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2024/11/01 10:11 |
35.青墨 aozumi/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・ディアン・フレア
NPC:ゼクス
場所:街道・酒場
―――――――――――――――

 霧に向かって行く二人の背を見つめながら、ヴィルフリードは隣にいるリタに
拳を突き出した。

「リタ。ジャンケン」

「え?」

 この別れの場面に、ありえない単語が聞こえてきたリタは、その単語が何を意
味しているのかを一瞬、思い出せなかった。

「いいから、ハイ、ジャーンケーン」

――― ホイ

 チョキとパーで、チョキの勝ち。

「……なんでとっさにチョキが出るんだ、お前は」

「それって、ひねくれてるって言いたいの?」

「今更言うことでもないだろ、そんなこと」

 更に言いかけるリタルードの言葉が出る前に、ヴィルが拳を押し付けてきた。

「……勝ったお前が悪いんだ。持っておけ」

 受け取るとそれは、鎖で全身を縛られた短刀だった。
 リタは、あ、と小さく呟いた。
 しかし、その声は、直後に発せられたヴィルフリードの絶叫にかき消された



「阿呆! 立ち止まンな! 突っ切れ!!」

 ディアンとフレアはその言葉と同時に走り出した。
 ハッキリと見えてくるその人影は、やはりゼクスだった。霧のせいで顔はよく
見えないが、口元の不気味な笑みだけがハッキリと見えた。
 羽織っているだけのコートから腕が伸び、六本の指が何かを捕まえようとして
いるかのように宙に差し出される。
 その掌から道を横切るように、一筋の霧が歪んだ。
 空気に、何かが干渉される。
 だんだんと、それは渦巻き、大きくなってゆく。

「飛ぶぞ!」

 ディアンの、小さく鋭い言葉に、フレアが少しだけ首が後ろに動く。

「だけど……!」

 ディアンはそんなフレアの様子に思わず舌打ちをした。
 距離は縮まる。
 止まるしかないのか。

「信じろ!!」

 ヴィルフリードの叫びがフレアの背中を押した。

 小賢[こざか]しいオッサンだ。俺らの背中で察しやがった。
 しかも、フレアに一番効く言葉じゃねぇか。
 フレアの目が真っ直ぐと前に向けられたのを見て、ディアンは笑みをこぼし
た。

 同時に地面を踏み切る音がした。

 歪んだ空気が膨張し、中心へ巻き込む渦巻く流れと変わった。
 ディアンはどうにかバランスを崩さずにすんだが、その引き込む力を空中で受
け、体重の軽いフレアがバランスを崩し、巻き込まれる。
 その瞬間、その直後、その渦巻く力は消滅し、フレアは地面に身を打ちつけ
た。

「……また、邪魔をするのか」

 見ると、ゼクスの腕には先端にナイフがくくられている鋼線が巻かれていた。
 ゼクスの顔は後ろに向けられており、表情はディアンからは見えない。が、ど
こか楽しそうな響きが込められている。

「どっちが邪魔なんだよ。
 ホレ、オマエら、行け!」

 先ほど、フレアに「大丈夫だ」と言ったものの、実際遭遇してしまうと、話は
違う。
 腰に下げている柄に手をかけたが、ディアンはヴィルフリードの落ち着いた色
の目に気づいた。

 ……何を企んでいる?

「喰えねぇオッサンだ」

 口元に笑みを浮かべ、小さく呟いた。
 既に身を起こして、ディアンにならって剣を抜こうと構えたフレアの腕を掴ん
で、ディアンは走り出した。

「ディアン!?」

「行くんだ! 大丈夫だ、あいつらなら!」

 最初は引きずられているように走っていたが、すぐにフレアは自分の力で走り
だし、ディアンの背を追う。
 一度だけ、フレアは後ろを振り向き、叫んだ。

「二人とも、ありがとう!!」

 二人の反応などちゃんと見ずに、フレアは、まっすぐと前を向く。
 その途中、視界の端に、こちらを見ているゼクスの姿が霧にうっすらと映って
いた。
 ……その顔は霧に暈[ぼ]かされて見えなというのに、フレアには、ゼクスは
笑っているように思えた。



 霧の中に完全に二人の姿が消え、ゼクスはようやく振り返った。

「追いかけようと思えば、できたんだろう?
 こんなモノなんか断ち切って」

 ふっ、とヴィルフリードは腕の力を抜いた。

「……試すような言い方は好きじゃない」

 ゼクスは指先で鋼線に触れた。すると、あっけなくそれは切れ、力なく先端は
地面についた。

「からかっただけだ」

 鋼線に巻かれた腕に沿って指をなぞる。すると、錘[おもり]の役目をしていた
ナイフが、カランと朝の静かな空気に響いた。バラバラに千切れた鋼線のクズが
ナイフを埋葬するかのように、被さる。

