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2025/03/10 07:26 |
25.Raven/ヴィルフリード(フンヅワーラー)
キャスト:ヴィルフリード・リタルード・ディアン・フレア
NPC:衛兵、宿屋の亭主
場所:宿屋
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 ―――ただ、ちょっと記憶が跳んでるけどもね。

 なにが『ちょっと』だ。ごっそり抜けてやがるじゃねぇか。
 ヴィルフリードは、首をうなだれながら、心の中で6本指のにやけ顔に対し
て、毒づいた。
 なぜ、首をうなだれているのか。
 それは、簡単な理由だ。
 ヴィルフリードは、衛兵に怒られていたからだ。
 見せしめのように、食堂で怒られていたからだ。
 ディアンと二人で並んで、怒られていたからだ。
 もう、かれこれ、もう2時間ほど、怒られていたからだ。

 ……現状を説明していて、悲しくなった。

 宿屋の主人の記憶からは、『ゼクスの存在』のみ、無くなっていた。
 後からリタに聞いた所、記憶というものは、つじつま合わせをして誤魔化すら
しい。
 その誤魔化し材料として、丁度良く、朝の騒動が用いられたようだ。
 他の客の証言……というより苦情……もあり、どうやら、「朝から男二人が大
喧嘩をし、食堂で暴れまわった」ということになっているようだ。
 そして、気絶しているフレア、蒼白なリタの様子というのも、まずかった。野
次馬に成り下がった宿泊客だけでなく、当の通報した主人、そして衛兵までも
が、「暴力男と、ロリコン中年の間に振り回される少女二人という構成の痴情の
もつれだろう?」と、無遠慮な視線で問いかけていた。

 消えたのは記憶だけではない。
 ゼクスの痕跡は、完全に消えていた。
 切り落としたはずの指は、直後、塵になった。「見捨てた」のだ。その部分
を。
 意味の無いものなのだろう、祝福と呪いをされた彼にとっては。

 ちなみに、現在、フレアは勿論、顔色の悪くなっていたリタは、部屋に移され
ている。
 ……だから、何故だかよくわからない組み合わせで仲良く並んで怒られている
ことになる。
 そしてその中でも特に、衛兵は、年長者であるヴィルフリードに対して、痛烈
に当たっていた。勘違いでも思い込みでもなく、それは明らかな事実だ。

「あんたねぇ……イイ歳してなにやってんの」

 明らかに年下の衛兵から、ため息混じりにこの台詞を言われた時は、なんだか
この世界中の人か、自分がこの世界に存在している事に対して、嫌がっているよ
うな気がして、なんだか切なくなった。
 その時、僅かだが、横でせせら笑ったようなディアンの顔を見た。丁度良く、
衛兵がそのディアンの表情を見逃さず、矛先をそちらに変えなかったら、ヴィル
フリードは、しょっぴかれる事を覚悟でディアンをシバキ倒していたに違いな
い。……そんなことをしていたら、きっと、逆にこっちがやられていることは十
分に理解していたけども。

「そっちの、眼鏡のお兄さんもそうだよ? 証言によると、朝の喧嘩は君が発端
のようじゃないか。君の怒鳴り声で起きたっていう人がいっぱいいるんだから」

「……あの時、俺もどうかしていました。コイツの挑発に触発されて、周囲の人
の迷惑を顧みず、怒鳴り返してしまいましたから……。反省しています。
 ところで、俺の部屋のドアを壊したのはコイツです」

 すかさず、反省している事をアピールして、好感度をあげたところで、事実を
述べておく。
 「おまっ……!」と、何か言いたげにに小さく叫んだが、衛兵の視線を受け、
すぐに呑み込んだ時のディアンの顔は、ヴィルフリードをなんとも言えないほど
快感に満たしてくれた。もちろん、ディアンとは違って、それを表には出さな
い。化かし人生の年季が違うのだ。
 衛兵は、頷くと、ディアンに向かって言った。

「ちゃんと、ここのご主人に、この食堂と、そのドアの修理代、払っておくよう
にね」

 この衛兵が、思ったよりいい人でよかった。ヴィルは心の底から思った。


 結局、それは3時間続いた。最初1時間は事情徴集。んで、中1時間は事情徴
集+説教。最後1時間は説教+見せしめ。地獄のメニューであった。
 衛兵が去った後、ディアンは伸びをし、ヴィルフリードは嘆息した。

「なぁ、オッサン」

 ヴィルフリードの眉間の筋肉がわずかに動く。

「なんだ? オッサン予備軍」

 今度は、ディアンの口元の筋肉が大きく痙攣した。

「……さっきも思ったんだが、この俺に喧嘩を売っているように思えるのは、俺
の勘違いか?」

「まさか。
 喧嘩になったら、か弱いこの老体じゃ、負けるのはメーハクデスカラネェー」

「……なんなんだ、そのイントネーションは」

「……気にしすぎなんだよ。だから、しょうもない勘違いするんだよ」

「あぁ!? やんのか? コラァ!!」

「やんねーっつってんだろ!! さっき言っただろう、聞けや、こンボケ
がぁっ!!」

 思わず、相手の理解力の無さについて腹を立て、怒鳴り返す。内容は弱気だ
が、勢いだけは加速している。

「ナニをぉ!! ……って……あぁ!? ……え? あ? え?」

 勢いに呑まれかけたが、予想外の流れで戸惑うディアン。

「やったら、負けるっつってんだろっ!! 俺がよぉ!」

「……………。
 だったら、なんでそんな強気な口調なんだよ!!」

「んなん、俺が知るかっ!」

 もはや、何がなんだかわからない。言っているヴィルフリード本人ですらわか
らない。
 そこへ突然、テーブルを叩きつけられる音がした。ディアンとヴィルフリード
の視線がテーブルに向けられる。そこには、小さな紙片が一枚あった。
 そこに載せられている手の主の顔を見る。

「……これ、弁償の明細書ね。宿出る時に、精算してもらいますから」

 亭主の冷たい視線が「これ以上の騒ぎを起こすな」と、ディアンとヴィルフ
リードの心臓に五寸釘を打ち込む。

『……はい』

 声を揃えて返事をする二人を見て、亭主は無言で立ち去った。
 それを二人で見送った後、一番に口を開いたのはディアンだった。

「……フレアの様子でも見に行くか。
 目ぇ、覚ましてるかな……」

「……俺も行く」

 ディアンの後ろをついていきながら、ヴィルフリードは少しだけ、ボーっとし
ていた。
 先ほどの地獄の3時間もあったが、やはりその前の数十分の出来事のほうに、
神経が参っていた。
 実は、あの空気に一番中[あ]てられていたのは、リタではなく、ヴィルフリー
ドであった。
 ヴィルフリードはあの時、動かなかったのではない。動けなかったのだ。必死
で、上っ面を糊塗するので精一杯だった。
 正直言えば、ディアンの、「フレアを信用する」という発言が無ければ、吹っ
切れずに、ずっと傍観していたであろう。
 そういう意味では、ディアンは、ヴィルフリードにとって助かる存在であっ
た。……感情はついていかないが。

 ヴィルフリードという男は、絶望を嫌う気がある。捕らわれ易いとも言ってい
いだろう。厄介なことに、それが、他人のものであっても。
 どんな時でも、わずかながらの希望がある、と信じていたい、という子供のよ
うな願望を持つ部分のある男なのだ。
 敏感と云うべきか。臆病と云うべきか。

 きっとこの性質は、死ぬまで消えない。

 自身が、覚悟していることの一つだった。


「……フレア! 起きたのか!」

 嬉しそうなディアンの声で、ヴィルフリードは我に返った。

 開かれた扉というフレームに切り取られた部屋の中の情景がわずかに見える。
 まずは、壁に寄りかかるように座っているリタが見えた。どうやら、同室に運
ばれていたらしい。

「今丁度、起きたところ」

 リタが、安心を含んだ声を発する。
 そして、立ち上がる。
 ディアンは部屋の中に入る。
 ヴィルフリードは歩みを進める。
 部屋の情景はさらに広がる。
 ベッドの上で、上半身を起こしているフレアが見えた。
 フレアは、あらぬ方向を見つめていた。
 その、赤い目は。

 赤い目は。


 ――‐絶望に満ちていた。
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2007/02/11 14:40 | Comments(0) | TrackBack() | ●Colors

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