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2024/11/01 08:00 |
36.フレイムオレンジ/リタ(夏琉)
PC:ヴィルフリード、リタルード
NPC:ゼクス
場所:酒場
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 本当は、何も聞きたくなんかないんだ。
 ただすべてを葬ってしまえばそれで済むことなのだ。混乱に喧騒にトリックに、埋
没してしまえばよいのだ。

 そうわかっていながらも、完全に弱さににげこんでしまうことなど、決して自分に
はできない。

 だって知っているから。
 目をきつく瞑って両手で耳をふさいで地べたにしゃがみこんで絶対に立ち上がらな
いと決意しても、目蓋に焼き付いてしまった光り星の影は消えはしないことを----。




「この話題が、貴方にとって愉快なものでないことはわかってるんだ。でも、知って
ることがあるのなら----」

「この小指のことかな?」

 凶悪な----人間に慣れた獣が飼い主の喉元に喰らいつく寸前に見せるような笑みを
浮かべて、ゼクスは自らの両手を見せびらかす。

「前置きは無用だよ。そんな余裕君にはないんじゃないのかな?」

「貴方は余裕だよね…どうせフレアちゃんがいなかったら、契約金だけ受け取ってす
ぐに事を終わらせるつもりだったんじゃないの?」

 リタルードの言葉に、ヴィルフリードが目を見張る。

「どういうことだ…?」

「僕だって知らないよ。他人の人生に介入するのが、大好きな奴らがいるってだけの
ことさ」

 苦々しく思っていることを露にして、リタルードは言う。

 リタルードにとって、このような介入自体はあまり珍しいことではない。
 もともと自分など『生かされている』存在なのだ。目的も理由も明確なものは何一
つ聞かされていないが、疑問を呈しても碌な答えが得られたことはない。

 ただ、ここまで危険な存在が舞台の上に立ったことは今まで一度もなかった。飽く
までも、それは遊戯の範疇をでないものだった。

----何かが、変化してきているのか。

「金銭の動きがあったことは、否定しない。でもそれ以上のことは言えないな。僕の
信用問題に関わる」

 ゼクスはグラスに口をつけ、半分ほど中身を干した。そして、目を細めて言う。

「時間、そんなにないよ。それともまさか今ので終わりってわけじゃないだろうね」


「まさか」

 手のひらが、汗でじっとりと湿っている。
 ゼクスの顔を見ることはできなかった。カウンターのシミをじっと見据えて、リタ
ルードは無意識のうちに声を落とした。

「魔力を伴う人体変成…仕掛け人がいるかもしれないって話、知ってる?」

「へぇ…、初耳だなぁ」

 ゼクスのその声は、不気味なほどなんの変化もなかった。寧ろ、ヴィルフリードの
ほうがリタルードの言葉に緊張しているのがわかった。

「一応買った情報だよ、信憑性は疑わしいけれどね。…本当に、聞いたことない?」


「ないね。嘘は言わない、そういう約束だっただろう」

「そっか…」

 リタルードはそこで長い息をついた。

 次に言うべきこと----否、自分の望んでいることは、わかっている。
 人体変成に関わる者がいて、その上彼は人の心や記憶に干渉する力を持っているの
だ。運命的といって良いほど、自分の屈折しきった望みに、この状況は適っている。


 次の言葉をつむぐのに躊躇いを感じる理由は、ヴィルフリードの存在だ。
 彼はきっとリタルードのその言葉を不審に思うだろうし、自分はその意図を決して
説明することがないからだ。 

 つまり今、リタルードはヴィルフリードと離れることに対して忌避感情を抱いてい
るのだ。

------情は鎖、血は呪いだ。

 血の繋がりはどれだけ否定しようが厳然たる事実として存在し、どれだけ振り払っ
ても逃れることはできない。だが情の繋がりは、鎖はいつでもその手に持っておかな
ければいけないのだ。金属のぺたりとした肌触りときな臭い体液に似た匂いの存在を
忘れてはいけない。存在することさえ覚えていれば、いつでも断ち切ることはできる
のだから。

 ならば、鎖にひびを入れることも吝か[やぶさか]ではない。
 
 リタルードが再び口を開いたときには、ゼクスの持つグラスの底はほんのわずかに
色づいているだけだった。

「ゼクス」

 顔を上げて名を呼ぶと、ぶつかった瞳はやはり笑みを含んでいた。

「僕の記憶が、欲しいと思わない?」

「リタ?! 何言って」

「ヴィルさんは黙ってて!」

 怒声に近い勢いでリタルードは、ヴィルフリードの言葉を止める。

「別に操られてこういうこと言ってるわけじゃないよ…考えてのことだ」

「でも…リタ、ゼクスみたいなのは記憶を読み取ることまではできないって、自分で
言ってたじゃねぇか」

「はっきりとは読み取れないだろうけど、その気になれば漠然としたことなら掴める
はずだよ。
 それに、そのグラスを空にした瞬間に無理やり喋りたい気分にさせられるよりは、
そっちのほうがよっぽどいいからね」

 リタルードのその言葉にヴィルフリードがはっとゼクスのほうをにらみつけると、
彼はククと小さく笑った。

「嫌だなぁ、いくら僕でもそんなことはしないよ。少なくとも、今ここではね」

「つまり、欲しいんだろう?」

「どうだろうね。 それに、もしかしたら君のお兄さん方に頼まれていたことが、そ
ういうことかも知れないよ。
 それでも構わないのかな?」

「構わない」

「へぇ…悪趣味だなぁ。こんなやり方じゃ僕に何を知られるかわかったものじゃない
のに。
 僕だって、知りたいことを知ることができる保障はない。効率悪いよ」

 そこで、ふいにゼクスは何かに気づいたように表情を消した。
 芝居がかった調子でグラスから離した指を組み、わずかに首を傾げる。

「もしかして、僕は今、ものを頼まれている。そういうことなのかな?」

「………」

「へぇ…」

 呟いて、ゼクスはヴィルフリードのほうに目をあてると言った。

「そういうわけだから、ちょっとはずしてくれないかな」

「…納得できねぇな。いったい何がどうなってるんだ」

「それは、後でその子に聞くことじゃないかな」

 ヴィルフリードはそれ以上何も言わなかった。乱暴に椅子から立ち上がると、ゼク
スを、そしてリタルードを険しい表情で睨みつけて足音荒く店から出て行った。

「さて、僕は本当に読み取るほうは苦手なんだ。何か手がかりをひとつくれないか
な。言葉でもモノでもいいから」

 一人で生まれた場所を離れてから、ずっと求めていたのだ。そのことにリタルード
は今、気がついた。
 それは心を許せる友ではなく、恋焦がれる異性でもなく、ただ無条件に降伏する主
でもなく。
 
 ただ、誰かと共有したかったのだ。情の交わりも一定量の親密さも必要としない誰
かと。それの相手は、不可侵であればあるほどいい。危険であれば、なおさらだ。
 なぜなら自分はあまりにも弱く、そして卑怯だからだ。

「僕は…人体が変成した人に出会ったのは、あなたで…二人目だ」

 手のひらが白くなるほど拳を握って、今までで一番きつくゼクスを睨んでリタルー
ドが搾り出した言葉に、ゼクスは愉快そうにわざとらしく驚きの表情を浮かべた。

 ゼクスはグラスの中身を流し込むと、立ち上がった。リタルードのほうに6本の指
をもつ右手をゆっくりと擡[もた]げる。
 その手が自分の頭を包み込む前に、リタルードは目蓋を閉じた。
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2007/02/11 14:56 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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