PC:アロエ・オーシン
場所:イノス
NPC:喫茶店の店主・シーカヤック号船員2名
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
イノスにある、一軒の喫茶店。
店内の掃除を終えた店主が、店先に出て、うーん、と伸びをする。
そろそろ開店すっかなあ、なんて思う彼の前を、2人の少女が通り過ぎていった。
何気なくそれを目で追って……店主はそのまま固まった。
1人は、特におかしな点などない。
飾り気のない白いワンピースを着た、至って普通の少女である。
ちょっとぼーっとした印象ではあるが、その連れに比べれば、そんなものは『普通』
の分類に入る。
そう、その連れはいやがおうにも人目を引く存在だった。
それは、2人とすれ違う人々が「何事か」といわんばかりの調子で振り返っているこ
とからも証明されている。
……無理もない。
連れの少女は、猫耳に尻尾、そして背中には白い羽根がついているという、非常に変
わった姿をしていたから。
喫茶店の店主は、そんな姿をした人物を、今まで一度も見たことがなかった。
「……なんだ、ありゃ」
店主は、遠ざかる少女達の背中を見つめ、ぽかんと口を開けるのみだった。
……知らぬは当人ばかりなり、という言葉があるが。
2人には、道行く人々が自分達に向ける奇怪な視線を意に介する様子がなかった。
ただし、オーシンの場合は、ただ単にぼーっとしていて気付かないだけである。
「アロエ……ギルドって、何?」
ギルドへと向かう道を歩きながら、オーシンは尋ねる。
「ん? 冒険者に依頼の斡旋とかしてくれるところ。オレ、ギルドのランク、Fなん
だ」
隣を歩きながら、アロエは手短に説明する。
「……ギルドのランク?」
オーシンは、ぼーっと、というか、じーっと、というか、とにかくアロエを見つめ
る。
説明をうまく飲みこめていない――つまり疑問に思っているのだ。
通常の人間なら、疑問を覚えた場合、首をかしげたりするものだろうが、オーシンの
場合は、疑問に思うとつい相手を見つめてしまうのである。
クセ、なのかもしれない。
そんなオーシンの視線を受けて、アロエはガシガシと頭をかいた。
「あー……ランクにはFからSまであって、F、E、D、C、B、A、Sの順番に上
がってくんだ。Aランク以上になると二つ名がつくんだぜ」
「ふたつな?」
「おうっ、二つ名は冒険者にとっちゃ、あこがれなんだぜ!」
アロエの目は、光を浴びた宝石のごとくキラキラと輝いていた。
彼女もきっと、二つ名というものに強くあこがれているのだろう。
自分にはない輝きを感じて、オーシンは眩しげな眼差しを返す。
――ふと、さっきの、船の上でのアロエの様子が頭の中によみがえる。
あの時、アロエはひどく落ちこんでいた。
その様はあまりにいたたまれなくて、思わず、慣れない『励まし』というものをして
しまうほどに。
幸い、アロエは元の調子を取り戻し、元気になってくれた。
アロエは、やっぱり明るい方がいい、とオーシンは思う。
彼女には、降り注ぐ太陽の日差しがよく似合うから。
「……あこがれ、か……」
「ん? なんか言ったか?」
「……ううん、なんでも、ない……」
きょとんとして見つめるアロエに、ふるふる、とオーシンは首を横に振った。
「情報、あるといいね……」
「ある! 絶対! なくたって絶対探してみせる!」
強い決意を秘めた――だがまっすぐで明るい横顔。
(……あこがれ、か)
オーシンは、そっと目を伏せる。
自分にはない輝きを持つアロエが、少しうらやましかった。
* * * * * * * *
船員達が主に食事や休憩に使っているシーカヤック号の一室。
「……あれ?」
仕事を交代して船内に入ってきた船員の1人が、見慣れない麦わら帽子の存在に気付
いた。
赤いリボンがついていることから、どうやら男物ではなさそうである。
「お前、それどうしたんだよ? あ、さては彼女にプレゼントだな? 憎いね、この
こ
のっ」
にやにや笑いながら肘でつつく仲間に、船員は笑って手をぱたぱたと振った。
「ばーっか! 今日のお客さんの預かりモンだよ」
「……げげっ、あの魔女ってそんな趣味なのか!?」
サラがこの麦わら帽子をかぶっている様子を想像し、彼は引きつる。
「違うって! 一緒に着いて来た若い娘さんのだよ。昨日行った時も会ったけど……
あれ、孫なのかなあ。髪の色と目の色、魔女と同じだったし」
「へー、魔女に孫がいたとはねえ。……で、どうだ、美人か?」
「まあ、割といい線いってたぜ。なんかぼーっとしてたけど」
「おおおっ!」
何故か気合の入る船員。
「それと、コスプレしてる子もいたな。そっちは美人っつーか、可愛い系」
「……おい、後で声かけてみねえ?」
「賛成」
にやりと笑いあう男が2人。
アロエとオーシンの2人が勝手に出かけたことは、シーカヤック号の人間に、まだ知
られていなかった。
場所:イノス
NPC:喫茶店の店主・シーカヤック号船員2名
