人物:ライ セラフィナ
場所:港町ルクセン
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がちゃがちゃがちゃがちゃ
貧相な装備のドワーフ親爺が港へ向かって走る。
通り過ぎる町の人は、またか、と呆れた顔で彼を見送る。
この街ではそう珍しいことではないのだ。キャサリン金貨勲章を持つ彫金師のギラ
ムが妄想気味のロマンを追っている姿なんて、恒例行事のようなモノなのだから。
風物詩だよなぁとか呟く鍛冶屋や純粋に驚く観光客を後目に、ギラムは遅いながら
も頑張って走り続けているのだ。
がちゃがちゃがちゃがちゃ
通りを行き交う人々に悠々と追い越されながらも、けしてやめようとしない。
後方から顔見知りの青年が近づいてきたときもそんなことには気付かず、ギラムは
懸命に走っていたのだった。
「お、ギラムさんじゃん。今日はどんなロマンが待ってるの?」
ロバに荷を引かせた青年ノマが、速度を落としながら声をかける。
「ワシは、コレを、届けねば、なら……のじゃ」
ギラムは荒い呼吸で途切れ途切れながらも律儀に答えた。視線は前を向き、足は動
き続けている。
目的地はどうも同じ方角らしい、と気付いたノマ。にんまり笑ってこう続けた。
「港まで行くんだけど、途中まで乗ってくかい?」
「おお、ありがたい」
ギラムはようやく足を止め、ロバの引く荷車に座る青年を見た。
「お礼はそのロマンの詳細でいいからさ」
ノマはギラムのロマン話が小さな頃から好きだった。ろくに本も読めず、まあ本自
体あまり見かけないのだけれど、空想物語に飢えた彼にはすごく魅力的なモノだった
のだ。
「いい話だったら荷を降ろしてから手伝っちゃうしさ」
旅は道連れ、世は情け。
この言葉もギラムに教えてもらったなぁと、ノマは笑った。
場所は変わって倉庫街。
その中でも一際静かな一角に、セラフィナは閉じこめられていた。
目の前には特異な能力を持つ少女。
「ここから出たいとは思わないんですか?」
セラフィナは眼前の少女に問う。
「思わないですね。私は飼われているのですから」
少女は答える。
「でも、自由は利かないでしょう」
少し目が慣れた部屋を見回し、セラフィナは首を傾げた。
「どんな環境でも不自由はありますからね。
それに、脅威の目で見られ、蔑まれ、虐げられるよりはずっと快適ですよ」
少女は立ち上がった。
「時々面白いこともありますしね」
そういうと、部屋の入り口を軽くノックし、外に向かって声をかける。
「彼女を捜している人が此方に向かっているようですよ」
はっきりとは聞き取れないが、向こう側からは驚きと焦りの声が聞こえた。
何かに躓いたのか、痛そうな悲鳴とガコンという木箱らしき音も聞こえる。
「ほら、面白いでしょう?」
少女は笑った。
「あなたが探していた人ではないのが残念ですけど」
で、再びギラムさん。
ノマは目立つ馬車の行き先を町人に尋ねつつ、倉庫街の方へ向かっていた。
「ギラムさーん、もう少しで倉庫街だけど、その後はどうするの?」
ロバに荷を引かせながら、ノマはのんびりと訊ねた。
荷は途中で降ろし、今日の午後は気ままに過ごせるのだ。
「うむ、あのお嬢さんを捜すに決まっとる」
「でも、倉庫街って広いの知ってる? 当てがあるわけじゃないんでしょ?」
ガタゴトガタゴトガタゴト
「片っ端から見て回るさ」
ギラムはやはり前を見据えている。
一方、セラフィナは「時間切れです」の一言で、再び猿轡を咬まされていた。
それは迎えが近いからなのか、探しに来たという人物の為なのか分からなかったの
だが。
(ライさんでないとすると……誰だろう?
