人物:ライ セラフィナ
場所:港町ルクセン
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港からほど近い場所に宿を取ったセラフィナは、人に会うというベアトリスと別
れ、金物職人の通りを歩いていた。
首元には金細工のブローチが一つ。
ついさっき、彫金師の店で細工してもらったモノだ。
セラフィナがアクセサリーを身に付ける。コレは結構珍しいことなのだが、それ以
上に珍しいのは、今、心躍る感覚があることだった。
アクセサリーを身に付けるのはいつも皇女としてのお役目の時と決まっていて、喜
ぶことなど一度もなかったのに。
ひしゃげたブローチの残骸を持ち込んだら、腕のいい職人が見違えるように細工を
施してくれた。これだけでも嬉しいことだと思う。
手持ちぶさたであったこともあり、細工を終始見学できた感動もあるのだろう。
が、それ以上に、顔がほころぶのを止められない。
「あ」
そうだ、ライさんにも見せてあげよう。
ちょっと前まで金の溶けた塊でしかなかったモノが、こんなに素敵なアラベスクの
ブローチに仕上がったのだから。
人混みを縫うように歩き、宿であらかじめ訊ねておいた公園へ向かう。
ココから、そう遠い距離ではないし、のんびり歩いていこう。
一つ向こうの通りだろうか、相当な早さで駆け抜ける馬車が石畳を削る音らしき騒
音が聞こえた。思わず眉根を寄せ、耳を塞ぐ。
多分、上流階級の特権意識を持つ人なのだろうと見当は付くが、それにしても迷惑
この上ない。一度降りて、疾走する自分の馬車に轢かれかけでもしないとわからない
のだろうと思うと、深い溜め息が漏れた。
公園には噴水があり、芸術の都にほど近いことを感じさせるオブジェも飾られてい
る。
人が疎らなことを好ましく思いながら、大きく一つ深呼吸。空気もさっきほどゴミ
ゴミした感じはなかった。
「ライさーん?」
木陰で、心なしか小さい声で名を呼ぶ。
気付くだろうか、襟の下に飾られた金のブローチの存在に。
「……ライさん?」
違う公園に行ったのだろうか、それとも、気が乗らないのだろうか。
理由はわからないが、とにかく彼は姿を現さなかった……。
仕方なく宿に戻ると、必要以上に豪奢な馬車が宿の入り口を塞いでいた。
さっきの騒音の主かな、という印象とともに若干のイヤな予感が脳裏をよぎる。
来た道を戻ろうと振り返り、そこで初めて囲まれていたことを悟った。
「何者ですか」
問いに対する返事はない。
ジリジリと間合いを詰めてくる見知らぬ男達に対して、セラフィナはゆっくりと針
を構えた。
「それ以上近づくと、打ちます」
腕が伸び、手首が翻る。
セラフィナが飛びすさりながら針を放ち、前方の三人を無力化してゆく。
ほぼ同時に彼女が居た場所には投網が放たれ、空を切った。どこからか、舌打ちが
漏れる。
「カフール皇国第二皇女、セラフィナ様とお見受けしました」
後ろから、しかも至近距離からの声に振り向き、手刀を見舞おうとするが時既に遅
し。
先に鳩尾へと拳を叩き込んだ男は、崩れ落ちるセラフィナを全身で受け止めた。
残った数名に顎でなにやら指図をし、自分は彼女を両手で抱え上げると馬車に乗り
込む。
馬車が走り去った後には、動きを奪われたはずの男達も誰もいなかった。
残されたのは金細工のブローチ、それだけだった。
場所:港町ルクセン
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港からほど近い場所に宿を取ったセラフィナは、人に会うというベアトリスと別
れ、金物職人の通りを歩いていた。
首元には金細工のブローチが一つ。
ついさっき、彫金師の店で細工してもらったモノだ。
セラフィナがアクセサリーを身に付ける。コレは結構珍しいことなのだが、それ以
上に珍しいのは、今、心躍る感覚があることだった。
アクセサリーを身に付けるのはいつも皇女としてのお役目の時と決まっていて、喜
ぶことなど一度もなかったのに。
ひしゃげたブローチの残骸を持ち込んだら、腕のいい職人が見違えるように細工を
施してくれた。これだけでも嬉しいことだと思う。
手持ちぶさたであったこともあり、細工を終始見学できた感動もあるのだろう。
が、それ以上に、顔がほころぶのを止められない。
「あ」
そうだ、ライさんにも見せてあげよう。
ちょっと前まで金の溶けた塊でしかなかったモノが、こんなに素敵なアラベスクの
ブローチに仕上がったのだから。
人混みを縫うように歩き、宿であらかじめ訊ねておいた公園へ向かう。
ココから、そう遠い距離ではないし、のんびり歩いていこう。
一つ向こうの通りだろうか、相当な早さで駆け抜ける馬車が石畳を削る音らしき騒
音が聞こえた。思わず眉根を寄せ、耳を塞ぐ。
多分、上流階級の特権意識を持つ人なのだろうと見当は付くが、それにしても迷惑
この上ない。一度降りて、疾走する自分の馬車に轢かれかけでもしないとわからない
のだろうと思うと、深い溜め息が漏れた。
公園には噴水があり、芸術の都にほど近いことを感じさせるオブジェも飾られてい
る。
人が疎らなことを好ましく思いながら、大きく一つ深呼吸。空気もさっきほどゴミ
ゴミした感じはなかった。
「ライさーん?」
木陰で、心なしか小さい声で名を呼ぶ。
気付くだろうか、襟の下に飾られた金のブローチの存在に。
「……ライさん?」
違う公園に行ったのだろうか、それとも、気が乗らないのだろうか。
理由はわからないが、とにかく彼は姿を現さなかった……。
仕方なく宿に戻ると、必要以上に豪奢な馬車が宿の入り口を塞いでいた。
さっきの騒音の主かな、という印象とともに若干のイヤな予感が脳裏をよぎる。
来た道を戻ろうと振り返り、そこで初めて囲まれていたことを悟った。
「何者ですか」
問いに対する返事はない。
ジリジリと間合いを詰めてくる見知らぬ男達に対して、セラフィナはゆっくりと針
を構えた。
「それ以上近づくと、打ちます」
腕が伸び、手首が翻る。
セラフィナが飛びすさりながら針を放ち、前方の三人を無力化してゆく。
ほぼ同時に彼女が居た場所には投網が放たれ、空を切った。どこからか、舌打ちが
漏れる。
「カフール皇国第二皇女、セラフィナ様とお見受けしました」
後ろから、しかも至近距離からの声に振り向き、手刀を見舞おうとするが時既に遅
し。
先に鳩尾へと拳を叩き込んだ男は、崩れ落ちるセラフィナを全身で受け止めた。
残った数名に顎でなにやら指図をし、自分は彼女を両手で抱え上げると馬車に乗り
込む。
馬車が走り去った後には、動きを奪われたはずの男達も誰もいなかった。
残されたのは金細工のブローチ、それだけだった。
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