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2025/03/10 07:36 |
10.アロエ&オーシン 「骸に咲く花」/オーシン(周防松)
PC :アロエ・オーシン
場所 : イノス(シーカヤック号船内)
NPC : おばば様(サラ)・カヤ・ヤックル船長・船員

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

船長が案内したその部屋は、船体の中央にあたる部分に位置した。
古びた木製のドアを開けると、部屋の中央に置かれたベッドに横たわる、1人の少女
の姿があった。
ヤックルはベッドの傍らに駆け寄り、片ひざをつく。
「カヤ……もうすぐだ、もうすぐの辛抱だ。だから……頑張るんだぞ」
ごつごつとした手で、優しくカヤの頭を撫でるヤックル。
何度も呟かれる労わりの言葉は、カヤに向けられたもののはずだが、どこかヤックル
自身に向けられているようにも思われた。

――……っ。

心に焼き付いて離れない風景がふと重なり、サラは目を伏せる。

「……おばば様……?」

そっと、しわだらけの手に、別の誰かの手が重ねられる。
サラが目を開けると、そこには、娘と同じ顔――オーシンの顔があった。
娘と同じ顔とは言っても、雰囲気や性格が違うせいか、その印象はまるで異なる。
――どこかぼんやりとした緑色の瞳は、あの娘のものではない。
(この私が、思い出にひたるなんてね……)
サラは、ふん、と自嘲気味に笑みを浮かべた。
「徹夜明けだからね、ちょいと疲れちまってるらしいよ」
「無理もねえよ、ばーさんだもん」
「何か言ったかい?」
ぼそっと呟いたその途端、ぎろり、とサラに睨まれて、アロエはオーシンの背後にこ
そこそと隠れた。
「安心しな。徹夜明けだからってヘマするほど、年老いちゃいないよ」
サラはそう言うと、ヤックルを押しのけてカヤのそばに立った。
押しのけられ、数歩後ずさったヤックルは、そこから祈るような目でサラを見つめ
る。
サラは診療を始めようとして……何かに気付いたように、顔を上げる。
「オーシン。部屋の中なんだから帽子は取りな」
呆れ顔のサラに、きょとんとするオーシン。
オーシンは、いまだ麦わら帽子をかぶったままなのである。
「……ええと……」
言われるままに麦わら帽子を脱いだものの、どこに置けばいいのかわからず、オーシ
ンは、じっ、と手に持った帽子を見つめる。
「ああ、預かりますよ」
船員がとっさに気を利かせてくれたので、オーシンは素直に帽子を差し出した。
手渡した瞬間、ふわり、と麦わら帽子についた赤いリボンが揺れた。

その一方で、サラは既に診療を開始していた。
「馬鹿天使、ぼさっと突っ立ってないで手伝いな。この子の、反対側の袖をまくって
おくれ」
サラは、ベッドの反対側に回れ、と無造作に手で指し示す。
「オレは馬鹿天使じゃないっての!」
膨れっ面をしつつ、ベッドの反対側に回るアロエ。
「つべこべ言うんじゃないよ」
カヤの着ている服の袖をまくると、不健康な暗い肌色の、痩せた腕があわらになる。
そこには、昨日、船員が話した通り、奇妙な形の赤いアザが浮かんでいた。
血の色というよりも、もっと不吉で恐ろしい……毒々しい赤い色。
「ばーさんっ、なんなんだよ、これ!?」
アロエは金色の目を見開いている。
赤いアザの話を知らされていない者ならば、自然な反応である。
サラは、2人には『船長の娘が病気だから、その診療をする』としか伝えていなかっ
た。
「……間違いないね」
サラは何かを確信したらしいが、その表情は先程よりもずっと険しかった。
「この子、体の中で種が発芽してるんだ」

「種?」

サラ以外の、その場にいた全員がほぼ同時に声を上げる。

「古文書に出てくる、大昔に生息してたっていう花の種だよ。その花は、もともとは
ただの野草だったんだけど、どっかのくそったれ野郎が、人間の血を養分にして成長
するように変えちまったんだ。この種は体内に入ると、血を吸って発芽して、体中に
根を張っていく。そしてさらに血を吸って……吸い尽くした果てに花を咲かせるん
だ」

だけどね、とサラは続ける。

「それも大昔の話さ。そんな危険な花、ほったらかしにされるわけないだろ。とっく
に駆逐されて、焼き払われてる。ここにこうやって存在するなんて、あるはずないん
だよ……古文書に書かれてたのが事実ならね」

「そんなモンが、なんでここにあるんだよっ!?」
アロエは驚きを隠せない様子で声を上げる。
それは、ヤックルが発するはずの言葉だったのかもしれないが、彼に言葉を紡ぐほど
の精神的余裕はなかった。
(カヤは、一体どうなってしまうんだ……?)
彼の心は、ただそれだけで、いっぱいになっていた。
「ふん。古文書に書いてあることが全てとは限らないからね。たぶんその時、学者だ
か研究者だかの中に、隠れてその種を保管した不届きな奴がいたんだろ。そういう連
中は、いっぺん作られたものを、なかなか捨てられないのさ。たとえ、間違いだって
言われてもね」
まくったカヤの袖を戻してやりながら、サラはため息をつく。

「カヤを、娘を治す方法はないのか……?娘は、もう駄目なのか……?」

ヤックルはうなだれ、力なく呟く。
その姿を見たオーシンの胸の中に、何か、ちくりとトゲの刺さるような痛みが走る。
いたたまれない……とでもいうのだろうか?
(……変な気持ち……)
それが一体なんなのか、今のオーシンにはよくわからなかった。
サラは、そんなヤックルから視線を外した。
「率直に言うと、さすがの私も治療方法はわからないんだ。ただ……その種が日光に
弱いっていうことはわかってる。日光に当たると、たちまち枯れて二度と使いものに
ならなくなるんだ。だけど……発芽してからじゃ駄目らしい。種の状態じゃないか
ら、だろうけどね」
「……ああ……カヤ……」
ヤックルは声を震わせ、目頭を押さえる。
ちくり、とまたオーシンの胸が痛んだ。
「泣くんじゃないよ。人の話は最後まで聞きな。発芽できる状態の種がある……って
ことは、日光に当たらないように種を管理してる奴がいるって考えるのが妥当だろ。
そいつは、私よりも種について詳しいはずさ。うっかり口に入ったりしたら、自分が
死んじゃうわけだからね」
「ばーさん、それじゃ……!」
アロエが言うより早く、サラは告げた。

「種を管理してる奴なら、なんとかする手段を知ってるかもしれない」


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2007/02/12 16:35 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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