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2025/03/10 06:55 |
12.君の瞳が追う先/マックス(フンヅワーラー)
PC:ジルヴァ ラルク マックス
場所:シカラグァ連合王国・直轄領
―――――――――――――――――――――――――――――――――――


 シカラグァでは箸と呼ばれる2本の棒を使って食べると初めて知ったときは、
ユニークな文化だと思った。
 その2本の棒をうまく使い、シンプルに塩で焼いた魚の皮をめくり、櫛形に
切ってある緑がかった小さな柑橘をしぼってかける。蒸気とともに良い香りが広
がる。

「この……なんだい? 白い、水っぽい、みぞれみたいなやつは」

「大根おろしです。大根を、摩り下ろしてたやつで、魚と一緒にたべるとおいし
いんですよ。
 そのまま食べてもおいしいんですけど、醤油をかけてもおいしいんですよ」

 ラルクが、嬉しそうに言い、黒い液体を大根おろしにかける。
 ジルヴァは箸を拳で握りながら、魚と悪戦苦闘している。見かねて、マックス
は、「貸してください」と、ジルヴァの魚の身と骨とを分けてやる。ジルヴァは
更に「喉に刺さるから小骨もちゃんと取れ」と注文までつけてきた。
 一応、「見落としていたらすみません」と事前に告げておく。
 マックスの箸使いを見て、ラルクが目を丸くする。

「マックスさんってここの出身者だったんですか?」

 思わず箸を止めて、ラルクの顔を見る。
 その反応で違うと判断したラルクは続けた。

「いや、シカラグァのなまりが全然ないんで、違うと思ってたんですけど。あま
りに、箸を綺麗に使うんで。
 あ、もしかして、ここにいるのは長いとかですか?」

「いや……半月ほど、になりますかね」

「へぇー。それじゃぁ器用なんですね。僕より上手かもしれない」

 とラルクはニコニコと笑った。
 ジルヴァに袖をひっぱられ、マックスは、引き続き魚の骨取りを再開する。

「そういえば、お二人はなんでシカラグァに来たんですか?」

「あたしは、ツレに付き合ってここまで来ただけさ」

 まだ骨取りは終えていないというのに、ジルヴァはより分けた身を匙ですくっ
て、ご飯と一緒にぱくついている。ちなみに、マックスはまだ、自分の分を口に
していない。

「私は……単に、今までと同じように、転々と旅をしていて、ここに来ただけのこ
とですかね」

「へぇ。旅人さんなんだ。色んなところに行ってるんですね。
 僕は、ずっとここに住んでるんで、他の国は、見たこと無いんですよ」

「この南の地域は、比較的異文化の人々も多いですけど、元々地域の文化がかな
り独特ですから、きっと、驚かれることが多いと思いますよ。
 ……はい、どうぞ。終わりました」

 横から箸を伸ばしかけてきたジルヴァに皿を返し、自分の皿を手前に引き戻す。

「すごいなぁ」

「そんなこと、無いですよ。
 ただ、ふらふらして、金が無くなればその場所で働いて、そしてまた移動する
だけですよ」

「でも、時々故郷が恋しくなったりとかしませんか?」

「長いことやってるんで、どこが故郷なのか、もう分からなくなりましたね」

 本当に、故郷はどこだったのか。
 生まれた場所はおろか、あの逃亡した『施設』の場所すら、忘れている。

「すごいなぁ、旅人さんっぽい台詞だ」

 どこか憧れるような眼差しで、ラルクはマックスを見ている。
 そんなラルクに、マックスは「すごいもんじゃないですよ」と控えめに笑いを
作ってみせる。
 本当に、「旅人」などいいものではない。
 どこに行っても、居場所が無いだけなのだ。
 別に、居場所を探しているつもりではないのに、気づけば旅立つ算段をたてて
いるのだ。
 一箇所に留まっているのが耐えられないということではない。一定の人間関係
を持ち続けるのに嫌気がさすというのでもない。脅えるように逃げ出すのとも違う。
 ただ、違和感を感じるだけなのだ。
 「違う」と、何かが判断しているのだ。その違うと思う理由も、何もわからな
いまま、判断が下される。
 そこには、理由が無いだけに、納得は無い。あるのは、結果だけが出力された
違和感だけだ。
 違和感を感じ続けるということは……単純に、あんまりいいものではない。

「そんなにしたいなら、一度旅をしてみればいいじゃないか」

「え!?」

 しゃっくりのような声をラルクが上げた。
 ジルヴァを見ると、お椀にそそがれた、透明でとろみのあるスープをふぅ、
ふぅ、と冷ましている。猫舌らしい。

「見たところ、一人身なんだろう? なら、ちょっとくらい旅をしたって支障は
無いじゃないか。
 むしろ、アンタの場合、ここを出た方が、生活が楽になるんじゃないかい?」

 マックスにはその発言が何を示すのか、わからなかったが、ラルクには分かっ
たらしい。

「考えたこと……なかったです。
 ずっと、ここにいるもんだと思ってた……。
 そうかぁ、旅かぁ……」

 その顔は、だんだんと笑顔へと緩んでいく。が、突如、その緩んだ顔は強張っ
て、困ったような笑みに変わった。

「でも……僕みたいな人間が、できるわけないですよ」

「そうかい? あたしから見たら、十分だと思うがね」

 ジルヴァは、それ以上、そのことについては何も言わなかった。

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2007/02/11 23:55 | Comments(0) | TrackBack() | ○君の瞳

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