忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2025/03/10 06:25 |
銀の針と翳の意図 64/セラフィナ(マリムラ)
人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン ―それなりに大きな港町ベリンザ
------------------------------------------------------------------------

 ライとシラを見比べ、セラフィナはシラに向き直った。

「私も、もう行きますね」

 にっこりと笑う。しかし、シラは手を離そうとしなかった。

「シラくん……」
「ダメだよ、セラフィナが居ないとダメなんだ。
 ……ボク、また消えちゃうんじゃないかって不安なんだよ……」

 消え入りそうな声で、しかし手だけはしっかりと握って離さない。
 困ってライを振り返ると、ライは笑って訊ねてきた。

「ねえ、セラフィナさん。僕に気を使ってたりとかする?
 その子が心配なら、別に無理して僕と一緒にいかなくてもいいと思わない?」

「そんなことは……意地悪言わないで下さい」

 胸がズキリと痛む。
 胸に傷は負わなかったはずなのに、ソフィニアの一件から、しばしば酷く胸が痛む
のだ。脇の抉られた後とはまた違った痛み。
 目を伏せ、セラフィナはもう一度シラを見た。
 見上げる少年お目は潤み、僅かに首を傾げてコチラを真っ直ぐに見ている。

「ボクを置いていかないでよセラフィナ」

 シラが心配ではないと言えば嘘になる。でも、シラにはずっと心配してくれていた
男が居て、自分はシラの側にいるよりもライと共に去ることを選んだ。
 男を見る。男は無言で頭を下げる。
 男はシラの肩に手を置くと、静かに言った。

「無理を言ってはいけないよ、シラ」
「ヤだヤだヤだ!ボクはセラフィナと一緒がいい!!」

 シラは握っていた手を離したかと思うと、驚くほどの素早さでセラフィナに抱きつ
いた。胸に顔を押しつけ、離れまいと必死でしがみつく。

「痛っ!」
「セラフィナさん、大丈夫?!」

 シラの回した腕が脇の傷に障ったのだ。思わず顔をしかめたセラフィナを、ライが
シラから強引に引き剥がす。予想外の反応に驚いたのか、それとも単にライが怖いの
か、シラは思いの外あっさり身を引いた。

「……ライさん、一緒に帰りましょう?」

 引き剥がされたときのまま、ライに両肩を支えられたセラフィナは、ライの肩に頭
を預けるようにして呟く。表情を知ろうにも、顔は見えなかった。

「彼女、病み上がりだから気を付けてもらわないと……連れて帰るからね」

 シラがなにかを言いかけて、ライの笑顔を見て、やめた。
 結局名前も聞かなかった男は、深々と頭を下げる。

「じゃあ行こうか、セラフィナさん」

 扉を開け廊下に出る前に、セラフィナは一度立ち止まり、振り向いた。

「シラくん、ずっと側で心配してくれていたヒトがいること、忘れないで」

「もう行っちゃうの?ねぇ……」
「さようなら、シラくん」

「イヤだよ、ねぇ、セラフィナ……!」

 笑顔をもう一度向けると、セラフィナはもう振り返ることはなかった。


      ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆


 シラはセラフィナを見送ると、オジサンを見て小さく溜め息を付いた。

「あーあ、結局オジサンと二人っきりかぁ……」

 ふくれっ面で窓を見やり、セラフィナを思い出してニヤッと笑う。

(……でも、ふわふわして気持ちよかったから、まあイイか)

 なんでヒトじゃないトモダチが居るのか分からなかったけど、オバケはボクが抱き
ついたの、確信犯だって事に気付いていたみたいだったから、もしかして手玉に取ら
れていたりするのかな。なんて事を考えて、否定。アイツのことはもう忘れよう。
 忘れないと、いつか誰かに言ってしまいそう。ソレは……怖い。

 振り返ってオジサンの見窄らしい格好を見て、今度は大げさに溜め息を付いてみせ
る。

「隠し扉の宝石箱、多分気付かれていないからサ、身だしなみ整えようか」

 もう家から出られないのはウンザリだ。
 やっぱり、柔らかくて可愛い女の子が居ないとね。

 さっきの心細そうな表情は微塵も感じられない晴れやかな笑顔で、シラは言った。


      ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆ ・ ☆


「ライさん、気付きました?」

「えー何に?」

「シラくん、車椅子から立ってたんですよ。さっき」

「あ、あー……あの、抱きついたとき、か」

 ちょっとイヤそうにライが言う。
 痛かったのは自分のハズなのに、セラフィナは他人事のように笑った。

「きっと、歩けるようになりますよね」

「そうだね」

 何となく一方的にギクシャクしていたものがほぐれたような気がして、セラフィナ
は素直に嬉しかった。とても難しそうに思えたことが、何の偶然か、思いの外簡単に
解決したことで気分がいいだけかもしれないが。
 今は一緒に歩ける。それだけで充分だった。

「……あ」

 セラフィナが突然立ち止まる。

「忘れるところでした……服を取りに行かないと」

「じゃあ、寄ってから帰ろう」

 ライが言うと、セラフィナは嬉しそうに笑った。

 通りの向こうから、顔なじみの船員がやってくるのが見える。なんだか重そうな袋
を抱えて、でも、足取りは軽そうだ。

「おう嬢ちゃんら、相変わらず仲いいな」

「茶化さないで仕事しなよ」

「ははは、ちげぇねぇや。
 ああ、そうそう、なんか降りた客の代わりに若い子が一人乗ってくるってさ」

 それだけ言うと「またあとでな」と、去っていく。まだ仕事があるのだろう。

「仲良くできるとイイですね」

 セラフィナはまだ明るい空を見上げて目を細めた。
PR

2006/11/30 23:16 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<銀の針と翳の意図 63/ライ(小林悠輝) | HOME | 銀の針と翳の意図 65/ライ(小林悠輝)>>
忍者ブログ[PR]