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人物:ライ セラフィナ
場所:海上(デルクリフ⇔ルクセン)
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囚われていた船員達は、何故静かにしていられたのか。
答えは簡単だった。ライゼルは彼らも気絶させてきていたのだから。
「派手好きだな、あのおっさん」
決めつけるようにライが呟く。セラフィナが振り向くと、海賊船では奇妙に発光す
る煙が立ち上っていた。
「狼煙[のろし]かしら……」
後ろに大きな組織があるのなら、足止めをしている間に応援を呼んでもおかしくは
ない。おそらくライゼルの仕業だろう。セラフィナは倒れた船員達一人一人の側に跪
[ひざまづ]き、容態を確認した。
「皆さんの命に別状はなさそうですね」
ホッと小さく胸を撫で下ろす。同じく倒れていた見張りの海賊をライが縛り終わっ
たのを確認して、セラフィナは船長に気付けを施した。
「……ぉぉ」
「お静かに」
状況が把握できていない船長に間髪入れずに声をかける。
「これから船員さん達を起こします。静かに迅速に、船を出すことは可能ですか?」
「……ああ、なんとか」
「どれくらい猶予があるのかわかりません。急いでかかってください」
返事を声に出さず頷く船長。セラフィナは小さく微笑み、他を起こし始めた。
「キミは……?」
「客だよ」
セラフィナと一緒に船員を起こして回るライは、稀薄になった容姿に苦笑いしなが
ら答える。船長と三人がかりで起こして回り、なんとか静かに動いてもらえるよう話
をつけた。
「これから忙しくなるからね」
「そうそう、シロートさんが邪魔しちゃイケナイな」
「客室にでも篭もっててよ」
セラフィナを気遣うように船員達が声をかける。ライに近づきたがらない恐がりな
船員も、セラフィナには興味があるらしい。
何しろこの船には場違いなドレスを身に纏い、気絶していた船員達を一人一人起こ
して回ったのだ。怪我がある者にはもちろん治療を施す。セラフィナは天使だか女神
だかを見るような視線に耐えかねて、素直に部屋へ篭もることにした。甲板を後にし
ようと歩き出す。
――ミャア
小さな鳴き声が聞こえた。
出来るだけ静かに、でも出来るだけ急いで作業をする船員達の間をすり抜けて、三
毛猫はライの元へと駆け寄る。
「お前、大丈夫だったか?」
ライが優しく頭を撫でると、猫はもう一度嬉しそうにミャアと鳴いた。
セラフィナは目を細めてその微笑ましい光景を見つめていた。
「ほら、向こうから艦隊が来るよパトリシア」
「だからそのナマエで呼ぶなって!」
肩で息をしながらもまだ、敵意を剥き出しにしたままのキャプテンは、遠くから近
づいてくる船団の灯りに舌打ちをした。
「……クソッタレ」
「言葉遣い悪いなぁ」
「アンタに言われたかないよ!クソオヤジ」
「今……親父って」
「だー!せーったい認めねー!」
激しい親子喧嘩は止まることを知らず、そしてその頃こっそりと、貨物船は海賊船
から離れていった……。
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