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2024/11/03 02:17 |
銀の針と翳の意図 52/セラフィナ(マリムラ)
人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン ―それなりに大きな港町ベリンザ
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「お買い物に行って来ますね」

 そう言って、セラフィナは一人で船を降りた。
 ここ2、3日で大分慣れてはきたモノの、ライと顔を合わせるのがなんだか気まず
かったし、動きやすい服に着替えたかったのが主な理由。慣れないドレスではやはり
不便で、ソレを知っている船の乗組員も快く送り出してくれた。

 ソコは本当に大きすぎもせず、かといって小さくもない、ちょっとだけ大きめの港
町だった。名前はベリンザというらしい。活気があって、人の声が絶えない。

「お仕事中にごめんなさい、服を扱っている店を探しているんだけど」

 途中、気の良さそうな女性に声をかけて、わかりやすい位置にある一軒を教えても
らうと先を急ぐ。魚を取り引きする少し生臭い匂いや、海風が運んでくる潮の匂いな
ど、強い匂いのお陰でなんだか自分が見知らぬ街に一人取り残されたような気分にな
っていた。

 可愛らしい看板の、こじんまりとした店だった。
 店内にはいると花の香りがし、フリルやレースが色とりどりに飾られている。

「え、と」

 こういう可愛らしい服は昔から苦手だった。なんだか「愛されている少女」しか許
されないような、そんなカンジ。
 大切にされていたとは思うのだが、身内の愛情をあまり感じないまま育ってきた自
分には、とても不釣り合いな気がするのだ。

「お客様、どういったお洋服をお探しですか?」

 くらくらするようなフリルの隙間からひょっこり店員が顔を出す。

「あの、申し訳ないんですが、東方の服を扱っている店を教えて下さい……」

 それだけ言うのがやっとだった。



 気を取り直して向かった店は、極彩色の反物がのれんに使われている入りづらい外
観をしていた。

「えーと……」

 思わず躊躇する。

「……いらっしゃいませ」

 すり足で近づいてきた初老の女性に声をかけられたかと思うと、おもむろに手を引
かれ、中へ案内されてしまった。
 その女性の着ている服は着物と呼ばれる服装で、とても動きやすそうには見えなか
ったし、自分の探しているモノとは違うということがすぐに分かったのに、あれよあ
れよという間に採寸されてしまう。

「あの、動きやすい服を探しているんです」

 頷く店員。そっと差し出されたカタログには生地見本とデザイン画が何枚も纏めて
あった。

「くの一?白拍子?」

 あまり動きやすそうには見えないし、つい頭を抱えてしまう。

「あ、コレ、コレがいいです」

 次のページには意外なことに、「ちゃいな」とか「あおざい」とか書かれたデザイ
ン画があったのだ。
 生地見本から軽くて柔らかいモノを選び、店員に「あおざい」のデザイン画を指し
示す。

「……4時間ほどお時間頂きますがよろしいでしょうか」

 体にぴったりのモノを作るとなると、オーダーメイドになってしまうのだから仕方
がないのだが。
 しかも4時間というのは、きっと最優先で仕上げたときの時間だろうから。

「お願いします」

 セラフィナはそれまでの時間をどうしようかと思いを巡らせた。



 で、結局。
 噂に聞いた洋館の前にいたりするのだ。
(他の人が見たのなら、私にも見えるかもしれないし、話が出来るかもしれない)
 ライの力になれないのなら、力になる方法が知りたかった。とはいえ、大して期待
していたわけではないけれど。

「……失礼しま…す」

 誰もいないと思いながらも一応一声かけてから扉を開ける。
 ギギギギギ…と耳を塞ぎたくなるような音を立てて、身長の3倍くらいありそうな
扉が開く。

「誰か、いますか…?」

 玄関ホールに入って正面の螺旋階段に足をかける。

 ギ…ギギ…ギギ…

 風もないのに重い扉がひとりでに閉まった。
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2006/11/30 23:08 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

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