◆――――――――――――――――――――――――――――――――――
人物:ライ セラフィナ
場所:デルクリフ⇔ルクセン ―港町
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「おいで」
散々走り回って、セラフィナはようやく休息する猫に近づいた。
そっと手を伸ばすが、面倒くさそうな顔をして猫は顔を洗うだけ。逃げる気はなさ
そうだ。
「お前、足早いね」
三毛猫を優しく抱き上げると、顔を覗き込み声をかける。答えるように小さく鳴く
子猫は、思った以上に柔らかくて暖かかった。
そうだ。ライさんに見せに行こう。
懐いていたみたいだったし、きっと彼も退屈しているに違いない。
来た道を戻り、彼と鉢合わせをした三叉路に向かおうとしたその時。視界の端に猫
の影が映る。
「えっ?!」
思わず振り返るが、今度は別の方向に猫の影が映る。
普段だったら「猫の多い町なんだな」と思ったかもしれない。しかし、さっきの追
いかけっこ中に感じた違和感がそう思わせなかった。何かがおかしい。
「うわー、遅かったよぉ」
建物の影からセラフィナを窺う子供が二人いた。
「や、大丈夫。なんか理由付けて返して貰おう」
背が高い方の少年は、もう一人に捕獲用の網を預け、にかっと笑った。
猫を抱いたまま歩くのを止めたセラフィナに、通りを真っ直ぐ進んでくる少年が声
をかけた。
「おねーさん、ちょっとその猫、見せてもらってイイかなぁ?」
「え、ええ、いいけど……」
抱かれたままの猫を覗き込む少年。
「あ、やっぱりキャンディーじゃん」
「キャンディー?」
「うんそう、探してたウチの猫。だから返して?」
にかっと笑って両手を差し伸べる少年。何となくしっくり行かないながらも子猫を
渡そうとして、また三毛猫が視界にはいる。
抱きなおしてセラフィナが問いかける。
「この町って三毛猫が多いのかな?」
「あー、うん。今三十匹くらいかナァ」
少年の視線が斜め上に逸れる。アヤシイ。
「模様がね、みんな同じに見えるんだけど、どうやって区別してるの?」
「えーっとねー、ビミョウに違うんだよ~」
説明する言葉を探そうとしてか、頭を抱えてしゃがみ込む少年。
セラフィナが困って空を見上げたまさにその時、異変は起こった。
「きゃっ!!」
小さな悲鳴。声の主は……セラフィナ。
予想もしなかった事態に、思わず猫を放り投げスカートを抑えてしゃがみ込む。
セラフィナには何が起こったのかよく分からなかったが、遠目でも目撃した人はす
ぐに分かっただろう。黒いスカートが翻り、白い太股が鮮やかに浮かぶその姿。
そう。子供の特権「スカートめくり」だ。
「よっしゃ!逃げるぞ~」
少年が猫を抱きかかえて一目散に逃げる逃げる。物陰から出てきた少し背の低い少
年も網を持って後を追う。
セラフィナは放心状態で座り込んでいた。子供の頃からあんないたずらに出会った
ことがなかったのだから、まあある意味当たり前の反応なのかもしれないが。
「……何?」
未だに状況が把握できていなかった。
PR
トラックバック
トラックバックURL: