忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。


2024/11/01 08:19 |
銀の針と翳の意図 10/セラフィナ(マリムラ)

◆――――――――――――――――――――――――――――――――――

人物:ライ セラフィナ

場所:ソフィニア――宿屋『クラウンクロウ』

―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 夜までにはまだ時間があった。それまで外出するというワケにもいかず、また、食

事を取る気分でもなかったセラフィナは、警士を見送るライを見上げた。



「ん?なにかな」



 巻き込む形になってしまって申し訳なく思うのだけど、この人が悪人じゃないのは

分かる。こちらに「魔法使い?」と聞いてきたわりには服の破れなどがいつの間にか

無くなっているようだし、むしろ彼の方が魔法使いのようだった。

 彼のことは良く知らないのだ。その事実を改めて考える。

 あまり素性を知られたくはないようだし、私だって自分から進んで言いふらしたい

素性じゃないけど、でも、やっぱりもう少し知りたい。



 とりあえず、じっと見上げられるのに戸惑っている様子のライに、セラフィナは笑

いかけた。つられてライも笑顔を向ける。

 今はコレで十分。きっと、自分から言ってくれる日が来ると思うから。

 希望的観測でしかないことなど分かっていたが、それでもセラフィナはライを好意

的に見ていた。懐に抱いているとホクホクと温もるような、優しい感情だった。



「……ええと?」



 何も言わずに人の顔をまじまじと見ていたかと思うと、今度はにこっと笑いかけて

きたセラフィナの真意が分からず、ライが困ったように声をかける。



「ヘルマンさんが来るまで、すこしお話しませんか?」

「あー……、ちょっと疲れちゃったから一人になりたいんだけど」



 視線を逸らされた。イヤだったかな。胸が小さく痛む。



「じゃ、えーっと、人前ではしばらくセシルくんで通しますね」

「そうだね」

「落ち合う時間と場所は?」



 ちょっと斜め上を見上げるように視線をずらして考えるライ。顔色は、やはり優れ

ないようだ。でも、練気を使わないと約束した私に、一体何が出来るのだろう?



「部屋で二時間後に」

「わかりました。部屋は私の名前で取っておきますから」



 幸いというか偶然というか、今朝まで使っていた宿を引き払ったばかりだったの

で、セラフィナは部屋を取ることにしていた。ヘルマンが来たときに食堂で話しとい

うワケにもいかないだろうし、多分コレでイイのだろう。



「じゃ、またね」

「ふふ、逃げちゃダメですよ」



 何気なく言った一言にライがちょっと引きつったような苦笑いを浮かべる。そして

観念したように一度肩をすくませると、ひらひらとこちらに手を振ってその場を後に

した。







「……あの、今なんとおっしゃいました?」

「だからね?一人部屋が埋まっちゃって、後は二人部屋か四人部屋しか残ってないけ

どイイか聞いたの!」



 どうも個室が満室らしいのだ。さほど大きな宿でもないから仕方ないことなのだろ

うが……さて、どうしよう?



「ヘルマンさんのご紹介なんですが、どうにかなりませんか?」



 受付のおばちゃんも頭をひねる。



「ヘルマンさん?それじゃムゲには出来ないけど、コッチも商売だからねぇ」



 一人部屋と二人部屋では宿泊費も四割ほど違う。いつまで続く旅になるか分からな

いし、こんな所で無駄遣いする気もなかった。



「じゃあ、他のお客さんには内緒だからね?三割引で一部屋用意するから」

「ありがとうございます!」



 素直におばちゃんの厚意に感謝する。ヘルマンにも感謝しなくては。



「階段上って右の突き当たりね」



 部屋番号の札が付いたルームキーを差し出される。受け取った札には206号室と

書かれていた。
PR

2006/09/19 12:37 | Comments(0) | TrackBack() | ●銀の針と翳の意図

トラックバック

トラックバックURL:

コメント

コメントを投稿する






Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字 (絵文字)



<<銀の針と翳の意図 9/ライ(小林悠輝) | HOME | 銀の針と翳の意図 11/ライ(小林悠輝)>>
忍者ブログ[PR]