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人物:ライ セラフィナ
場所:海上(デルクリフ⇔ルクセン)
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「久しぶりだな、パトリシア」
敵意や殺意は感じられなかった。にも関わらず、ライゼルは表情一つ変えずに炎の
塊を海賊に投げつけてみせる。
「せっかく可愛いのに、そんな格好じゃ台無しだろう?」
「……キエろ」
吐き捨てるように言いながら、剣を突き出し踏み込んでくる海賊。コートの一部が
丸く焼け焦げ、それでも致命傷にならなかったその人物は、憎悪の視線をライゼルに
向けた。
ライゼルは笑みを浮かべ、眩しそうにその視線を受ける。
自分を庇うように立つライの後ろでセラフィナは二人の隙を窺っていた。が、素通
りさせてくれるとは到底思えなかった。
若干眉根を寄せ、ライの手を一瞥する。いつもよりも希薄な骨の手が霞んで見えた
のは、見間違いではないようだ。彼が辛そうなのは魔法の影響かもしれないし、長居
は無理だろう。一刻も早くココから離れなければ。
「……仲良さそうだね」
苦しそうなライが皮肉混じりに呟いた。
「先にヤられたいか?幽霊」
「そうかそうか、仲良さそうに見えるか」
返ってきた反応は両極端。海賊は敵意剥き出しの目でギラギラとライを睨み付ける
し、ライゼルはホクホクと嬉しそうに笑みを浮かべる。
「って、ナニ気持ち悪い反応してンだよ!」
「ははは、せっかくの美人さんが台無しだぞ?」
「……っ!斬る!!」
おもむろに振り下ろされる刃も狭い室内のせいか振り切れず、一瞬揺らめいたライ
ゼルの手でいなされる。詠唱無しに魔法を使いこなすライゼルは、実は宮廷魔術師と
かそういうクラスの人間なのかもしれない。
「……パトリシア、お前が俺に勝てると思うのか?」
「ウルサイウルサイウルサイ!その名前で呼ぶな!!」
「俺が付けた名だ、他は知らん」
「……オマエは母さんの仇だ、表へ出ろ!」
なんだか複雑な家庭の事情が垣間見えたが、頭に血が上った海賊が部屋を出るのを
息を飲んで見守った。やれやれという表情で後に続くライゼルが振り返らずに言う。
「迷惑かけたね。時間は稼ぐから早いトコ逃げなさい」
「……行こう、セラフィナさん」
ライに手を引かれ、部屋を出ようとして、セラフィナは慌てて振り返った。
「急がないと」
「でも、服を……」
「いいから。アイツが気付いてからじゃ遅い」
折角新しい服を用意してくれた宿の女将さんに心の中で頭を下げながら、セラフィ
ナはライに続いて走った。そうだ、囚われている水夫達を早く解放しなければ。
「それにね」
「はい?」
「似合うよ、ソレ」
少しからかうような、照れくさそうな声でライが笑った。
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