宿に戻ったティリーなのかしら。
誰かが目撃していたとすれば、あの馬車を追うのは難しくない気もするけれ
ど……)
会話が無くなり、考えることしかできない。
さっきまで眼前にいた彼女は部屋の隅の暗闇に紛れ、今では姿が見えなくなってい
る。
セラフィナは、歯痒さに眉根を寄せた。
で、またまたギラムさん一行。
「ねえ、凄い早さで走ってきた馬車の行方、知らない?」
ノマは地道に情報収集を続けていた。
まあ、通りすがりに片っ端から声を掛けていただけともいうが。
「ああ、領主様の客だろ?マナーがなってないよな、ありゃ」
思い出しただけで機嫌が悪くなったらしい海の男に礼を言うと、ノマは頭を掻い
た。
「あちゃー、もう領主様の家に帰っちゃったなら手出しは出来ないよ?」
しかしギラムはあきらめない。
「用もなくこんな反対方向へ来るはずがないんじゃ。おるに決まっとるわい」
「はぁ……まあ、ギラムさんらしいけどね」
聞こえるように大げさに溜め息をついてノマは呟いた。
「”捜し物は、あると思って探すこと”……コレが捜し物を見つける極意じゃ」
ノマは満足げに頷くギラムを見て、長くなりそうだと苦笑した。
場所:港町ルクセン
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がちゃがちゃがちゃがちゃ
貧相な装備のドワーフ親爺が港へ向かって走る。
通り過ぎる町の人は、またか、と呆れた顔で彼を見送る。
この街ではそう珍しいことではないのだ。キャサリン金貨勲章を持つ彫金師のギラ
ムが妄想気味のロマンを追っている姿なんて、恒例行事のようなモノなのだから。
風物詩だよなぁとか呟く鍛冶屋や純粋に驚く観光客を後目に、ギラムは遅いながら
も頑張って走り続けているのだ。
がちゃがちゃがちゃがちゃ
通りを行き交う人々に悠々と追い越されながらも、けしてやめようとしない。
後方から顔見知りの青年が近づいてきたときもそんなことには気付かず、ギラムは
懸命に走っていたのだった。
「お、ギラムさんじゃん。今日はどんなロマンが待ってるの?」
ロバに荷を引かせた青年ノマが、速度を落としながら声をかける。
「ワシは、コレを、届けねば、なら……のじゃ」
ギラムは荒い呼吸で途切れ途切れながらも律儀に答えた。視線は前を向き、足は動
き続けている。
目的地はどうも同じ方角らしい、と気付いたノマ。にんまり笑ってこう続けた。
「港まで行くんだけど、途中まで乗ってくかい?」
「おお、ありがたい」
ギラムはようやく足を止め、ロバの引く荷車に座る青年を見た。
「お礼はそのロマンの詳細でいいからさ」
ノマはギラムのロマン話が小さな頃から好きだった。ろくに本も読めず、まあ本自
体あまり見かけないのだけれど、空想物語に飢えた彼にはすごく魅力的なモノだった
のだ。
「いい話だったら荷を降ろしてから手伝っちゃうしさ」
旅は道連れ、世は情け。
この言葉もギラムに教えてもらったなぁと、ノマは笑った。
場所は変わって倉庫街。
その中でも一際静かな一角に、セラフィナは閉じこめられていた。
目の前には特異な能力を持つ少女。
「ここから出たいとは思わないんですか?」
セラフィナは眼前の少女に問う。
「思わないですね。私は飼われているのですから」
少女は答える。
「でも、自由は利かないでしょう」
少し目が慣れた部屋を見回し、セラフィナは首を傾げた。
「どんな環境でも不自由はありますからね。
それに、脅威の目で見られ、蔑まれ、虐げられるよりはずっと快適ですよ」
少女は立ち上がった。
「時々面白いこともありますしね」
そういうと、部屋の入り口を軽くノックし、外に向かって声をかける。
「彼女を捜している人が此方に向かっているようですよ」
はっきりとは聞き取れないが、向こう側からは驚きと焦りの声が聞こえた。
何かに躓いたのか、痛そうな悲鳴とガコンという木箱らしき音も聞こえる。
「ほら、面白いでしょう?」
少女は笑った。
「あなたが探していた人ではないのが残念ですけど」
で、再びギラムさん。
ノマは目立つ馬車の行き先を町人に尋ねつつ、倉庫街の方へ向かっていた。
「ギラムさーん、もう少しで倉庫街だけど、その後はどうするの?」
ロバに荷を引かせながら、ノマはのんびりと訊ねた。
荷は途中で降ろし、今日の午後は気ままに過ごせるのだ。
「うむ、あのお嬢さんを捜すに決まっとる」
「でも、倉庫街って広いの知ってる? 当てがあるわけじゃないんでしょ?」
ガタゴトガタゴトガタゴト
「片っ端から見て回るさ」
ギラムはやはり前を見据えている。
一方、セラフィナは「時間切れです」の一言で、再び猿轡を咬まされていた。
それは迎えが近いからなのか、探しに来たという人物の為なのか分からなかったの
だが。
(ライさんでないとすると……誰だろう?
宿に戻ったティリーなのかしら。
誰かが目撃していたとすれば、あの馬車を追うのは難しくない気もするけれ
ど……)
会話が無くなり、考えることしかできない。
さっきまで眼前にいた彼女は部屋の隅の暗闇に紛れ、今では姿が見えなくなってい
る。
セラフィナは、歯痒さに眉根を寄せた。
で、またまたギラムさん一行。
「ねえ、凄い早さで走ってきた馬車の行方、知らない?」
ノマは地道に情報収集を続けていた。
まあ、通りすがりに片っ端から声を掛けていただけともいうが。
「ああ、領主様の客だろ?マナーがなってないよな、ありゃ」
思い出しただけで機嫌が悪くなったらしい海の男に礼を言うと、ノマは頭を掻い
た。
「あちゃー、もう領主様の家に帰っちゃったなら手出しは出来ないよ?」
しかしギラムはあきらめない。
「用もなくこんな反対方向へ来るはずがないんじゃ。おるに決まっとるわい」
「はぁ……まあ、ギラムさんらしいけどね」
聞こえるように大げさに溜め息をついてノマは呟いた。
「”捜し物は、あると思って探すこと”……コレが捜し物を見つける極意じゃ」
ノマは満足げに頷くギラムを見て、長くなりそうだと苦笑した。
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