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2025/03/10 07:03 |
銀の針と翳の意図 54/セラフィナ(マリムラ)
人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン ―それなりに大きな港町ベリンザ
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 背後の扉が閉まる音に、セラフィナは身を竦めた。
 お化け屋敷と噂されるくらいだし、風の気まぐれでコレくらいのことがよくあるの
だろうと自分を納得させ、歩を進める。が、こころなしか歩速が遅い。

「お返事がないのでお邪魔してます……」

 時々声をかけながら、最上階の突き当たりの部屋までたどり着いたはイイが、セラ
フィナはなんだか不安になってきていた。

 自分は一体何をしに来たのだろう?
 何がしたいのだろう?

 誰かに会う前に帰ろうかと、扉を背にしたとき、中から僅かに扉が押し開けられ
た。

「……誰?」

 車椅子に乗った少年が、扉の隙間からコチラを窺っている。

「勝手にお邪魔してゴメンナサイ、玄関で声をかけても誰も出ないようだったから」

 セラフィナは少々バツが悪そうに笑った。少年は珍しそうに眺めている。

「もしかして、新しい家庭教師?」

 露骨にイヤな表情を浮かべ、扉を閉める少年。セラフィナは扉の前で取り残される
形となった。少し迷って、部屋の中に向けて声をかける。

「驚かすつもりがなくてもイヤな気分になったわよね……本当にゴメンね」

 セラフィナは少し反応を待ったが、扉の向こうからは何も聞こえず、来た道を帰ろ
うと体の向きを変えた。見知らぬ人がいきなり上がり込んできたら、それは警戒して
当たり前。自分が早く去る方がいいだろうと思ったのだ。

「お姉さん、父さんの寄越した家庭教師じゃないの?」

 再び薄く扉が開けられる。
 セラフィナが笑いかけると、少年も笑って返した。

「だったら話は別。お客なんて殆ど来ないんだ、入ってよ」

 扉を大きく開け放つと、中に入るよう勧める。
 部屋は綺麗に片づけられ、思ったより質素な調度品が置かれていた。床の上には毛
足の短い絨毯が敷かれており、車椅子の滑り止めの役目をしているようだ。

「ほら、何やってるの」

「じゃあ、少しだけ」

 断るのも悪い気がして、セラフィナは中へと足を踏み入れる。後ろで扉がひとりで
に閉まった。

「……?」

 一瞬怪訝な顔をしたセラフィナに、少年は笑って手元の箱を見せる。

「からくりなんだ、驚いた?」

 そう言うと、ボタンのようなモノを操作して、扉を開閉してみせる。

「もしかして、玄関の扉もそうなの?」

「ちぇ、気付かれないように閉めたつもりだったんだけどナァ」

 とても嬉しそうに少年が笑う。セラフィナもつられて笑った。

「あのね、足が動けるようにお手伝い……」
「ヤだ!」

 何気なく、手を伸ばそうとして、間髪入れない否定におもわす引っ込める。
 セラフィナの胸が、ちくりと痛んだ。

「前に言われた。この足が動かないのは心因性のなんとかだって」

 辛そうに視線を合わせない少年に、セラフィナはかける言葉が浮かばない。

「足は魔法で完全に治っているから、後は自分次第なんだってサ」

 無理を押して明るい声を出しているようにみえた。そしてやはり胸が痛む。

「あ、名前、まだ聞いてない」

 話題を変えたかったのだろう、とても楽しそうに少年が笑った。

「セラフィナよ。あなたは?」

「ボクはシラだよ、よろしくセラフィナ」



 その時、セラフィナはまだ気付いていなかったのだ。
 窓ガラスにシラが映っていないということに。
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2006/11/30 23:10 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

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