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2025/03/10 07:26 |
銀の針と翳の意図 12/セラフィナ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:ライ セラフィナ

場所:ソフィニア ―宿屋『クラウンクロウ』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



「それで、あのときのこと全部話せばいいんですよね」

「そうしていただけると助かりますな」

「ではまず、その物騒な物を置いていただけますか?」



 柔らかな物腰で、セラフィナがヘルマンに促す。



「疑われるのも無理はありませんが、こうして貴方の指定の場所でお待ちしていたの

ですから、それなりの誠意を見せていただいてもイイと思いますよ」



 セラフィナは微笑みを崩していないが、ヘルマンは少し戸惑った様子を見せた。

 窓際にライ、テーブルを挟んだ椅子にはセラフィナとヘルマンが座っている。一番

入り口に近い席に座ったヘルマンは、腰の獲物をテーブルの上に置いた。



「コレでイイでしょう。賢明なお嬢さん、事情を説明していただけますかな?」

「ええ、こちらも協力できて光栄ですわ」



 どちらも笑顔を浮かべているが、ピリピリとした空気に火花が散っているようだっ

た。テーブルに置いた魔法銃も、見える位置に置いたというだけで、すぐに手に出来

る距離であることには代わりがなかったのだから。



「でも、自警団というのは随分大人数でいらっしゃるんですね」

「……何故です?」

「通りの角に二人、裏口付近に二人、貴方を含めて五人もココにかかりきりなようで

したので」



 客人に紅茶を勧めながらセラフィナが何気なく言う。



「はは、分かりましたか」

「護衛というか監視のようでしたけれど、他で事件があった場合すぐに駆けつけられ

ますか?」

「私がいますから、ソコは大丈夫ですよ」

「ではイイのですが……」



 自分でも紅茶のカップを傾ける。



「相手は死霊使いのようです。大量のカラスも彼に従っていたようなので、使い魔

か、もしくはカラスの死骸を操っているのかもしれません」

「……ほう」

「心臓が足りないとも言っていましたね。他の犠牲者も未婚の女性が心臓を抉られた

形ですか?」

「いえ、ちょっと違いますね。成人前の若い女性ばかりが犠牲になっているのです」



 ヘルマンはちょっと意地悪な笑みを浮かべた。



「あなたもターゲットになりうるわけですな……怖くはありませんか」

「ふふ、自分が犠牲になるかもしれないという状況よりも、自分が警戒されている間

に他の人が危険に晒されているかと思うと怖くなりますね」



 顔色も変えずにさらりと答えるセラフィナの様子を見て、ライは内心舌を巻いてい

た。何も知らないお人好しのお嬢さん……というワケではなさそうだ。



「そちらの無口なお兄さんは、なにか気付いたことはありませんでしたか?」



 ヘルマンの視線がライへと移る。窓枠に寄りかかったライは、急に暗くなった視界

に驚いて外に目をやる。

 街は大量のカラスで溢れていた。普段夜に大量のカラスを見ることなど、まずあり

得ない。



「なーんか、ヤバそうなんだけど」



 窓の外を指すライに、セラフィナとヘルマンが駆け寄る。



「しまった!」

「ヘルマンさん、急いでカラスが集まっているところへ急行して下さい!残念な形で

すがこちらへの疑いも晴れたでしょう?」



 セラフィナの笑みは悲しみに満ちていた。どこか、苦しそうですらあった。

 ヘルマンは深く一礼すると魔法銃を手に部屋を出ようと扉に手を掛け、振り返らず

に言葉を残す。。



「一連の事件は同一犯だと思われます。顔を見たあなた方を狙わないとも限らな

い……十分お気をつけて」

「お心遣い感謝します」



 階段を駆け下りるヘルマンの足音が宿の中にこだまする。ライはセラフィナがヘル

マンと一緒になって現場へ急行するのではと気をもんだが、何故か今回は追いかけよ

うともせずヘルマンが開け放った扉をゆっくりと閉めた。



「……セラフィナさん?」

「私が行っても今のままでは彼を止められませんから……。ねぇライさん、貴方には

私に見えていないモノが見えていたのでしょう?

 教えて下さい、貴方は一体……?」



 切羽詰まったような表情のセラフィナに詰め寄られて、ライは真夜中の心配をする

ヒマはなさそうだなと苦笑したくなったが、顔に出すのはやめておいた。



「えー……と、何から話せばいいのかな」



 隣の部屋から聞こえる謎の奇声(おそらくさっきすれ違った彼だろう)を遮るため

に、開け放っていた窓を閉める。自分が生身でこんな状況じゃなかったら、彼女とふ

たりきりの部屋でロマンチックなコトの一つも考えるかもしれないけどさ、と一瞬よ

ぎった自嘲的な考えは、意図的に頭の中から閉め出すことにした。
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2006/09/19 12:39 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

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