人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン
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少し寝て、起きて。
思いのほかスッキリしたセラフィナは、そっとベッドから抜け出した。
「わぁ……!」
甲板に一歩でると海が夕日に染まっていて、潮風が髪をくすぐる。
海を見るのは初めてなのに、潮の匂いを覚えている……これは記憶にない間の自分
の体験なんだろうか。
考えないでおこうとした内容につい、思考が止まった。
「お、嬢ちゃん、元気になったのかい?」
通りかかった船員に声をかけられ、ようやく我に返るセラフィナ。
曖昧に笑って「ええ、まあ」と当たり障りのない返事をして逃げ出した。
分かっていたつもりだったけど、オジサンばっかりだ……。
つい、人が少ない方へ少ない方へ行ってしまう。
船の後方、貨物の一部が積まれた区画。
隠れるモノには不自由ないので、それだけで少し気が楽になったりするのだ。
が……なんだか見てはイケナイモノを見てしまったような気がして後ずさる。
「そんな……まさかね」
視界の端に映ったのは大きな大きなイカの足。
どう贔屓目に見ても大きすぎて、現実を放棄したくなる。
とりあえずライさんが冗談じゃなくて本当のことを言っていたのはわかったけ
ど……覚えていたくないコトってコレのコトなんじゃないかしら……。
頭を抱えつつもなんとか冷静に努める。
外傷性なら傷が治れば思い出すかもしれないし、心因性ならその事に向き合う必要
があると船医は言っていた。只の一時的なショックの可能性が一番高いんだから焦ら
なくていいよ、とも言っていたが、気休めに聞こえるのは気のせいだろうか?
「さすがマリリンちゃん、キミのお陰でもうすぐ港に着くよ~!」
猫なで声の男が、船尾にいた。
外に身を乗り出して、人が居るはずのない方向に話しかけているのだ。
思わず頭を抱えて正気を疑った。
「でも、お別れが寂しくって……ああ、キミもそう思ってくれるんだね?」
只のバカップルの会話に聞こえなくもない。
仕事をほったらかしでいいのか、この人。
「本当に?嬉しいナァ」
一方的に話しかけているだけじゃなく、何かを受信しているらしい。
関わり合いにならないようにそっと後ずさると、回れ右をして走り出そうとした。
「あ、セラフィナちゃん?」
聞かないフリ聞かないフリ、聞こえませんっ!
と思いつつも、行く手を塞ぐように伸びてきたイカの足に阻まれて断念。
引きつりながら振り向いて、小さく会釈をした。
「もう大丈夫? マリリンも心配してたんだよー」
「は、はは、体は動かせるようになりました」
不自然だ。明らかに不審だ。と自らにツッコミをいれながら答える。
「よかったなぁ、なあ、マリリン?」
嬉しそうに振り向く男の後ろは海。
マリリンって誰ですか、いや、誰でもイイから帰らせて!
逃げだそうともう一度振り返り、伸びてきたイカの足に頭を撫でられる。
頭の中が真っ白になって崩れ落ちる中、聞き慣れた声を聞いたような気もしたが。
……もうその時には意識を手放していた。
遠くから名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
その声は何度も、何度も、私の名前を呼んでいて。
「……どうしたんですか?ライさん」
ゆっくり目を開けると、心配そうに覗き込むライの顔。
彼は深く溜め息をつくと、脱力して座り込んだ。
「いきなり倒れたって聞いたから……びっくりしたよ」
見渡すと、覗き込んでいるのは彼だけではないようで。
「大丈夫?」
「どこか痛いところはない?」
「嬢ちゃん、平気か?」
皆が口々に心配の言葉を投げかける。
体を起こして回りを見渡して、離れた位置から遠巻きに見ている男に気付いた。ウ
ォルトというちょっと気の弱い船員だったと思うのだけど、何故あんなに離れている
のか。
「……彼は、何を怖がってるんです?」
首を傾げる。彼の後ろでイカの足が蠢き、慌てて隠そうとする姿を見てホッと息を
付いた。
「ああ……助かったんですね、良かった……」
「え?」
「ええ!?」
回りの動揺っぷりに思わずこちらが慌ててしまう。
「イカ、助かったんですよね……?」
疑問符を頭にたくさん浮かべ、ライに訊ねて返事に驚く。
「えーと、セラフィナさん? セラフィナちゃん?」
