キャスト:ヴィルフリード・リタルード・ディアン・フレア
NPC:ゼクス
場所:宿屋
―――――――――――――――
ゼクスは、ふと立ち止まり、宿の壁を楽しそうな表情で見つめる。
嫌な予感がヴィルフリードの背中を悪寒として走る。無意味なことだろう……
が、気づけば手を伸ばしかけていた。
が、それと同時に、ゼクスが壁に溶けるようにして消えた。
そして。
フレアの悲鳴が聞こえた。
リタとヴィルフリードは、急いで宿に入り、悲鳴の聞こえた食堂に駆けつけ
る。
壁に身を預けるように、ぐったりと崩れているフレア。一見静かに眠っている
ようにも見える。が、彼女の顔色は蒼白だった。
「何をした!」
ヴィルフリードが叫ぶ。
そしてゼクスの顔に拳が埋め込まれ、吹っ飛んだ。
殴ったのは、ヴィルフリードではない。むしろ、ヴィルフリードは目を見開い
て、その光景に驚いる様子だ。殴ったのは……ディアンだ。
「……なんだ? テメェ」
ディアンの表情は、とても冷たかった。その面の下に隠されている、ドロドロ
とした熱い感情を、瞳からリタは感じ取り、恐れ慄いた。
だが、リタはすぐに、更なる恐怖を抱くことになる。
「……おもしろい気配が増えたと思ったら……君かァ」
笑いの含まれた声が流れる。その声の主は、勿論ゼクスだ。
ゼクスの口の端は切れ、口元から血が流れていた。だが、それだけだ。『それ
だけ』で、他には何のダメージも……痛みも何も存在していないような振る舞い
であった。
そして、その顔にはやはり、あの不気味な笑みが張り付いていた。
今度は、ゆっくりと、リタとヴィルフリード方を向く。
「あぁ、ゴメンゴメン。結果的に嘘をついてしまったことになるかな。
『話をする』とか、君達には言ったっけ?
……いやぁ、つい、思わず、なんだよ。だってさぁ。からかいたくなっちゃう
じゃない? ねぇ?
好きな子には意地悪をしたくなっちゃうクチだったろ? ヴィルフリードも
さ」
名指しされたヴィルフリードは露骨に嫌な顔をする。
「……名前を覚えていたとは、光栄だな」
「そりゃ覚えているよ。嫌いなタイプだから」
「そりゃぁ、ありがたいこった」
「それよりも」
二人の会話を塞いだのは、ディアンだった。
「何処のどちら様だ? テメェはよぉ。
それと。フレアに何をした? いや、何故、こんなことをした? 答えてもら
おうか」
今度は、愛刀「破軍」を抜き身にして、ゼクスにその切っ先を向ける。
「物騒な人だね。キミは
そうだね。君とは初対面だ。自己紹介からしよう。
僕はゼクス。祝福と呪いをこの身に受けた男だ。よろしく」
握手を求めるように、ディアンに6本指の手を差し伸べる。
どっ
その音が、その差し伸ばされた腕が床に落ちた音だと理解するのに、リタは数
秒の時間を要した。
「……仲良くする気なんざァ、ねぇんだよ。とっとと次を説明しな。
殺してやるからよ」
リタは、床に落ちている腕から、ゼクスの顔へゆっくりと視線を移す。腕を切
断されたゼクスの表情など、想像もできなかった。
ゼクスの両眼は今までに無いほど見開かれていた。だが。口元には歓喜と呼べ
るほどの笑みが、そこにはあった。
隣にいるヴィルフリードの唾を飲み込む音が、リタの耳に鮮やかに聞こえた。
その音を聴いた瞬間、リタはコトの異常さに気づく。
何故、この腕はただ、人形のように、ごろりと転がっているのだ?
この場面に無ければならないものが、何故、ここにない?
流れるべき、『あれ』はどこにあるというのだ?
「……ハハ。驚いた。
そして、君のことが好きになったよ」
ゼクスは左手で、床に落ちた右腕を拾う。
血が少しも流れていない、奇麗な断面図が見える。血が流れていない分だけ、
その光景はとてもグロテスクに見えた。
そして、切り口に、拾った右腕を合わせられる。2、3秒が経過し、添えられ
た左手が離される。が、右腕は落ちない。それどころか、右手の指の先が動いた
のだ。
……つまり、切断された右腕は、再び繋がっていた。
「……何モンだ……? テメェ」
「言ったろう? 祝福と呪いを受けている、ってね。無駄なんだ。そーゆーモノ
は。
自分でもどうにもならないんだ」
優しく微笑む。だが、その様子はある種の壮絶さが窺えた。
そのとき、食堂の入り口で音がした。宿屋の亭主が、脅えた表情で尻餅をつい
ている。
「ば……ば、バケモノ……」
擦れた声が亭主の喉から絞り出される。
ゼクスは無言でその亭主に近づく。その動作の気配の無さに、3人は『動い
た』という認識が一瞬遅れる。
ゼクスは、亭主の額に手を伸ばす。
亭主は、ヒィ、と、短い悲鳴を漏らすが、身体がすくんで動けない。
そして、額にその禍々しい指が触れると、亭主はガクリと倒れた。
「……うるさいよ、お前」
3人には、その時のゼクスの表情は見えなかったが、その声には、今まで含ま
れていた、楽しそうな響きが排除されていた。
再びこちらを振り返ったゼクスの表情は、やはり変わりが無かった。
「肉体の構成の変化。僕の特技の一つなんだ。
どうやら、生命維持に関することだと、僕の意思とは関係なく作用するみたい
でね。
ちなみに、他人に触れることが出来れば……こんな風にもできるんだ」
ゆったりと、散歩でもするかのように、食堂を歩くゼクス。
ディアンは、その様子を醒めた目で見ていた。動じた様子は、傍からは全く見
られない。本当に、何も動じていないのか。それとも、その衝撃よりも内に渦巻
く感情のほうが大きいからなのか。
「……そいつぁ、楽しい体質だなぁ。
どこまで刻んだら戻れなくなるのか、試したことは無ェんだろ?
なに、遠慮はいらんぜ。俺が寸刻みで試してやらァ」
「やめとくよ。試したことは無いが、寸刻みでも生きていたら、気持ち悪いだろ
う?
ねぇ? そこのキミもそう思うだろう?」
リタに話題を振るが、リタは何も答えることはできない。聴覚が鈍り、その
分、皮膚の内側に流れる脈動が大きく感じる。
恐怖なのか。それとも……この場でも尚且つ反応する、ゼクスに対する好奇心
なのか。
リタ自身にはそれが判断できなかった
「……まぁいいや。ともかく。他の質問に答えなくていいのかい?
僕がこの子に何をしたのか。何故、この子なのか
……そして、この子が目覚める方法を知りたくは無いかい?」
その言葉を聞き、3人はピクリと反応する。
ゼクスはそれを見ると、満足そうに笑う。そして、腕を大仰に振り、やや過剰
な身振りをする。その様は舞台演劇を連想させる。
「脳に刺激をある程度与えて夢を見てもらってるだけだよ。命に別状は無い。…
…とはいっても、このままの状態が続くようであれば、いずれ衰弱死するだろう
けどね。
目が醒める方法は二つだ。自力で目覚めるか。僕が目覚めさせるか。
……だから、僕をどうこうして、目覚めるってことは、有り得ないんだよ」
広げていた手を、フレアの頭に伸ばす。
「触んじゃねぇよ」
ディアンがその6本の指の行く先を刀でふさぐ。
ゼクスは、軽く肩をすくめ、「ヤレヤレ」というように手を上げてみせる。
「嫉妬深い男は嫌われるよ?
……まぁ、彼女は魅力的だから、独占したい気持ちは分かるけどね。
うん……そうだね。『理由』……。理由も、それかもしれないね」
ゼクスは一人で何か納得したように頷く。
「彼女の魅力……それにソソられるんだよ。
大胆で臆病。
賢くもあり愚かでもある。
頑健なようで酷く脆い。
そんな、不安定な状態でありながら、彼女は純粋だ。
その純粋さが、本来のものなのか。眠っているモノを揺り起こして、対面させ
ても尚、その純粋さを保ち続けられるかどうか。
……興味が湧かないか?
