忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/05/17 07:24 |
つまらない話を/オーシン(周防松)
PC:オーシン
NPC:おばば様(サラ)
場所:イノスのはずれにある民家

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


つまらない話を、ひとつ、致しましょう。

昔々、とあるところで、ひとつの生命が誕生しました。
しかしその誕生は、世界にとってはあまり歓迎のできないものでした。
なぜなら、それは『魔物』だったからです。

鋭い爪と牙。真っ黒い、巨大な体。
誰がどう見たとしても、それは凶悪そうな魔物としか映らない姿でした。
魔物は、最初、おそらく多くの魔物がそうであるように――何のためらいも疑問もな
く、人々を、村を襲っていました。

ところが、ある日。
この魔物は、とんでもない願い事を持ってしまったのです。

――その願い事は、人間になりたい、というものでした。

魔物は、同族の群れから離れ、人間になる術を求めてさまよいました。
先々で、凶悪な魔物と思われては武器を持った人間に追いかけられ、何度も斬りつけ
られ、血を流して逃げ回りながら、それでも魔物はさまよい続けました。

哀れな魔物。
『人間になりたい』などと願わなければ、ずっとしあわせだったでしょうに。

――いいえ。
かなわぬ願いを抱えるがゆえの苦しみや痛みは、決して、その魔物だけが感じるもの
ではないでしょうけれど。

そんな日々が長く続いた果てに。
魔物は、ついに巡りあいました。

願い事をかなえる術を持った、一人の魔女に。


――それは、糸のように細い三日月の浮かぶ夜のことでした。


 * * * * * * * * * * *



イノスという、貿易で栄える港町のはずれに、小さな家がある。
そこで暮らしているのは、一人の老婆。
元々はソフィニアでそれなりに活躍した魔術師なのだが、年をとるごとに偏屈さを増
していき、1人でいる方が気楽で結構、と言ってイノスのはずれに居をかまえ、1人
暮しを始めたのである。
その老婆の名は、サラという。
しかし本名で呼ばれることはめったになく、周囲からは尊敬と恐怖をもって「おばば
様」と呼ばれていた。

「おばば様、終わったよ。次は何をやるんだい?」

エプロン姿の若い娘が、とある部屋のドアをノックする。
淡い茶色の髪を無造作に束ねてポニーテールにした、緑色の瞳の、なんだかぼんやり
した娘である。
ノックの直後、バタン!と乱暴にドアが開く。
開いたドアから現れたのは、小柄で腰の曲がった老婆。サラである。

「このお馬鹿! たかがマキ割りに、一体どんだけ時間がかかったと思ってんだい!
 ああっ、ったく、ホントに使えない奴だねえ! このあたしが親切丁寧に何度も何
度も効率のいいやり方を教えてやったっていうのに、ちっとも覚えやしない! マキ
割りだけじゃない、料理も、皿洗いも、掃除も洗濯も裁縫も! ああーもうっ、どう
してこんなもの拾っちまったんだ、あたしは! いいかい、図々しくもタダで願い事
をかなえてくれっていう魔物の願い事をかなえてやって、なおかついろいろ不自由だ
ろうからしばらくここで生活させてやるなんて、あたしのような聖人はめったにいな
いんだからね!」

ガミガミガミガミガミガミガミガミ。

サラの小言は止まらない。
しかし、言われている本人はいたって気にしていないようで、サラの頭上の辺りにぼ
んやりと視線を置いている。
なんだか、正直なところ、聞いているのかどうかも疑問である。

……かくんっ。

娘の体が、ほんの少し後ろの方によろめいた。
「……あ」
そこで、ハッと気がつく娘。
どうやら、小言の途中から寝ていた模様である。器用にも目を開けたまま。

ぷちっ。

サラの中で、何かが切れた。

「人の話くらい真面目に聞きな、オーシン!!」
ポカッ!
サラは、持っていた杖で娘――オーシンの頭を一発叩いた。
「おばば様、痛い」
叩かれたところを押さえるオーシン。しかし、オーシンの言う「痛い」は、どこか
ぼーっとした口調のせいもあり、ちっとも痛そうに聞こえない。
「ふん」
サラは不機嫌そうに片方の眉をぴくりと動かすと、
「それで、次にやることだけどね」
ため息をつきながら話を変えた。

「ハーノ魔術書専門店に行って来な。こないだ買いに行ったら店員が売り切れだとか
ぬかしやがった本が、今日入荷してるはずだからね。金は先に払ってあるから、『サ
ラの代理で本を受け取りに来ました』って言えばいい。わかったね。ちょっと言って
みな」

ぼんやりとまばたきをした後、オーシンは口を開いた。
「ドラの代理で」

コン!

言い終えぬうちにオーシンの頭を直撃する、杖の一撃。
「おばば様、痛い」
「ええいっ、どうしてあんたって奴は人の名前を覚えないんだ! あたしはサラだ!
 いいかい、サラだよ! サ・ラ! サラって言ってみな!」
「……サラ」
今度はすんなりと言えるオーシン。
「よし。じゃあさっさと行きな」
こくりと頷き、オーシンはエプロンをはずすと、玄関に向かう。
玄関の壁にかけてある上着をはおり、玄関のドアを開けたところで、
「オーシン」
サラが声をかけてきた。
「……何、おばば様」
ゆっくりした動きで振り向くオーシン。
「帰ってきたら今度は居間の掃除だ。道草するんじゃないよ」
「わかった」

ぼんやりと返事をし、オーシンは眩しい日差しの元に出た。

PR

2007/02/12 16:29 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<12.君の瞳が追う先/マックス(フンヅワーラー) | HOME | 「星影のワルツ」 オーシン2話/オーシン(周防松)>>
忍者ブログ[PR]