意味が全く分からなかった。
場所:デルクリフ⇔ルクセン
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少し寝て、起きて。
思いのほかスッキリしたセラフィナは、そっとベッドから抜け出した。
「わぁ……!」
甲板に一歩でると海が夕日に染まっていて、潮風が髪をくすぐる。
海を見るのは初めてなのに、潮の匂いを覚えている……これは記憶にない間の自分
の体験なんだろうか。
考えないでおこうとした内容につい、思考が止まった。
「お、嬢ちゃん、元気になったのかい?」
通りかかった船員に声をかけられ、ようやく我に返るセラフィナ。
曖昧に笑って「ええ、まあ」と当たり障りのない返事をして逃げ出した。
分かっていたつもりだったけど、オジサンばっかりだ……。
つい、人が少ない方へ少ない方へ行ってしまう。
船の後方、貨物の一部が積まれた区画。
隠れるモノには不自由ないので、それだけで少し気が楽になったりするのだ。
が……なんだか見てはイケナイモノを見てしまったような気がして後ずさる。
「そんな……まさかね」
視界の端に映ったのは大きな大きなイカの足。
どう贔屓目に見ても大きすぎて、現実を放棄したくなる。
とりあえずライさんが冗談じゃなくて本当のことを言っていたのはわかったけ
ど……覚えていたくないコトってコレのコトなんじゃないかしら……。
頭を抱えつつもなんとか冷静に努める。
外傷性なら傷が治れば思い出すかもしれないし、心因性ならその事に向き合う必要
があると船医は言っていた。只の一時的なショックの可能性が一番高いんだから焦ら
なくていいよ、とも言っていたが、気休めに聞こえるのは気のせいだろうか?
「さすがマリリンちゃん、キミのお陰でもうすぐ港に着くよ~!」
猫なで声の男が、船尾にいた。
外に身を乗り出して、人が居るはずのない方向に話しかけているのだ。
思わず頭を抱えて正気を疑った。
「でも、お別れが寂しくって……ああ、キミもそう思ってくれるんだね?」
只のバカップルの会話に聞こえなくもない。
仕事をほったらかしでいいのか、この人。
「本当に?嬉しいナァ」
一方的に話しかけているだけじゃなく、何かを受信しているらしい。
関わり合いにならないようにそっと後ずさると、回れ右をして走り出そうとした。
「あ、セラフィナちゃん?」
聞かないフリ聞かないフリ、聞こえませんっ!
と思いつつも、行く手を塞ぐように伸びてきたイカの足に阻まれて断念。
引きつりながら振り向いて、小さく会釈をした。
「もう大丈夫? マリリンも心配してたんだよー」
「は、はは、体は動かせるようになりました」
不自然だ。明らかに不審だ。と自らにツッコミをいれながら答える。
「よかったなぁ、なあ、マリリン?」
嬉しそうに振り向く男の後ろは海。
マリリンって誰ですか、いや、誰でもイイから帰らせて!
逃げだそうともう一度振り返り、伸びてきたイカの足に頭を撫でられる。
頭の中が真っ白になって崩れ落ちる中、聞き慣れた声を聞いたような気もしたが。
……もうその時には意識を手放していた。
遠くから名前を呼ぶ声が聞こえてくる。
その声は何度も、何度も、私の名前を呼んでいて。
「……どうしたんですか?ライさん」
ゆっくり目を開けると、心配そうに覗き込むライの顔。
彼は深く溜め息をつくと、脱力して座り込んだ。
「いきなり倒れたって聞いたから……びっくりしたよ」
見渡すと、覗き込んでいるのは彼だけではないようで。
「大丈夫?」
「どこか痛いところはない?」
「嬢ちゃん、平気か?」
皆が口々に心配の言葉を投げかける。
体を起こして回りを見渡して、離れた位置から遠巻きに見ている男に気付いた。ウ
ォルトというちょっと気の弱い船員だったと思うのだけど、何故あんなに離れている
のか。
「……彼は、何を怖がってるんです?」
首を傾げる。彼の後ろでイカの足が蠢き、慌てて隠そうとする姿を見てホッと息を
付いた。
「ああ……助かったんですね、良かった……」
「え?」
「ええ!?」
回りの動揺っぷりに思わずこちらが慌ててしまう。
「イカ、助かったんですよね……?」
疑問符を頭にたくさん浮かべ、ライに訊ねて返事に驚く。
「えーと、セラフィナさん? セラフィナちゃん?」
意味が全く分からなかった。
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