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人物:ライ セラフィナ
場所:海上(デルクリフ⇔ルクセン)
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広い船室に毛織りの絨毯。天蓋でも付きそうな柔らかいベッド。壁にはいくつもの
舵が飾られ、一枚板の机には革張りで肘掛け付きの椅子が付いている。
キャプテンと呼ばれた人物はセラフィナをベッドに横たえると、顔にかかった髪の
毛を優しく払いのけ、結い上げた髪を紐解いた。
「無粋だなぁ、コレ」
セラフィナの額にかかる布に手をかけ、悪寒を感じて手を離す。
キャプテンは自分の予感や直感を信じていた。ソレが何の根拠もないことだとして
も、今まで信じてきたから自分が今ここにいるのだと思っていた。だから。
「外すのはやめておこうか、お姫様」
あっさりと外すことを諦め、立ち上がる。
しかし、美的感覚はどうも納得しないらしい。片方の眉を上げ、部屋を見回し、戦
利品の一つである衣装箱に手をかけた。
何処のお嬢様の荷物だったのだろう。舞踏会で着るような、裾の広い淡いピンクの
ドレスが一着と、華やかさを抑えた、肩を出すデザインのシンプルな深紅のドレスが
一着、そして喪服のようにも見える黒のドレープが美しいドレスが一着。どれも見事
な素材で、ずいぶん金がかかっているだろうと思わせるモノだった。
「貴女にはコレがきっと似合うね」
選んだのは黒いドレス。気を失ったままのセラフィナの服を、丁寧に優しく剥ぎ取
っていく。服の下のサラシに目を留めたが、眉をひそめ、小さく「無粋だ」と呟い
て、結局すべてを取り除いてしまった。白い肌に引きつったような大きな傷跡が浮か
び上がる。
「こんなに綺麗なのに」
傷に指をそっと這わせ、愛でるように笑う。セラフィナが体を震わせ、意識を取り
戻しそうにならなかったら、おそらくいつまでもそうしていただろう。残念そうに傷
跡から手を離すと、慣れた手つきでドレスを着せていくのだった。
「やはり貴女は美しい」
仕上げに薬指でセラフィナの唇に紅をさす。ベッドの上でお人形のように飾られた
セラフィナは、手足に鈍色の鎖をつけられて眠っていた。
コホン。
扉の前で咳払いをする音が聞こえる。楽しみを終わらせるのは残念、と思いつつも
一段落して気が済んだのか、キャプテンは舌打ちをしただけで扉を開けた。
「積み荷の確認、早かったね」
「あ、の、ソレが……」
手下はモゴモゴと口ごもるだけで要領を得ない。機嫌がよかったはずのキャプテン
の目がすぅっと細くなり、笑顔が消える。
「あんまり待たせると、消すよ?」
いつのまにか手には抜き身の剣。怯えた男はしどろもどろながらも状況説明を始め
た。
「あの、いや、よく分からないのですが、つまり、それがですね、なんともは
や……」
キャプテンの曲刀が妖しい光を反射する。
「つ、つまり、何処を探しても一人見つからないんです!」
「誰を捜してる?乗員は全員甲板に出したろう」
あきれたように剣を納めるキャプテン。しかし、目の前の男の震えは止まらなかっ
た。
「あの、始末するよう言われました死体が消えているんです!血痕すら跡形もな
く!!」
涙目で訴える男。さて、死体とは……ああ、あの男か。突き刺した剣の感触からし
て助かっているわけがない。
「もう一度探せ。誰か協力者が潜んでいるようならソイツも捕まえろ」
反抗的な密航者でもいたか……?どうも面倒なことが近づいてきている気がする。
直接指揮をとるために部屋を後にし、キャプテンは月を見上げた。
「まあいい。美しい月が笑っている」
にやっと笑って手下に指示をとばす。
「オマエとオマエは向こうから、ソコの、ああ、オマエだよ、オマエはアッチからソ
イツと一緒に回れ。単独行動はとるな、二人か三人で行動しろ。オイ、キョロキョロ
してるんじゃない、一緒に来るんだ。繋いでいる間にコッチに移った可能性もあるだ
ろう」
「「は、はいっ!」」
一斉に帰ってくる返事を受け止め、それぞれに細かい指示を出していく。残りには
甲板の捕虜の見張りを言いつけ、一刻の後に同じ場所へ戻るよう言い渡す。他の者が
動き出すのを確認してから、キャプテンは海賊船の探索へ向かうのだった。
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