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2025/03/10 06:54 |
銀の針と翳の意図 66/セラフィナ(マリムラ)
人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン
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 セラフィナが救急箱とタオルを持って食堂に戻ると、ライは大きめのタオルで髪を
拭きながら、女の子と話をしていた。ベリンザから乗船してきたまだ若い少女。彼女
は、セラフィナに気付くと、おもむろにライを小突いた。

「彼女さん来たみたいよ」

「だから、違うってば……」

 肩を落とす表情と、濡れた髪がちょっとカワイイ。
 しっかりと、ではなく結構いい加減に拭いたのだろう。濡れて細くまとまった髪が
首を振った拍子に乱れて、小さな水滴を辺りにまき散らす。

「ライさん、また船員さんに嘆かれちゃいますよ」

 セラフィナは笑ってタオルをライに手渡すと、少女に会釈した。

「船には慣れましたか?一人旅も大変ですね」

「平気よ、船には何度も乗ってるから」

 短い髪を掻き上げて、少女が目を逸らす。
 視線の先は灰色一色の窓。空を見ているのだろうか。

 セラフィナはライの正面の椅子に座ると、椅子を引き寄せて間合いを詰めた。

「ちょっと痛いかもしれませんけど、我慢して下さいね?」

「あー……お手柔らかに頼むよ」

 ライが苦笑を浮かべる。
 セラフィナは手早く箱から必要なモノを出して、治療を始めた。

 そっと頬の辺りに触れて、ひんやりとした感触にどきっとさせられる。
 雨に濡れていたから冷え切っているのだろうか。それとも別の理由だろうか。

 努めて何事もなかったようにセラフィナは振る舞った。
 ついさっきのようにしていてはいけない。ショックを顔に出さないようにしない
と、自分よりも相手の方が傷つくだろうから。そう思って。

 ふと、ライが顔をしかめた。

「痛かったですか?」

 問いかけてから、思う。
 なんだろう、何かが違う。違和感。

「大丈夫ー、気にしないで?」

 ライは笑ったが、違和感が拭えない。
 なんだろうなんだろうなんだろう。

 考え事をしながらで手が滑ったのか、同じ位置にガーゼが触れる。
 ……が、今度は無反応。
 痛そうに見える部分にも、こっそり触れてみる。

「……まだかかりそう?」

「え、あ、もう少しで終わりますよ」

 やはり痛がっている節はない。
 もしかして、本当は感覚までなくなっていたりするのだろうか。もしそうだとした
ら、さっきの返事は?

「……いちゃいちゃままごとは、そのくらいにしたら?」

 呆れた顔で少女に見下ろされていることに気付いて、慌てて離れるセラフィナ。
 考え事をしていたせいか、思いの外手間取ってしまい、後ろめたさを感じたのだ。

「はい、もういいですよ」

「ありがとう、セラフィナさん」

 ライが笑う。セラフィナも笑う。
 頭を抱えて深~く溜め息を付いた少女は、近くの椅子に座り、足を投げ出した。

「何で二人で旅をしてるの?」

 ライとセラフィナは顔を見合わせ、首を傾げる。

「なんでっていわれても……」
「……ねぇ?」

 セラフィナが望んだ、というコトもあるが、断ろうと思えば断れたのだ。二人で居
なければいけない理由は特になかったような気もする。

「どうして、気になるのさ?」

 ライが逆に問い返すと、少女はにべもなく言った。

「理由なんか無いわよ。気になったから聞いただけ」

「……あー、そりゃそうだよねぇ」

 会話が途切れる。折角船内で若い客は三人だけなのだから、もう少し仲良くしたい
のに。

「そういえばお名前、まだ聞いてませんでしたよね」

 セラフィナが切り出すと、

「あなたがセラフィナで、こっちがライ、でしょ?なんか船内で有名人よ、お二人さ
ん」

 と、バッサリ切り捨てられた。

「えーと」

「ああ、私はベアトリス。ティリーって呼んで」

 そして人差し指を突き出すようにすると、ひそひそと付け加える。

「間違ってもベティーって呼んじゃダメ。パティーを思い出してムカつくから」

 パティーとは誰だろう?と思いながらも、思い出させて不快な思いをさせる気もな
かったので、セラフィナは聞かないでおいた。知っても自分にはワカラナイ幼なじみ
とか身内とかの話だろう。

「よろしく、ティリーちゃん」

「あ、ちゃん付けもいらないからね、セラフィナさん」

 何ともマイペースな子だ。

「じゃあ、改めて。よろしくね、ティリー」

「よろしく、お二人さん」

「うん、僕もよろしくねー」

 ティリーが笑う。
 ちょっと高圧的な態度をとっていた彼女の笑顔はとても幼く、愛らしいモノだっ
た。

 外は相変わらず雨が降っている。
 風が若干強くなったようで、バシバシと叩きつけるような音が激しさを増した。
 船員の一人が、危ないから甲板に出ないように、と呼びかけているようだ。
 それでも、食堂の中の時間は平和にゆっくりと流れていた。

「ヒマ?だよね、ティリー」

「残念ながらそうよ」

「んじゃ、一緒にカードでもやろうか。多い方が楽しいよ?」

「そうですね」

 ライが笑いかける。セラフィナも笑う。

「仕方ないな、付き合ってあげてもいいけど?」

 渋々、といった表情を最後にほんのちょっと崩して、ティリーが笑った。
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2006/11/30 23:17 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

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