打ちのめされた彼女の姿。狂う彼女の姿。……もしくは、それを打破する彼女
の姿」
唄でも詠うように、ゼクスは語る。そして、うっとりとした表情で、フレアを
見つめた。
ディアンには、それが触れるよりもいやらしい行為のように思え、心の隅がチ
リチリと焦げる感覚を味わっていた。
「明日、もう一度来るよ。それまでに目が醒めていなかったら、彼女を起こす。
それまで、細切れにするのを待ってもいいとは思わないかい?」
そっと、ディアンの刀を指先でそっと押しのけるゼクス。
「危害を加えるつもりは無いよ。
だって、僕は彼女が好きだからね」
それは、どんな言葉よりも純粋でありながら、同時におぞましい響きを持って
いた。
「そこの倒れている男も、ただ寝ているだけだよ。
ただ、ちょっと記憶が跳んでるけどもね」
そしてゼクスは再び歩みを進めだした。
と。その足取りがピタリと止まる。
リタの隣で。
そして、肩に手が置かれ、リタはびくりと反応する。
「……そうそう。返してもらおうか? そのキミの持っている、モノ。
それは、君にとっては何の意味が無いモノだ」
その声の底には氷のような冷たさが含まれていた……。
NPC:ゼクス
場所:宿屋
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ゼクスは、ふと立ち止まり、宿の壁を楽しそうな表情で見つめる。
嫌な予感がヴィルフリードの背中を悪寒として走る。無意味なことだろう……
が、気づけば手を伸ばしかけていた。
が、それと同時に、ゼクスが壁に溶けるようにして消えた。
そして。
フレアの悲鳴が聞こえた。
リタとヴィルフリードは、急いで宿に入り、悲鳴の聞こえた食堂に駆けつけ
る。
壁に身を預けるように、ぐったりと崩れているフレア。一見静かに眠っている
ようにも見える。が、彼女の顔色は蒼白だった。
「何をした!」
ヴィルフリードが叫ぶ。
そしてゼクスの顔に拳が埋め込まれ、吹っ飛んだ。
殴ったのは、ヴィルフリードではない。むしろ、ヴィルフリードは目を見開い
て、その光景に驚いる様子だ。殴ったのは……ディアンだ。
「……なんだ? テメェ」
ディアンの表情は、とても冷たかった。その面の下に隠されている、ドロドロ
とした熱い感情を、瞳からリタは感じ取り、恐れ慄いた。
だが、リタはすぐに、更なる恐怖を抱くことになる。
「……おもしろい気配が増えたと思ったら……君かァ」
笑いの含まれた声が流れる。その声の主は、勿論ゼクスだ。
ゼクスの口の端は切れ、口元から血が流れていた。だが、それだけだ。『それ
だけ』で、他には何のダメージも……痛みも何も存在していないような振る舞い
であった。
そして、その顔にはやはり、あの不気味な笑みが張り付いていた。
今度は、ゆっくりと、リタとヴィルフリード方を向く。
「あぁ、ゴメンゴメン。結果的に嘘をついてしまったことになるかな。
『話をする』とか、君達には言ったっけ?
……いやぁ、つい、思わず、なんだよ。だってさぁ。からかいたくなっちゃう
じゃない? ねぇ?
好きな子には意地悪をしたくなっちゃうクチだったろ? ヴィルフリードも
さ」
名指しされたヴィルフリードは露骨に嫌な顔をする。
「……名前を覚えていたとは、光栄だな」
「そりゃ覚えているよ。嫌いなタイプだから」
「そりゃぁ、ありがたいこった」
「それよりも」
二人の会話を塞いだのは、ディアンだった。
「何処のどちら様だ? テメェはよぉ。
それと。フレアに何をした? いや、何故、こんなことをした? 答えてもら
おうか」
今度は、愛刀「破軍」を抜き身にして、ゼクスにその切っ先を向ける。
「物騒な人だね。キミは
そうだね。君とは初対面だ。自己紹介からしよう。
僕はゼクス。祝福と呪いをこの身に受けた男だ。よろしく」
握手を求めるように、ディアンに6本指の手を差し伸べる。
どっ
その音が、その差し伸ばされた腕が床に落ちた音だと理解するのに、リタは数
秒の時間を要した。
「……仲良くする気なんざァ、ねぇんだよ。とっとと次を説明しな。
殺してやるからよ」
リタは、床に落ちている腕から、ゼクスの顔へゆっくりと視線を移す。腕を切
断されたゼクスの表情など、想像もできなかった。
ゼクスの両眼は今までに無いほど見開かれていた。だが。口元には歓喜と呼べ
るほどの笑みが、そこにはあった。
隣にいるヴィルフリードの唾を飲み込む音が、リタの耳に鮮やかに聞こえた。
その音を聴いた瞬間、リタはコトの異常さに気づく。
何故、この腕はただ、人形のように、ごろりと転がっているのだ?
この場面に無ければならないものが、何故、ここにない?
流れるべき、『あれ』はどこにあるというのだ?
「……ハハ。驚いた。
そして、君のことが好きになったよ」
ゼクスは左手で、床に落ちた右腕を拾う。
血が少しも流れていない、奇麗な断面図が見える。血が流れていない分だけ、
その光景はとてもグロテスクに見えた。
そして、切り口に、拾った右腕を合わせられる。2、3秒が経過し、添えられ
た左手が離される。が、右腕は落ちない。それどころか、右手の指の先が動いた
のだ。
……つまり、切断された右腕は、再び繋がっていた。
「……何モンだ……? テメェ」
「言ったろう? 祝福と呪いを受けている、ってね。無駄なんだ。そーゆーモノ
は。
自分でもどうにもならないんだ」
優しく微笑む。だが、その様子はある種の壮絶さが窺えた。
そのとき、食堂の入り口で音がした。宿屋の亭主が、脅えた表情で尻餅をつい
ている。
「ば……ば、バケモノ……」
擦れた声が亭主の喉から絞り出される。
ゼクスは無言でその亭主に近づく。その動作の気配の無さに、3人は『動い
た』という認識が一瞬遅れる。
ゼクスは、亭主の額に手を伸ばす。
亭主は、ヒィ、と、短い悲鳴を漏らすが、身体がすくんで動けない。
そして、額にその禍々しい指が触れると、亭主はガクリと倒れた。
「……うるさいよ、お前」
3人には、その時のゼクスの表情は見えなかったが、その声には、今まで含ま
れていた、楽しそうな響きが排除されていた。
再びこちらを振り返ったゼクスの表情は、やはり変わりが無かった。
「肉体の構成の変化。僕の特技の一つなんだ。
どうやら、生命維持に関することだと、僕の意思とは関係なく作用するみたい
でね。
ちなみに、他人に触れることが出来れば……こんな風にもできるんだ」
ゆったりと、散歩でもするかのように、食堂を歩くゼクス。
ディアンは、その様子を醒めた目で見ていた。動じた様子は、傍からは全く見
られない。本当に、何も動じていないのか。それとも、その衝撃よりも内に渦巻
く感情のほうが大きいからなのか。
「……そいつぁ、楽しい体質だなぁ。
どこまで刻んだら戻れなくなるのか、試したことは無ェんだろ?
なに、遠慮はいらんぜ。俺が寸刻みで試してやらァ」
「やめとくよ。試したことは無いが、寸刻みでも生きていたら、気持ち悪いだろ
う?
ねぇ? そこのキミもそう思うだろう?」
リタに話題を振るが、リタは何も答えることはできない。聴覚が鈍り、その
分、皮膚の内側に流れる脈動が大きく感じる。
恐怖なのか。それとも……この場でも尚且つ反応する、ゼクスに対する好奇心
なのか。
リタ自身にはそれが判断できなかった
「……まぁいいや。ともかく。他の質問に答えなくていいのかい?
僕がこの子に何をしたのか。何故、この子なのか
……そして、この子が目覚める方法を知りたくは無いかい?」
その言葉を聞き、3人はピクリと反応する。
ゼクスはそれを見ると、満足そうに笑う。そして、腕を大仰に振り、やや過剰
な身振りをする。その様は舞台演劇を連想させる。
「脳に刺激をある程度与えて夢を見てもらってるだけだよ。命に別状は無い。…
…とはいっても、このままの状態が続くようであれば、いずれ衰弱死するだろう
けどね。
目が醒める方法は二つだ。自力で目覚めるか。僕が目覚めさせるか。
……だから、僕をどうこうして、目覚めるってことは、有り得ないんだよ」
広げていた手を、フレアの頭に伸ばす。
「触んじゃねぇよ」
ディアンがその6本の指の行く先を刀でふさぐ。
ゼクスは、軽く肩をすくめ、「ヤレヤレ」というように手を上げてみせる。
「嫉妬深い男は嫌われるよ?
……まぁ、彼女は魅力的だから、独占したい気持ちは分かるけどね。
うん……そうだね。『理由』……。理由も、それかもしれないね」
ゼクスは一人で何か納得したように頷く。
「彼女の魅力……それにソソられるんだよ。
大胆で臆病。
賢くもあり愚かでもある。
頑健なようで酷く脆い。
そんな、不安定な状態でありながら、彼女は純粋だ。
その純粋さが、本来のものなのか。眠っているモノを揺り起こして、対面させ
ても尚、その純粋さを保ち続けられるかどうか。
……興味が湧かないか?
打ちのめされた彼女の姿。狂う彼女の姿。……もしくは、それを打破する彼女
の姿」
唄でも詠うように、ゼクスは語る。そして、うっとりとした表情で、フレアを
見つめた。
ディアンには、それが触れるよりもいやらしい行為のように思え、心の隅がチ
リチリと焦げる感覚を味わっていた。
「明日、もう一度来るよ。それまでに目が醒めていなかったら、彼女を起こす。
それまで、細切れにするのを待ってもいいとは思わないかい?」
そっと、ディアンの刀を指先でそっと押しのけるゼクス。
「危害を加えるつもりは無いよ。
だって、僕は彼女が好きだからね」
それは、どんな言葉よりも純粋でありながら、同時におぞましい響きを持って
いた。
「そこの倒れている男も、ただ寝ているだけだよ。
ただ、ちょっと記憶が跳んでるけどもね」
そしてゼクスは再び歩みを進めだした。
と。その足取りがピタリと止まる。
リタの隣で。
そして、肩に手が置かれ、リタはびくりと反応する。
「……そうそう。返してもらおうか? そのキミの持っている、モノ。
それは、君にとっては何の意味が無いモノだ」
その声の底には氷のような冷たさが含まれていた……。
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