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2024/11/02 22:25 |
銀の針と翳の意図 42/セラフィナ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:ライ セラフィナ

場所:デルクリフ⇔ルクセン ―港町

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 セラフィナは柔らかい草地に座り、海を眺めていた。

 ライとわかれて一人きりの散歩をすることにしたハズなのだが、なんだか時間を持

て余してしまうのだ。寂しい町だというのもあるかもしれない。が、きっと一人が寂

しいのだろうと思い、船が見えるところまで戻ってきたのだった。



 一人で居る時間が多かった少し前の自分と、今の自分の違いを考えてみるがよく分

からない。人を見る目はあると思うが、よく事情を知らない人と長く一緒にいるのも

珍しい。ちょうど行き場を見失って困っていたというのは事実だが、だからといって

何故今ココにいるのかというのも、理由があったわけではない。



「あ」



 また三毛猫が視界の端に映った。一瞬こっちを見て止まり、またすぐに駆け出す。



 セラフィナは立ち上がった。あの猫は追いかけっこがしたいのかもしれない。何と

なくそう思って。

 ドレスの裾を払い、海に背を向ける。あんなに物珍しく、楽しく眺めていられた海

も、今の持て余す感じを埋めてくれないから。……本当はそれだけなのかもしれない

けれど。









 一方その頃。港では船員達が慌ただしく走り回っていた。

 出航の準備?もちろんソレもあるがソレだけではない。



「おーい、いたかー?」



「そーっちはー?」



 探しているのは誰だろう?



「この船、海賊船に襲われても沈まなかったのは、絶対お守りのおかげだから」



「探してくれー!稀少なオスの三毛猫だぞ~!!」



 そう。



「ミケにご馳走用意しておくから!みんなで手分けして探すんだ!」



「オレ、ミケが見捨てた船になんか乗りたくないよ~」



 セラフィナが追った三毛猫を、船内総出で探しているのだ。まだ船から降りたこと

も知らず。









 セラフィナは、見つけては逃げられる猫との追いかけっこを結構楽しんでいた。



「ふふっ負けませんよ?」



 見失っても、またしばらくしたらちらりとだけ姿を見せる三毛猫が、本気で逃げて

いるようには見えなかったからだ。楽しんでいる。だから、一緒に遊ぼう。



 ――ミャア



 今度は右か。

 追って走りながら、昔読んだ何かの本を思い出した。



 三毛猫は殆どメスしか生まれない為、オスの三毛猫というのは稀少なのだそうだ。

 その希少性故に、お守りがわりとして船内で飼われていたりするのだとか。

 海難事故を防ぐ魔力が宿るという信仰まで、一部にはあるらしい。

 その本では、航海中にネズミなどを狩り、海で獲れる魚を好物とする猫は、非常に

航海向きの愛玩動物なのだと追記されていたような気がする。



 とすると、この三毛猫はオスなのかもしれない。

 お守りがわりのこの猫のお陰で、船も沈まず逃げられたのかしら。



 なんてゆっくり考える暇もなく、今度は左の視界の端に猫が映る。



「……本当に一匹よね?」



 若干の不安を覚えたセラフィナだった。



 が、とりあえず猫を追う。まだ追いかけっこは終わっていない。

 現れては消え、消えてはまた現れる。それを幾度繰り返したことだろう。

 いろんな路地に入り込んではドレスのひだを疎ましく思い、先回りしようにも土地

勘がなく、さすがにセラフィナも疲れて肩で息をするようになっていた。



 少し休めれば呼吸を整えるコトなんてそう難しくない。

 でもその少しの時間をとることで、三毛猫に追いつけなくなってしまうのだ。



「はぁっはぁっはぁっ」



 猫もいい加減疲れてきそうなものなのに、逃げ足の早さは相変わらずだった。

 膝に手をついて大きく呼吸をし、強引に息の乱れを整えてまた走り出す。

 ココは何度か通った小道だ。右は行き止まりだから今度は左に折れてみよう。



「……どうかしたの?」



「あ……ライ、さん……」



 驚きで足が止まる。

 まさか今この瞬間に声をかけられるなんてまるで予想していなかったから。

 我に返って見回したときにはもう猫の姿は見えず、苦笑して息を整えた。



「……ふぅ。ちょっとね、追いかけっこしてたんです」



 乱れ始めた髪をなでつけ、もう一度辺りに目を向ける。



「あ、また後で」



 きびすを返すセラフィナの、纏めた髪が踊るように揺れる。揺れる。

 なんとなくライが笑ったような気がして、セラフィナは猫の後を追いながら気恥ず

かしさに頬を染めた。
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2006/10/12 12:28 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

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