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人物:ライ セラフィナ
場所:海上(バイコーク⇔ルクセン)
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セラフィナは衝撃とともに目を覚ました。
直下型の地震のようなズンと芯に響く衝撃。慌てて体を起こし、狭い船室を抜け出
す。
部屋を出ると、月明かりに一人の男が浮かんだ。
昼間に船内で遭遇しなかった長身の男。端整な顔立ちで襟の高いコートを羽織って
いて、部屋を出るセラフィナの気配に気付いたのか、振り向きざまに目が合う。
「……お嬢さん、部屋に戻りなさい。ココにいては危険ですよ」
その優雅で紳士的な振る舞いに、セラフィナは違和感を覚えた。この船に上流階級
の人物が乗っているなど噂にも聞いていないし、そして何より、噂にならないことが
信じられないほどの力のある目だったから。
「……何があったんですか?今の衝撃は?」
「今はまだ、知らない方が貴女の為だ」
表情も言葉も物腰さえも柔らかいのに、右手には抜き身の剣。その時、船首近くで
悲鳴が聞こえた。セラフィナは思わず、彼とすれ違い、駆けつけようとした。が。
「な?!」
片腕を腰のあたりに巻き付けられ、足が宙に浮く。剣を持っていない方の腕で進路
を阻むどころか、抱き上げて見せたのだ。
「放して下さい!」
「おやおや、無茶をするね」
セラフィナは何とか抜け出そうともがくが、男はビクともしない。
コートの下は細身に見えた割にしなやかな引き締まった筋肉に覆われているらし
く、筋力も相当なモノだった。
「何をしたの?他の人達は?!」
「……仕方がないな」
剣を持つ手が閃[ひらめ]く。うなじに柄が叩き込まれ、セラフィナの体は力無く
うなだれた。男はセラフィナを肩に担ぎなおし、何事も無かったかのように歩き出そ
うとしてふと立ち止まると、月を見上げて微笑んだ。
「今日は素晴らしい日だ。美しい月夜に美しい船、そしてそれに負けない美しい出会
い」
「キャプテン!」
駆け寄った手下に一瞬険しい顔を向ける。次に浮かんだのはさっきとは別人のよう
な冷ややかな視線と氷のような笑み。
「邪魔をするとはイイ度胸だな、オマエ」
「も、申し訳ありませんっ!船内をほぼ掌握しましたので、ご報告に!」
「だからって俺の楽しみを壊すんじゃないよ」
音もなく手下の耳が斬られる。焼け付くような痛みに悲鳴を上げ、膝から崩れ落
ち、必死で傷口を押さえるが血が止まらない。
「キエろ」
手下は転げるように男の前から逃げ出した。セラフィナの髪が風に煽られて揺れ
た。
船首では甲板の上にロ-プで縛られた水夫達が並んで座らされていた。怪我人が殆
ど。だが亡くなった者や瀕死の者は居ないようだった。船の運航に必要だからだろう
か。
「てめぇ、手引きしやがったな?!」
悔しそうに睨み付ける男はセラフィナにぶつかったあの男。睨まれる男は背の低い
団子っ鼻の水夫。つまり、行方不明になっていた船員は、海賊船の手引きのために行
方を眩ましていたらしい。
「アンタにイジメられるのはもう沢山だ」
団子っ鼻の男は吐き捨てるように言った。
「コレで全員か?錨[いかり]はおろしたか?」
他の男が捕虜を蹴りながら団子っ鼻に訪ねる。
「ああ、ちゃんと止まってるさ。そこはまかせてくれ。いや……しかし客が二人ほど
足りないようだ。船員は全部だよ」
見渡し、人数を確認する。やはり二人足りない。
「若い男と女の二人連れだったはずだ。船内をもう一度くまなく探さなければ」
きりきりと歯軋りをする。ざわめきが起きて静まり、慌てて振り返ると長身の男が
気を失った女性を大事そうに抱いて歩いてくるところだった。
「手を煩わせてしまい申し訳ありません、アネさん!」
キャプテンの目が鋭さを増し、視線だけで射殺してしまうのではと思うほどに睨み
付ける。それは団子っ鼻が失禁するには十分な恐怖だった。
「キャプテンと呼ばなければ、オマエ、シメるよ?」
どう見ても美声年のキャプテンは、冷ややかに笑った。
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