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人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン ―港町
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「私に手伝えることなら……」
一体どういうことなのか。
迷い込んだ先にライが居て、十人近くの見知らぬ少年少女が居て、そして全員が一
斉にこちらを向いている。
その目が希望に輝いているように見えれば、面食らうのも無理はないかもしれな
い。
「と、りあえず、状況を把握しないと……」
笑みを浮かべるものの、若干引きつったような気がする。わらわらと寄ってきた子
達が口々に、しかもそれぞれバラバラなことを話し始めたのだ。
「えー、と。掻い摘んで要点だけ、お願いします」
ライの袖を引く。ライはなんともいえない苦笑いを浮かべ、簡潔に状況を説明した-
-------。
「--------ということは、時間がないんですね?」
「そう」
言い終わってスッキリしたように笑顔を浮かべるライと、ようやくおとなしくなっ
た縋るような目の少年少女を交互に見ると、セラフィナは小さくため息を付いた。
「もっと早く教えてくれれば良かったのに……」
小さく呟くと、一つ大きく深呼吸をして胸を張った。姿勢を正し、猫だらけの檻
[ケージ]に向き直る。
「ちょっと手荒にいきます」
手には針が構えられ、わずかに差し込む夕日に煌めく。
「殺しちゃダメ~!」
「……大丈夫だよ、このお姉さんは殺したりしないから」
……気が抜けるなぁ、もう。ライに諭され不満顔ながらもおとなしくなった少女を
横目に、針を構え直す。
動き回る猫を見る目がすうっと細くなる。
手首が閃き、針が舞う。
「猫が、猫が死んじゃったよぉ」
檻[ケージ]の中で針に刺されて動きを止めた猫を見て、少女が涙声でライにしが
みついた。隣には目つきの険しい少年が一人いたが、唇を噛むようにして何も言わな
かった。
「麻酔みたいなものだから心配しないで。それよりも猫が興奮するといけないから静
かに出来るかな」
セラフィナの目は既に次の猫を追っており、手元には新たな針が構えられている。
急がないと他の猫が暴れたときに余計な傷を負ってしまうかもしれないのだ。のん
びりはしていられない。
返事を確かめる前に、セラフィナは次の一撃を放った。
最後の猫がくたっと横になる。コレで三十四匹、檻[ケージ]の中がようやく静ま
り返る。
「……ふぅ」
大きく息をもらし、天を仰ぐ。集中していたせいか、視界にまだ猫が映っているよ
うな気がする。
子供達が手分けして猫の選別に当たる中、伸びをしてもう一度上を見上げたセラフ
ィナが見たモノは。
……猫?
「ねぇ、ライさん、あの梁の所に三毛猫がいるように見えるの、気のせいですよ
ね?」
しばしの沈黙。
「「「って、ええっ?!」」」
みんなが一斉に上を見上げる。尻尾がちらりと見えて、また隠れる。暗くて三毛か
どうか、よく見えない。
「……」
「ココに三十匹いれば問題ないんだから、サ」
言いながらも引きつる少年。慌てて選別作業に戻る面々。
汽笛が二度鳴り、出発までの時間が差し迫っていることを教えてくれる。
「でもホント、来てくれて助かったよ」
ライのその一言に、二人は顔を見合わせて笑った。
なんだか愉快だった。力が抜ける気分だった。
「後は猫を連れ帰るだけですね」
選別ももうじき終わるだろう光景を、セラフィナは静かに見守っていた。
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