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イノスにある、一軒の喫茶店。
店内の掃除を終えた店主が、店先に出て、うーん、と伸びをする。
そろそろ開店すっかなあ、なんて思う彼の前を、2人の少女が通り過ぎていった。
何気なくそれを目で追って……店主はそのまま固まった。
1人は、特におかしな点などない。
飾り気のない白いワンピースを着た、至って普通の少女である。
ちょっとぼーっとした印象ではあるが、その連れに比べれば、そんなものは『普通』
の分類に入る。
そう、その連れはいやがおうにも人目を引く存在だった。
それは、2人とすれ違う人々が「何事か」といわんばかりの調子で振り返っているこ
とからも証明されている。
……無理もない。
連れの少女は、猫耳に尻尾、そして背中には白い羽根がついているという、非常に変
わった姿をしていたから。
喫茶店の店主は、そんな姿をした人物を、今まで一度も見たことがなかった。
「……なんだ、ありゃ」
店主は、遠ざかる少女達の背中を見つめ、ぽかんと口を開けるのみだった。
……知らぬは当人ばかりなり、という言葉があるが。
2人には、道行く人々が自分達に向ける奇怪な視線を意に介する様子がなかった。
ただし、オーシンの場合は、ただ単にぼーっとしていて気付かないだけである。
「アロエ……ギルドって、何?」
ギルドへと向かう道を歩きながら、オーシンは尋ねる。
「ん? 冒険者に依頼の斡旋とかしてくれるところ。オレ、ギルドのランク、Fなん
だ」
隣を歩きながら、アロエは手短に説明する。
「……ギルドのランク?」
オーシンは、ぼーっと、というか、じーっと、というか、とにかくアロエを見つめ
る。
説明をうまく飲みこめていない――つまり疑問に思っているのだ。
通常の人間なら、疑問を覚えた場合、首をかしげたりするものだろうが、オーシンの
場合は、疑問に思うとつい相手を見つめてしまうのである。
クセ、なのかもしれない。
そんなオーシンの視線を受けて、アロエはガシガシと頭をかいた。
「あー……ランクにはFからSまであって、F、E、D、C、B、A、Sの順番に上
がってくんだ。Aランク以上になると二つ名がつくんだぜ」
「ふたつな?」
「おうっ、二つ名は冒険者にとっちゃ、あこがれなんだぜ!」
アロエの目は、光を浴びた宝石のごとくキラキラと輝いていた。
彼女もきっと、二つ名というものに強くあこがれているのだろう。
自分にはない輝きを感じて、オーシンは眩しげな眼差しを返す。
――ふと、さっきの、船の上でのアロエの様子が頭の中によみがえる。
あの時、アロエはひどく落ちこんでいた。
その様はあまりにいたたまれなくて、思わず、慣れない『励まし』というものをして
しまうほどに。
幸い、アロエは元の調子を取り戻し、元気になってくれた。
アロエは、やっぱり明るい方がいい、とオーシンは思う。
彼女には、降り注ぐ太陽の日差しがよく似合うから。
「……あこがれ、か……」
「ん? なんか言ったか?」
「……ううん、なんでも、ない……」
きょとんとして見つめるアロエに、ふるふる、とオーシンは首を横に振った。
「情報、あるといいね……」
「ある! 絶対! なくたって絶対探してみせる!」
強い決意を秘めた――だがまっすぐで明るい横顔。
(……あこがれ、か)
オーシンは、そっと目を伏せる。
自分にはない輝きを持つアロエが、少しうらやましかった。
* * * * * * * *
船員達が主に食事や休憩に使っているシーカヤック号の一室。
「……あれ?」
仕事を交代して船内に入ってきた船員の1人が、見慣れない麦わら帽子の存在に気付
いた。
赤いリボンがついていることから、どうやら男物ではなさそうである。
「お前、それどうしたんだよ? あ、さては彼女にプレゼントだな? 憎いね、この
こ
のっ」
にやにや笑いながら肘でつつく仲間に、船員は笑って手をぱたぱたと振った。
「ばーっか! 今日のお客さんの預かりモンだよ」
「……げげっ、あの魔女ってそんな趣味なのか!?」
サラがこの麦わら帽子をかぶっている様子を想像し、彼は引きつる。
「違うって! 一緒に着いて来た若い娘さんのだよ。昨日行った時も会ったけど……
あれ、孫なのかなあ。髪の色と目の色、魔女と同じだったし」
「へー、魔女に孫がいたとはねえ。……で、どうだ、美人か?」
「まあ、割といい線いってたぜ。なんかぼーっとしてたけど」
「おおおっ!」
何故か気合の入る船員。
「それと、コスプレしてる子もいたな。そっちは美人っつーか、可愛い系」
「……おい、後で声かけてみねえ?」
「賛成」
にやりと笑いあう男が2人。
アロエとオーシンの2人が勝手に出かけたことは、シーカヤック号の人間に、まだ知
られていなかった。
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