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2024/05/18 02:41 |
BLUE MOMENT - 船葬- ♯ 2/セシル(小林悠輝)
キャスト:セシル・マシュー
NPC:ジラルド・主婦
場所:コールベル/ビクトリア商店街
――――――――――――――――

「ああ、もう、店長! 馬鹿! 早く着替えてきてください!」

 店員はあまり丁寧でない手つきで店主を店の奥に押し退けた。
 じきに布巾を持って戻ってくる。

「すいませんね。折角の白い服なのに」

「後で洗うから大丈夫ですよ。どうせもう汚れてるし」

 セシルは上着の袖に飛び散った紅茶の跡を見ながら言った。
 生地が水分を吸って、染みがじわりと広がる。

「そういうわけにもいかないっしょ」

「このくらいならまだ、落とせるんで」

 立てた親指の爪で布の表面を軽くひっかいてから周囲を眺める。

「それより、そっちの机にもかかってましたけど。商品でしょ?」

「え? あ! まったく……」

 店員はため息をついて、傍らの、脚の細い白塗りの机の表面を拭いた。
 薄く積もった埃が舞うのが見えた。真鍮の把手が鈍く光っている。

「どっから来たの?」

「ソフィニアから、高速船で」

「わざわざここまで届け物に? 大変だね」

 詮索の口調ではなかったので、セシルは頷いた。

「他にもあったけど、ここが最後。
 朝も来たけど閉まってたんで」

「あー……悪いね。この店、開くの遅いんだ。
 店長は早起きなんだけどさ、毎朝、散歩行ってなかなか帰ってこないから」

「ああ、なるほど」

 思わず納得する。その後で失礼かとも思ったが、店員は気にしていなさそうだった。
 彼は布巾をひらひらと振りながら、また「まったく……」と呟いた。

 ぱらぱら、アーケードに雨の落ちる音が聞こえている。
 雨は強くなってきたらしい。思わず天井を見上げる。

 また、どんっと何かが跳ねる音がした。

「……犬?」

「…………たぶん。店長が帰ってきてはしゃいでるんだと思う」

 セシルは紅茶をすすって、店内を見渡した。
 骨董屋らしいが、ぱっと見た感じ、その言葉から連想されるような古臭い品物はあま
り目立たない。家具屋兼、雑貨屋兼……何だろう。

 濃い土色の仮漆の飾り棚、陶器の人形、銀色のペーパーナイフ、貝殻細工の宝石箱。
 店の外に出ている革張りの安楽椅子が目を引いたが、金具が歪んでいるのか、少し横
に傾いている。

「こういう骨董とか興味ある?」

「こういうって」

 セシルは近くにあった細いフレームの眼鏡を手に取りながら、首を傾げた。

「だいぶ幅広いですけど……」

「あ、それは店長の私物」

「そう」

 手渡す。店員は、「あのひとはまたこんなところに放置して」と言いながら、眼鏡と
布巾を一緒くたにカウンターの上に置いた。

 そろそろ間が持たなくなってきた。
 ――と思っていたら、どたどたと騒がしい足音がして、店主が戻ってきた。

「ジュンちゃんワン子の機嫌が悪いー」

「知らないっすよ。ほっといて出かけたせいじゃないですか?」

 店主は喪服のブラウスはそのままで、チェックのトラウザーズに室内用のサンダルと
いういでたちだった。彼は大きなタオルで明るい色の髪を拭きながら奥の階段を振り返
って、子どものように口をとがらせた。

「だって“海送り”なんじゃもん」

「……“海送り”って何ですか」

 また口論(いや、じゃれあい?)が始まりそうな雰囲気だったので口を開くと、店員
と店主の両方が同時にこちらを見た。

 なんとなく居心地が悪くて、「ああ、すいません」と口の中で謝った。


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2008/04/24 11:20 | Comments(0) | TrackBack() | ●BLUE MOMENT ―船葬―

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