっぽりとフードをかぶっているため、『老若男女』のうちのどれなのかも、この距
離ではうかがえない。
人ごみに紛れながら、その人物は通りの向こうへと消えていく。
「なっ、お、おいっ、オーシン!?」
声を上げるアロエにかまわず、オーシンは走り出した。
走り出したオーシンに驚いてか、広場にたむろしていた鳩がいっせいに飛び立つ。
はばたく音が間近に聞こえたが、それでも速度は緩めない。
嗅覚が決断を下したのだ。
あの人物を追え、と。
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