忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/03/10 06:42 |
銀の針と翳の意図 70/セラフィナ(マリムラ)
人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン
------------------------------------------------------------------------

 外は雨が降っていて、船は時々大きく揺れて。
 歓声と咆哮と怒鳴り声と雨音が入り交じった賑やかな甲板。
 何はともあれ、外の様子が平穏とはとても思えなかった。

「…………本当に行く?」

 ライが訊ねる。
 セラフィナはしばらく固まったままだった。何故か。

 イカ?何故イカ?本当にイカ?

 頭がごちゃごちゃしていて、しかもその大半をイカが占めているという、史上稀に
見る混乱っぷりだったからなのだが。

「……助け、なきゃ……」

 セラフィナは半ば強引に意識を引き戻すと、そう呟く。
 ライが肩を落としたが、セラフィナの目には映っていなかった。

「ああ、うん、そうだよね……」

 深ーく溜め息をつくライ。セラフィナはまだ若干目が泳いでいる。

「そうですよ、早く行かないとイカが手遅れになってしまいます!」
「……って、イカですか?!」

 視点がまだ定まらないまま走り出したセラフィナを追って、ライも甲板に走り出
る。
 音の割に雨足は強くないが、足場が滑って危険なことには変わりない。船員達も不
安定な体制をフォローするように、ロープで体を結びあっているようだ。

 見渡しても、イカはいなかった。
 船員達の様子から見て、一度海中に潜ったのだろうか。船員達は、しきりに海面の
様子を気にしている。

 ぐらり、船体が揺れた。
 セラフィナとライは、慌てて近くのロープへ手を伸ばす。

「……きゃっ!」

 唯一ロープに繋がれていない少女がバランスを崩した。
 ティリーだ!

「危ない!」

 ティリーの視界が急に暗くなった。影が視界を覆っている。

「あっ……」

 影はティリーを引き寄せた。
 ティリーは手足をバタつかせるが、咄嗟のことに魔法も使えない有様。しかも非力
な少女となれば、抵抗もあってないようなモノ。

 しかし。
 影は彼女に危害を加えることなく、マストに繋がるロープへ導く。
 ロープをしっかり掴まされて初めて、ティリーは顔を上げた。

 ライだった。

「あり……がと」

 ティリーの頬が朱に染まる。
 それは迂闊な行動に対する恥ずかしさなのか、さっきの危機を思い出しての興奮な
のか、自分でも分からなかったけれど。

「暴れるのは、勘弁してねー」

 ライがティリーに苦笑を向けると、もう一度船体が大きく傾いた。
 ティリーは必死にライにしがみつき、ライもなんとかロープに食い下がる。

「来たぞー!」

 誰かが叫んだ。
 見上げるとソコには、船よりも巨大な、色がめくるめく変わる半透明の表皮に包ま
れたイカが、いた。

「大丈夫ですか?」

 二人の元に駆けつけたモノの。
 セラフィナは見上げた対象の異様さに、言葉を失う。

「うわぁ、イカだね……」

 呆気にとられるライ。

「だから私が言ったじゃない……」

 口調の割に弱々しい声のティリー。まだライから離れられないでいる。

「ほら、アンタ達は危ないから、中に入ってな!」

 船員が怒鳴るように声をかけたが、三人は惚けたまま動かない。

「私の包丁さばきを見るがいいぃぃぃ!!」

 どうも先頭を切っているのは、普段はおとなしいコックのようで。
 両手に構えた菜切り包丁が不気味に煌めく。
 他の船員達も、意気揚々と慌ただしく動き回り、なにやら捕獲の準備をしているの
だった。

「……ダメー!」

 ティリーが叫ぶが、船員達の耳には届かない。
 もう魔法を使うこともすっかり忘れて、ティリーはライにしがみついていた。

「事情を説明して、やめてもらいましょう」

 ようやく現実認識が出来るようになってきたセラフィナが、船員達の方を見て呟
く。

「今は何言っても聞こえそうにないよね」

 ライがイカを見上げたまま呟く。

「よーっし、いっくぞー!」

 船員の一人が叫んだのを合図に、一体どういう手法で切り取ったのか、イカの足が
一本降ってきた。

「あっ」
「うわっ」
「きゃっ」

 下敷きにされかけながらもなんとか避ける三人。
 回り受け身をとって避けたセラフィナは、歓喜の声を上げる船員達に向かって針を
構えた。

「ご免なさい」

 小さな謝罪の言葉と共に、男達の動きが少しずつ止まっていく。
 セラフィナが放った針の効果で、運動能力が奪われているのだ。
 幸い、ロープで体を繋ぎ合わせているため、揺れで船外に投げ出される者はいな
い。

「ダメよ、足を切られて怒ってる!このままじゃ、船が沈むわ!!」

 ティリーが叫ぶ。
 セラフィナに向かい、鞭のように巨大イカの足が伸びて。

 ドフッ

 横から強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされる。
 セラフィナはこの厚い表皮を針で貫けるか、ツボはどこにあるのか、必死になって
考えていたが、宙に浮いて逃げ道がないところを上からもう一度叩きつけられ、波間
に落とされる。

「セラフィナさん!」

 セラフィナは冷たい海中に沈み込む直前、ライの声を聞いたような気がした……。
PR

2006/11/30 23:19 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<銀の針と翳の意図 69/ライ(小林悠輝) | HOME | 銀の針と翳の意図 71/ライ(小林悠輝)>>
忍者ブログ[PR]