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2024/05/17 02:23 |
「星影のワルツ」 オーシン2話/オーシン(周防松)
PC:オーシン
NPC:店員・女
場所:イノス ハーノ魔術書専門店

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ハーノ魔術書専門店。
イノスにあるのは本店。つまり支店があるということになる。
まあ、支店がどこにあるのかは、オーシンの興味のないところである。

「サラの代理で本を受け取りに来ました」

カウンターにいる店員に、ぼーっとした口調でそう告げる。
ここでの買い物は、初めてではない。サラに連れられて何度か来ている。
おかげでオーシンは、店での買い物のやり方、というものをだいたい理解していた。
「はい、サラ様の代理の方ですね。少々お待ち下さい」
店員はにこやかに応対すると、カウンターの奥の部屋へと引っ込んでいった。

――「お待ち下さい」って言われたら、おとなしくそこで待ってるんだよ。わかった
ね。

いつだったかサラの言った言葉を思い出しつつ、オーシンはカウンターの前で
ぼーっとしていた。

……え? オーシンさん?
……そうそう、オーシンさん。
……ぷっ……っくく……。
……笑っちゃダメだってば………っぷ……
……あ……あんたこそ……っくく……

店の片隅で、2人の店員が何やらこそこそとやり取りしている。
悪意は感じられないが、どこかからかうような雰囲気である。

……本人の知らないところであるが。

サラに連れられて何度かこの店に来ているうちに、オーシンはちょっとした有名人に
なっている。
それというのも、あまりにとっぴな行動ばかりしては「やめな、オーシン!」 「そ
れに触るんじゃないよ、オーシン!」 「寝るんじゃないよ、オーシン!」といった
具合で始終サラに怒鳴り散らされたせいである。
おかげで店員たちはオーシンという人物をしっかり覚えてしまったのである。

「お待たせいたしました」

カウンターの奥の部屋から、先ほどの店員が戻ってくる。
雑談をしていた2人の店員が、それを合図にしたかのようにサッと離れる。
それを鋭く一瞥すると、カウンターの店員はてきぱきと魔術書を紙袋に入れ、
「当店のご利用、ありがとうございます。またのお越しをお待ちしております」
丁寧に頭を下げた。
「…………」
オーシンは、ぼーっとした表情のままで少々考え込んだ。
店員の言った言葉を、もう一度頭の中で繰り返す。

『またのお越しをお待ちしております』

お待ち下さい、ではない。ということは、待つ必要はない。

「お客さま?」
魔術書の入った紙袋を差し出しつつ、にこやかに尋ねる店員。
「なんでもないよ」
紙袋を受け取り、オーシンは店を出る。
なんでもないよ、というこの言葉もやはり、サラに教わった言葉である。
説明するのが面倒な時に使いな、というとんでもない教え方だったが。

店を出た途端に、太陽の日差しが目に刺さる。

オーシンは思わず、片手をかざして日差しをさえぎった。
港町であるイノスにとっては、晴天というのは何よりもありがたいものだろう。
しかし、元々が魔物であるオーシンにとっては、ただひたすら眩しいだけである。
日の光に慣れていない、とも言えるだろう。
この姿を取るまでは、常に暗がりに隠れて生きていたのだから。

そうしているうちに眩しい日差しに目が慣れ、オーシンはかざしていた手を降ろす。

ふと、その手を見つめる。
どこからどう見ても人間の女の手そのものの、細い指。
本来の自分の手とは、まるで正反対の手である。
ぼんやりと見つめていると、これの何倍も巨大で、真っ黒で、鋭い爪の伸びた手が、
脳裏をよぎった。
――生まれ持った、本来の自分の手。

「ちょっと、あなた。そこ邪魔なんだけど?」

声をかけられて、オーシンは我に返る。
若い女が、明らかにイライラした様子で睨んでいた。
そういえば、オーシンが立っている位置は魔術書専門店の入り口の真ん前である。
「ごめんよ」
オーシンが横に避けると、女はもう一度横目で睨んで店へと入っていった。

そうだ。自分は道草しないで早く帰らなければならないのだ。何せ、この後には居間
の掃除が待っている。
オーシンは、魔術書の入った紙袋をしっかりと持つと、サラの待つ家へと歩き出し
た。
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2007/02/12 16:30 | Comments(0) | TrackBack() | アロエ&オーシン

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