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2024/05/17 01:02 |
銀の針と翳の意図 2/セラフィナ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:ライ セラフィナ

場所:ソフィニア内 ―公園>

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 困った。手掛かりが途絶えてしまった。



 セラフィナは左のこぶしを額の封魔布に当て、歩きながら考えていた。



 ソフィニアに来たのは、レガシーの手掛かりを求めてのことだった。

 でも、もうすぐ3ヶ月が経とうというのに、噂も耳に入らない。

 自分は急ぎすぎているのかもしれない。

 だってあの時は、立て続けに情報が入ってきたから。だけど……だけど。

 最初から、すぐに終わる旅だとは思っていなかったはずなのに。

 ……落ち着こう。



 深呼吸を一つ。



 公園でベンチに座って、緑の匂いを嗅ごう。

 葉擦れの囁[ささや]きや、鳥の囀[さえず]りに耳を傾けよう。

 水のせせらぎのある、小川か噴水の近くがいいな。

 昔遊んだ、あの家みたいに……。



 セラフィナが公園に入ると、女の子の「あっ!」という声が聞こえた。

 ボールの跳ね上げられた方角で、派手に転んだ痛々しい音がする。



 行かなきゃ。



 知らず知らずのうちに、セラフィナは走り出していた。

 火が付いたように泣き始める子供の声。



「大丈夫?」



 駆け寄ってみると傷は思いの外深かった。

 小石が引っかかった擦り傷に、痛々しく血が滲[にじ]んでいる。

 素早く丁寧に異物を取り除き、傷口をそっとふき取り、触れるか触れないかの位置

で手を当てる。



 手当て……これは彼女の特技でもある「カフール練気術」での歴とした治療方法な

のだ。

 気の流れを整え、自然治癒を促進する。酷い場合には施術者の気を流し込む方法も

採るが、今回のように元気な子供ならば、溢れ出す気を少し整えてやるだけでいい。





「ほら、もう痛くないね?」



 囁[ささや]くように優しく語りかける。

 当てていた手を外すと、そこには傷跡も残っていなかった。



「……へへっ」



「ふふっ」



 号泣で腫れた目でくしゃくしゃっと少女が笑う。それを見て、セラフィナもふわふ

わっと笑う。



「気を付けてね」



「うん!おねえちゃん、ありがとう!」



 くるっと向きを変えると、転がったボールを求めて少女は駆け出した。

 セラフィナは微笑んだまま視線をその先へ移す。



「あっ……」



 ボールを両手で持った青年。その顔には見覚えがあった。

 いや、違う。

 よく似た人を知っていたのだ。



 青年は少女にボールを手渡し、頭をぐりぐり撫でて顔を上げた。

 目が合う。

 驚いた顔のセラフィナに会釈する。



 と、その時。

 急に彼の表情が険しくなった。

 殆ど同時に悪寒が走り、「破っ!」っと振り向きざまに気弾を撃つ。



 なにも見えなかった。

 すぐ側で殺気を感じたような気がしたのに。



 彼の方に向き直ると、今度は彼の方が驚いた表情をしていた。

 なんだかおかしくなって、「ふふっ」と笑うと力が抜けた。



「こんにちは。私、セラフィナといいます。貴方のお名前、お聞きしてもいいです

か?」



 近づいて声を掛けてみる。

 後ろでは、すっかり元気になった少女のはしゃぐ声が、遠くに聞こえていた。
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2006/09/01 00:38 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

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