「それより……君たちは、覚悟ができてるの?」

「なら……取引は好きか?」

 ヴィルフリードの唐突な言葉に、ゼクスは口を真一文字にし、量るような目を
向けた。

「リタ」

 呼びかけられたリタルードは、一瞬躊躇するも、先ほど仕舞ったばかりの短剣
をぶら下げて見せる。

「取引なんか無くても、僕が簡単に取り返せるってこと、わからないはずないよ
ねェ?」

 ねっとりとした笑み。暗さがある分、恐ろしさを振りまく。

「……じゃぁ、なんで、今まで取り戻そうとしなかったの?」

 ヴィルフリードが答える前に、リタが口を開いた。
 ヴィルが驚いてリタを見ると、リタの目には勝負をかけたもの独特の強さが
あった。
 唇を湿らせ、リタルードは続ける。

「ゼクスさんぐらいの人だったら、それこそ、いつでも取り返せられるよね?
 昨夜だって……昨夜はヴィルさんが持っていたけど、寝ている間に息を止め
て、これを奪うってことが出来たはずだし」

 ゼクスの表情が、無表情のまま凍る。
 何を考えているのか、何を思っているのか、分からないという点では今までと
は変わらないのだが、空気が硬質なものへと変化する。
 硬くなればなるほど、つまりは壊れやすいということだ。

「ゼクスさんが僕らをからかうのをやめなきゃ、こっちは試すしかないと思うん
だ。
 そうじゃない?」

 張り詰めた空気が流れる。
 が、それを緩めたのは、やはりゼクスのあの、笑みだった。

「賢い人は、嫌いだよ」

 靴音を鳴らしながら、ゼクスはリタに近づいてきた。
 目の前までやってきたゼクスは、リタが持っている短剣を手に取る。弄ぶよう
に。
 リタは、抵抗しない。いや、無駄なことなのだ。抵抗というものは。
 取引など、ゼクスにとって遊びに過ぎない。要は、ゼクスがその遊びに乗るか
乗らないかで成立する。
 緊張と、わずかな悔しさで、頬の筋肉がこわばる。
 と、ゼクスが飽きたように、短剣から手を放した。
 ゼクスは腰を少しだけかがめ、リタの顔の位置に合わせ、リタの目の前で笑っ
た。

「取引、乗ってあげるよ」




 ゼクスに案内され、飲み屋にリタとヴィルフリードはいた。
 
 他の客は2人。一人は飲み潰れたのか、いびきをかいて寝ている。もう一人
は、こちらを一度だけ見ただけで、それぞれまた興味無さそうに一人で飲み始め
た。目は虚ろだ。

「ここは昼前まで開いているんだ。気にせず、話せる」

 ゼクスは、「いつもの」と注文したものを一口飲んで、問いかけた。

「で。取引だ取引だって言ってるけど……僕の何と引き換えをしたいんだい?」

「……方便だ、そんなの。
 お前に遊ばれるよりマシだと思ったんだ」

 少しだけ驚いた眼差しでリタはヴィルフリードを少しだけ見た。

「だろうね。アンタは深く考えないから、そんなことだろうと思った」

 再び、グラスに口をつける。種類はわからないが、アルコールであるようだ。
 そのゼクスの姿を見て、ヴィルフリードもようやくグラスに口をつけた。こち
らの中身はウィスキーだ。朝という時間を考えたら気が引けたが、飲まなければ
やっていられないだろうと、注文したのだ。
 飲めば何か言葉が浮かぶと思ったが、喉に灼[や]け付く感覚が残るだけで、な
にも出てこなかった。そのくせ、身体にアルコールは染み渡ったくせに、一向に
酔えない。
 何の為の酒だ。
 ヴィルフリードは苦々しく思った。

「時間」

 口を開いたのは、リタルードだった。

「ゼクスさんが、僕らをからかわない……嘘をつかない、はぐらかさない時間と
引き換えっていうのは……駄目? 勿論、答えたくなければ答えないでいいって
いうのが前提で」

「……面白いね。ヴィルフリードと違って、君、面白いよ」

 ゼクスはそう言うと、一気に杯を煽って飲み干した。

「同じものを」

 空になったグラスをカウンターに戻す。

「ついでに、君らのその一杯は奢ってあげるよ」

 ゼクスが渡したグラスに、ラベルが摺れて文字が見えなくなっている瓶から注
がれる。そのグラスを受け取って、ゼクスは乾杯をするかのように、軽く持ち上
げて見せた。

「制限は、次のを飲み干すまででいいよね?」

 語尾のイントネーションは尻上がりだというのに、まるでそれはもう決定事項
のような響きを持っていた。
 無論、その通りなのだろう。現にゼクスの目は同意を求めては無かった

「何を聞きたいんだい?」

 心臓の高鳴りを抑え、リタは口を開いた。

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2007/02/11 14:56 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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