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人物:ライ セラフィナ
場所:ソフィニア内 ―公園>
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困った。手掛かりが途絶えてしまった。
セラフィナは左のこぶしを額の封魔布に当て、歩きながら考えていた。
ソフィニアに来たのは、レガシーの手掛かりを求めてのことだった。
でも、もうすぐ3ヶ月が経とうというのに、噂も耳に入らない。
自分は急ぎすぎているのかもしれない。
だってあの時は、立て続けに情報が入ってきたから。だけど……だけど。
最初から、すぐに終わる旅だとは思っていなかったはずなのに。
……落ち着こう。
深呼吸を一つ。
公園でベンチに座って、緑の匂いを嗅ごう。
葉擦れの囁[ささや]きや、鳥の囀[さえず]りに耳を傾けよう。
水のせせらぎのある、小川か噴水の近くがいいな。
昔遊んだ、あの家みたいに……。
セラフィナが公園に入ると、女の子の「あっ!」という声が聞こえた。
ボールの跳ね上げられた方角で、派手に転んだ痛々しい音がする。
行かなきゃ。
知らず知らずのうちに、セラフィナは走り出していた。
火が付いたように泣き始める子供の声。
「大丈夫?」
駆け寄ってみると傷は思いの外深かった。
小石が引っかかった擦り傷に、痛々しく血が滲[にじ]んでいる。
素早く丁寧に異物を取り除き、傷口をそっとふき取り、触れるか触れないかの位置
で手を当てる。
手当て……これは彼女の特技でもある「カフール練気術」での歴とした治療方法な
のだ。
気の流れを整え、自然治癒を促進する。酷い場合には施術者の気を流し込む方法も
採るが、今回のように元気な子供ならば、溢れ出す気を少し整えてやるだけでいい。
「ほら、もう痛くないね?」
囁[ささや]くように優しく語りかける。
当てていた手を外すと、そこには傷跡も残っていなかった。
「……へへっ」
「ふふっ」
号泣で腫れた目でくしゃくしゃっと少女が笑う。それを見て、セラフィナもふわふ
わっと笑う。
「気を付けてね」
「うん!おねえちゃん、ありがとう!」
くるっと向きを変えると、転がったボールを求めて少女は駆け出した。
セラフィナは微笑んだまま視線をその先へ移す。
「あっ……」
ボールを両手で持った青年。その顔には見覚えがあった。
いや、違う。
よく似た人を知っていたのだ。
青年は少女にボールを手渡し、頭をぐりぐり撫でて顔を上げた。
目が合う。
驚いた顔のセラフィナに会釈する。
と、その時。
急に彼の表情が険しくなった。
殆ど同時に悪寒が走り、「破っ!」っと振り向きざまに気弾を撃つ。
なにも見えなかった。
すぐ側で殺気を感じたような気がしたのに。
彼の方に向き直ると、今度は彼の方が驚いた表情をしていた。
なんだかおかしくなって、「ふふっ」と笑うと力が抜けた。
「こんにちは。私、セラフィナといいます。貴方のお名前、お聞きしてもいいです
か?」
近づいて声を掛けてみる。
後ろでは、すっかり元気になった少女のはしゃぐ声が、遠くに聞こえていた。
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